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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


 吸血鬼に永遠の眠りを 





 廃墟のビルの中、満月の輝く夜に似合わない激しい爆音が鳴り響く。

「―ぐっ…こんな仕事、引き受けるべきじゃなかったな…」
 左肩に受けた傷を右手で止血しながら、武彦は生温かい自分の血の感触を味わっていた。

「フ…、人間風情がこの私と戦おう等とは嗤わせる」
 ツカツカと革靴の音を鳴らしながら、おおよそ人とは思えない恐ろしい形相をした
吸血鬼が武彦へと歩み寄る。

「…あぁ…、全くだ…。吸血鬼なんて、常人が勝てる様な相手じゃねぇよ」
 諦めたかの様に笑みを浮かべた武彦が吸血鬼たる相手へと告げた。
「伝説上の生き物退治なんて依頼、受けなきゃ良かったと後悔してるさ」


「ならば後悔と共に血肉を屠ってくれる」
 吸血鬼が詰め寄り、鋭い爪を振り翳す。

 高額な資金を積まれ、武彦が引き受けた吸血鬼退治。やはり一筋縄で片付く様な
相手ではない。
「…とまぁ、一人だったら無理な仕事だったろうな」
 武彦は自分の背後に立つ人物の気配を感じ、静かに呟いた。
「やれやれ、遅かったじゃねぇか…。




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「あら? 誰かと思えば、この前の探偵さんじゃない」やたら可愛らしい格好をした金髪赤眼の異国風の顔立ちをした少女、“レイチェル・ナイト”が武彦に声をかける。
「…何でお前が…?」思わず武彦が尋ねる。「お前、高校生ぐらいの男見なかったか!?」
「高校生ぐらいの男の子? んー…、あ…」
「知ってるのか!?」
「うん。道聞いてきたんだけど、ナンパだと思って殴ったら伸びちゃった」
「…なんて事してくれやがるんだ…」どうやら何処ぞの不幸体質の高校生は来ないらしい。武彦はそんな事を思いながら溜息を吐いた。「そういえば、お前も妖魔と戦えるよな!? ちょっと手貸せ!」
「イヤよ」
「…へ?」
「ちょっとぉ、この格好見て解らないの? あたし、これからデートなのよ、デート! 昼間ゲットしたイケメンと♪」
「って、後ろ!」
「んー?」レイチェルが振り返ると、吸血鬼が襲い掛かってくる。反射的に避けたレイチェルの服を、吸血鬼の鋭い爪が切り裂く。
「良い反射神経してる…―」
「―…ったわね…」バッサァと服を脱ぎ捨て、わなわなと震えながらレイチェルがボディスーツを纏って姿を現す。
「あいつ、あんなもん下にいつも着てやがんのか…」武彦が思わず呟く。
「ちょっと、探偵さん。こいつ、あたしの獲物だから。手出したらぶった斬るわよ」レイチェルがロザリオを突如剣にして吸血鬼へと突きつける。「っていうか! あたしはイケメンハンターなのよ! ヴァンパイアハンターなんておまけよ! ビッ○リマンチョコのチョコみたいなモンなんだから!」
「ヴァンパイアハンターだと…?」
「逆だろ、それ…」
「うるっさいわね! 覚悟しなさいよ!」武彦にまで噛み付きながら、レイチェルがレイピアを構えながらヴァンパイア目掛けて飛び掛出す。
「チッ!」吸血鬼が横へと飛びながら避ける。が、レイチェルは片足で地面を蹴飛ばす様にクルっと回り、吸血鬼に追撃をかける。
「はぁ!」レイチェルの放った突きが吸血鬼の肩へと突き刺さる。そのままレイチェルは吸血鬼もろとも壁へと突っ込む。
「…なんて力技だ…」思わず武彦が呆れた様に呟く。
「もう、服の弁償ぐらいして欲しいけどね…」レイチェルが砂塵の中から現れ、髪を払いながらブツブツと文句を言う。
「シャアァ!」砂塵の中、レイチェルの更に背後から吸血鬼がレイチェルに襲いかかる。
「しつっこい!」レイチェルは襲いかかった吸血鬼の腕を掴み、金メダリストも真っ青になりかねない一本背負いを披露して吸血鬼を地面へと叩き付けた。「デートの邪魔!」
 レイチェルは倒れてた吸血鬼をゲシゲシと蹴りながら文句を言い続ける。
「…おいおい…」
「がぁっ!」吸血鬼が突如眼を真っ赤にしながらレイチェルの足を掴み、壁へと投げつけた。
「げ…」レイチェルは綺麗に着地して吸血鬼を見つめた。「赤眼…。キレちゃった」
「キレちゃった、じゃねぇだろ…」
「フ…ハハハハ! 殺す! 殺してやるぞ! 血肉を! 腸を! その細い身体を引きちぎってくれる!」
「はぁ…。アンタももう五百歳くらい若くて可愛かったら相手してあげるわ」レイチェルのおちゃらけた態度が一変する。「残念ね」
「死ねぇ!」禍々しい程の妖気が充満する。
「魔弾ね。探偵さん、逃げて」レイチェルがレイピアを構えながら武彦へと声をかける。
「は?」
「良いから逃げろって言ってんの!」レイチェルが声を張る。やはり先程までのフザけた調子とは一転し、レイチェルの態度は変わっている。武彦はそんな事を感じながら近くの壁際に隠れた。
「ハァッ!」吸血鬼の口から黒い球体が放たれる。レイチェルは真正面に構えたレイピアに力を込め、魔弾を見据えた。
「そこ!」レイチェルのレイピアに銀色の輝きが灯り、魔弾の中心を貫く。
 レイチェルの放った一撃によって、魔弾が拡散していく。レイチェルはすぐに間合いを詰め、再び吸血鬼の身体へとレイピアを突き刺し、そのまま投げ飛ばす。壁へと叩き付けられた吸血鬼へと更に追い討ちをかける様に飛び上がる。
「ちぇぇすとぉ!」
 レイピアが当たるか否かといった所で吸血鬼が身体を捻って避ける。コンクリートで覆われた壁面に丸い穴が開く。
「チィッ!」吸血鬼が立ち上がり、レイチェルの身体を攻撃する。かすめた鋭い爪にレイチェルの血が付着する。
「…フフ」かすめた血を見つめてレイチェルが小さく笑う。
 突如、吸血鬼の爪が焼ける様な音を立てながら煙をあげる。焼かれる様な焦げる臭いが充満する。
「ぐっ…な、何だ…!」
「私の身体って特殊なのよね」レイチェルが自分の腕から出た血をレイピアに塗る。「私の自慢の綺麗な肌に傷つけたんだから、後悔しても赦さないんだからね」
 レイピアが紅く煌く。レイチェルの血を吸い込む様にレイピアの中心に紅く煌いた血が一筋の線となる。
「本物の…ヴァンパイアハンター…だと…」
「イケメンハンターっつってんでしょ!」
 レイチェルが走り出す。一瞬にして紅く煌くレイピアが紅く煌きながら一閃、吸血鬼の身体目掛けて振りかざされる。吸血鬼の右腕を斬り落とし、レイピアによって切断された傷口から吸血鬼の腕からレイチェルの血が吸血鬼の身体へと侵食を始める。
「ぐっ…くそ…!」吸血鬼の悲痛な声が響き渡り、自らの腕を侵食を取り除く為に切り落とした。
「…アイツ、あんなに強かったのか…」武彦が物陰から思わず声を漏らす。
「チッ…!」吸血鬼が身を翻し、逃げ出そうとする。が、外へと飛び出そうとした瞬間、銀色の光によって吸血鬼の身体が弾かれる。
「残念。吸血鬼の匂いがしたから、ちょっと結界張らせてもらっちゃったのよね」レイチェルが得意げな表情を浮かべて呟き、レイピアを投げつける。「滅しなさい、銀の世界で」
 レイチェルの投げたレイピアが光を放ち、光の線が幾つもの刃となって吸血鬼を貫く。
「ぐ…おぉぉぉ…!」
 光の中に吸血鬼が吸い込まれ、消え去っていく。レイチェルのレイピアがロザリオに戻り、その場に力なく落ちる。レイチェルは鼻歌混じりにロザリオを拾い上げ、武彦へと振り返る。「終わったわよ、探偵さん」
「…みたいだな…」武彦が小さく呟いて物陰から姿を現した。「…お前、強かったんだな」
「あら、知らなかったの?」
「それにしても、デートは大丈夫なのか?」
「…あ…」レイチェルが脱ぎ捨てた服の元へと走り、携帯電話を見つめる。「……はぁ…」
「どうした?」武彦が歩み寄ると、レイチェルは無言で携帯電話を武彦に見せた。「ん…、『いつまで待っても来ないので、帰る』…。残念だったな…」
「あぁぁ! もう! これだから草食系は!」レイチェルが立ち上がる。「ちょっと! 探偵さんのせいなんだから責任取って奢ってよね!」脱ぎ捨てた服をいそいそと着ながらレイチェルが叫ぶ。
「え、いや…」戸惑う武彦の手を取り、レイチェルがずんずんと歩き出す。「あの、俺怪我してるんだが…―」
「―そんなの唾付けときゃ治るわよ! 私のデートがダメになったのは唾つけたぐらいじゃ治らないんだからね!」
「いや、知らねぇよ!」
「あぁぁぁ! うるさいうるさい! 草食系日本男子のバカー!」


 諦めた様な表情を浮かべた武彦を連れて、レイチェルが叫びながら歩き出していた…。



                                        FIN