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<東京怪談ノベル(シングル)>


総力戦暁襲。グアンタナモの娘お許しを前奏




■■ネット喫茶■■




「ネット喫茶ってこんなに賑わってたりするんだ…」
 玲奈の目に映った光景は、玲奈自身が抱いているネット喫茶とは随分と違った盛況ぶりで賑わっていた。決してネット喫茶に立ち入った事がない訳ではないが、静かな空間のイメージを払拭させるには十分だ。玲奈はその盛況ぶりの中心で見習い占い師としてアシスタントをしながら周囲を見つめていた。
「ありがとう! おかげで事業もうまくいった! ありがとう!」涙を流しながら占い師の手を握ってお礼を言う中年。湧き出す周囲。傍から見ればサクラと思われる程の熱狂ぶりだが、どうやらそうでもないらしい。
「さぁ、今日は時間ですので、これで…」占い師が立ち上がり、玲奈がそれに合わせてテーブルを片付けた。







■□草間興信所□■




「これが今巷で有名な“珈琲占い”の豆、か…」
 玲奈と向かい合わせる様に座った武彦が玲奈の渡した珈琲豆を手に取りながら何とも不思議そうに豆を眺めていた。
「大変だったんですよ〜…」玲奈が溜息混じりに武彦へと愚痴をこぼす。「で、どうですか? やっぱりタネも仕掛けもございません?」
「もうすぐかかって来る頃だが…っと」武彦の携帯電話が鳴り響く。「…やっぱり、か…。あぁ、どうも」
「どうしたんです?」
「コイツの成分抽出を化学研究所に頼んでたんだが、何もおかしな仕掛けがある訳でもないらしい」武彦が煙草に火を点ける。「一体どんなヤツなんだ? この一連の占いブームを巻き起こしてるヤツは」
「小笠原にある珈琲農園の若手社長だそうです。新進気鋭のやり手だとかで、珈琲豆業界に殴り込みをかけると息巻いているみたいですけど…」
「だとすれば、この男に何らかの知恵を授けた黒幕がいるかもしれないな…」武彦が紫煙混じりに呟く。「となると、各産地の土壌を調べるべきだろうな。採取を頼めるか?」
「各産地って…」玲奈が落胆した様にがっくりと肩を落とす。「…はぁ〜い…」




――。




「…もう嫌ですからね…」玲奈が疲れ切った表情で武彦を睨む。
「いや、まさかこんな早く全部用意出来るとは思わなかったが…」まさか翌日に用意されるとは武彦も思ってはおらず、玲奈の睨み付ける姿は納得出来る当然の対応かもしれない。「早速調べてみるか…」
 武彦はそう言って土壌のサンプルを持って立ち上がる。
「…え…、もう行くんですか…?」
「…お前はここで休んでろ」
「…じゃあお言葉に甘えて…」玲奈が目を閉じる姿を見て、武彦は興信所を後にした。


「―おい、いつまで寝てんだ?」武彦が玲奈のだらしなく口の開いた顔を見つめながら、丸めた紙で額をポスっと叩いた。
「…うぅ〜……おはよござます…」
「もう夕方だ」武彦が向かいに座って丸めていた紙をテーブルに広げ、煙草に火を点けた。
「え…?」周囲を見回す玲奈の目に映ったのは、夕陽に紅く染められた雑然とした室内だった。「…あはは…」
「まぁ一日で用意して無理したんだろうしな…。だが、これを見ろ」武彦が全ての書類に書かれていた同一の事項を指差す。「共通している成分にこんなモンが混ざってやがる」
「…これって、隕石…?」
「あぁ。どの土壌からも一定の分布で隕石が混ざってる。そして、移植された日本の土壌も、だ。日本に移植するのは良く考えた物だが、莫大な資金力が必要になるだろうな。そんな資金は何処から出てるんだ…?」
「こういった着想をする人物、一人だけ思い当たるわ…」玲奈が静かに呟く。
「…?」
「養母よ…」








□■キューバ国立博物館■□






 キューバ国内で出土した隕石破片が展示されている館内で、玲奈は何か土壌のヒントはないかと聞き込みに回っていた。
「…玲奈…なの…?」
 聞き慣れた声。日本語。玲奈の背後から聞こえる筈のない声が聞こえ、玲奈は足を止めた。幻聴だ。一瞬考えるも、静かに振り返ると、そこには死んだ筈の養母の姿があった。
「…何故…?」
 玲奈の口から溢れる疑問の言葉。あまりに理解出来ない光景が、玲奈の前に現れた養母は玲奈の驚きを無視する様に玲奈を抱き締めた。
「会いたかった…、玲奈…!」
「…おかあ…さん…」思わず玲奈の思考がストップする。
「どうしてこんな所に?」玲奈から身体を離して養母が尋ねる。
「え…、うん…。実は…―」玲奈は調査中の内容を話した。養母はそれを聞いて頷いていた。
「そう…。隕石ね…」事のあらましを聞いた上で母が呟く。「地球に大挙飛来した隕石が地球の黎明期の始まりだった…。幸いにして、隕石には召還の魔力があるわ」
「…え…」
「だから、ハバナ港湾入り口にある、モロ要塞を破壊して、瓦礫を玲奈号で強奪して」
「…どう…して…」
「モロ要塞は中世に海賊の侵入を防ぐ為に造られたのよ。素材に隕石を使っていた。あの物資を眠らせておくのも惜しいわ」
 養母の言葉に違和感を感じる。やはり、と言うべきか。玲奈は気付かないフリをしていた。養母の母に握られた、紙の束。
「…三島レポート…」
「…っ!」養母の言葉が止まり、玲奈を睨む。
「…そうよね…。生きている筈がない…」玲奈は小さく呟いた。「貴方はクローンね…」
「…フ…フハハハ!」堪えきれなくなったかの様に養母が笑う。「だとしたらどうする? オリジナルの様に、殺すか?」歪な笑顔を浮かべ、嘲笑する様に玲奈を見つめる。
「同じ顔で、同じ声で……」玲奈の肩が震える。「でも、もう嫌…。殺したくない…」
 玲奈の周りを温かい穏やかな空気が漂う。
「な、何を…―!」
「お願い、もう辞めましょう…?」玲奈が手を伸ばす。
「や…メロ! 頭が割れる…っ!」
 慈愛の霊力が養母を包み込む。苦しそうに頭を抱えながら叫び声をあげていた養母の表情が、穏やかな表情になっていく。
「玲奈…」
 抱き合う母娘。が、しかし、玲奈が不意に違和感に気付き、空を見上げる。玲奈号から情報が送られる。
「どうしたの?」
「東京…ここ…隕石群が来てる!」玲奈が驚いた様に玲奈号を使って周囲を調べる。「どうなっているの…!? 一体何が!?」
「…っ! どうなっているの?」
 瞬間、二人のいる博物館が揺れ動く。博物館内に衝撃が走り、ぱらぱらと天井から埃が落ちる。玲奈は自分のいる博物館周辺へと探索座標を変更させた。
「インカの軍神テスカトリポカ…!? 何故あんなモノが…!」玲奈号の情報を見ながら玲奈が呟く。
「…玲奈、派手にやるわよ…」
「…うん、行って来る!」



 玲奈は玲奈号を操り、隕石破壊へと飛び立った…―。





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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。


今回のお話、占い師のバイトをしているという事でしたが、
泣いて喜ぶ男性もいたという事でしたので、
アシスタントという形を取らせて頂きました。

気に入って頂ければ幸いです。

それでは、また機会がありましたら
宜しくお願い致します。

白神 怜司