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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.7 ■ 決意の強さ 







 拠点から離れた森。冥月は音も立てずに森の奥へと進んでいく。漆黒の森の中、月明かりにすら照らされない様に冥月が闇から闇へと渡る様に進んで行く。髪を揺らしながら、冥月が大木の枝に乗って足を止め、眼を閉じる。
「……見つけた」影による感知を使い、取引所の周囲の見張りの位置と人数を把握した冥月は再び闇へと渡る。
 冥月の動きに無駄は一切存在しなかった。音はなく、僅かな月明かりすらその身を捕らえる事を許さない。熟練された玄人としての動きを、僅か十歳にして自分の物へと昇華させていた。
 敵地を目視出来る範囲へと冥月が辿り着く。数人いる見張り達の姿を目視して冥月は息を殺す。その場に冥月がいる事など、誰一人として気付かない。敵の油断も少なからずあるだろうが、何より冥月の動きがそれを可能にさせる。
「……」物陰から静かに月を見つめた冥月は雲が月の光を遮る瞬間、地面に手をつけた。
 影が色濃く漆黒へと世界を染めた瞬間、冥月の能力によって操られた影が大きく口を開き、見張り達を全て影の中へと引きずり込む。突然の強襲。冥月の影は男達を引きずり込んだまま口を縛り付け、顔だけを残して体を影の中へと取り込まれる。そんな中、一人の男が冥月の影を逃れ、こちらを見つめる。
「……気付かれてる」冥月が立ち上がり、木々の抜けた広野へと姿を現す。月明かりを遮る雲が流れ、冥月が姿を現す。「……ファング…」
 唯一冥月の影から逃れたのは、先日の戦闘狂、ファング。やはり他の連中とは違う、圧倒的な戦闘能力と反射神経を持っている。冥月はそれを実感せずにはいられない。冥月はその場で数千もの影による槍を作り上げ、顔を出している見張り達も狙いに含める様に周囲へと展開した。
「…ほう、“黒 冥月”とか言ったか…。攻撃を仕掛けてきた所を見ると、交渉は決裂らしいな」
「……組織も子供達も、諦めて貰う」
「そうはいかないな」ファングが嘲笑を浮かべる。「これ程までの戦闘能力を見せつけておきながら、そうですかと帰るのもつまらんだろう」
「……退かないつもり?」
「退いて欲しければ、俺を倒してみる事だな。それが出来なければ、俺は追い続けるぞ」
 ファングの言葉と共に、数千と展開されていた影の槍が一斉にファング目掛けて襲い掛かる。凄まじいスピードで襲い掛かる影の槍を上空へと飛びながらファングが冥月目掛けて反撃に移る。が、冥月が影の槍を自在に操り、再びファングへと襲い掛かる。直線的な攻撃ではファングには届かない。冥月が展開させた影の槍はまるで檻でも作り上げるかの様にあらゆる角度から一斉にファングへと襲い掛かる。
「甘い!」ファングが冥月の展開させる影の槍が自分に襲い掛かる寸前に影槍の僅かな隙間を縫う様に前へと飛び出す。身体を翳めた影の槍によって出血しながらも、生き生きとした表情でファングが冥月に強烈なパンチを浴びせようと腕を振り下ろす。
「……っ!」冥月が寸前で影の壁を作りあげ、ファングと自分の間を遮る。ファングの拳は影によって押さえ込まれ、その後ろから音もなく現れた冥月の蹴りがファングの身体を捉える。
「ぐっ…! 厄介な能力者だ…!」鍛えられたファングの強靭な身体に、か細い冥月の足がめり込む。影を纏い、極端に硬度をあげた冥月の攻撃は常人の蹴りとは比較にならない程の攻撃力を生み出していた。鈍い音が響き渡る。
「……硬い」冥月が態勢を立て直そうと背後へと飛びのく。すると、ファングは痛みによろめく事もなく冥月を追って間合いを詰めた。「……っ!」
「ぬおお!」ファングの拳が冥月に当たる寸前、冥月は両腕を十字に組みながら背後へと飛ぶ。ファングの打撃によって冥月が吹き飛ばされ、その先でくるっと身体を後ろに回して冥月が着地する。「…後ろに飛んで衝撃を殺したか。まったくもって良い戦闘能力をしている…」
「……つっ…!」冥月が思わず痛みに一瞬顔を歪める。衝撃を吸収し、直撃を避けたにも関わらず、冥月の腕には赤黒い痕がついている。「……馬鹿力」
「褒めてくれているのか?」ファングがそう言ってサバイバルナイフを構える。「やはり欲しくなる…。その戦闘センス…」
「……断る」冥月が影の中へとずずっと飲み込まれる様に潜り込む。
「逃げる、とは思えんな…」ファングが構えたまま瞳を閉じる。「…そこかっ!」
「……外れ」ファングの攻撃は影によって作られた冥月の分身を捉え、ファングの背後から冥月が姿を現し、ファングの後頭部へ強烈な蹴りを打ち込もうと振り下ろす。が、ファングが身体を捻ってその攻撃を避ける。
「ふん!」身体を捻ったまま、ナイフを冥月目掛けて振り下ろす。冥月もまた、ファングの腕を振り下ろした右足と反対の左足で蹴り、後ろへと飛んで避ける。
「……強い」冥月が息を整えながら思わず呟く。対するファングは相変わらず眼をギラギラと輝かせながら冥月を睨みつけている。
「惜しいな…」ファングが口を開く。「確かに天才的な戦闘センスに、染み込んだ身体の使い方。それだけのセンスがあるが、まだ俺には届かない。貴様と俺では圧倒的な差がある」
「……何が言いたいの?」
「経験と、場数といった所か」ファングが静かに身体を構える。
「……」
 冥月もまた、ファングのその言葉の真意は理解していた。それでも、冥月は退く訳にはいかない。以前出会った時とは違う。ここで自分が退く事は出来ない。
「…だが、その実力は敬意を表するには値する…」ファングが小さく笑う。「俺もそろそろ本気でいかせてもらおうか」
 ファングが身体に力を入れる。すると、人間とはおおよそ思えない姿へと身体を変えていく。全身、金属の銀で出来た体毛に覆われ、鬣は地面まで届く程の長さ。さながら直立した獅子といった所だろうか。月明かりに照らされた体毛が銀色に鈍く輝く。
「……犬じゃなくて猫…」冥月は以前の会話を思い出しながら思わず呟いた。
「いくぞ、黒 冥月…!」瞬間、ファングが冥月に向かって飛び掛る。先程迄とは比較にならない程のスピードで冥月に向かって襲い掛かる。
 冥月は影の槍を再び展開させ、次々と順番ファングへと攻撃を開始する。しかし、そのスピードでさえファングの攻撃速度には遠く及ばず、ファングが冥月へと距離を詰める。
「……っ!」冥月が飛んで避けようとした瞬間、冥月の身体が重く動かなくなる。咄嗟に腕を構えるが、ファングの強靭な爪が振り下ろされ、身体もろとも吹き飛ばされていく。
「…何故貴様がいる?」吹き飛んだ冥月から眼を逸らし、ファングが口を開く。
「いやぁ、アンタがもたもたしてやがるからさ…」男が歩み寄る。「本気の姿まで晒して、何をやってんのさ」
「邪魔をするな!」ファングが唸る様に男へと声をあげる。
「おいおい、そんな事言うなよ。俺の能力のおかげで、アンタの攻撃が綺麗にクリーンヒットしたじゃねぇか、ヒャッハッハ」下種な笑い方をしながら男が冥月に歩み寄る。
「……ぐっ」冥月が朦朧とした意識の中で男を睨み付ける。ファングの爪によって抉られた身体から酷い出血が続く。
「あーらら、生きてるよ」男が血だらけで倒れている冥月の腹を蹴り上げる。力なく吹き飛ばされた冥月を見て、再び大声で笑い声をあげる。「ヒャハッ! ありゃ人間サッカーボールだぜ!」
「…もうそいつに戦うだけの力はない」ファングが苦々しげに口を開く。
「おいおいおい、そりゃねぇだろ?」男が冥月の腹に足を乗せる。「殺すつもりがねぇのか?」
「……くっ」冥月が男の足へ触れる。
「触んじゃねぇよ!」冥月の身体を再び男が蹴り飛ばす。
「……組織には知られたくなかったけど…」冥月が高笑う男を見つめながら、徐に何かを掴む様な仕草をした。
「…ぐっあぁ!」男が胸を掴みながらその場で苦しみ出す。「な…、何だ…」
「…自業自得だな」ファングがその原因に気付く。
「お、おい…! ファン…グ…! ぐっあああああ!」冥月の掌が徐々に小さく閉じられていく。
「……さよなら」冥月が掌を握り締めると同時に、男がその場で倒れる。冥月は朦朧とした意識の中で無理やり身体を起こす。
「動けば死ぬぞ」ファングが再び構えながら口を開く。
「……もういい」
 冥月の言葉にファングが思わず一瞬思考を止める。その瞬間、影が不意にファングに向かって伸び、身体を拘束する。
「しまっ…」
 冥月はそのまま手を天へと翳した。すると、すっぽり空を飲み込む程の巨大な影の円が具現化される。その中から、直径二キロ程度はあるだろうか、巨大な岩盤が現れる。
「……手を引かないと全員押し潰す。お前とはもう戦ってやらない、ただ潰す」
「…なるほど、とんだ隠し玉を持っていたもんだ…」ファングが上空の岩盤を見つめて呟く。「無粋な邪魔も入った上に、あれだけの大きさの攻撃では無事とはいかんだろうな…」
「……どうする?」朦朧としながら、なんとか意識を保ちながら冥月がもう一度尋ねる。
「良いだろう。ここは退かせてもらおう」ファングが人間の姿へと戻り、ナイフをしまいこむ。冥月が最初に捕まえた見張り達を影から解放する。「また会おう、黒 冥月」
「……会いたくない」
 冥月の言葉に小さく笑いながら、ファングが部下達に手を上げて指示をした。部下達が姿を消すと、ファングも静かに闇の中に消え去った。
 上空に展開した岩盤を再び影の中へと消し去り、その場でフラっと卒倒する。薄れて行く意識の中、瀕死の状態の冥月の身体が何者かによって抱き上げられた…。



                                                                                                                                  to be continued....



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いつも有難う御座います、白神 怜司です。
ギリギリの納品となってしまい、申し訳ありません。

過去編第二部という事で、今回のお話を書かせて頂きました。
なかなかに負けず嫌いの冥月さんでした(笑)

気に入って頂ければ幸いです。


今後の展開がどうなっていくのか、
ライターである私としても非常に興味深く
楽しみにさせて頂いております。

今後とも、宜しくお願い致します。


白神 怜司