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<東京怪談・PCゲームノベル>


限界勝負inドリーム



 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。


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『サンプリング開始、オリジナルを起こせ』
 勇太の頭の中に声が聞こえる。
 いや、これは、スピーカーからの音だ。
『オリジナルの覚醒が遅いな……』
『かまわん、サンプルどもの扉を開けろ』
 勇太から程はなれた場所で、プシュと音がして、壁がいくつか展開される。
 その中には少年少女が一人ずつ、納められていた。
 頭には観測用の機器がつけられており、その目には生気が感じられない。
(……くそっ、なんだって言うんだ)
 遅まきながら、勇太も目覚め始める。
 勇太も同じように、壁に隠されていた部屋に、一人で寝かされている。
 具合の悪さを覚えながらも、フラフラと起き上がり、頭を振って状況を確認する。
 部屋から出ると、そこは円形の大部屋。白い壁以外は何もない、だだっ広い空間である。
(覚えがある……この部屋は確か……)
 勇太の記憶の中、封印しておきたいカテゴリの中に、この部屋の存在がある。
 能力者の研究所で行われていた、能力者同士の戦闘。それを行うのがこの部屋である。
「また気分の悪い夢だな!」
 勇太は自分の足で床に立ち、眼前に広がる大部屋を睨みつける。
 大部屋には既に、勇太の対戦相手である少年少女が五名ほど、おぼつかない足取りで立っている。
 あの五人を倒さなければ外へは出してもらえないが、正直乗り気ではない。
 能力を使うのだって嫌なのに、その相手が何の罪もない、同じ境遇の子供を打ち倒すのに使われるのならば、反吐が出て当然だ。
「せめて、あの壁をどうにかできれば……」
 壁には特殊なコーティングが施され、こちらからテレポートで外へ渡ることもできず、大概の超能力は無効化されてしまう。
 素手で分厚い壁を破る事が出来るわけもなし、勇太にはどうすることも出来なかった。
 しかし易々と諦めるのも癪だ。何か方法があれば憎き研究者たちに報復する事も可能なのだが……。
 そんな事を考えている内に、相手に動きが見えた。
「仲良く脱出の算段をするわけにもいかなそうだな」
 小さく舌打ちし、とりあえずは迎撃する事に決めた。

 はじめに襲い掛かってきたのは、異常なまでのスピードで迫ってくる少年。
 彼の能力はどうやら身体強化らしい。百メートル近くあった間合いが瞬く間に詰められる。
 そのままの勢いで突っ込んできた彼を、勇太はなんとか紙一重で避ける。
「あっぶね……ッ!」
 今の突進、当たればひとたまりもなかっただろう。
 相手は本気で勇太を殺そうとしている。
 それもそのはず、彼らは研究員から色々な実験を受けた上に、薬物も投与されている。
 既に正気などないのだ。
 やりにくい、と素直に感じる。
 だがそれでも負けるつもりなどさらさらない。
「その隙、もらったぁ!」
 突進した少年はそのまま壁にぶつかり、軽い脳震盪を起こしているらしく、そこに追撃のチャンスが生まれる。
 それを見逃す手はない、と勇太はサイコキネシスを操り、少年へ攻撃を試みる……のだが。
 不意に、身体が浮く。
「うぉ!?」
 敵の少女がサイコキネシスを使ったのだった。
 勇太の能力が研究され、それを移植された子供もいる。その一人があの少女である。
「こんの……ッ!」
 しかし、オリジナルである勇太の力には敵わず、サイコキネシスをぶつけられるとすぐに相殺される。
 身体の自由を奪い返した勇太。すぐに状況を確認しようとするが、唐突に炎に巻かれる。
 敵の一人の少年が作り出した炎。彼はパイロキネシスト。自然発火能力者である。
 猛る炎に焼かれそうになった勇太だが、とっさにテレポートを使用してその場から逃れる。
「くそっ、流石に人数差がでかすぎる……」
 五対一ではかなりの劣勢だ。
 しかも相手は一人一人が、拙いながらも能力者。その能力をコンビネーションで使用されては、勇太が切り返すのにも限界がある。
「まずは厄介な能力のヤツから潰す必要があるな!」
 今、発覚している能力は、身体能力強化、サイコキネシス、パイロキネシスの三つ。
 他の二人の能力がわからないので、それは横においておくとしても、面倒なのはサイコキネシス。
 パイロキネシスは辛うじて回避は可能だが、サイコキネシスは不意を突かれると身動きが取れなくなる。
 その一瞬が命取りになりかねないので、まずはサイコキネシストから行動不能にさせるべきだ。
 勇太はテレポートを操り、サイコキネシストの少女との距離を詰める。
「ちょっとごめんねっと!」
 すぐさまサイコキネシスで少女の無力化を図る、が、一瞬で目の前から消え去る。
 勇太のサイコキネシスが発動したわけではなく、少女は他の少年が使ったテレポートで移動していたのだ。
 勇太がテレポートをしてからサイコキネシスを使うまでの時間は、かなり短かったはず。
 にも拘らず、今の攻撃は易々と回避されてしまった。
「……読めたぞ、お前らの能力」
 わからなかった二人のうち、一人はテレポーターなのはわかった。
 そしてもう一人は恐らく、テレパシスト。
 勇太の行動が読まれていたのはそのためだろう。
 テレパシストが司令塔となり、他の四人に指令を与え、四人はコンビネーションを組んで勇太を追い詰める。
 単純な戦法だが、それゆえに効果的、ということもある。
 だが、それがわかってしまえば付け入るべき点も見えてくるというもの。
 サイコキネシス少女の無力化よりも先に、テレパシストを無力化すべきである。
 こちらの手の内が全部バラされてしまっては、どうしようもない。
「目には目を、歯には歯を、テレパシーにはテレパシーを!」
 勇太の頭を侵食しようとする敵のテレパシーに、逆にこちらから干渉する。
 テレパシーはあまり得意とするところではないが、敵の能力は劣化コピー。勇太に敵うはずはない。
 そうして読めた相手の思考は
『だが、甘い』
 背中からとてつもない衝撃。それと共に視界が一瞬暗転する。

 じわり、と意識が戻るたびに、体中に激痛が走る。
 気がつくと、勇太は床に転がっていた。
「……な、なにが……」
 事態が飲み込めず、混乱しつつ起き上がる。
 敵の少年少女は、悠々と勇太を見下ろしていた。
 どうやら追撃してくる事はないらしい。
 数での有利に胡坐をかいているのだろう。
「ちくしょ……余裕って事かよ」
 敵の余裕は癪に障るが、しかしそれで勇太に余裕もできる。
 とりあえず、状況を把握せねば。
 さっき、何が起こったのか。
 冷静に考えてみれば想像に難くない。
 勇太がテレパシーを操ろうとした時に、身体強化の少年が思い切り突進してきたのだ。
 周りへの注意を怠っていたのが原因だろう。使い慣れないテレパシーはそれだけリスクを負うということだ。
 こうなってはテレパシストのテレパシーを邪魔しつつ、他のやつらの挙動に警戒をしなければならないという、難易度が跳ね上がった状況になってしまっている。
(テレパシーを使いながらサイコキネシスを操って相手の足止め……いや、能力的に限界を超えている。今の俺じゃ……難しい)
 苦手とするテレパシーを使いながら、他の能力を使うには許容量が足りない。
 下手をすると脳みそが焼ききれる。
 ……しかし、それは今の状態ならば、と言う話だ。
「仕方ない、か」
 勇太は覚悟を決め、自分の中のたがに手をかける。
 自分の中に確かにある『リミッター』。
 それを外せば能力がぐんと強くなる。ただし、その間の制御は一切利かない。
 相手を慮る余裕もない。最悪、死に追いやる事もあろう。
 だが、今はそうしなければ勇太がやられる。
 ならば……。

 これは勇太の記憶から作られた一戦。
 しかし、これ以降の記憶があやふやなのはどうしてなのか、自分でも疑問であったが、やっと得心が行く。
 リミッターを解除してしまうと、意識が吹っ飛ぶのだ。
 そりゃ覚えているわけもない。

 穏やかな漣のようだったテレパスの支配範囲が、急に波立ち始める。
 激流となったテレパシーはテレパシストに襲い掛かり、その頭を怒涛のように蝕み始める。
 程なくして、テレパシストは嘔吐して倒れた。
 突然の出来事についていけなかった相手連中は、すぐに反応する事も出来ず、勇太の追撃に後れを取ってしまう。
 続いて飛んできたのは、サイコキネシス。
 テレポーターに向けて飛ばされたサイコキネシスの塊は、テレポーターを巻き込んだまま壁に突進し、轟音を立ててぶつかる。
「面倒くさいヤツは、片付いたか」
 頭を抑えながら、ユラリと立つ勇太の視線に、危ない光が宿る。
 もう既に、敵意を持つ相手を何の躊躇もなく潰す、そういう思考が出来上がっている。
 止めるものなどない。
 勇太から発される半端ではない殺気に、残った三人がたじろぐ。
 瞬く間に形勢を逆転されたのだから、混乱ぐらいするだろう。
「さて、あとは残務処理だ。覚悟は出来てるだろうな!?」
 劣化コピーとは言いえて妙、というもので。
 相手の能力自体はそれほど高くない。
 彼らの戦術はテレパシストで勇太の思考をトレースし、先手を打って攻撃、もしくはテレポーターを使って回避、と言うのが基本だった。
 それを根本から覆されてしまえば、能力的に劣っている彼らに、勇太とまともに戦う事は出来ないのである。
 となれば、『残務処理』というのも妥当な名称である、といわざるを得なかった。
 そこから起こったのは一方的な戦闘だった。

 やっと正常な思考を取り戻したパイロキネシストが能力を操る。
 どこからともなく自然発生した炎が逆巻き、勇太に襲い掛かる……が、それも止まる。
 サイコキネシスを使った力技で炎を押しとどめ、それどころか逆に能力者の方へ押し返す荒技。
 このままではパイロキネシストがやられてしまう、と敵のサイコキネシストがさらにサイコキネシスを上掛けしようと試みる。
「へぇ、俺と張り合おうってのか?」
 しかし、リミッターの外れた勇太と、劣化コピーの能力者とでは力量差は歴然。
 敵のサイコキネシスは炎を押しとどめる事も叶わず、打ち消されてしまった。
 ならば、と身体強化の能力者が、勇太に向かって突進する。
 能力をどうにかできないのならば、その元を断てば良い、と判断したのだろう。
 しかし彼は失念していた。
 元々敵のメンバーが行っていた戦法、それはテレパシーによる先読み。
 勇太もテレパシーを使う事が出来る、となれば敵の思考は筒抜けなのである。
 身体強化の少年の突進が空を切る。
 勇太が直前にテレポートで移動していたのだ。
「慌てるなよ、一人一人、順番に潰してやる!」
 勇太が敵から距離を取ったその時には既に、パイロキネシストの作った炎は彼に燃え移っていた。
 元々パイロキネシスとは発火させる能力で、炎を操るものではない。
 襲い掛かってくる炎に、彼はどうすることも出来なかった。
 放っておけばあのまま大火傷を負って戦闘不能だ。
 ならば、と、次のターゲットに移る。
「次はアンタだ!」
 狙いをつけたのはサイコキネシスト。
 何はなくとも、遠距離攻撃は鬱陶しいものだ。
 身体強化の少年は、それしか能がないようだし、しばらくは放っておいても大丈夫だろう。
 ならば優先すべきはサイコキネシストの無力化。
 勇太は敵の真上に巨大なサイコキネシスの塊を作り出し、それを落下させる。
「潰れろっ!」
 それは巨大な岩石と同様、サイコキネシストを押しつぶそうと迫る。
 どうやら敵もサイコキネシスを操り、対抗しようと頑張っているようだが、それもどの程度の効果をなすものか。
 彼女の顛末を見届ける前に、身体強化の少年が走りこんでくる。
 馬鹿正直に真正面から、一直線に突進してくる彼を、勇太はテレポートで悠々避ける。
「最後はアンタだ。……さっきのは痛かったからな!」
 彼から受けた突進の痛みは、まだ体中に残っている。
 その恨みもこめて、がら空きになった少年の背中へと、勇太はサイコキネシスの槍を飛ばす。
「これで、終わりだッ!!」

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「……気持ち悪ぃ」
 目覚めた勇太は、第一声でそんな事を呟いた。
 気持ち悪かったのは、寝ている間にかいた汗もそうだったし、どうやら夢見が悪かったようで、普通に具合も悪かった。
 見ていた夢はぼんやりとも思い出せないが、それはすごく嫌な夢だったのだろう。
「思い出そうとするのも億劫だわ。顔洗ってこよう……」
 のそのそと寝床から這い出し、そのまま洗面所へと向かった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男性 / 17歳 / 超能力高校生】

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■         ライター通信          ■
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 工藤勇太様、ご依頼ありがとうございます! 『パイロキネシスってなんか好き』ピコかめです。
 何か根拠があるわけではないんですがパイロキネシスって……燃えたろ? って感じで好きです。

 今回は多対一の劣勢から始まりました。相手の能力もお任せって事でしたので、勇太さんの能力から三枚、使いやすい能力を二枚って感じの構成で。
 最初は多少苦戦しましたが、最終的に完全勝利といった感じ。
 まぁ大して強くない相手でしたし、完勝も当然といったところでしょう!
 では、またよろしければどうぞ〜。