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テーマパーク・パニック
●憂鬱な誘い
「はぁ〜……」
がっくりと項垂れ、大きなため息をひとつ吐くとファルス・ティレイラは重い足取りでアンティークショップ・レンに向かう。
(今度はどんなお仕事させられるんだろう……)
碧摩・蓮が仕事があるといくつか紹介されたが、これまでに引き受けたものは最後には必ずといっていいほどロクな目に遭わなかったので気が重くなるのは仕方がない。
今日の仕事はどんなものかとどんよりモードのまま、アンティークショップ・レンの前に辿り着いた。
もう一度大きな溜息を吐き、ドアを開け中に入る。
「やあ、待ってたよ」
煙管で一服しながら、さっそく仕事の話をしようかと仕事を持ち出す蓮。
「あの〜……今回のお仕事ってどんなものなんですか……?」
まずはこれを見ておくれ、と一枚のチラシを手渡された。それは、近日東京郊外にオープンする遊園地のものだった。
メルヘン、ホラー、SF、西部劇といった様々な世界観を取り扱った異世界風施設を揃えた大型レジャー施設だという。
「規模でいえば、有名などこかの王国みたいなモンだね。そこの支配人がさ、売店やアトラクションの手伝いをしてくれる可愛いい子を紹介してくれっていうからあんたを指名したんだよ」
遊園地のオーナーに「この子はどうだい?」と蓮が写真を見せたところ、ティレイラをえらく気に入り、是非この子に手伝ってほしいと頼み込んだのだとか。
売店の売り子やアトラクションのお手伝いだったら、これまでのように危ない目に遭うことはないと思ったティレイラは「わかりました」と引き受けることに。
この遊園地がどのようなところで、不思議な出来事が起きることを知らないまま……。
●微妙な変化
翌日。ティレイラは、蓮に紹介された遊園地を訪れた。
「よく来てくれたね。碧摩さんから、きみは良く働く子だと聞いているよ。今日はよろしく頼むよ」
太鼓腹、バーコード頭でなければハチミツ好きな熊を思わせる小太りの中年男な支配人が出迎えるなり、ティレイラの働きぶりを期待している。
「それと、今日はプレオープンなので私が招待した客しかいないんだ。少し物足りないかもしれないが、ちゃんと仕事をしてくれたまえ」
「はい、今日はよろしくお願いします!」
ペコリと頭を下げ、元気良く挨拶。
「元気が良いお嬢さんだね。それじゃ、さっそく仕事を頼む。これに着替えて、まずは売店の売り子の仕事をしてくれ」
「はいっ!」
手渡されたのは、ミニである以外は猫シッポがついたウェイトレスの衣装だった。衣装に着替え、猫耳つきのカチューシャを付け、猫足な靴を履き可愛らしい猫ウェイトレスに。
最初の仕事は、ポップコーン売り場の仕事だった。
「猫さん印のポップコーンはいかがですか〜、美味しいですよ〜♪」
出来立てのポップコーンを縞猫柄の紙コップに詰め、通りゆく客達に声をかける……が、何やら様子がおかしい。皆、顔が青白く、透けて見えているように思えたからだ。
幸せそうな恋人も、楽しそうな家族連れも、笑い合う友達同士も。
皆、幽霊にように儚く、今にも消えそうなカンジだ。
(まさか、ここってお化け屋敷……? ううん、考えすぎか。今日はたまたま具合が悪いだけかも)
気を取り直し、再びポップコーン売りに精を出す。
交代時間になり、別の売り子と交代することに。
「ご苦労様。後は任せるニャン」
口調が猫っぽいのは仕様かと思ったが、良く見ると…猫耳、猫の手、猫顔と猫人間っぽい。
「後はお願いします」
気にも留めずバトンタッチした時、掌の肉球が妙に温かかった。
(この人の手、本物の猫の手……?)
その後、ティレイラの手に猫のような短い毛が生え始め、人間の手が徐々に猫の手と化した。
「え……?」
突然の変化に戸惑うが、次の仕事先に向かうことに。
●結局は……
次の仕事先は、お化け屋敷風のカフェ。
手は猫のままだったが、何とか仕事をこなせるだろう。
魔女に扮するように言われたが、ありきたりでは面白くないからアレンジしてと責任者。
これならどうでしょう、と角と翼、尾を出現させ竜族本来の姿に。
「竜の魔女か。うん、なかなかいいね。それでいこうか。ここはカフェだけど、お化け屋敷でもあるからお客様を驚かすことを忘れないように」
「はい、頑張ります!」
猫化したけど、これ以上何も起きないよねと心配になるが、気を取り直して仕事に勤しむ。
お客を驚かすにはどうしたらと悩んだが、背後からそっと近づき、いきなり声をかけたら驚くと思いそれを実行することに。
狙いを定め、窓際の席にいる女性客にそっと近づく。辺りは薄暗いので、勘を頼りに進んでいく。
あともう少し……というところで、客の首が動いたような気がした。
(き、気のせいよね……?)
そう思った時、客の首がうにょ〜んと伸び、ティレイラの全身に絡みついた。
「キャー! な、何ですかコレはー!!」
『私を驚かせようなんて100年早いわよ♪』
どうやらこの女性客、ろくろ首だったようだ。
『お嬢ちゃんも私達の仲間に加えてあげるわ。どんなお化けがいいかしら?』
絡みついたまま、ろくろ首はティレイラの全身を見て考える。
『化け猫にしちゃいましょうか。手、猫だし』
『蛇女がいい』
『座敷童も良かろう』
背後から、ゾロゾロとお化け達が集う。
「あ、あの〜……この遊園地は一体何なんですか……?」
よくぞ聞いてくれた、と正面から中年男の声が。
「ここはね、ゴーストテーマパークなんだよ。我々のような者が集う……ね」
姿を現した中年男は、ティレイラに仕事を依頼した支配人だった。というが、今の姿はオークのような悪魔だが。
ポップコーン売り場で見た客達が顔色が悪かったのは、本物の幽霊だからだったのかと理解したティレイラだった。
「きみにはね、我々の仲間になってほしいんだよ。可愛い竜の魔女として。いや、他の種族がいいかな?」
皆、何がいい? と周囲のお化け達に尋ねるオーク支配人。
尋ねられたお化け達は、思い思いのものを口にする。
その後、ティレイラは様々な種族の悪魔や妖怪に変身させられ、オーク支配人にじっくり品定めされるのだった。
(やっぱり、こうなるんですね……)
いつになったら帰してもらえるのだろうと思うと、悲しくなって涙が溢れてきた。
当分、帰れそうにないかも……しれない。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【3733 / ファルス・ティレイラ / 女性 / 15歳 / 配達屋さん(なんでも屋さん)】
【NPCA009 / 碧摩・蓮 / 女性 / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主】
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■ ライター通信 ■
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ティレイラ様、お久しぶりです。
ご発注、ありがとうございます。またお会いできて嬉しいです。
遊園地でいろいろな目に遭うというシチュエーション、いかがでしたか?
不思議な出来事=お化け屋敷という解釈のもと、このようなお話になりました。
竜族の姿も可愛いですが、猫人間風なティレイラ様も可愛いかと思います。
氷邑風料理で、ティレイラ様に可哀想な目に遭わせてしまいました。
無事に家に帰れることを祈りつつ、これにて失礼します。
氷邑 凍矢 拝
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