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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


 吸血鬼に永遠の眠りを 








 廃墟のビルの中、満月の輝く夜に似合わない激しい爆音が鳴り響く。

「―ぐっ…こんな仕事、引き受けるべきじゃなかったな…」
 左肩に受けた傷を右手で止血しながら、武彦は生温かい自分の血の感触を味わっていた。

「フ…、人間風情がこの私と戦おう等とは嗤わせる」
 ツカツカと革靴の音を鳴らしながら、おおよそ人とは思えない恐ろしい形相をした
吸血鬼が武彦へと歩み寄る。

「…あぁ…、全くだ…。吸血鬼なんて、常人が勝てる様な相手じゃねぇよ」
 諦めたかの様に笑みを浮かべた武彦が吸血鬼たる相手へと告げた。
「伝説上の生き物退治なんて依頼、受けなきゃ良かったと後悔してるさ」


「ならば後悔と共に血肉を屠ってくれる」
 吸血鬼が詰め寄り、鋭い爪を振り翳す。

 高額な資金を積まれ、武彦が引き受けた吸血鬼退治。やはり一筋縄で片付く様な
相手ではない。
「…とまぁ、一人だったら無理な仕事だったろうな」
 武彦は自分の背後に立つ人物の気配を感じ、静かに呟いた。
「やれやれ、遅かったじゃねぇか…。





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「悪いね、始末屋の方が忙しくてね」
 天井が崩れた廃墟ビルの中へと、月明かりに照らされながら、金色の髪に緑色の瞳をした少女、“カエリー・クラウィス”がその独特な服装で武彦の隣へと現れた。手に握っていた宝石を武彦に見せる。
「これは?」
「ヘマタイトの特性エリキシル。治癒力は高めてあるから、止血は自分でしてね」
「…どうやって?」
「あぁ、それとこの水晶を渡しておくから」カエリーが武彦の言葉を無視して更にポケットから水晶を取り出す。「キミが投げたら僕が力を発動するから、心配しなくて良いよ」
「いや、だからこれをどうしろって――」
「――さて、吸血鬼か。恐い顔に鋭い爪…。よくある二流映画も、さながら間違いって訳でもないみたいだね」
 よもやカエリーには自分の言葉は届かないのだろうか。そんな事を思いながら武彦はとりあえずエリキシルと言われた宝石を自分の傷口に近づけた。すると、白い輝きを放った宝石が武彦の傷を照らし出し傷口を癒し始めた。
「…面白い小道具を持っているな、小娘」吸血鬼が口を開く。
「キミ達みたいな連中とは、こういう小道具がないと戦えないからね」吸血鬼の言葉にはしっかり反応するカエリーに、武彦は思わず複雑な気分をしながら見つめていた。
「小道具があれば私と戦える、と?」
「さぁ? やってみれば解るんじゃない?」カエリーが腰を落とし、水晶を幾つも握り締める。
「良いだろう!」
 吸血鬼がカエリー目掛けて飛び出す。が、カエリーはひらりと身体をひねって回転しながら横へ避けた。避け際に水晶を指で弾き、吸血鬼に当てる。
「伝説上の生き物って言っても、芸がないんじゃない?」カエリーはクスっと笑いながら吸血鬼を挑発する。「拍子抜けだなぁ、そんな程度だったなんて」
「…抜かすな、小娘」
 何度も続く吸血鬼の攻撃をその都度避けながらカエリーが水晶を指で弾いて吸血鬼目掛けて当てていく。挑発にも似た行為は徐々に吸血鬼を激昂させていく。が、カエリーはそれに動じる事もなくただひたすらにその一手に専念していく。
「逃げているだけでは、私は倒せないぞ?」
「そっちこそ、避けられる攻撃ばかりじゃ僕を倒せないよ」カエリーは相変わらずの飄々とした態度を取っている。
 武彦はそんな二人の光景を見つめて違和感を感じていた。激しい吸血鬼の攻撃を避け続けるカエリーと、それを追う吸血鬼。お互いの速度は徐々に明確な差を生んでいる。吸血鬼の速度は目で捕らえる事も時には困難な程。だと言うにも関わらず、今の吸血鬼の動きとカエリーの動きはお互いに逆転すらしている様だ。明らかに鈍った吸血鬼の動きと、先程までよりもスピードをあげるカエリー。恐らく吸血鬼もこの違和感に気付いている頃だろう。飄々としたカエリーに比べ、吸血鬼は若干息が上がり始めている。
「嗤わせる…。まさか人間風情がこの私の動きに合わせるとはな。どんな仕掛けを施している?」
「教えた所で、キミは僕の術中にハマっているからね。教えてあげても良いよ」カエリーがポケットから水晶とハンカチを取り出した。水晶をハンカチに触れさせ、カエリーがハンカチを落とす。すると、ハンカチはまるで水分を含んだかの様に地面へ真っ直ぐ落ちる。「キミの身体に今起こっている事を、解りやすく説明するならこういう事だね」
「…宝石魔術…とでも言うべきか」
「ご明察。現代の錬金術師とでも言ってもらっても結構だよ」
「実に厄介だな。タネ明かしに時間がかかってしまった…が…」吸血鬼の速度が跳ね上がる。「あの程度が本気だと思ったか?」
「しま…―」
 カエリーの背後へと一瞬で移動した吸血鬼がカエリーの身体を殴り飛ばす。カエリーの身体が壁へと真っ直ぐ叩き付けられ、そのまま崩れる様に倒れ込む。
「カエリー!」武彦が走り寄ろうとした瞬間、吸血鬼が武彦を睨み付け、動きを制止する。
「…成程。その様な芸当も出来るとは思わなかった」吸血鬼がカエリーへと振り返り、静かに呟いた。
「…クソ、もうちょっと知られるまで余裕あると思ったんだけどな」カエリーがスっと立ち上がり、服についた埃をパンパンと払う。
「どういう事だ?」武彦が思わず呟く。
「簡単な仕組みだよ。僕は吸血鬼君とは逆の事をしている。彼の身体は重く、僕の身体は軽くなっているだけだよ」
「おかげで、私の攻撃の衝撃も半減かそれ以下まで落とされたと言う訳か…」吸血鬼がギリっと歯を食い縛った。「小賢しい真似を…!」
「でも、正直意外だったよ。そこまでのスピードをまだ出せるなんて、ね」カエリーが挑発する様に小さく笑う。「本気で来ないと、自分の身体の重さで潰れちゃうよ」
「…殺す。貴様は確実に引き裂いてやろう」吸血鬼が指を広げ、そのまま先程と同等のスピードでカエリーに襲い掛かる。
「そういう武器は嫌いなんだよっ」
 カエリーが襲い掛かった吸血鬼の攻撃をバックステップして避ける。そのままグっと膝を曲げ、上空へと高く舞い上がる。
「逃がさんっ!」更にそれを追う様に吸血鬼もまた高く飛ぶ。
「あれだけ重力与えてるのに、こんな所まで飛んで来るなんてなぁ…」上空から、自分目掛けて飛んで来る吸血鬼を見つめてカエリーは呟いた。「でも、もう逃げれないのはキミの方だよ」
 カエリーが水晶を直線で飛ばし、吸血鬼の身体に当たる。すると重力は一気に膨れ上がり、吸血鬼の身体が押し戻される様に地面へと急速に落下していく。カエリーはそのまま真っ赤なルビーを取り出し、ルビーに重力を与え、上空から降下しながらルビーを投げつけた。
「ぐ…っ…うおお!」吸血鬼がなんとか水晶から逃れようとするが、重力は吸血鬼の力すらもろともせず、そのまま吸血鬼の身体ごとビル内の床を突き破り、最下層まで叩き付けられる。
「アクスクラックスの洗礼だよ」カエリーの言葉が上から聞こえ、武彦が思わず振り向く。すると、真っ赤に燃え上がるルビーは炎を纏い、不死鳥の様な姿をして武彦の横、吸血鬼が落ちていった穴へと突き進む。
「う、うおおおおぉぉぉ…!」
 吸血鬼の身体へと真っ直ぐ突き刺さる様に衝突した炎の塊が吸血鬼の身体を飲み込み、火柱をあげた。その真横にいた武彦の目の前へとカエリーが降り立つ。
「たーまや〜…ってね」
「いや、それ違うだろ」
 火柱が消え去り、カエリーが穴を覗き込む。
「さぁ、武彦君。所持品の確認をしよう。降りるよ」
「へ…? おい、ちょっと待てって!」
 飛び降りるカエリーとは違い、武彦が急いで階段を降りに走り出す。
「…はぁ、はぁ…。どうせだったら俺も降ろせよな…」武彦がカエリーと吸血鬼の元へと辿り着き、息を整えながら呟いた。
「…ちぇ、結局『欠片』は見つからない、か」カエリーが不満そうに呟く。「師匠の言う事もアテにならないなぁ…」
「…? どうし…―」
「―武彦君。もう朝だよ」武彦の言葉を再び無視してカエリーが外を見つめた。
「…あぁ、そうだな…」
「朝になったし、朝食作ってよ」
「はぁ? 俺は怪我人だ…―」
「―うん、それが良い。そうと決まったら行こうじゃないか。零君ともあいたいしね」
「…もう何も言わん…」




――。



「お兄さん! どうしたんですか、その傷…!」
「やぁ、零君。相変わらず可愛いね」カエリーが武彦の横からひょっこり顔を出す。「とりあえず手当てをしなくちゃね。その代わり、朝食食べさせてね」
「え、あ、ハイ!」
「…はぁ、自由な奴だな…」


 その後、カエリーは武彦の手当をしながら零を可愛いだの何だのと褒め倒し、朝食をたいらげて満足げに帰って行ったのであった…。



                                          FIN



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ご依頼参加有難うございます、白神 怜司です。

宝石魔術というのはなかなか魅力的な能力で、
まだまだ色々な引き出しもありそうなのですが、
今回は宝石魔術のみでの戦闘とさせて頂きました。

お気に入り頂ければ幸いです。


それでは、今後とも機会がありましたら、
是非宜しくお願い致します。

白神 怜司