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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.5 ■ 宿敵・炎の少女







 台車を引きながら、おおよそ急ぎ足とは思えない速度でアリアは呪術師を追いかける。相変わらずのアリアの敏感な嗅覚は、呪術師についた自分の妖気のかけらの匂いを追う。すると、周囲を歩いていた人々がアリアの前に虚ろな瞳をして立ちはだかる。
「フフフ…、便利な能力だとは思わないか、氷の種族よ」人々の奥から呪術師が余裕を浮かべてアリアに声をかける。「見たまえ。善良な一般人がこうして私の手駒として動いている。そんな操られただけの人々を、傷付ける事など…―」
 呪術師の言葉を無視したアリアの周りから氷雪が生まれ、強烈な突風を放って人々の身体を吹き飛ばす。
「…見つけた…」
「クソ、戸惑いすらしないとは…!」呪術師が再び背を向けて走り出す。
 アリアは考えていた。今ここで再び氷を使えば、さっきの火柱が再び現れ、邪魔をする。このまま追いかける方が熱い思いをしなくて済む。アリアはそんな事を考えながら再び歩き出す。

「はぁ…はぁ…、しつこい…小娘だ…!」
 呪術師が息を切らしながら逃げる。体力は確かに多い訳ではないが、能力の使役による疲弊。呪術師はその疲労から判断を誤り、ついに行き止まりの路地裏へと迷い込んだ。急いで振り返り、走り出そうとした矢先に、アリアが姿を現す。
「…もう逃げれないよ」
「…チッ…」呪術師が静かに舌打ちをする。「手荒な真似をするつもりはなかったが、仕方ない。来い」
 呪術師の言葉と共に、路地裏の塀の上から一人の少女が姿を現した。紅い髪に朱色の瞳。アリアとは違い、腰まで伸びた髪を後ろで一本に縛っている。年齢はアリアと同じぐらいだろうか。虚ろな瞳をした少女が呪術師の目の前からアリアを見つめる。
「…綺麗な髪…」アリアはそう呟きながらも、身体の周りに妖気を蓄え始めた。「さっきの熱いの、あなただね…」
「その通りだ」呪術師が得意げに答える。「炎の種族。私のお気に入りの駒だ」
「……」紅い髪の少女は何も喋ろうともせず、アリアを見つめている。
「…どうして私を狙ったの?」
「フフ…、私の駒は炎。そして、お前は氷…。両方を使役する呪術師なんて、カッコ良いとは思わないか?」
「…別に」
「…冗談の通じない奴だ…。まぁ良い」呪術師が少女の肩に触れる。「いけ」
 呪術師の言葉と共に、少女がアリアに向かって飛び掛る。ゴオっと音を立て、少女の腕が炎を纏う。
「熱いのはキライ」アリアが台車を横に置き、地面に手を触れる。氷の柱が地面から生える様にバリバリと音を立てながら少女目掛けて駆け抜ける。
「…っ!」少女が地面を殴り、火柱をあげる。強烈な炎と氷がぶつかり、激しい音を立てながら水蒸気をあげる。
「こっちだよ」アリアが水蒸気の中から姿を現し、少女の腹部に氷のハンマーを横から振りぬく。少女の身体に当たろうとした瞬間、少女は腕を十字に交差させ、後ろに飛びながら衝撃を半減させ、クルクルと回って着地した。
「どうした、お前の力はそんなものではないだろう?」呪術師の目が怪しく輝き出す。
「…ッ…!」少女の表情が歪む。
「…可哀想」アリアがそう呟き、呪術師を睨み付けた。「力で他人を支配して、自分の力が大きくなったと勘違いしているの…?」
「―っ! 何だと…?」呪術師がアリアを見つめた。が、呪術師はアリアを見るなり、すぐに気付いた。目の前に立っているのは、先程までのおっとりとした氷の種族の少女ではない。「…嫌な目つきをしてやがる…。少しぐらい構わん、やれ」
 呪術師の言葉と共に、再び少女がアリア目掛けて飛び出した。両手に炎を纏い、アリアへと殴りかかる。
「愚かね」アリアが少女の振り下ろした拳をあっさりとかわして後ろへ飛ぶ。「炎の種族ともあろう者。一介の人間風情に乗っ取られているなんてね」
 嘲笑とも取れるアリアの冷笑。少女の表情が一瞬ピクっと動く。
「フハハハ! 俺の魔眼にそんな挑発は通じない! 正気に戻せばなんとかなるとでも思ったか―」
「―黙ってて」アリアの鋭い一言と視線が呪術師の身体を射抜く。「…操られた程度の能力で、私を倒せるつもり?」
 アリアが少女へとそう告げた瞬間、周囲の温度が急速に下がっていく。パリパリと音を立てながら塀や地面、電柱や電線が次々と凍り付き始める。
「…う…あぁぁ…!」少女もまた、妖気を身体から放ち、炎を身体全体に纏った。
「…ぐっ…!」あまりに巨大な炎の妖気と氷の妖気の衝突に、呪術師が怯む。「待て、場所を変える! 目立ち過ぎだ!」
 呪術師が少女に声をかけるが、少女は言う事も聞かずに妖気を膨らませ、アリアへと襲いかかる。今までとは違う、明らかに強い妖気を放ちながら加速する。アリアは両手を翳し、目の前に妖気を集めた。
「まだ本気になれないの?」アリアが更に挑発する。目の前に翳した両手の目の前に、青く揺らめく光りが生まれた。
「があぁっ!」
 少女の炎とアリアの青い光りがぶつかり合う。強烈な衝撃波が生まれ、二人の身体が吹き飛ぶ様に押し戻される。
「氷の刃、貫け」
 先手を打ったのはアリアだった。手を上にあげると同時に、少女の周囲の塀と地面から一斉に無数の氷の槍が少女の身体へと襲い掛かる。少女は咄嗟に避けるが、身体をかすめた。
「…ぐっ…!」少女は痛みに表情を歪ませながら、それでも火柱を生み出して氷の刃を一蹴。そのままアリアへと炎を走らせる。
「…っ!」アリアは氷の壁を目の前に生み出して炎を止めようと試みるが、炎は氷の壁とぶつかり、お互いを相殺させた。「…相殺出来る程の威力。凄いじゃない」
 少女が息を切らせながらアリアを睨みつける。先程までの虚ろな瞳は徐々に正気を取り戻しているらしい。
「…ウ…ルサイ…!」
「そろそろ終わらせてあげる…」アリアが右腕に氷の刃を召還し、少女へと襲い掛かる。
「…くっ!」少女が後ろへと飛ぼうとした瞬間、少女の足が氷によって地面へと繋がれている。炎を具現し、足元の氷を溶かす瞬間にアリアが距離を詰める。が、少女もまた炎の球体を作りあげ、アリアの氷の刃を受け止めた。
「いつまでも寝ぼけてないで、目を醒ましなさい」アリアの左手に青く揺らめく球体が生み出される。凝縮された氷の妖気の塊を少女へと突き出す。
「…っ、うるっさい!」少女の目が輝きを取り戻し、叫ぶ。炎の妖気を凝縮し、アリアの突き出した攻撃へとぶつける。
 強大な妖気同士が衝突し、二人は爆風によってに吹き飛ばされ、それぞれ倒れ込んだ。爆風が収まり、巻き起こった砂塵の中へと呪術師が歩み寄る。
「…フ…フハハハ…! 手こずらせてくれたが、これでコイツは俺のものだ…!」倒れているアリアを見つめ、呪術師が声をあげる。「遂に…積年の願いが叶う…!」
「…う…」少女が目を覚ます。
「よくやった。お前は先に戻っていろ」
「……」
 呪術師はそう言い残し、アリアを抱えて歩き出した。

 ―少女への魔眼が解けている事も知らぬまま…。







「いらっしゃ…―」
 無人の店内に現れた男がアリアを抱えている。そんな異常事態に、アリアの母は思わず言葉を呑んだ。
「…貴様の娘は預かった…。おっと、無駄な抵抗をすれば、この娘の命はないぞ」呪術師が気絶したアリアを抱えてナイフを突きつける。
「…あらあら」
「…?」
「アリアったら、人間の世界で誘拐されるなんて、お父さんに似たのかしら…」アリアの母が困った様な顔をして呟いた。「それにしても、貴方…」
「…気付いたか…?」呪術師がニヤリと意地悪く笑う。「久しぶりだな、氷の妖魔…」
「…どちら様?」
「…忘れた、だと…―」
「―あ、川に流したスカウトマンね」明らかにからかった様にアリアの母がクスクスと笑う。「懲りずにまた来たのかしら?」
「フ、今回は貴様の娘の命が取引材料だ」呪術師が得意げに口を開いた。「さぁ、今度こそは大人しく言う事を聞いてもらうぞ…!」
「嫌よ」
「…へ?」
「嫌よって言ったの」アリアの母はクスっと小さく笑う。「私の正体を知っているなら言わせてもらうけど、人間の命令なんて聞きたくないのよね」
「む、娘がどうなっても…―」
「―そんな事、私が心配する必要はないわ。下手な真似をしたら貴方の命がないだけよ」
 完全なる冷笑。呪術師は思わず言葉を失った。目の前にいる、一見穏やかなアリアの母の表情。だが、その目つきは有無を言わさずに殺せる事を物語っている。呪術師は後悔せざるを得なかった。目の前にいる“妖魔”に、常識が通じる筈はない。その現実を突きつけられた様な気分で、ただ立ち尽くす。
「…き、貴様の娘の攻撃は見させてもらった…! 攻撃方法なら、もう…―」
「―アリアの様な子供と、私。能力は一緒だとでも思っているのかしら?」
 虚勢を張った呪術師の言葉を一蹴するアリアの母の言葉が、更に呪術師を精神的に追い込む。そんな瞬間…―
「―確保!」
 突如店内へ突入してきたスーツ姿の男達が呪術師に向かってキャプチャービームを放つ。不意な突入で呪術師の身体を捕獲した男達は、手放したアリアを呪術師から引き離し、ティッシュ箱サイズのプラズマケージを取り出して封印の準備を始める。
「キャプチャービーム…!? まさか貴様ら、IO2…―」
「―ふぅ、なんとか間に合った、か」
 紫煙を吐きながら、男達の後ろから武彦が姿を現した。






                                           Episode.5 FIN



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いつも依頼参加有難う御座います、白神 怜司です。
またまたまたギリギリの納品となってしまい、
申し訳ありません…。

よく解らない眩暈と戦ってます←

せっかく二通りのパターンでプレ頂いたので、
今回は敗走?とまではいかない方で絡ませて頂きました。

アリアさん&お母さんの血が騒ぎます←


気に入って頂ければ幸いです。


それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司