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<東京怪談ノベル(シングル)>


盥のギガ盛りだ玲奈

1.
【妖怪】求む!協力者【意味無し芳一】
 投稿者:ゴーストネットオフ・管理人

 平家の落人を祖先に持つという方のお屋敷で怪奇現象勃発!
 これはあたしのところにきた正式な依頼だよ。
 依頼者はその家の子孫。
 夜な夜な怪僧が現れては落書きしてくんだって!
 部屋の中はもちろん、外壁、屋根の上、果ては住人の体にまで。
 毎日掃除してもキリがないらしいよ。
 あたしはソレを『意味無し芳一』って名づけたんだ。

 でね、問題はここから。
 噂によると、体中にびっしり落書きされた人はその意味不明な文言に悶絶昏倒してしまうんだって。
 そこでこの噂を検証する為に落書きされてくれる人を大募集!
 少しでも…せめて写真数枚撮る時間を稼げる耐性の持ち主。
 我こそは!と思う人はあたしまでメールちょうだいね!
 まってまーす♪


2.
「ふぅ」
 瀬名雫(せな・しずく)は投稿画面の文面を読み返したあと、エンターキーを押した。
 画面が切り替わり、無事に投稿に成功したことを確認した。
「何してるの? …意味無し芳一?」
 三島玲奈(みしま・れいな)はモニターを覗き込んだ。とあるネットカフェの片隅の風景だ。
「そう。全身にこうばーーーーっって書かれるらしいよ?」
 うーんと伸びをした雫はふと、玲奈の顔をまじまじと見た。
「あー…こんなところに最適任者がいた」
「こら、どういう意味よ?」
「だって玲奈ちゃん、余白多いし」
 むんずと玲奈の体操シャツの端っこをめくり上げようとした雫に、玲奈は慌てて制服の中に体操シャツをしまった。
 全く、油断も隙もない。
 しかし、雫はそんなことで怯む女の子ではない。
「もしや…芳一ラヴ? ラヴだよね?」
「違うー…あーでもこの流れだとやっぱ巻き込まれるんだよね…」
「よし。そうと決まれば今夜はうちに泊まりにおいでよ。作戦を練ろう」
 半ば強引に玲奈は雫の家に泊まりに行くことになった。

 できればもっと『きゃっきゃうふふっ』て感じの普通の女の子のお泊り会がよかったよ。

 ずるずると引きずられるように雫の家に辿りつく。
 ご飯を食べて夜も更け、2人は寝る支度を始めた。
 だが、その支度は中断された。
 雫の携帯が鳴ったのだ。発信者は…例の落人の子孫だ。
「もしもし?」
『屋外に…芳一の大集団! 坊主の数が、お、多過ぎて夜が黒く見えない…』
 はぁはぁと荒い息遣いの発信者はこちらの声などお構いなしに言葉を続ける。
「何それ!?」
『いいですか? ハゲが七分に黒が三分…ハゲが七分に黒が三分だ! ガチャ…ツーツー』
 切れた。
「玲奈ちゃん、予定変更。今から行こう!」
「えー…って言ってもダメなんだよね。うん。わかってる。ちょっとした儚い抵抗だから。ほら、乙女だからちょっとくらいイヤッとか言っとかないと…」
 ぶつぶつと何かをいう玲奈の首根っこを引っつかんで雫は依頼者のもとへと急行した。


3.
 しんと静まる屋敷。
 夜の闇に溶け込むように屋敷は玲奈と雫を迎えた。
 先ほどの電話のような危機的な状況は…どこにもない。
「なんだったんだろう?」
「とにかく、依頼者に会ってみないと…」
 雫は玲奈の後ろに隠れるように屋敷の奥へと進む。人の気配は…感じられない。
 玄関の鍵はかかっていなかった。
 玲奈と雫はこくりと顔を見合わせて頷くと、屋敷の中へと上がりこんだ。
 そして…見てしまった!
『壁に…ジョ…に…リー』
 倒れた依頼者を取り囲むように、口々にそれを唱える意味無し芳一…の集団!

「芳一、多過ぎ!」

 思わず叫んだ玲奈のほうを一斉に芳一の集団が振り返る。怖い。
 芳一達の頭が光る。これは確かに夜なのに夜に見えない。
『壁に耳ありジョージにメアリー』
 これはもしや…地口か!?
 雫が玲奈の顔を見て2人は息を合わせて叫ぶ。
「噂をすれば禿!」
 思わぬ反撃を受け、芳一達はのけぞった。
 しかし、そんなことで妖怪は退いたりはしないのである。なぜならそれが妖怪だから!
「ぐぬぬ…国破れてサンカレア」
 …サンカレア?
 ハッと玲奈がその意味に気がついたときには、芳一達はすでにゾンビを召喚していた。
 ゾンビはこちらの様子を窺っている。
 どうしますか?
  >戦う
   かゆ…うま…
   逃げる

 こちらも…対抗しなくては!

「ゾンビに油揚げ!」
「ゾンビが鷹を産む!」

 高く高く掲げた玲奈と雫の手から超生産力でアゲと鷹が召喚された。
 反撃だ! アゲと鷹がくっついてアゲ鷹だ!


4.
『くっ…! 一富士二鷹サン狸!』
 芳一達は玲奈たちの反撃をさらに食い止めるため季節はずれの狸召喚。
 このままでは…アゲ鷹が狸に食われてしまう!
「金が信念! あけおめ〜!」
 玲奈が召喚した年賀状の束で、雫と共に狸を引っ叩く!
  狸 消 滅 !
『なんて強さの人間たちだ…こうなったら冥土の土産だ!』
 芳一達は最後の切り札とばかりにメイド霊を呼びだした。
『いらっしゃいませ、ご主人様〜☆』
 ぶりぶりのふりふりでにこにこと愛想を振りまくメイド霊。
 ちょ、ちょっとだけ可愛いかな…なんて玲奈は思ってた。
 けれど、雫の眼力は騙せなかった。
「玲奈ちゃん、いけない! 幽霊の正体見たり彼オカマ!」
 …この可愛さで漢の娘だと!?
「漢の娘も好物よ☆」
 そっと玲奈はメイド霊の腕を抱きしめた。
「ナンダッテーーーーーーーー!?」

『漁夫ノリなり』
 メイド霊とデュエットする玲奈の演歌は実に心に沁みる。
 浮き世浮体の花道は、表もあれば浦もある。
 玲奈と咲く身に歌あれば、咲かぬ玲奈にも唄ひとつ…嗚呼、沁みるねぇ…。
 そんな声がどこからともなく聞こえてきそうだ。
『我ら竹輪の友なり』
 玲奈の演歌をBGMに雫は芳一達となぜか竹輪シェア友達になっていた。
 よくわからないけど楽しい。
 よくわからないけど嬉しい。
 よくわからないけど…よく…わから…ない…け…ど…。
 意味不明な宴は朝方まで続いた。

 そうして、よくわからないけど芳一達は満足したらしく去っていた。

 ただ、一番よくわからなかったのは今回の依頼者であろう。
 朝起きたら自分の全身は落書きだらけで、美少女2人が抱き合いながらなぜか居間で寝ている。
 どこか胸の奥がきゅんとするのを感じた。
 これはもしや…いや、詮索はするまい。
 だけど…だけど一言だけ言わせて欲しい。

「超美人に釣り合うね(提灯に釣鐘)…なんつって」