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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


今日はお仕事も可愛い弟子の修行もさておき。

 知り合いの女性の元に行ってみようか。

 …と、シリューナ・リュクテイアは思い立つ。…『知り合い』。一言でそう言ってもシリューナには色々な『知り合い』が居る。そんな『知り合い』の中でも、今日赴こうかと思い付いた相手はシリューナが営んでいる魔法薬屋の仕事と――関係あると言えばある、無いと言えば無い微妙な立ち位置の相手。常に取り引きをしている訳では無いけれど、『彼女』の元には時々珍しい掘り出し物や面白そうなモノがあったりする為、時々は顔を出す事にしている感じ、になる。
 …要するに、シリューナと『趣味』も合う相手。
 同時に、常から魔力と親しくもしている人物でもある為、元々その気が無かったとしても、偶然仕事の方に通じてしまう場合も無くは無い。
 …必然的に、仲も良い方になる。
 だから。
 可愛い弟子も彼女の元に一緒に連れて行ってみようか、とも気まぐれで思い立つ。

 …たまたま、当の『可愛い弟子』が今、目の前で不思議そうに小首を傾げたりしている事だし。



「…えーと、お姉さま、お店閉めちゃいましたけど良いんですか?」
「ええ。今日はね。気分が乗らなかったから…知人のコレクションでも見せて貰いに行こうかと思ったのよ」
「へえ〜、コレクションですかぁ。それってお姉さまのお部屋にある美術品とか装飾品みたいな??」
「そうね。方向性は同じになるかしら。彼女も結構趣味が良いもの揃えてるし、掘り出し物やなかなか面白い物があったりもするのよ」
 きっと、ティレも興味を持ちそうね。
「わ〜、楽しみです――って。ちょっと待って下さい? コレクションって…ひょっとしてまた!?」
 お姉さまってば私で遊ぶ気なんじゃないですかッ!?
「あら、ティレは私に遊んで欲しいの?」
「〜〜! そーじゃなくてッ!」

 と、力一杯叫んでからぷくーと膨れて怒って見せる感情豊かなシリューナの『可愛い弟子』。
 それはシリューナと同郷、別世界から異空間転移してこの場に訪れている紫の翼を持つ竜族の少女――実際、魔法の弟子であると同時に可愛い妹として扱っているファルス・ティレイラの事になる。
 今そのティレイラが咄嗟に警戒したように、シリューナはティレイラを『その手の魔法』が籠められた道具で餌食にし、彫像に封印したり何だりしてから愛でると言う――される方にしたら結構厄介な『お楽しみ』を仕掛けて暇潰しをしている事が結構多い。
 が、今回は別に。
 シリューナとしてはそんな下心は無い。
 連れて行こうと思ったのは純粋に気まぐれ。
 …まぁ勿論、知人の元に行って、そんな『お楽しみ』に適した道具なり魔法なりがあればその気にならないとも限らないけれど。それはまた別の話。少なくとも現時点では嘘は無い。
 ただ、機会があればティレイラの可愛らしい姿を見たいと思うのは最早シリューナにとっては自然の理。作為の有無は関係無い訳で。
 となると、呪いや魔法が籠められた道具や装飾品などのコレクションを趣味とする、シリューナの知り合いの女性の元に行く――と言う時点で、ティレイラがシリューナに警戒心を抱いてしまうのは然程早とちりと言う訳でも無かったりする。むしろこちらもまたそういう思考の流れになるのは自然の理とも言えるか。
 …けれどそれでもティレイラは、最後には結構あっさり騙される。
 と言うか、結局は師匠にして姉の――いや彼女に限らずとも誰の事であっても――善意を信じ過ぎてしまう、とでも言ったところか。
 いや、もしくは――警戒心より何よりむくむくと湧き上がる己の好奇心に負けて、その『結果』については色々諦めてしまうと言っても良いかもしれない。

「ふふ。心配しなくても本当にただの気まぐれよ。他意は無いわ」
 今のところは。
「…本当ですかぁ?」
 お姉さま。
「あら、ティレは私の事を信じてくれないの?」
「っそんな訳無いです! 勿論お姉さまの事は信じてますけど! …ってえと、でも…あれ、この場合…?」

 …ティレイラがシリューナを信じているのは芯としての人柄とか魔法の腕とか師匠としてとか可愛がってくれる姉としてとか同族としてとかそういう真面目な意味での話で。
 反面、この場合――シリューナの『趣味』の餌食にされる場合、となると、むしろ常々騙されまくっているのでティレイラはシリューナを信用しない方がいい、と言う事にはならないか。
 ふと過ぎったそんな考えにティレイラは俄かに考え込む。総合的に言うとお姉さまは――シリューナはティレイラにとって絶対的に信頼を置ける相手。けれど、殊、『趣味』の鑑賞対象としてティレイラを使って遊ぼう、と企んでいる場合に限っては――このシリューナはむしろ一番信用してはならない相手、とも言える。
 何か失敗してのお仕置きとか、お仕事の延長で、とかで『色々されてしまう』のならまだ仕方無いけれど。
 …と言うか、自分に『そうする』のがお姉さまである以上は、元々尊敬している大好きな人だし、いずれ元に戻して貰える訳だから、ティレイラとしては絶対に嫌だと言う訳でもないのだけれど。
 それでも『そういう場合』のいつもの事として、自由に動けなくなる事だけは何と言うか、困るので――なるべく避けたい! と警戒はしてしまう。
 これはもう条件反射かもしれない。

 と、何だかんだでティレイラはいつも、こんな感じで一度は確り警戒をする事はするのだが。
 結局、その警戒が功を奏した事は…まず無かったりもする。



 とか何とかやっている間に二人はシリューナの知人の元に到着し。
 快く客人として迎えられたかと思うと、コレクションの収蔵庫に案内される。わああ、とティレイラの感嘆の声。収蔵庫の扉から入ってもう、すぐのところからどれもこれも綺麗に飾り付けてある。見慣れぬ意匠の首飾りや耳飾り、髪飾りなのだろう装飾品。玉や宝石。美麗で細密な象嵌、彫刻、細工物。様々な姿勢を取っている貴石で出来た彫像もある。それら単体としても美しいものに、場の主の趣味なのか別の装飾品が着けられていたりもする――のみならず絶妙な色彩の織りになっているストールや布地が掛けられている場合もある。それらはまるで、その彫像がそれらの装飾品を本当に装っているようにさえ見える程。
 外観として美しかったり物珍しいもの以外にも、魔力的に興味深いものも多々あった。手鏡、原石、壷やら…銀食器のような何かの貴金属で作られた食器。…何に使うのやらわからないようなものもある。何とも言えない不思議な色の小さな針のようなものとかボタンのようなものとか。他にも鍵の掛けられているガラス張りの棚に丁寧に仕舞われていたりとか、その扱いだけで興味深いものも中にはあった。
 ティレイラはそれら一つ一つに興味津々で、一つ一つ食い入るように夢中で見ている。わああとかへええとか、出てくるのは殆ど感嘆の声ばかり。うっかり手を伸ばしそうになっては、不用意に触っちゃ駄目かもと自制して手を引っ込め、恐る恐る問うようにお姉さま――シリューナの方をちらりと窺い見たり。見られたシリューナの方でもティレイラの視線にはすぐ気付いて、話していた場の主な知人と一言二言交わしながら、触っても構わないそうよ、とか、それは駄目だって、とティレイラに伝えている。言われるなり、びくんっと飛び退いたり、おずおずと改めて丁寧に触れてみたりとティレイラの行動もいつも通りにくるくると目まぐるしく元気一杯。よく動く。
 その様もまたシリューナにしてみれば可愛らしく、目の保養になる。

 知人の方でもそう思ったか、可愛いお弟子さんね、とクスクス。シリューナは文字通り可愛い弟子を褒められて御満悦。あげないわよ? と軽口がてら知人に返しつつ、本題に入る。
 …とは言っても事前に宣言していた通り、別にこれからティレイラをどうこうしよう、と言う事では無く、あくまで同好の士としての他愛無い情報交換に過ぎないのだが。
 それでも会話の最中、シリューナの視線は自然とティレイラに向かってしまう。好奇心一杯で知人のコレクションを眺める姿がいちいち感情豊かで、見ていて飽きない。…と言うよりむしろ、目を離すのが惜しい。
 知人はティレイラのみならずそれを眺めているシリューナの事までも面白そうに窺いつつ、で、と仕切り直すように口を開く。
「…掘り出し物、だったわよね?」
「ええ。最近、何か面白いものは無いかしら?」
 あなたって目の付けどころが違うから、そろそろ何か仕入れてるんじゃないか…ってね。
 だから今日、来てみた訳なのよ。
「そうねぇ…じゃあ」

 こんなものはどうかしら。

 と、渡されたのは、細密な細工が施されている何らかの貴金属製の腕輪。その輪の内側を通して可愛いお弟子さんを見てご覧なさいな、と場の主。シリューナは言われた通りに腕輪を翳して――輪の内側を通してティレイラを見てみる。と、ティレイラの姿に補正が掛かる。と言うか――頭の天辺から爪先まで、指の先、衣服や靴までもが大理石のように白く輝いて見えている。そしてそのまま、動いている――まるで大理石製の彫像がそのまま動き出しでもしたように。…ちなみに輪の内側から視線を外して直接見ると、勿論普段通りのティレイラの姿が見える。ずらっと並ぶコレクションをじーっと眺めている様は変わらない。
 シリューナは、あら、と軽く感嘆の声を上げる。
「これは…?」
 …知人曰く、『予測』、が見えるらしい。
 現時点の魔力状態で、その腕輪を填めた者が腕輪に籠められた魔力により変化する姿の。
 …現時点での予測、と言う通り、この腕輪による『変化の結果』も場合により一定でないとの事。籠められている魔力自体が気まぐれで、周囲の魔力や腕輪の装着者自身の魔力、装着せずとも一時的にでも触れた者の魔力や、腕輪の内側を通して見られた先の者の魔力が影響したり、単純に装着者の感情や体調でも様々変わった結果の彫像…のように装着者を変化させる、のだとか。
 要するにシリューナの見ている今だと、この腕輪を装着した場合にティレイラは大理石製の彫像、のような姿に変化をしそうだ、と言う事になるらしい。
「どう? 色々面白そうでしょう?」
「この『予測』と違った結果になる事はあるの?」
「ええ。腕輪を取り巻く魔力状態が変化する事で繊細に色々変わって来るわ。でも『予測』と違った結果になったとしてもそれもそれで悪くないカタチになると思うわよ?」
 この腕輪を作ったのが『そういう』趣味の職人だったらしくてね。…まぁ、『予測』が出来るなら『予測』の通りにならないとイヤ、って事ならこれはオススメ出来ないけど。
「そうね…良い意味で『予測』を裏切ってくれるのならそれも楽しめそうだとは思うけど?」
「それなら請け合うわ」
 いい意味でしか期待を裏切る事は無い、って事ならね。
 どう? 持って行く?
 知人の女性はシリューナにこっそり耳打ち。シリューナは口許に不敵な笑みを浮かべると、静かに首肯。その密やかなやり取りに、ティレイラは勿論気付いていない。…自身の師匠が新たな企みに心動かされていた事など気付きもせず、先程から飽きる事無くコレクションを眺め続けている。
 シリューナは知人の女性とさりげなく目配せを交わしてから、そんなティレイラに歩み寄る。そして――今度は一緒になってコレクションの鑑賞に興じ始めた。すぐ近くまでシリューナが来たのに気付くと、お姉さま〜! こっちこっち、これすっごく綺麗です! と無邪気に話し掛けてくるティレイラ。言われ示され、あら、本当に。と結構本気で受けるシリューナ。…ティレイラから示されたのは趣味良くディスプレイされた装飾品一式。こっそり譲り受けた『面白い』腕輪の件を取り繕うまでも無く、そちらにもまた自然と興味が向く。
 元々、これもまた目的の一つと言えば一つだし。
 …それに。もう暫くこうして一緒にコレクションを見せて貰っていれば、きっとその内、ティレの警戒心も完全に解けてしまうだろうから。

 そうなってからが、とっておきの素敵な『悪戯』の時間。

 ………………本当の『お楽しみ』は、また後で。

【了】