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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Fili.4 ■ 守るべき立場






「…(やっば、久々に心も体も超きゅん×2してる)」
 ホテルを後に社長の後ろを歩きながら、私は一人で感情の向くままに思考を巡らせていた。
「…(私を守る為に社長は頑張ってくれてたって事、だよね…?)」後姿を見てそんな事を考えると、心臓が妙に高鳴る。「…(社長見る度ぷち乙女モードってたけど、こんなの、駄々捏ねて初めて抱いて貰った時に匹敵、ううん、それ以上…)」
「―桜乃、聞いてるか?」
「…(やべ、帰ったら一人でハッスルしそう、ムフー……)」
「…桜乃?」社長が振り返る。
「…(でも…。それって私が守られる側って事、だよね…。守る為にこの人の傍に来たのに…)」
「……」
「…(ダメじゃん、立場逆じゃん……エヘ)」
「…フ…、忙しい奴だな…」浮き沈みする私の顔を見て小さく笑う。「桜乃、聞いていたよな?」
「…はぇ…? あぁっ、聞いてましたともー!」
「復唱しろ」呆れた様に社長が溜め息を吐く。
「ハイッ! ごめんなさい! 聞いてませんでした!」
「…キリキリ言えば良いってモンじゃないんだよ〜?」
「んぃー、ごべんばばいー」
 頬を抓りながら社長がニッコリ笑って私を怒る。何しろこれは痛い。私は必死に謝る。
「お前の祖父と俺の祖父が知り合い、仲良くなった経緯を調べる上で、色々な接点を調べた」漸く私の頬を手放し、社長が口を開く。
「はい。いつの間にか、二人は親友の様に親しくなった…。ウチは社長の家みたいな立派な家庭じゃないんですけどねぇ」私は頬を摩りながら呟いた。
「何だ、聞いていたんじゃないか」
「ンフフ、偉いです?」
「いや、聞いていて当然だ」社長がしれっと答える。「何か思い当たる節はないか?」
「んー…」記憶を手繰り寄せる。「そうですね、飄々とした人って感じでしたけど…」
「あぁ、俺の記憶でもそうなんだ」社長が溜め息を吐く。「お前の能力なら、何かを記憶しているかと期待もしたんだが、どうやら今回ばかりは難しそうだな…」
「ちょっと思い出してみますから待って下さいね!」
 私と社長は駅前のタクシー乗り場でタクシーに乗り込んだ。社長は周囲をなかなか信用しない。だからこそ、お抱えの運転手や車を用意せず、普段からタクシーを利用する。
 私は走り出してすぐに目を閉じた。過去を手繰り寄せるのは私にとっては簡単な事。その引き出しを開けるだけの作業。だと言うにも関わらず、私の祖父に対する記憶だけは何かが邪魔をする様にすら感じる。
「…ダメ…、何で…」思わず呟く。
「…お前の能力でも憶えがないという事は、お前も知らないという事か」社長が溜め息を吐く。
「…折り紙をよく一緒に折ってた記憶ぐらいしかないんです…」
「折り紙、か…」社長が少し考え込む。
「思い当たる節でもあるんです?」
「いや、定かではないんだがな。いずれにせよ、このまま会社に向かって調べてみるしかない」
「はい」






――。






 時刻は既に深夜。守衛に挨拶をされ、私は社長と一緒に社長室へと向かった。
「…(はぁ、仕事じゃなければドキドキ状態なのに…)」
 そんな事を思いながら深夜の社長室へと入る。本来、私の様な一介の社員や特殊諜報部の新人諜報員がこんな所へ足を踏み入れる事は許されない。
「こっちだ」社長が大きな本棚の本を取り出し、中を開く。刳り貫かれた分厚い本の中にボタンがついている。「レトロな仕掛けだが、祖父の時代らしいだろ?」
「いやいやいや、そんなのレトロとか以前に実際にやってる人いませんけどっ」
「ま、それが祖父の趣向だったのかもしれないな」社長がクスっと小さく笑ってボタンを押す。
「…? あれ、派手に本棚が動いて扉が現れるとかじゃないんですか?」私は思わず尋ねた。見た所、何も変化はない様に感じる。
「お前でも気付かないとはな」社長が机の近くにある大きな鏡の前に立つ。「ついてこい」
「え、えー!?」
 社長が鏡の中へと入っていく。私は恐る恐る鏡へと近付いて手を伸ばした。鏡の中に手が入り込む様にすら見え、手には冷たい感触を感じる。私は意を決して鏡へと身体を進めた。
「…これって、隠し通路…」
「あぁ。祖父は仕掛けが好きだったみたいでな。あの鏡は特殊な霧を停滞させて映し出している映像だ。さっきのスイッチで、霧を停滞させる為の板をスライドさせて通路が出て来る、といった所だな」社長が奥へと歩きながら呟く。「この仕掛けを見た時は、思わず楽しくなってしまったよ」
「…社長も、そういう所あるんですね…」思わず呟いてしまった。
「そういう点では、血を引いているのかもしれないな」
 社長が歩き出す後ろで、私は周囲を見回していた。コンクリートの打ちっ放しにした様な通路。その奥に、更に扉が見える。
「でも、こんな所に私なんかが入っちゃって良かったんですか?」
「…お前に来てもらわなければならなかった」
「え?」
「…まぁ付いて来い」社長が奥の扉の前で立ち止まる。指紋認証機で指を載せ、扉についている網膜センサーに目を向ける。
 そこまでやるのか、と思わず普段の私ならツッコミを入れてしまいそうな所だったが、私はそんな事を考える事も出来なかった。社長が何故、私を連れて来る必要があると言うのか、“東京計画”とは何か。私の心はただその疑問で埋め尽くされてしまっている。
「…すご…い…」扉が開いて第一声、私は自分の目の前に広がった巨大なモニターと大掛かりな機械を見つめて声を漏らした。「これって…パソコン…?」
「そうだ」社長がツカツカと足を踏み鳴らしながら巨大な“パソコン”に歩み寄る。「この部屋に俺が入った瞬間から、コイツは起動する」
「そんな技術が、社長のお祖父さんの時代に…?」
「あぁ。巨万の富みを持っていた人だからな」呆れた様に笑う。「まるで一昔前のSF映画にでも出て来る仕掛けだが、それを実際に作り上げてしまっていたとはね」
 社長がそう言ってパソコンを操作する。
「…っ! “東京計画”…!」社長が操作していた液晶を見つめた私はそう書かれていた丸いフォルダを見つけた。
「…これだ」
 社長がパソコンを操作し、フォルダを開くと、音声が流れ始める。

『“東京計画”


 ―現在進行段階にある“東京計画”とは、様々な異能の能力者を利用した大規模な補完を行う計画である。“International OccultCriminal Investigator Organization”、通称“IO2”との協力を経て、現段階では能力者の保護管理の一部を任されてはいるが、その成功までの段階は未だ遠いと思われる』


「…補完に、“IO2”との協力…?」
「あぁ。この計画は祖父が会社を使って極秘裏に進めていた計画だ」社長が溜息混じりに呟いた。



『現在、世界には異能の力を持つ“能力者”を保護、擁護している“IO2”が暗躍を行い、能力者達はその存在を公表せずに生きている。しかし近年、“虚無の境界”と呼ばれる危険なテロ集団が動きを活発化している。そこで、私はR氏と共に、この計画を進める事にした』


「R氏って、まさか…」
「“龍宮寺”、だろう。恐らくはお前の祖父だ」
「お祖父ちゃん…が…?」



『能力者を利用してこの世界を補完する。即ちそれは、目覚めた能力者とそうではない一般人の格差を埋め、互いに圧倒的な格差を生まない事にある。そのモデルとして我々が提示した都市こそが、“東京”だ。

 数百年もの間、人類はその進歩の歩みを終え、同じ姿のままに生きてきた。科学こそ進化すれど、世界は未だ未完成と言える。“IO2”も我々の考えには難色を示している様だが、我々に残された時間は少ない。このまま秘密裏に“東京計画”を行う』




「―そうされては困るんだが、な」
 突然背後から聞き覚えのある声が私の耳に入った。私は振り返り、声の主を睨んだ。
「どうして、探偵さんが…!?」
 私の目の前に現われた声の主。それは、草間興信所の探偵、草間 武彦その人だった。
「心配するな、桜乃」社長が振り返り、武彦へと歩み寄る。「貴方と桜乃が知り合いだとは思いませんでしたよ」
「…俺もこんな所で会うとは思っていなかったが、な」煙草に火を点ける。「どういう事です? わざわざ俺を呼び出して、こんなモノを見せるなんて」
「そうですよ!」私が社長に問い掛ける。「探偵さんを巻き込まなくても…―」
「―彼はただの探偵ではないからな」社長が私に向かって振り返った。「彼はIO2に所属している、“ディテクター”。今後、彼は我々と行動を共にする」
「そういう事だ」
「え…ええぇぇ!!?」







 ―“東京計画”とディテクター、草間 武彦。



 ―なんだか途方も無い大きな事件に、私は首を突っ込んでしまったらしい…。



to be cotinued..




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依頼参加有難う御座います、白神 怜司です。

まさかの心の声と能力説明で丸投げで、
どう進めようか少々迷いましたが…(笑)

気に入って頂ければ幸いです。

祖父方の能力は、折角なので
書いて頂いた能力で確定するつもりです。

これから先がどうなっていくのか、
楽しみにしております(笑)

それでは、今後とも宜しくお願い致します。


白神 怜司