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<東京怪談・PCゲームノベル>


+ ある集落の訪問者【綻び結び2】 +



―― 殺されたくないなら、殺して、こい。


 遠くから頭に直接語りかけてくる誘いの言葉。
 現在スガタ、カガミ、莚と共に武器を持った集落の人間達に囲まれた俺達四人は各々構えを取る。
 人々の殺意は俺に一点集中で向けられ、そして誰かの唸り声を合図に彼らは各々の武器を俺達に……否、俺へと襲い掛かってきた。


「殺せるわけねぇじゃん!」


 だが、俺は『ソレ』を拒む。
 集落の人間を殺して、目的である敵の男に近付くのは得策ではない。俺は自分の能力であるサイコキネシスを利用し、人々が襲い掛かってくる前に素早く見えない壁のようなものを張る。しかし咄嗟の事に手加減が出来なかったため、瞬間的に傍にいた人間達は数名弾き飛ばされ地面に転がってしまった。
 壁といっても持続性のあるものではないため何度も何度も作り直す。そして今回の一件に関しては俺が招いた事。集落の人間である莚(むしろ)という人間は元々「何かあれば自分で対処しろ」と釘を刺したくらいだ。
 スガタとカガミも俺よりも莚の方へと付いたという事は、ある程度は俺自身で対応しなければいけないという事だ。彼らにとっての優先順位は<迷い子(まよいご)>である俺ではなく、今回は莚。庇護対象が違うという事は莚という人間には俺のような攻撃的な能力はないのかもしれない。だがそれを聞いている暇などありなどしないのだ。


「くっそ、数が多すぎる! ……気絶させるしかねぇかっ」


 本来ならばテレパシーで対象を決定した上でサイコジャミング(精神汚染)を行うがそんな余裕はない。吹き飛ばされた人間も時間が経てば直に立ち上がり、再び殺意を持って俺に襲い掛かってくる。その度にサイコキネシスを発動させていれば自分の方がいずれ力尽きてしまうのは目に見えているのだ。


「カガミ! スガタ! 筵の精神のガードを頼む!」
「「 了解 」」


 冷静な応答がとても頼り甲斐がある。
 彼らなら大丈夫という信頼――それだけの関係性くらいは自分達の仲で構築されているのだから。


 スガタとカガミは莚の身体に触れ、それからすぅっと目を細める。
 莚は莚で俺が何を行うかなど分かっていないだろう。だがスガタとカガミが心に呼びかければ彼は素直に心を開き、受け入れることは容易に想像出来た。傍目的にはなんの対策も取らず、ぼうっと突っ立っているようにも見える三人。だがその精神は頑丈に壁を作り上げ、強固されていく。


 そして、俺は放つ。
 ギッと唇を噛み締めながら自分の腕を掴み、それから決して見えない力で周囲の人間に無差別にサイコジャベリング(精神汚染)を行った。それは無理やり精神を開かせる方法。心を強制的に揺さぶり、気絶へと追い込む手段。何の能力も持たない人間達にはそれを防ぐ術など当然あるはずもなく、襲いかかろうとしたその身体をまるで時を止めた人形のようにぴたりと止めた後、やがて支えを失ったかのように次々に地面に倒れていく。武器を手にしていた人達が少なくとも目に見える範囲では居なくなり、一息つく。
 隣を見やればスガタとカガミ、そして二人によって精神を護られていた莚もまた俺の無差別攻撃を受けたであろうが、「対抗する力」を壁で彼らは己の精神を守り抜くことに成功していた。


「……ごめん」


 一般人に攻撃用能力を使用した事に酷く罪悪感を覚えてしまう。
 元々『男』に操られており、最初から精神を侵されていたとはいえ『ソレ』に対してまたも人々の精神に負担をかける行為は本来喜ばれる能力ではない。なんせ自分の中を勝手に弄られ、知らぬ間に人殺しの命令を与えられていた人達だ。それを防ぐためとはいえ今度はその対象から殺すな、と精神圧迫を受け気絶させられてしまったのだから彼らは少なくともこの短い時間の中で二度自分の中を弄られたこととなる。
 それはどれほどの苦痛だろうか。それとももうその苦痛すら分からないほど彼らの本心は沈まされていたのか……今は分からない。


「また誰か襲ってきて同じ事になっても困るからどこかに身を隠したい。どこかそういう場所ないか?」
「山の方に行けば集落の人間はそう簡単には追っては来れないと思うが、それでいいか」
「ここら辺のことは地元の人間のあんたの方が詳しい。任せる」
「んじゃ、道無き山へと案内すっか。……しかしうっせー音だったなぁ」


 莚は俺の願いに対して了承の意思を見せてくれほっとする。
 しかし彼は今自分のこめかみに手を当て、不愉快そうに顔を顰めていた。俺はスガタとカガミへと視線を向ける。彼の精神をガードしてくれと言ったのは俺だ。姿形は少年とはいえ二人の力を信じてはいないわけではないが、何かしら俺の力が及んでしまったのではないかと冷や汗が出てしまう。


「莚は『特殊な人間』ですからね。僕らがいくらガードしても彼なりの能力を持てばある程度は感応してしまうんですよ」
「集落の中でもアイツは特別な立場の人間だからな。俺らがガードしてもアイツが見ようと思えば『視』てしまうし、『聴』いてしまうんだよ」
「だけど能力を見聞きしても僕らを拒まぬ限りは彼は安全圏」
「拒む気配はなかったから莚が今、不愉快になっていてもそれはアイツの責任」

「「 集落においての彼は【逸れ者】を導く案内人なのだから 」」


 案内人。
 それはスガタとカガミのような道先を指し示す者の尊称。場所が違うのだからスガタとカガミとは違う方法で莚は案内をするのだろうが、なんとなく心強く思えた。目的が決まれば莚の行動は早い。倒れた人間の一人へと近付き、今は臥せっているある一人の男の額に手を当てる。そしてそっと指先で撫でた後、男の状態を確認し彼は立ち上がる。


「後遺症とかはなさそうだ。――行くぞ」


 調べていたのは二度も精神感染を受けた人間達の無事。
 莚は身を翻すと集落の外、つまり山へと足を向ける。集落の周辺には高密度の霧が漂い、中を守護するようにしていたが、それを潜り抜けて外へと出れば最初に俺が飛ばされてきたような大自然の山の中へと突入する。『道無き』と彼が比喩したように、莚は人々が踏み固めた道を進んだかと思えば途中明らかに獣道としか思えない場所を突き進む。それに逆らう権限は俺にはなく、時折腕や足に引っかかる木の枝や長く伸びた草に邪魔されながらも先へ進んだ。スガタとカガミは自分の身長の事もあるのか、獣道に入る瞬間に木の枝に飛び上がり、まるで忍者かなにかのように枝渡りをしつつ俺達と行動を共にする。


 やがて身を隠せるような洞穴へと辿り着き、俺は思わず「おー」とちょっと疲労した声で感激の声をあげる。
 まあ歩いて疲れたのは仕方がない事だ。洞穴は中に入れば少し右へと曲がっており、入り口から差し込む光は奥の方まで照らし出さない。だがそれは好都合。こちらからは身を潜めれば洞穴に誰か来た場合すぐに分かるが、向こうからは洞穴に入らない限りはこちらの状況は分からないという事だ。
 莚は先に中へと入り、隆起した岩の一つに腰掛ける。俺もまた歩いた疲れを取るため岩壁に背をあて、そのまま地面にずるずると座り込んだ。


「……ち、っくしょ……殺したきゃ俺んとこ直に来ればいいだろ」


 集落の人間達からの攻撃はなんとか防いだ。
 だがこれで終わるなら苦労はしない。犯人である男は未だにあの集落の中に身を潜め、もしかしたら『三度目』の精神汚染を始めているかもしれない。人の精神へと入り込むのは容易ではない。だから力で強引に開かせる。本人の意思など関係なく、――ただ、能力者が望むままの傀儡とするために。
 だがそれは非常に危険性の高い行為だ。下手に弄りすぎると廃人へと化すだろう。


「なんで、なんで他の奴らを巻き込むんだよ! 俺んとこきて、真正面からぶつかってくんだったら俺は幾らでも受けて立つのにッ!!」


 精神汚染ではないが、俺もまた精神的に追い込まれ始めていた。
 自暴自棄に入りそうなほど気が滅入り、己の頭を抱えて身を縮める。だが、俺の言葉を遮ったのは観察者のような瞳で見ていた莚ではなかった。


「男の能力値的に勇太に敵う訳がないんだよ。さっきも告げた通りアイツが持っている能力は『コネクト』、空間と空間を繋ぐ能力」
「カガミ……」
「それに精神感応能力を重ね合わせたとしても、元々勇太ほどの容量がないアイツは真正面から戦う事は自滅を意味する。だからお前をこの場所に飛ばし、この集落の特異性を利用してアイツはお前を追い詰める事に決めたんだろうな」
「どういう事だ?」
「まずお前は他者からの奇異的な視線に極端に怯える。そして自分が『能力者』である事によって起きる弊害を好まず、もし無関係の人間だったとしても巻き込んでしまった場合自分のせいだと思い込むところがあるだろ」
「う……だって」
「そこを狙われてんだよ。精神的ダメージも敵の作戦の内だ。……ならもう仕掛けられちまったもんは仕方ない。むしろ切り抜けて見せるくらいの男気を見せてみろってんだ、な?」


 洞穴の入り口から入ってきた少年カガミ。
 彼はずばずばと俺の痛い部分を言いきる。しかし彼の性格を知っている俺はむしろそれは救い。座っている俺の前に彼は立つと、俺より小さな手をぽんっと俺の頭に乗せそのままぐしゃぐしゃとかき回した。莚は腕を組んだまま俺達のその様子を若干呆れたように見ていた気がする。だが最後の人物――スガタが洞穴に入ってくると莚は顔をあげ、彼へと視線を向けた。


「ここに来る間ずっと上から見張っていたところ、追いかけてきてる人は居ませんでした」
「そうか」
「僕達二人の『網』を抜ける人間がいるならそれは特殊な分類でしょう。ですからあくまでただの人間は、と付け加えさせてくださいね」
「それで充分だ。集落の人間の中には厄介な奴らも多いからな。今回はそいつらが紛れ込んでなかっただけマシだ」
「本当に……。でも莚さんのように特別な役割を与えられた人間にはそう簡単にはあの男の洗脳は効きませんよ。カガミも言った様に能力が弱すぎますからね」


 分析、という言葉が似合いそうな会話。
 そうか、スガタとカガミが枝渡りをしていたのは背後からの追跡者が居ないか見ていてくれた為か。俺はなんとなく自分の頭を撫でるカガミの方へと手を伸ばし、その腰へと腕を回す。細い腰だけど頼り甲斐のある彼らには本当に感謝しか出来ない。座っている俺はカガミの丁度腹部あたりにこつんっと額を当てる。それから覚悟を決めると三人へと顔を持ち上げた。


「俺はあの男の情報が欲しい。ミラーとフィギュアの所に案内して欲しいんだ」
「夢の情報屋んとこか。……確かに、今回の件に関しては集落の人間よりそっち側の奴らの方が情報には強そうだ」
「ミラーとフィギュア、あの二人ならカガミ達よりもっと詳しい情報を持っていると俺は思ってる。違うか?」


 言われるとスガタとカガミは首を左右に振る。


「悔しい事ですが、僕らより彼らの方が能力値が上です。僕らより先に案内人を勤め、そして更に彼ら固有の能力でより真実に近い情報を引き寄せる事が可能なのですから」


 スガタの説明は俺の意思をより強固なものとする。
 俺は一度カガミから腕を解くとその場に立ち上がり、付いてしまった土埃を払い落とす。


「よっし、じゃあ案内頼むぜ!」


 カガミの肩に腕を置き、そのまま元気良く親指を立てて笑いかける。
 今は凹んでなどいられない。憂鬱な気分になればなるほど相手の思う壺。ならば味方が居るというこの状況は俺にとって『最善』だ。
 俺は笑ってみせる。
 大丈夫、まだ打つ手はある。
 ミラーとは以前色々有り、辛辣な言葉を投げかけられた記憶があるがそれも甘んじて受け入れよう。それほどに自分は今まで皆の助けを受けてここまで来れた事を身に染みて感じているから。


―― 大丈夫。世界はまだ閉じていない。


 スガタとカガミが壁に手を当て、そこからゆらりと開かれていく『夢』。
 そこは彼らの、そしてミラーとフィギュアの管轄フィールド。あの男が此処まで追いかけてくる勇気があるというのなら、それに立ち向かおう。俺達は既に目の前に見えているアンティーク調の一軒屋へと真っ直ぐ足を進める。そして「鏡・注意」と玄関に貼り付けられたお馴染みの張り紙を見た後、扉を叩いた。


「いらっしゃい、<迷い子(まよいご)>。そして僕らとは違う案内人よ。さあ、中へどうぞ」


 出てきた十五歳くらいのゴシックシャツを身に纏う黒髪ショートの少年――その前髪の奥に潜む瞳の色は黒と緑のヘテロクロミアだった。




―― to be continued...










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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / ミラー / 男 / ?? / 案内人兼情報屋】
【NPC / フィギュア / 女 / ?? / 案内人兼情報屋】
【共有化NPC / 莚(むしろ) / 男 / 18歳 / 逸れ者を導く事実上の案内人】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、続きですv
 ミラーとフィギュアの元へということで、今回は此処でストップ。
 しかし次は恐らくフィギュアから例の恒例の言葉が投げかけられる可能性が……。

 情報を探す選択に二人を選んでもらえた事が正直嬉しかったです。
 以前の事件が事件でぎすぎすしていたので、何か緩和すればいいなぁと(笑)

 ではでは次をお待ちしております!