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<Dream Wedding・祝福のドリームノベル>


愛の花咲く時

 人は何故人を愛するのだろう?
 人は何故人の幸せを願うのだろう?
 それは恋愛感情だけではない、もっと大きな愛なのかもしれない。

 外は曇天。梅雨の時期だから何時雨が降ってきてもおかしくはない。
 バーのカウンターで洗ったグラスを綺麗に磨きながら藤堂皐(とうどう・さつき)は雨が降らないことを祈った。
 雨が降れば客足は遠のきやすい。
「雨が降ったって来たいヤツは来るさ」
 バーの経営者である養父は、のん気にそういい捨てる。
 そんな養父に溜息をついて、皐は笑う。
 この人のいいところだ。乱暴な言い方だけれど尊敬できるいい養父だ。
 だから、皐はこうしてたまにだけれど養父の手伝いをしていた。

 突然、携帯の電話が鳴りはじめた。
「ちょっとすいません」
 一言養父に断って、電話に出ると聞きなれた声が聞こえた。
『私。今時間ある? 今から会えないかしら?』
 久しぶりに聞く姉、弥生・ハスロ(やよい・はすろ)の声だ。
「今、父さんの手伝いをしてて…」
 すると、養父が声をかけた。
「弥生か。会ってきてやれ」
 勘も鋭ければ、気も利く養父だ。
「…時間くれるって」
 そう言うと弥生は養父に礼を言って、近所の駅で待ち合わせすることを決めた。
「1人で大丈夫ですか?」
「当たり前だ。俺の店だ」
「…そうですか」
 養父に気遣いは無用、ということらしい。
 皐は一礼すると、急いで駅へと向かった。
 駅についてすぐ、弥生らしき人物を見つけた。
「姉さん」
「待たせたかしら?」
 皐が声をかけると弥生はすぐに駆け寄ってきた。
「いや、時間ぴったり。さすが姉さんだ」
 そう言って2人が並んで話していると、行き交う人々が振り返る。
 色白な美人と中世的な青年の組み合わせはどうも目を引くようだ。
「場所を変えましょ。この間素敵な喫茶店を見つけたの。付き合ってよ」
「どこにでもお供するよ」
 弥生の意見に反対する理由はなく、皐は素直に従った。

 駅から2人は歩き出すと、近況を語り合った。
 …と言っても一方的に弥生が近況を語っていたのだが。
 その中でも皐が驚いたのが「料理のレパートリーが増えた」であった。
「それ、本当に食べれるの?」
「当たり前でしょ」
 弥生はちょっと偉そうに胸を張った後、ふふっと1人で笑った。
 その笑いの意味が皐にはよくわからなかった。

 リーンゴーンと大きな鐘の音が鳴り響いた。
「!? びっくりした…こんなところに教会?」
「結婚式でもやってるのかな?」
 皐たちが見つめる先には、白い小さな教会が見えた。
 すると、その扉が開いて中からドレスアップした人々が大勢出てきた。
「おめでとー!」
「お幸せに!」
 手に持った籠から掴み取ったものを空中に撒きながら、人々はさらに中から出てきた主役を祝福する。
 真っ白なウェディングドレスに真っ白なブーケを持ち、幸せそうな笑顔で花嫁は花婿に寄り添って歩く。
「ホントに結婚式だったみたいね」
 弥生の言葉は、皐の心に届かなかった。
 皐は今も胸に引っかかったままの恋を思い出した。
 その恋は壊れて消えた。そう。失恋という名の大きな傷となって今も皐月の胸にある。
 寄り添う花嫁と花婿の姿が、その傷をひどく疼かせた。
「ねぇ、あの花嫁さん幸せそう…ね…?」
 弥生が隣の皐にそう言いかけて「どうしたの?」と思わず声をかけた。
「え? あ…いや、なんでもないよ」
 そう言った皐月だったが、自分が今どんな顔をしているのか想像も出来なかった。
「なんでもない顔じゃないわ。…もしかして失恋したの?」
 ぐっと皐月が息を呑んだ。弥生に隠し事は出来ないのかもしれないと皐は思った。
 だが、それ以上は自分から言う気はなかった。

「皐はさ、警戒しすぎてるのよ。相手を信用して、信用されて…そこから愛情って生まれるの。もう少し肩の力抜いてみなさい」
 思わぬ弥生の言葉。励ましのつもりだったのだろう。
 けれど、今の皐にその言葉は深い刃となって刺さった。
「姉さんはさ『好きです』って言われたら『はい、そうですか。じゃあ私も好きになりましょう』って言えるの? 俺は…無理だよ」
 冷静に、なるべく冷静に皐は言ったつもりだった。
「そ、それは確かに無理だけど…でもね、『好きです』って言われたら『友達になりましょう』くらいはいえると思うわ」
「それは体のいい断り文句だよ」
「うっ…じゃあ、じゃあどうしたらいいって言うのよ!?」
「何で姉さんが逆切れするの?」
 突然始まった姉弟喧嘩に、通行人はそそくさと避けて道を通る。
 …むしろこれは姉弟喧嘩ではなく、痴話喧嘩に見えるのかもしれない。
 お互い黙り込んでしまって、気まずくなって…わかってる。
 悪いのは俺だ。姉さんは悪くない。
 …と、弥生はふっと息を吸い込んで言った。
「…皐。私は皐にそんな顔して欲しくないのよ。離れて暮らしてても皐は私の家族。だから、そんな顔しないで…」
 皐月は驚いた。言葉にされるのとされないのではこんなにも伝わり方が違う。
 だったら、俺もちゃんと伝えなきゃ伝わらないだろう。皐ははにかんで言葉にした。
「俺も、姉さんに笑ってて欲しいよ」
 皐は手を差し出した。弥生のまっすぐな瞳に、皐は言葉を続けた。

「だから…仲直りしよう」

 弥生がその手を掴む。それが何より嬉しかった。
「はい、これで仲直り」
 にっこりと笑った皐に弥生もつられてにっこりと笑った。

 これが人を愛するということ。
 これが人の幸せを願うということ。
 家族の絆という名の確かな愛情。

「ねぇ、皐。私に相談乗れることがあったら言ってよ? 全力で力になるからね」
「わかってるよ。…なるべく相談するよ」
「なるべくって何よ」
「姉さんに相談すると、義兄さんにまで知られそうだ」
「言わないわよ? 秘密はちゃんと守るから」
「でも、夫婦の間で秘密はよくないんじゃないかな?」
「………」
 他愛もない兄弟の会話が交わされる。
 教会では今まさに家族になった2人が幸せそうにオープンカーに乗り込む。
「幸せになってね!」
「お幸せに!」
 手を振る花婿と花嫁に、弥生は小さな拍手を贈った。
 皐は弥生が花嫁になった日のことを思い出した。
 あの花嫁のように綺麗で、キラキラとした光を纏って、そして幸せそうに笑っていた。
 そんな弥生の幸せがいつまでも続くことを、あの日から皐は願っていた。 

「ねぇ、喫茶店はやめてお義父さんのバーに行こうか」
 弥生がそう提案すると、皐は「え?」と驚いた顔をした。
「久しぶりに会いたいもの。ね? 一緒に行こう」
「俺、そこから来たんだけど…」
「いいからいいから。たまには親子水入らずで話したいわ」
 ふふっと微笑んで弥生は歩き出した。
 その後を皐も歩き出す。
 姉さんの横には今、新しい家族がいる。
 そしていつか、また家族が増えるときが来るのかもしれない。
 俺の隣に誰かがいる日も来るのかもしれない。
 それでも、俺はいつまでも姉さんが幸せであることを願おうと思う。

 曇り空はいつのまにか晴れ間を見せて、地上に幸せを降らせるようにキラキラと煌いた…。


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☆登場人物一覧
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 8556 / 弥生・ハスロ (やよい・はすろ) / 女性 / 26歳 / 請負業

 8577 / 藤堂・皐 (とうどう・さつき) / 男性 / 24歳 / 観測者

☆ライター通信
 藤堂皐 様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度はDream Wedding・祝福のドリームノベルへのご依頼ありがとうございました。
 丁寧な中に感情を抑えつつ、しかし姉にはちょっと感情的な…といった感じで書かせていただきました。
 養父さんの設定とか色々使わせていただいてしまいましたが、大丈夫でしたでしょうか?
 少しでもお気に召していただけると幸いです。
 ご依頼ありがとうございました。