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<東京怪談・PCゲームノベル>


蒼天恋歌 番外編 幕間の起承

 沢山の思い出の中で一際印象に残るモノは、人それぞれ。
 人は思い出を糧に生きているようなものだ。未来に繋がるために。
 様々な人との出会い別れ。
 歓談、恋愛、喧嘩、憩い。

 平凡な一時。
 
 そんな思い出をこの書は書き連ねていくだろう。


〈レノアの恩返し〉
 うちは、セレシュ・ウィーラー。東京で鍼灸院を営む21歳。実の所は、長いこと生きた魔獣ゴルゴーンであり、魔術などに長けている存在だ。そのため、アンティークショップ・レンのところで出てくる、奇妙な品々の鑑定や調査も行っている。魔獣が人の世の中で過ごすことは難しく、人の姿で過ごさなければならず、おおっぴらに力を振るうことは出来ない。
 また、オカルト雑誌やそういうゴシップは全部嘘だとは決めつけていない。アトラスの雑誌は事実あったことを、脚色を込めて書いているに過ぎないのだ。
 春先に、うちはある人物を助けた。名前はレノア。そして記憶喪失というおまけ付き。一時はやっかいな者をかくまったと思った。謎の闇の存在に追いかけ回されるし、レンの所で占術の道具腕調べた物の、襲われた理由がはっきりしなかった。しかし、心の中で何かうちを引き留めていた。何故かレノアにいて欲しいと思うようになっていた。こうして、うちはレノアを預かることにしたのだ。その気持ちはうちには理解できていなかった。
 レノアが窓で鼻歌を歌う。それは本当に上手く天使が歌っているようだった。あのとき光を放ったレノアもまた天使だった気がする。
「うまいな。」
「え、はう。聞いていたのですか? 恥ずかしい……。」
「気にせんでもええ。良い歌やった。」
 頬を染めてレノアが照れていた。
 闇の男の襲撃は数ヶ月無く、梅雨に入っていた。晴れ間はあまりなく気分を憂鬱とさせる。しかし、レノアが居るとそれが和らぐのだ。うちにとっては、レノアに何かしら感情を抱いているのだろう。それがなんなのか言葉に出来ない。えっと、そうやな、喉まで出かかっているけど出ないような、または、喉に魚の小骨が刺さったようなそんな感じだ。

「あの!」
 レノアはうちに向かって、真剣な眼差しで見つめてきた。
「な、なんや?」
「恩返しさせてください!」
「え?」
 いきなりのことなので、うちはぽかんとなってしまう。
「私、ずっとセレシュさんのお世話になりっぱなしで、何もしてません! だから、お掃除やお料理などで恩返ししたいのです!」
 たしかに、全部彼女の世話をしてたなあ。ただ、長年生きてた勘で『この女に、家事をやらせるな』と言うことで、ほとんど何もさせてへんかった。手伝う程度はさせていたけど、数ヶ月何もしないというのは、精神状よくない。しかし、勘が『危険だ』と言う。うちはどうすればいいのだろう?
「お願いです!」
 と、控えめなレノアだったが、かなり押しが強かった。
「わかった。掃除な? この部屋をな。いい?」
 と、折れる。
「ありがとうございます!」

 許したうちがばかだった。
 何故か、何故かは分からない。どうしてそうなるのか分からない。レノアが掃除を始めると、いろんな物が散らかっていくのだ。完全に手順が逆か、掃除の仕方自体を知らないという事かもしれない。
「うわああああ!」
 うちは、急いでレノアが通った道を必死に片付ける。ここには一般用品しかないから危険な物は割れ物ぐらい。
「うわ!」
「ひぃ!」
「ぐはぁ」
 これ全部うちの台詞。壁から落ちる絵を受け止めたり、落ちる花瓶をスライディングでキャッチしたり、続け様に熊の置物が背中にクリーンヒットしたり……。術を使う暇がないわ。
 レノアというと、上手い鼻歌を歌って、はたきと掃除機を掛けている。どうして、その装備でここまで散らかると、といたい。問い詰めたい。1時間以上問い詰めたい。
「ちょとまった! まった!」
 もうあかん。これはあかん。
「え?」
 レノアは首をかしげてはこの破壊活動を止めてくれた。
「これは掃除と違う……。違うんや。」
「うう。」
 涙目になるレノアだが、ここは鬼にならないと……あかん、涙で負けそうや。
「……いいか掃除っていうのはな?」
 と、普通の掃除の仕方を教えることに半日を費やすことになった。鍼灸院の部屋や、魔術研究室を掃除させずに済んだのが幸いだ。させへんけど。
 片付いた後、うちは一つ咳をして、
「と、普通の掃除についてはこういう感じや。」
「は、はい。」
 あ、めっちゃしょんぼりしてる。怒りすぎたか。
「うちは一寸不思議な存在やねん。人間の作った文明の利器ちゅーもんを利用させて貰ってはいるけど、こういう時は……。」
 と、小魔術で、拭き掃除を簡単に済ませた。
「わああ! すごい。魔法使いですか?」
「うーん。似ているけどちがうなあ」
 眼をきらきら輝かせているレノアが可愛いと思った。


〈夜の危険〉
 うちは、魔術研究室であの、闇の男の対抗策を練っていた。既に夜も更けており、歴史や伝承にああいう存在がなかったか、調べては対抗策を講じていたのだ。
 しかし、結果から、
「あかん、何もみつからん。光に対しては弱いというのは分かったけど、うちがもってる剣では閃光弾のような事しかできへんし……。」
 八方ふさがりで、手の打ちようがなかった。
「うーん、ほかにないか? 蓮のとこ以外のところ通った方がいいんかな?」
 と、あの闇と戦って書けてる算段が見つからず、また、このままレノアをどうするかで悩み始めていた。
 部屋の外で、うちを呼ぶ声がする。レノアだった。
「セレシュさーん。セレシュさーん。」
 そして、部屋へ近づく。
「こっちきたらあかん!」
 うちは必死に叫んだ。こっちには色々危険な物が有る。呪われたアイテムや、使うと災いを呼ぶ魔法の杖やが封印されている。
「え? 聞こえ……こっちですか?」
 こんな時に防音魔術があだとなった?
 あかん、あかん、あかん。そして、うちにある防衛本能にスイッチが入った。
 扉が開く。
「あ、お風呂沸きましたよ。」
 ――侵入者発見。……ちがうっ! ちがうレノアや。
「にげるんや!」
「へ? どうして?」
 数ヶ月襲撃がなかったがいつも警戒していた。
 いつ何時、あの闇の男がくるのか見当が付かなかったから。
 ここの部屋は、うちが守る城。故に、許可を得てないレノアが入ったことで、敵と認識してしまう。これは、うちのこまった性分だ。
「に、にげるんや……。そうでないと……うちは……。」
 下を向いて頭を抱える。そして苦しむ。本能と理性が戦っている。
「どうしたんですか! 気分でも悪いんですか?!」
 レノアが異常に気付き、逆に駆け寄ってきた。
 それが、あかんかった。
 うちの凝視がレノアを捕らえて、一瞬のうちにレノアを石に変えてしまった。

 そして気付く。
 レノアを守りたかった理由。それは……。
 しかし、石化させてしまった事に悔やみ、うちは、レノアの石像を抱きしめ泣いた。
 ごめんなさい、ごめんなさいと。


蒼天恋歌 3 おだやかなる幕間へ

●ライターより
 こんにちは、もしくはこんばんは。滝照直樹です。
 この度は「かわうそ?と愉快な仲間達2」に参加していただきありがとうございます。内容の通りタイトルが変わります。
 今回は、変則的で、次回に繋げるというのはどうするか難しい所でした。
 如何でしたでしょうか?

 では、またどこかでお会いしましょう。

 201207010
 滝照直樹