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<東京怪談・PCゲームノベル>


とある日常風景
− すれ違う2人 −

1.
「ここも…か」
 草間武彦(くさま・たけひこ)は何も無いガランとしたビルの一室で、傾きかけた日の光に目を細めた。
 何も無い。血の一滴すら落ちてはいない。
 情報では確かにここに恋人・黒冥月(ヘイ・ミンユェ)の敵である西方白虎のアジトがあるはずだった。
 冥月はおそらく俺達に危害を加えられる前に、叩き潰す。
 草間は血の海を想像してここまで辿りついた。
 …しかし、ここには何も無い。
 人のいた形跡はおろか、人が使っていた家具類なども全て無かった。
 情報に誤りがあったのか? いや、違う。
 草間は微かな血の匂いを感じ取っていた。
 全ては闇に。まさにその言葉通りに冥月が闇を操り、全ての証拠を消していったのだ。
 何もかも全てなくしていったということ、それが冥月のいた痕跡だった。
 だが、次に繋がる痕跡ではない。
「選択肢を総当りで潰していく気分だ」
 地味で手間のかかる作業だったが、草間にはそれしか残されていない。
 次の情報を元に草間は街を走り抜ける。
 しかし、そこもまた冥月は全てを闇に葬った後だった。
「なんで…何で追いつけない!?」
 苛立ちが少しずつ草間の中で募っていく。
 冥月の影は草間の手をすり抜けて、すぐに消えていく。
 一足遅い。しかし、その一足が途方も無く大きい。
「くそ! 次だ!!」
 次第に街に夜が来る。疲労は極限にまで達しようとしていたが、草間はそんなことにかまっている余裕はなかった。
 冥月と会わなければ。話をしなければ。
 次の情報から割り出した場所へと、草間は駆け込んだ。

 そこは、ただの民家に見えた。中に入ると人の気配は無い。血の匂いも…。
 今度こそ、冥月に会えるかもしれない…その時、突然気配は現れた。
「晩上好(こんばんは)。草間探偵」
 にこりと柔和な笑顔の優男が草間の前に現れた。
 草間は知らなかった。
 その男が、草間興信所を襲ったリーダー核の男であることを…。
 

2.
 冥月は1つ1つ西方白虎のアジトを潰していく中で、確信を持った。
 ヤツラはまだ他の『象』に連絡をつけていない。
 何人始末したかもわからない状態ではあったが、明らかにこの部隊だけで動いている。
 プライドが高く、自分達だけでやろうとする奴等の集りなのが幸いした。
 日本に来ているヤツラだけを潰せば、後は私が日本から消えればいい。
 そうすれば武彦たちに迷惑はもうかからない。
 血の着いたものを全て影に放り込んで、冥月は立ち去る。
 何も証拠は残らない。ここが惨殺の現場になったなど…誰もわからない。
 しかし、冥月は少し派手に動きすぎた。
 彼女を狙っているのは西方白虎だけではなかったということを、冥月は忘れていた。
 血の匂いを嗅ぎつけたハイエナが、冥月の隙をひっそりとうかがう。
 冥月が影の中に移動しようとした瞬間。
 そいつは鋭い短刀を心臓めがけて放った。
「…おまえと遊んでいる暇は無い」
 ぎろりと冥月の瞳が暗がりに潜んでいた人影を捉える。
「おまえになくても、この俺にはあるのさ。ここで…死ね!」
 形状の違ういくつもの鋭利な刃物が冥月めがけて空を裂く。
「バカか? おまえは」
 この数日で研ぎ澄まされた精神は、殺し屋時代の感覚をも蘇らせていた。
 今ここにいるのは、アルバイト探偵ではなく殺し屋だった。
 幾重もの闇を作り出し、その中に消えていく刃物。
 そして、冥月を狙う相手の後ろの闇から刃物は空を裂いて体を貫いた。
「な…に…!?」
「殺しに言葉は要らない。必要なのは殺すことだけだ」
 手刀ですっと撫でるように冥月は、相手の首をコロリと落とした。
 また面倒なゴミがひとつ。それでも、迷うことなくそれを掴むと冥月は影の中へと放り込んだ。
 まだ、ヤツラは残っている。
 急いで片付けなければ。
 冥月は再び闇の中へと消えていった。


3.
「…俺を知っているということは…おまえが親玉か?」
 草間は隙を作らぬように警戒を強めた。
「親玉、というのとは違うでしょう。我々はただの一兵卒に過ぎないのですから。ただ、日本で今動いている三垣四象の人間を纏める役、というのならその通りですよ」
 柔和な笑顔を崩さずに、男は草間の問いに答えた。
「冥月を…殺しにきたのか?」
 草間は核心に触れた。その答え次第で、目の前の男を殺す必要もあると感じていた。
「殺す…彼女は殺すには惜しい人材です。我々の真の目的は彼女を連れ戻すことにあるのですよ」
「連れ戻す…だと!?」
「そう。すこし身内の恥を晒しますが、三垣四象というのは大変古い体質を持った組織でしてね。我々としてもそろそろ新風を入れなければならない時期に来ていたのです。…そこに、彼女が起こした反乱。実によいタイミングでした。彼女の兄弟子には大変申し訳なかったが、彼の死を持って三垣四象に変革はもたらされたのです」
 なにを…何を言っているんだ? この男は。
 悠々とそれでいて一片の情もなく、男は語り続ける。
「変革を願っていた人間にとって、彼女はまさに救世主でした。変革は遂行され、今の三垣四象はある…彼女を殺す理由をもつ人間はいないのですよ」
 そうして、にっこりと男は草間に言った。
「草間探偵、あなたならわかるはずです。彼女にとってあなたの隣はふさわしくないことを。彼女のいるべき世界は暗黒の世界。闇は暗黒よりなお黒く尊い」
 ブルブルと握ったこぶしが草間の怒りを大気に伝える。

「ふざけるな! 誰が俺の隣にふさわしくないって!? おまえが決めるな! おまえらの世界に、冥月は帰さない!!」

 そう叫んで、草間は全身全霊で男を殴りつけた。
「!?」
 草間のこぶしは男の頬にクリーンヒットして、男は前かがみに膝をついた。
「…やれやれ。恋に狂った人間は思考能力まで低下してしまうのですね。あなたはもっと聡明な方かと思っていましたよ」
 男のその言葉に、草間がハッと気がつくと男はすでに草間の懐に入り込み鳩尾に重い一発を喰らわせていた。
「…っ…」
 呼吸が…できない…優男に見えたのは、見掛けだけ…だ…った……。
「晩安(おやすみなさい)、草間探偵」
 薄れいく意識の中で、草間はそんな言葉を聞いた。


4.
 どこから見ても普通の民家に見えた。だが、ここもヤツラのアジトのひとつだ。
 けれど…何かがおかしい。
 冥月は違和感を覚えた。人の気配がないのは気配を殺しているとしても、なにか…そう…よくわからないけれど、なにか違う雰囲気を感じた。
 慎重に冥月はアジトへと侵入した。やはり気配は無い。
 これは、本当に人がいないのだ。
「どういうこと?」
 そう呟いた時、聞きなれた電子音が突如聞こえた。
「!?」
 慌てて奥へと入り込み、居間らしき部屋へと入ると冥月は背筋に冷たいものを感じた。
 テーブルの上に1台の携帯電話が、音を鳴らしながらブルブルと振動している。
 見慣れた携帯電話。聞きなれた電子音。
 これは…この携帯電話は…!
 冥月は、息を呑みそして鳴り止まぬ携帯電話の通話ボタンを押した。
「………」
 無言のままの冥月に、電話の向こうの相手はやはり聞きなれた声だった。
『お兄さん、冥月さん見つかりましたか?』
 草間零(くさま・れい)の声だ。
 冥月は何も答えず、携帯電話を切った。
「ここに…武彦が来たっていうの?」
 血の形跡はない。また血の匂いもしない。
 だけど…よく見れば居間は荒れている。ここで武彦と誰かが争ったのだ。
 誰と? 決まっている。西方白虎だ。
 心臓がドキドキと脈打つ。嫌な予感が頭から離れない。
 血の痕跡がないからといって武彦に危険が及んでいないとは言い切れない。
 むしろこの携帯電話が意図的に置かれていたとしたら…ヤツラは私がここに来ることを察知していたということになる。
 いてもたってもいられずに、冥月はアジトを飛び出した。
 どうしたらいい!? どこにいけばいい!? わからない!! 武彦はどこ!?
 息が乱れる。足がもつれる。冷静でなんかいられない。
「待て、黒冥月」
 突如肩をつかまれるまで、その気配に冥月は気がつかなかった。
「!?」
 ばっと退いた冥月に、黒い人影はニヤリと笑ったようだった。
「同業者のよしみだ。おまえの探している人物がどこに行ったのか、教えてやるよ」
「…? 何を言って…」
 冥月が警戒心も顕わにそう聞くと、人影は言った。

「草間武彦は、●×ホテルの最上階だ」

 到底信用できる情報ではなかった。だが、そこにしか糸口はなかった。
「なぜ、そんなことを私に教える?」
 当然の疑問を冥月が口にする。
「同業者のよしみ…と言っただろう? 日本には日本の殺し屋がいる。お家騒動なら早々に引き上げてもらいたいんでな」
 クックックッと笑って、同業者と名乗る人影はどこかへと消えていった。
 残された冥月のとる道はひとつ。

 草間武彦を無事に救出すること!!



■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 2778 / 黒・冥月(ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒


 NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ)/ 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵
 
 NPC / 草間・零(くさま・れい)/ 女性 / 不明 / 草間興信所の探偵見習い

■□         ライター通信          □■
 黒・冥月様

 こんにちは、三咲都李です。
 ご依頼いただきましてありがとうございます。
 探偵ピーンチ! お姫様は王子様の危機を救えるのか!?
 …完全に逆になってますね、立ち位置がw
 そんな感じで、少しでもお楽しみいただければ幸いです。