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クイコムボカシだウッフン♪
1.
『モスカジ社宝飾界に参入! ダイヤキモンドで市場席巻か?』
一面を飾るにふさわしい話題に、報道陣は光の華を藤田(ふじた)あやこに向けた。
ここは藤田技研。今日は世界初の航時機クイコムボカシの試運転式典である。
あやこは着飾り、社長兼主任開発教授の威厳を放ちまくってクイコムボカシに被せてあった布をまくった。
「クイコムボカシよ、ウッフン♪」
胸を張り、さぁお撮りなさい!とばかりにドヤ顔して腰をくねらせマシンに乗り込んで見せたのだが、報道陣の目は颯爽と乗り込む女教授・あやこよりも何故かモザイクがかかったマシンの角に向いている。
「この機械はとある時代からダイヤキモンド鉱山を発見してくる予定なのよ」
そうとは知らずに説明を続けるあやこ。
ダイヤキモンドは宇宙最強の宝石と言われ、そのためならどれほどの金をつぎ込もうと…どれだけの時を駆けようとも価値はあるという。
今回モスカジ社はそこに目をつけたというわけだ。
「じゃあ、期待して待っててね」
チュッ!と投げキッスをしてあやこはエンジンを始動させた。
その投げキッスは報道陣全員にかわされた!
機体は怪しげなピンクに輝き、ボカシ! とモザイク状の煙を残して消えた。
…それからのあやこの姿を見たものはいなかった。
世間が騒いだのは一時で、いつの間にか話題にすら上らなくなった。
「どこへ行ったの? お母さん」
ただ1人。夕暮れの研究所で涙ぐむ娘の三島玲奈(みしま・れいな)以外は…。
2.
「ダイヤキモンドはただの宝石ではないのよん」
薄暗い部屋で巫浄霧絵(ふじょう・きりえ)はふふっと微笑んだ。
いたるところにキャンドルを配置した霧絵邸は、その妖艶な姿にぴったりな怪しげな雰囲気をかもし出している。
「あの宝石。ダイヤより高価で核をも凌ぐ爆発力を持つのよん…それがどれほどの価値を持つか。あなたにわかるかしらぁ〜ん?」
そう問われた巨漢の天才科学者はイヒヒと笑った。
「もうね。全国のJKが虜よ☆」
貧相なマッチョは「発注題はタイム骨盤で決まりやねん」と息巻いた。
そう、彼らが今作っているのは女教授・あやこを追うための『タイム骨盤』というメカである。
もちろん、あやこが発見するであろうダイヤキモンドの横取りが目的である。
「あやこをヒーヒー言わせてダイヤキモンドを戴くのよん」
「境界サー!」
びしっと霧絵に敬礼をすると、2人は一生懸命馬車馬の如くメカを完成させるために働くのであった…。
3.
時を遡ることトホホ京階段の時代。場所は臭魔パンティ事務所。
「こんな筈じゃない。俺はもっとでかいヤマを…」
事務所ではバンッと事務机を叩いてストレスを溜め込み、荒んだ探偵の姿。
そしてその妹は襤褸雑巾代わりの下着で床を拭きつつ兄を諌める。
「お兄さん…お兄さんは頑張ってますから…だから…」
「えぇい! うるさい!」
この探偵兄妹。食い詰めた挙句、下着泥棒の逮捕や盗まれた衣類の探索で糊口を凌いでいた。
その筋ではかなり有名な下着探偵といわれているが、本人は大変嫌がっていて『下着の類・厳禁!』とまで張り紙がしてあった。
「ちょっと…下着探偵ってここかしらん?」
トントンと扉を叩く音がして、そんな女の声がした。
振り向くと…霧絵がいた。
「下着泥を探してほしいのよん」
カツカツとハイヒールを鳴らして霧絵はあたりをキョロキョロと見回した。
汚い事務机、ボロイテーブル、壊れかけのソファ…そこにきらりと光るものがあるのを霧絵は見逃さなかった。
「だから、下着の類は禁止だと…」
探偵が断ろうと霧絵に近づくと、霧絵はすばやく探偵の首根っこに男性ブリーフを押し当てて、妹に叫んだ。
「あなた方のお母様の形見の下着をお兄様と交換しましょ? 拒否したらこのブリーフをお兄様に被せるわよん?」
「そ、それだけはやめてくれ!」
妹はオロオロとし、でも…と困った顔をした。
「お母さんの形見はなくなってしまって…」
「おバカさんねぇん。そこのソファの隙間に埋もれてるじゃないのよん」
霧絵の言葉に妹はごそごそとソファを探し始めた。
「…あった。これでお兄さんにブリーフを被せるのをやめてくれるんですね!?」
「もちろんよん。お兄様にブリーフを被せるのをやめてあげるわん」
「…おまえら、その台詞言いたいだけだろ? 文字数稼ぎとかやめろよ。みっともない」
あ、痛いとこ突かれた。
「そ、そんなことよりも早くお渡しな…」
「あやこキーック!!」
霧絵が突然飛んできた何者かによって蹴り倒された。
「あべしぃ!!」
血反吐はいて霧絵はぶっ倒れた。
「それ、こっちに貰うわ」
呆然とする探偵の妹から強引にダイヤキモンドのついた下着を奪い取るとあやこは勝どきを上げた。
「お宝GET!!」
おーほほほほほっと高笑いするあやこに呆然とする探偵兄妹。そして悶絶する霧絵。
さらに、そこにもう1人来た。
「み、醜い…」
それは玲奈号に乗って母を捜して3億光年?の旅をしてきた玲奈であった。
いくら親とはいえ、やってはいけないことがある。越えてはいけない一線がある。
「こうなったらメカ戦よ! やっておしまい!」
「ちょ!? それ私の台詞よん!?」
霧絵、唖然呆然、自信喪失orz
4.
『えー、ここトホ京ドームは満員の歓声で埋め尽くされております! どうですか、解説のお兄さん?』
『あー…まぁ、どうでもいいんじゃねぇの?』
壮絶な親子喧嘩は、華々しい舞台で決着をつけることになった。
青コーナーにあやこのクイコムボカシ、赤コーナーにタイム骨盤の雄姿が見える。
『…で、お兄さん。これマシン対決だと伺ったんですが…?』
『まともに戦うと被害甚大だって匿名投書が届いたから別の勝負するらしいぞ。負けたほうは自爆するらしい』
『どんな勝負をしてくれるのか、楽しみですねー!』
『…いや、別に?』
そんな実況中継ブースは置いといて、舞台の上では霧絵が憮然とした表情で中央でにらみ合うあやこ・玲奈親子を見つめる。
「あそこに立つのは私じゃなかったのかしらん?」
「あの親子の間には入れまんねんか?」
「…入れないわねん」
バチバチと火花散る母娘に、霧絵はため息をついた。
「いい? 勝負は一発勝負よ。いいわね?」
「臨むところよ」
2人はさっと懐に手を入れた。観客が息を呑む。
「いざ、尋常にハンマーオークション!」
「エントリーナンバー1! 藤田あやこプレゼンツ! 意味深な穴開きパンツ!!」
をぉ〜!!っとどよめく会場。あっという間に0が5つついた。
「エントリーナンバー2! 三島玲奈プレゼンツ! ブ ル マ !!」
さらにどよめきが大きくなる。あやこの速さを上回りながらなお0が6つもついた。
「ま…負けた…これが若狭というものね」
ふっとあやこは哀愁を帯びた瞳でポケットからボタンを取り出した。
「ポチッとな☆」
ちゅっどーーーーーーーーーーん!!!!!!
あやこが押したのは自爆スイッチだった。
クイコムボカシは大爆発。ピンクのモウモウとした煙に包まれた。
「万歳!! 次回からタイム骨盤や…あれ霧絵様?」
霧絵はブルブルと拳を震わせると、巨漢の天才科学者をポカンと殴りつけた。
「スカイケヌマ! 自爆を装って逃げられちまったじゃないか!」
見ればいつの間にかあやこはおろか、玲奈の姿までいない。
「あぁ、ホントや!」
「全国のJKの皆さん、ここはボクを慰めるところよ〜?」
「うるさいわん! おまえたちには折檻だよ!」
霧絵はブリーフを取り出すとじりじりと貧相マッチョと巨漢天才科学者との間をつめた。
『お兄さん、舞台では大変なことが起こっているようですが…』
『俺ら必要ないから帰ってもいいんじゃないか?』
『それもそうですね。じゃ、失礼しまーす』
舞台のスポットライト1つを残し、照明は切られた。
観客も実況も全ていなくなっても霧絵の折檻は終わることなく、悲惨な悲鳴はいつまでも響き続けた…。
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