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<東京怪談・PCゲームノベル>


第6夜 優雅なお茶会

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 午後3時10分。
 最近はあちこちが騒がしかったにも関わらず、今日はのんびりとした空気で包まれている。
 夜神潤は目を細めて場所を見た。

 場所は中庭。確かに結界の張っている理事長館は中庭の端だが、それでも近い事には変わりはない。
 嫌な場所でお茶会を開くもんだな。そう顔をしかめつつ、席に着くと。

「ん……?」

 見覚えのある少女が席に着いたのが見えた。
 この辺りは自分と同じくバレエ科の生徒達で固まっているらしい。座った少女も、こちらに気が付いたようだ。

「あ……こんにちは」
「こんにちは」
「あー」

 と、彼女と一緒に座っていた少女達もこちらに気が付いたようだ。
 確か彼の隣に座っているのは楠木えりか。以前舞踏会の予行練習に参加していたにも関わらず、何故か舞踏会には参加していなかった少女だ。そしてその友人達は、彼女の向こうに座っている。確か、雪下椿と、名字は知らないがかすみと言う少女だったはずだ。

「こんにちは、先日は変な態度取ってすみませんでしたっ」

 そう言いながら頭を大きく下げる。
 随分リアクションが大きい子だな……潤はそう思いながら首を振った。

「いや、別に大丈夫だから……聖祭の準備は順調か?」
「はいっ」

 えりかは少し目をきょろきょろと彷徨わせながらそう答える。何だ? 地雷でも踏んだのか? そう思って観察していたら、椿がえりかをつつき始めた。

「この子、今度中等部でやる「白鳥の湖」で主役踊る事になったんですよ!」
「主役……もしかして、オデットとオディールを?」
「はっ、はい……」

 えりかは椿にされるがままになりながら、目線を彷徨わせる。回ってきたお茶とお菓子にも、なかなか手を伸ばそうとしない。
 確かに意外かなと、潤は思う。
「白鳥の湖」はバレエを全く知らない人間でも聞いた事はあると言う程に知名度を誇る踊りだ。
 舞踏会のウィナーワルツとバレエはまた違うだろうが、前に聞いた椿とかすみの証言からだと、特にえりかはバレエが上手い訳ではないらしい。何か彼女がしないといけない事情でもできたんだろうかとも考えたが、今は関係ないので置いておく事にした。

「そうか、頑張れ」
「はいっ……ありがとうございますっ、頑張りますっ」
「そうだよ、頑張れー、私が言ったんだから、あんたちゃんと踊らないと駄目だからね」
「うん、分かってるよ……」

 そう言いながらまたつつかれているえりかを眺めつつ、潤はカップに口をつける。
 回ってきたのは紅茶で、スコーンも回って来たので皆適当に手に取って食べているようだった。
 周りを見回す。
 生徒会が固まっているテーブルには理事長も同席しているらしいが、彼女はこのお茶会の主催と言う事で、各テーブルの世話をして回っているようだ。
 そしてもう一つ。茜三波はこの場にいない事が気になった。生徒会長はいるのに、副生徒会長が見当たらないと言うのは、いささかおかしい気がする。
 彼女は情緒不安定な部分が見られたが、それが原因なのか?
 潤はお茶を飲みながらそれらのテーブルを眺める。
 このテーブルはバレエ科の生徒達がきゃっきゃと戯れているのが目立つが、特に耳障りな程でもない。
 と、お茶のおかわりとして、ポットの交換をして回っている聖栞と目が合った。

「あら、夜神君ご機嫌よう。体調は大丈夫?」
「こんにちは、理事長。今の所は問題ありません」
「そう、それならよかった」
「……全部のテーブルのポットを交換するの、大変じゃありませんか? 手伝いますよ」
「そう? ありがとう」

 潤はそのまま後ろのワゴンのポットを取って、他のテーブルのポットを交換して回った。
 他のテーブルのポットを交換し終えた後、潤はもう一度栞に声をかけた。

「すみません、一つお話があるんですが、いいですか?」
「あら、何かしら?」

 ポットを回収したワゴンを押して、中庭からやや離れた場所、美術科塔近くに立っていた。普段だったらお茶の用意は全て理事長館でしているのだから、話をすると言うのを分かっていたのだろうか。

「……以前理事長が言っていましたけど」

 潤は思い出した事を言ってみる。

「……生徒会が怪盗を捕まえようとしているのを、放置しておいて大丈夫なんですか?」
「ああ、それ? 大丈夫よ」

 栞はからからと笑いながら言う。

「自主的にどうにかしてくれるって言ってくれた子がいたから」
「そうですか……ならいいんですけど。でも、どうやって星野さんと守宮さんを助けるんですか?」
「……ちょっと儀式行わないと駄目なのよ。生徒会と怪盗が目を逸らしてくれているから、その間にね。時期もあの頃がちょうどいいし。
 でも、もう一つ問題があるの」
「……海棠織也君ですか?」

 栞は頷く。
 潤はそれを目を細めて眺めた。

「もしかして、俺に手伝えと言うのは」
「……ちょっと織也の事、儀式の間、行う場所に近付かないようにしてくれる?」

 ……随分とアバウトな申し出だった。
 おかしくなってしまったのばらの事が頭によぎる。
 どう答えたものか、そう思って短く溜息をついた。

<第6夜・了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7038/夜神潤/男/200歳/禁忌の存在】
【NPC/楠木えりか/女/13歳/聖学園中等部バレエ科1年】
【NPC/雪下椿/女/13歳/聖学園中等部バレエ科1年】
【NPC/喜田かすみ/女/13歳/聖学園中等部バレエ科1年】
【NPC/聖栞/女/36歳/聖学園理事長】

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■         ライター通信          ■
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夜神潤様へ。

こんばんは、ライターの石田空です。
「黒鳥〜オディール〜」第6夜に参加して下さり、ありがとうございます。
今回は楠木えりか、雪下椿、喜田かすみとコネクションができました。よろしければシチュエーションノベルや手紙で絡んでみて下さいませ。
理事長の頼みは引き受けてもいいですし、断っても問題ありません。

第7夜公開も公開中です。よろしければ次のシナリオの参加もお待ちしております。