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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


 迫る脅威に 






――。






「―何故、こんな回りくどい事をする必要が…?」
 魔法陣の前に佇む異様な雰囲気を放った緑色の髪をした女に、一人の魔術師風の風貌をした黒いコートを着た男が尋ねている。
「…興味があるだけなら、聞かない方が良いわ」魔法陣の横に立って腕を組んでいた金髪の少女が静かに口を開いた。
「…フフフ、色々と手を加えるのも楽しいものなのよ」クスクスと笑いを浮かべる緑色の髪の女が口を開いた。
「…ハッ…!」男が深々と頭を下げる。






――。





「黒狼はIO2以外の者によって消されたみたいね…」
「えぇ。金髪の女と、一般の探偵の二人組みが邪魔してくれたみたいよ」
 先程と同じ金髪の女が口を開く。
「…計画通りに事が運んでくれそうにはないわね…」女が溜め息を吐く。「盟主様への報告は済ませてある。私は金髪の方を調べて接触してみるわ」
「…解った」






――。

―――。





 ゆっくりと潤が目を開ける。
「…やはり、随分と断片的な情報ばかりか…」
 リーディングの能力は過去を見る事を可能とする。だが、その場所に対して残る思念を読み取るには、それ相応の“時間”や“思い”が残っていなければならない。一箇所に残留するだけの思念には足りていないという事は明白だ。
 潤はしゃがみ込んだまま少し考えを整理していた。

 ―組織で動いている連中が、眼前にある魔法陣を利用して大きな企てを行おうとしているのは解った。そして、その連中が翼達の邪魔をしようとしている事も。

「…しかし、あの最初の女…。何処かで見た気がするな…」

 再び潤は顎に手を当てて考え込む。記憶を探りながら、潤は静かに思い出し、目を開けた。
「…成る程、俺の力を借りたくなる相手だと言う事か…」
 潤は思い出した。最初に見た、緑色の髪の女、“巫浄 霧絵”。危険思想を孕んだテロ組織“虚無の境界”の盟主とも呼ばれる存在で、魔術や霊の力すら用い、更には特殊な“能力者”を抱えているとの噂だ。自ら対峙するつもりも、これまでに接点を持った事もない相手だが、その名と顔を知っていると言う事は、それだけ危険な相手である事を物語っている。

「…だとすれば、目的は一つか」

 潤の中に答えが導き出される。潤は歩き出しながら考えを再び整理していた。


 『人は一度滅び、新たなる霊的進化形態を目指さなければならない』という虚無の境界の信念とも呼ばれる大儀。これの為に、今まで召還され続けている強力な妖魔達は、敢えて生贄とする為の使い捨ての駒である可能性が高い。だとすれば、目的はやはり『虚無』の実体化という事になる筈だ。
 だとすれば、もう少し思念が定着し易い筈だ。潤はそんな事を考えながら他にも情報はないものかと探して歩き始める。
 憶測の域を脱さない状態。潤にとっては不愉快な状態に違いない。どうにも引っかかり感じながら、潤は百合と翼が接触した場所で残る思念を捕らえ、目を閉じて思念を追う様に意識を集中させる。




――。




「狙い通り、と言ったトコかしら」
「あら、いたのね」百合がクスっと笑いながら振り返る。そこにはまたも金髪の少女が佇んでいた。
「百合、勘違いしないことね」金髪の少女が睨み付ける様に百合を見つめる。「ユーがやろうとしている事が盟主様の弊害となるなら、私がユーを潰す」
「…弊害、にはならないわよ」百合が小さく笑って呟いた。「私は私の目的の為に動いている。IO2にもAMARAにも、その為には多少傷付いてもらうのが一番効率が良いのよ」
「…理解出来ないわ。私には、“虚無の境界”にも“IO2”にも協力している様に見える…」
「そうね、今の私はそう見えるでしょうね」再び百合が笑う。「でも、これはアナタの望みでもある。だからこそ、何も言わずに私に付き合っているんでしょ、エヴァ?」
「…そうかもしれないわね…」
「だったら、私達が危惧すべきなのは蒼王 翼とディテクター。今の所は引っ掻き回すだけの存在として利用出来ているけど、邪魔になったその時は容赦なく殺す」





―――。





「―どうやら、それぞれの思念が異なっている様だな…」
 潤がゆっくりと目を開けて呟く。潤の勘は当たっていた。だが、そこに更なる目的を持った“百合”の存在が浮き彫りになる。だからこそ、こんなにも残留した思念が散り散りになり、捕らえにくかったのだろう。
 だとするなら、尚更潤の中には違和感が生まれる。“百合”と“エヴァ”は確かに盟主である“巫浄 霧絵”との関係者…―つまり、虚無の境界の一員であるという事。
「仲違いでもしてくれているのか…」
 そう考えるのが最もシンプルな結末だった。


 再び考えを整理する。
 “虚無の境界”は盟主である霧絵の力を使って、次々に妖魔を召還して『虚無』の生贄に捧げる準備を着々と進めていた。しかし、百合達はそれが成功する事を良しとしていない。IO2を利用して生贄となる筈だった妖魔を処分させている。自分達に矛先が向かわない様にする偽装工作も兼ねているとは思われるが、先程の百合の言葉ではIO2にも実質的な被害を与える事が目的だと捉える事も出来る。

「結局、今は妖魔を倒していく事だけが、翼達に出来る唯一の抵抗といった所か…」


 後手に回り続けざるを得ない状態なのは避けれない。目的を暴く為の判断材料があまりにも少なすぎる状況には変わりない。

「翼に頼まれて調べる事になった事件だけど、どうにも府に落ちない点が多いな…。まだ少し調べてみるべき事が多い…」潤が呟き、小さく笑った。「それに、こんな不安定な情報だけじゃ、あのお姫様も納得してくれない、かな…」
 潤が振り返り、更なる情報を探ろうとその場を去ろうとしたその瞬間、醜悪な殺気に気付いて潤の表情が少しばかり険しくなる。潤の振り向いた先に立っていたのは、銀色の髪をして赤い目をした、傭兵の様な風貌をした中年の男だった。
「…ここで何をしている?」低い声で唸る様に男が尋ねる。
「…答えるつもりはない…と言いたい所ですけど、通用してくれる相手ではなさそうですね」潤が男を見つめる。「獣の様な殺気に、その風貌。“虚無の境界”の“ファング”…」
「…どうやら俺の眼に狂いはなかった様だな」
「噂通りの戦闘狂といった所ですね。やる気ですか?」
 両者の間に異様な雰囲気が漂う。ピリピリと張り詰める様な緊迫した、まさに一触即発寸前の空気。潤もファングも、互いに見合ったまま動こうとはしない。
「…フン」ファングが目を逸らし、張り詰めた緊張の糸を断ち切る。「それなりに楽しめる相手かもしれないが、今回はそれ所じゃないのでな」
「…奇遇ですね。俺も用事があるので遠慮したい所です」潤もまたその緊張を解く。
「次会った時を楽しみにさせてもらおう。さっさと失せろ」
 ファングがそう言い残し、歩いて工場の奥へと進む。潤はファングの後姿を見ながら小さく溜め息を吐いた。
「…わざわざ用の済んだ廃墟に、一体何の用があると言うつもりだか…」潤はそう言って静かに深呼吸をする。「探らせてもらうとするかな」




 潤は廃工場の中へ、ファングに気付かれない様に気配を消しながら追いかける事にした…―。



                                            FIN



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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

先に潤さんのストーリーから書き上げ、
翼さんの方も今夜中に仕上げる予定になっています。

リーディングから読み取れた情報が少なかったのですが、
新たな登場人物を出して要素を加えさせて頂きました。


気に入って頂ければ幸いです。


それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司