コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


+ ある集落の訪問者【綻び結び6】 +



 莚の案内で俺には見えない糸の先を巡り、山場を進む。
 ミラーと対峙した時に負傷した傷が酷く痛むけど、それでも俺は前に進まなきゃいけないんだ。途中スガタとカガミがバランスを崩しよろけた俺を支えてくれる。彼らには自己治癒能力があるけれど、俺には人並みの治癒能力しかないから結構な深手だ。一歩、また一歩進む度に裂かれた肉から血が滲み出てくるのが分かって歯噛みする。一応応急処置はしているものの、それでも回復しきったわけじゃない。


「……あいつも迷子なんだよな」
「工藤さん?」
「勇太?」
「これから俺はあいつと決着を付ける。……どうなるか分らないけど……」
「それは貴方が行おうとしている事に対しての不安ですか?」
「それはお前がやろうとしている事に対しての不安か?」
「ああ、不安だし怖いさ。でも俺もあいつもあの研究所で育って、特にあいつは俺みたいに純粋な能力者じゃなかったからもっと酷い扱いを受けたんだ」
「…………オリジナルと」
「イミテーションの差、だな」
「俺頑張るからさ――あいつを……救って欲しい……」


 俺の身体を支えてくれるスガタとカガミにそう言い切ると、今度は枝渡りをしているミラーとそんな彼に抱かれたフィギュアへと顔をあげる。彼は俺の視線を見つけると、すっと音も無く地面へと降りてきた。


「ミラーもフィギュアも見届けて欲しい……俺達の行く末」
「貴方が行うべき行為はそれしかないと言うのなら、あたしはそれを見届けましょう」
「君がその行為を行った後の残骸処理くらいは此処に居る四人でも出来るさ」
「あら、それはあたしが仲間外れ?」
「フィギュアはそれまで覚えていられないと思うよ」
「――そうね。それでもあたしは<迷い子(まよいご)>達を導くの」


 二人との会話の中浮いたフィギュアの寂しそうな表情が印象的だった。
 彼女は俺が『男』に乗っ取られ暴れまくった後、また『記憶を失いかけた』。フィギュアの異変にいち早く気付いたミラーが記憶を額合わせで渡し、今も彼女は俺の事を覚えていてくれるが、そうでなければまたしても「初めまして」と彼女は笑っただろう。


 やがて集落が見える場所まで辿り着くと莚は即座に集落の異変に気付く。
 それに対して即彼は行動を起こそうとしたが、俺が片手を真っ直ぐ横に伸ばして先を制し、続いて唇を開いた事により足を止めた。


「まず……筵。ごめんな……あんたの集落に迷惑かけちまってさ」
「ああ、すっげー『害悪』を呼び込んでくれやがってびっくりだ」
「でもこれから俺はちゃんと俺の手であの男と決着を付けるから……あんたにも俺の事見てて欲しい」
「……そうだな。集落の案内人として俺は俺のやるべき事を行おう。あんたが何をするかは知らねぇが、命は犠牲にすんじゃねーぞ」
「俺だって死にたくねーよ」
「もう良いだろ。自分で死亡フラグ立てるような真似をするくらいなら、この糸の先の男を何とかしやがれ」


 もう莚を止める理由は無い。
 先に言うべき言葉は全て言った。スガタにもカガミにも、ミラーにもフィギュアにも、そして集落の人間の莚にも。
 だからこれから俺が行おうと思っている事に対して後悔はしない。この身を削る結果になったとしても遣るべき事は決まっている。


 道は記されているのだ。
 俺には見えない莚の指先で絡んでいる男の思念体。これが案内してくれる先は集落。そして進んだ先は――一軒の空き家だった。莚曰く近年死んだ独り身の爺さんの家だったらしいが、引き取り先がなく放置されたままだったらしい。彼は絡めていた指先を大きく開き、そしてまるで糸を解放するかのように手を広げた。


 俺は少し埃臭い板戸に手をかける。
 もう『男』は隠れる事など出来ない。そして俺も存在を隠すことなどしない。お互いに晒しあい、惹かれあうかのように。
 そして勇気を持って開いた先、其処に居たのは土壁に身体を寄りかからせ、ヒューヒューとか細い呼吸を鳴らし今にも命途絶えてしまいそうな『男』の姿だった。集落に導いた時の元気の良さはそこには無く、だらりと垂れ下げた両手、放り出した足、項垂れている頭……呼気さえなければまるで死体のようだと思ってしまう。


 これが力を使いすぎた『反動』。
 イミテーションであるが故のデメリット。自分に傷を付けながら使う能力は文字通り自身の精神力を削る。彼は多くの集落の人間を操り、更に言えば『オリジナル』である俺を乗っ取り、その純粋な能力を使用すると言う暴挙に出た。その功績は研究員達が見ていれば褒め称えるだろう――何故ならイミテーションがオリジナルに勝った瞬間だったのだから。
 だけど『男』は誰にも賞賛されずに今にも朽ち果てそうではないか。俺が近付いても指先をほんの僅かぴくりと動かしただけで、その身体を動かせそうに無い。


「カガミ」
「分かってる」
「これからあいつの精神の中に入って来る。俺の体、宜しくな」


 男の左手に己の右手を重ね、自分も隣へと座り込む。
 お互いボロボロだな――なんて俺は自嘲する。肉体も、精神も、もう限界手前。俺は目を伏せ、テレパシー能力を応用した精神共鳴<サイコレゾナンス>で男の精神世界に入る。
 ぱたり、ともう一方の腕が地面に落ちたのが、俺の現実世界で聞いた最後の音だった。



■■■■■



「フィギュア、何をしているんだい?」
「手を繋いでいるのよ」
「その意味を僕は知っているけれど、君がその手を繋ぐ行為を僕は良くは思わないよ」
「でもね、ミラー――あたしはそれでも案内人なの。<迷い子>が居たら導いてあげるのがあたし達の存在理由。……それにあたしは『欠陥品』。でも欠陥品にしか出来ない事があるって知ってるかしら?」
「――――愛してるよ、フィギュア。君が壊れても僕が君を描こう」


 それは少女と男の手が重なった時のある二人の案内人の会話。



■■■■■



 潜っても潜っても壁が存在する。
 情報が足りなかった。コネクトという能力を所有している以上、コイツにも他の能力があると考えるべきだった。実際この男はフィギュアの精神を弾き、追い出した経歴がある。男には微弱ながらテレパスが備わっており、今防衛反応として外敵と見做されている俺を強く阻む。だがここでサイコキネシスを発動させる事は出来ない。それを発動させた瞬間、男の精神は崩れ去り『内側からの死』を意味するからだ。
 ゆっくり……それは本当に水滴が岩を削るほどの遅さではないかと言うほどのスピードで俺は潜っていく。


―― こりゃ結構……マズイ、かも。


 ただ静かに潜るには限界がある。
 精神力が消耗されていく速度は意外と速くそれゆえに俺は焦り始めた。


 そして俺はある光景を眼にすることとなる。
 それは以前男が呪具を使って俺を攻撃した時の情景。男の視線は俺を見ている。俺を見て、その心に命令による恐怖とオリジナルに対抗出来るかどうかの不安を抱きながら、彼はやがて『俺』を襲った。
 だが俺もただ襲われていたわけじゃない。そうだ、思い出した。


『なんだよ、お前。まさか――』
『……帰ろう。お前の居場所に。……皆待ってる。……研究員の皆、お前が欲しいって』
『――うわぁあぁぁああああ!!』
『帰ろう? あの場所に――ぁ、ははははは!!』


 男が笑って口を開いた研究所関係の言葉。その言葉に俺は過敏に反応し、攻撃してきた男に衝撃波や念の槍を飛ばした。だが男はそれを待っていたというように唇を歪ませる。――ふっと消える攻撃は空間と空間の狭間を通り抜け、『俺』の背後へと現れたのだ。


 『コネクト』。
 呪具で狂ったように空間を繋ぎあい、俺を死の世界へと追いやろうとしている男の高笑いが聞こえる。繋ぎあった空間達は鏡のように男を取り巻き、俺が攻撃しても『俺』の傍に空間が繋がれ最終的には俺は崩れ落ちた。
 オリジナルがイミテーションに負けた瞬間、それを遠くから見ていた研究員達は拍手をし賞賛していた。……だが呪い返しによって『男』が精神発狂を起こすと彼らは見捨てたのだ。


 潜っていく。
 俺は同時に思い出し、男の記憶を垣間見る。
 ああ、その記憶の底にあるのは――――幸せか、不幸せか。それは男だけが今も尚心に抱いている。






―― to be continued...










□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / ミラー / 男 / ?? / 案内人兼情報屋】
【NPC / フィギュア / 女 / ?? / 案内人兼情報屋】
【共有化NPC / 莚(むしろ) / 男 / 18歳 / 逸れ者を導く事実上の案内人】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 こんにちは、六話目です。
 今回はやっと元凶の男までたどり着く事が出来ました。男の精神に潜るという選択。以前の事件の真相もここでやっと垣間見えて(ほろり)
 救ってやりたいと言って下さる工藤様は本当に優しいなと思わずにはいられません。

 ではでは次をお待ちしております。