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<東京怪談・PCゲームノベル>


とあるネットカフェの風景
− ウラトレマソだ玲奈 −

1.
「…だから、ヒッグス粒子・ヒッグス場はすでに存在した! ていうか、あたしは手に入れた!」
「いや、でも結局見えてないものを『手に入れた』とか言われても、やっぱり信用できないし…」
「うん、それはわからないでもないわ。でも、万物に質量を与えることが出来るのよ? ってことは、ヒッグスのフリカケみたいなもん掛けたら私の婿とか動き出す?」
 とあるネットカフェの一角。
 ワイワイと少女達は今話題のヒッグス粒子について語り合っている。
 ヒッグス粒子。ヒッグス場。
 この世に存在する全てのものに質量を与えたといわれる幻の粒子。神の粒子。
 それが発見されたとなれば、夢見る乙女は黙っていられない。
 夢は現実になる。その一歩が今確実に踏み出されたのだから!
「ん? 婿って誰?」
 瀬名雫(せな・しずく)は首を傾げて三島玲奈(みしま・れいな)を見る。
 すると玲奈はババンッと鞄の中から一冊の薄い本を出して見せた。
「『恋するオトコのコ』! これのジューゾーが胸キュンなの! わかる!? これが乙女心!」
「いや、乙女心語る前にそれBL漫画でしょ? そのジューゾーって人が出てきても、玲奈ちゃんの婿にはならないんじゃないかな…?」
「片思いでもいい! ジューゾーが動くなら!」
 恋する乙女、改め、恋する腐女子の妄想炸裂!
 …そんなことをしているうちに、振り向くと誰かが立っていた。
「三島さん」
「あ、店長。なんでしょう?」
 にこにことする玲奈に、店長は突如鬼のような形相でまくし始めたてた。

「あんたさ、字ぃ汚いの! 俺がどれほどの日本語強くて英語も出来て、あげく考古学者でもこの字の解読にどれだけの時間要すると思ってるの? ほれ、見てみ! この字! いいから見ろ!」

 顔面に押し付けられた伝票には丸のつけられた『丼』の文字が玲奈には見える。
「『丼』ですね」
 即答した玲奈に、店長ブチ切れた。
「君だけわかったってしょーがないでしょ? どう見ても『丹』にしか俺は見えなかったの! しかも丸に丹! 『マル丹』って何だよ? どこぞの映画の女か!?」
 そうとう頭にきていたらしい店長はプリプリしながら、伝票を持って去っていった。


2.
「このオッサンに丼と丹の字を交換する法案を頼もう!」
 どん!っと叩きつけた雑誌コーナーから持ってきた雑誌の表紙には人のよさそうな顔をした政治家の顔が前面に出されたお堅い雑誌だった。
「ちょw 玲奈ちゃん、それ壊し屋さん」
 雫が苦笑いでたしなめたが、玲奈の怒りは収まらない。
「ちょっと字が汚いくらいでなによ! 読めるんだったらいいじゃない! 中には読めない子だっているっていうのに…。自分がいかに恵まれているかなんて全くわかってないのよ」
「いや、それはちょっと問題が違うんじゃ?」
「違うくなーい! 雫はなに? あたしよりも店長の味方をするの? ヒドイ! 友達だと思ってたのに…!!」
 話、ずれてきてますよー。
「あぁ、そうだね。修正ありがとう」
「それよりも、その雑誌でどうしようっていうの? まさか、その雑誌にこのおじさんの連絡先があって、それに電話かけて直談判! …とか言わないよね?」
 恐る恐る雫が聞くと、玲奈はニヤリと笑った。
「さっき言ったじゃない? ヒッグス粒子を手に入れたって…」
「…いや、フツーは手に入れられるものじゃないと思うんだけど?」
 雫の言葉はもっともである。
 しかし、ここは東京怪談。なんでもありの世界である。
 まして、彼女の名は三島玲奈。雫の友達にして最強のメイドサーバント兼和蘭国戦略創造軍准将である。
「甘い、甘いわね…蜂蜜の練乳掛けよりも甘いわ。てってれーーーー!!!」
 効果音を口にしながら、玲奈はささっと手で掴むのには最適そうな徳用瓶を雫の前にデーンッと見せつけた。
「このヒッグスふりかけで、店長ギャフンよ!」
「ちょw ヒッグス粒子お徳用!?」
 入れ物には汚い字(おそらく玲奈の字であろう)で『ヒッグス粒子お徳用』と書いてある。
 これが玲奈の力…いや、玲奈号の超生産力の力!!
「みてろよ、店長…『丼』は今から『丹』になるのよ…」
 ふっふっふっふと不敵な笑みのドヤ顔で、玲奈は高笑いしてビンの蓋を開けた。


3.
 ところが、その高笑いが不幸を招いた。
「見せてー」
 飛び掛ってきた雫に、玲奈が足を滑らせる。
「あ!?」
「あぁ!?」
 まるでスローモーションを見ているかのように、玲奈は足元をぐらつかせて体勢をできるかぎり立て直そうとした。
 しかし、その間手に持っていたヒッグス粒子お徳用は中身をぶちまけて隣で海老天丼に喰らいつくサラリーマン…の海老天にかかってしまった!
「きゃあああああ! 玲奈ちゃん!!」
 雫の叫びがむなしく響く。
 何もかもが遅く、すべてがあらぬ方向へと動き出す。

 ばきばきばきばきっ!!!

 ネットカフェの天井を打ち破り、我ここに参上!
「フォッフォッフォッフォッフォ!!」
「伊勢とか! ここはセレブのネカフェか」
「雫、突っ込み所がちゃう」
 先ほどまで生気を持たずにサラリーマンに食われそうになっていたはずの海老は巨大化し、いまや命をも吹き返している。
 はさみをジャキンジャキンと鳴らして、フォッフォと鳴く。
 すべては身から出た錆…ではなく、徳用瓶からもれたヒッグス粒子のせい!
「ボケてんと早よ責任取り」
 玲奈が冷静にそう言うと、雫はブーブーとぶーたれた。
「とりあえずケーサツ呼ばないと…えっと何番だっけ??」
 据え置きの公衆電話に向かい、玲奈は考え込む。
 11…?
 どっちがどっちだっけ?
 ていうか、この場合は怪獣退治に警察に助けを求めるべきなのか、けが人が出てそうだから消防にかけるべきなのか?
 そんなことを悩んでいたら、不意に頭が軽くなった。
「…!? か、カツラが…!?」
 カツラを取ったのは雫だった。
「玲奈ちゃんも大きくなぁれ♪」
 そして、玲奈は雫にヒッグス粒子お徳用をぶちまけられたのだった。


4.
 初めて来たぞー! 初めて来たぞー!
 ウラトレマソ!!

「ジュワッキ!」

 頭の上に受話器を被った怪しげな生物が海老怪物の前に立ちはだかる。
「きゃー! 玲奈ちゃんすてきー!」
 そう、頭に受話器を乗せて海老怪物と対峙したのは他でもない玲奈である。
 ヒッグス粒子で超巨大化した玲奈なのだ!
「雫ぅ! 後で覚えてなさいよー!」
「それよりも前よ! 玲奈ちゃん。玲奈ちゃんに全人類の希望が…夢が…未来がかかっているわ! 頑張って!」
 雫、無責任なことをいけしゃあしゃあと言う。
 がっちりと海老と組合い、ぐぐぐぐっと力比べ。
 海老のクセに生意気だ。
 …いや、ヤツはすでにただの海老ではなく、伊勢海老なのだからしょうがないのかもしれない。
 超大型巨大伊勢海老。
 その海老と戦う少女・玲奈。
 この決着は…また!

 最後に、彼女の未来に幸(主に海の幸?)多かれ…。 



■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 7134 / 三島・玲奈(みしま・れいな) / 女性 / 16歳 / 和蘭国戦略創造軍准将:メイドサーバント

 NPC / 瀬名・雫(せな・しずく) / 女性 / 14歳 / 女子中学生兼ホームページ管理人


■         ライター通信          ■
三島玲奈 様

 こんにちは、三咲都李です。
 ご依頼いただきましてありがとうございます。
 ヒッグス粒子…難しいですね。でも、いつかそんな風に使えるようになったら面白いですね。
 少しでもお楽しみいただければ幸いです。