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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.6 ■ 対極の二人







「―…ん…」
 目を醒ましたアリアはキョロキョロと周囲を見回した。真っ暗な空間にふわふわと漂う様な感覚を身体に感じる。
「…? あれ、私…?」
 アリアが周囲を見つめていると、視界の中に自分の姿と瓜二つの少女を見つけた。その少女が向いている先に、唯一暗闇の中で輝きを放っている大きな光りの球体が浮かんでいる。
『―どうか、我らを守ってくれ…』
 不意に響き渡った声にアリアは驚いた様に光りの球体を見つめた。その向かいにいる自分と瓜二つの少女は何も言わず、ただ静かに頷いた。
「…夢…?」
 アリアが小さく呟くと、急速に何かに吸い込まれる様な感覚が身体を襲う。





――。





「…あれ…?」
 アリアが目を開く。そこはいつも見慣れている我が家の天井だった。身体を起こし、アリアは周囲を見回した。
「おはよう、アリア」
「…? おはよう…?」小首を傾げながら、目の前に座っていたアリアの母へとアリアが尋ねる様に返事をする。そんなアリアに近付き、アリアの母がアリアの額に触れる。
「…随分と発散出来たみたいね」額から手を離し、静かに微笑む。
「発散…?」
「妖力が異様な程に荒々しくアリアの中で暴れていたんだけど、あの変なスカウトマンのおかげで発散しきれたみたいで安心したわ」
「…あ…」アリアは思い出していた。急に視界がブレ、妖気が暴走した。そして、あの呪術師が現れた事。そして、戦った事。「…呪術師…」
「あの男なら、連行されたわ」クスっと笑ってアリアの母がアリアの頭を撫でる。
「連行…?」
「―それは、俺から説明しよう」部屋に入ってきた武彦がアリアに手を挙げる。「無事みたいで良かったな」
「…武彦ちゃん…?」
「久しぶりだな」武彦がアリアの近くに寄って腰を降ろす。「以前お前が雪山で会った“虚無の境界”ってのを憶えてるか?」
「…金髪の女の子?」
「そうだ。今日お前を拉致して連れてきた男は、その“虚無の境界”の助力を受けていた呪術師でな。IO2も元々目をつけていたらしい。もう既に引き渡した」
「…?」小首を傾げるアリアが武彦を見つめる。「よく解らない…」
「あー、っと…。一つずつ説明していく必要があるか」武彦が天井を見上げて呟いた。「まずIO2ってのは、“International OccultCriminal Investigator Organization”の略称だ。怪奇現象や超常能力者が民間に影響を及ぼさないように監視し、事件が起ころうとしているならばそれを未然に防ぐ超国家的組織、と言った所だが、要するに超常現象やら専門の、警察みたいなモンだ」
「…ふーん…?」
「まぁ理解してくれなくても構わないが…」武彦が明らかに興味なさそうなアリアの態度を見て溜め息混じりに呟いた。「あと、“虚無の境界”ってのは危険な連中でな。IO2が最も危惧しているテロ組織だ。今頃あの呪術師の身元や目的を吐かせている頃だろう」
「それにしてもあのスカウトマン、どうして私を利用したがるのかしら」アリアの母が呟く。「アリアじゃ“何か”が足りなかったのかしら?」
「そこまではハッキリしていないが、アリアを気絶させるまで追い込む実力があったとは思えないな…。何があったんだ?」
「…あ、炎の種族…」アリアが呟く。
「炎の種族…?」アリアの母が尋ねる。「ウチに来たのは、あのスカウトマン一人だった筈だけど…」
「あたしならここにいるわよ」
 不意に武彦達の背後で腕を組んでいる少女が声をかけた。紅い髪に朱色の瞳。アリアとは違い、腰まで伸びた髪を後ろで一本に束ねた姿で、じっとアリアを見つめる。
「―敵かっ!?」武彦が咄嗟に向き直る。
 少女がギリギリと歯を食い縛りながら妖気を溜めていく。少女の身体から熱を帯びた妖気が溢れ出し、部屋の温度がぐんぐんあがっていく。
「はい、ストップ」
 アリアの母がそう言って指を鳴らすと、カキンと軽快な音を立てて少女の身体が顔だけを残して凍りに覆われる。
「こ…、こんな氷…っ!」少女がどんどん妖気を込めて炎を発生させようと力を入れるが、氷はビクともしない。それどころか妖気が氷に吸い取られていく。「く…っ、何で…!」
「放出するだけの妖気で壊せないものもあるのよ」ニッコリと笑ってアリアの母がそう告げて少女へと歩み寄る。「他人様の家で暴れられても困るのよね…」
「あ、暴れるつもりなんてないわよ!」
「じゃあ何しに来たって言うつもりだ?」武彦が尋ねる。
「あの気持ち悪い男の居場所を聞きに来たのっ」
「…気持ち悪い?」アリアが小首を傾げる。
「あの呪術師よ! 消し炭にしてやるんだからっ」
「でも、アリアを見て妖気を上げていたじゃないの」アリアの母溜め息混じりに呟く。
「…それは……」
「それは?」アリアの母と武彦が一緒になって尋ねる。
「〜〜っ、あたし、妖気のコントロールが苦手で…その…」もじもじと俯きながら少女が小さく答える。
「要するに、頭に血が昇ると妖気に直接変換されるタイプって訳か」
「うっ、うるっさい!」顔を真っ赤にしながら少女が武彦に向かって声を荒げる。「そういう訳だから、攻撃なんてしないわよ! アンタもアイツの敵なんでしょ!? だったら味方じゃない!」
「……?」アリアに向かって少女が声をかけるが、アリアは小首を傾げたままただボーっと少女を見つめていた。「味方なの?」
「敵の敵は味方でしょ!? それ以外何があるって言うのよ!」
「…随分短絡的な発想だが、今回のケースに限ってはあながち間違いではないかもしれないな」武彦が呆れた様に呟く。
「でも、アリアを追い詰めたのは貴方よね?」アリアの母の眼が冷たく少女へと突き刺さる。「それが突然掌を返すって、どういう事なのかしら?」
「あの呪術師、見た相手を操ってたの…」アリアが母へと向かって口を開く。「その子も操られてた…」
「あ、あ、操られてやったのよ!」
「無茶苦茶だな…」武彦が溜息を漏らす。
「どうして?」アリアが少女に尋ねる。
「変な装置の開発に付き合えば、お金と宿をくれるって言うから…。何の装置かも何を手伝わされたのかも憶えてないけど…」
「…害はなさそうね」少し考え込んだ後でアリアの母が少女の前へ歩み寄り、指を鳴らして氷を消し去る。「お座り」
「はいっ…って、あたしを犬扱いするなー!」しっかりと座った後で抗議をする様に両手を天井に突き出して少女が叫ぶ。
「…残念だが、呪術師ならIO2に引き渡してある。暫くは出て来れないだろうな」やれやれ、とでも言わんばかりに武彦が再び溜息混じりに告げる。「それで、お前は一体何者なんだ?」
「あたしは“ルカ”。偉大なる炎の始祖の末裔よ」フンと鼻息荒くルカと名乗る少女が答える。
「炎の始祖の末裔…?」アリアの母が少し眉間に皺を寄せて考え込む。「おかしいわね…。数百年程前に絶滅したと聞いたけど…」
「表向きはそうするしかなかったんだって聞いてる…。絶滅への一途を辿りつつあったあたし達の一族は、一度その存在を消すしかなかった…」
「私達と違って、人間社会との適合を避けてきた一族だったわね…。事ある毎に私達の一族とぶつかっていたと聞くわ」
「あたしもそう聞いているわ。氷の始祖の血縁は人間と交わっても、その能力が弱まる事がないって聞いていたけど、噂通りだった…」ルカがアリアを見つめる。「操られていたとは言え、あの子の実力はそこらの妖魔じゃ太刀打ち出来ない強さを持っているのは解った…」
「…えっへん?」
「疑問系で威張るな」アリアに対して即座に武彦がツッコミを入れる。
「昔はいがみ合っていた種族だけど、今はそんな時代じゃないわ…。よろしくね、ルカちゃん」
「えっ、あっ、ハイ…」アリアの母の言葉に顔を真っ赤にしながらルカが俯き、口元を小さく動かして返事をした。
「…武彦ちゃん、これからどうするの?」アリアが武彦へと声をかける。
「あ、あぁ。“虚無の境界”の動きが活発化している事はIO2の耳にも入っているらしい。以前アリアに接触した事を考えると、今後の接触の可能性も少なくない。こっちも下手に動くべきではないだろうな」
「そうね。アリアも少しの間は行商するのも辞めておきなさい」
「……」少し不機嫌そうにアリアが頷く。
「ルカちゃん、ご家族は?」
「…そんなもの、いない」ルカが少し口調を暗くして呟く。「あたしだけが、唯一の末裔。ずっと一人で生きてきたんだから…」
「そう…。だったらウチにいなさい」アリアの母がにっこり微笑む。「草間さんの仰る通り、呪術師は今頃塀の中。“虚無の境界”が私やアリアという、純血種の一族に手を伸ばして来たのなら、再び貴方が狙われないという保障はないわ」
「え…? でも…―」
「―勿論、お手伝いはしてもらうわよ?」間髪入れずにルカの言葉を遮ってアリアの母が告げる。
「…うん、いれば良いと思う…」
「…〜ッ、そこまで言うなら、しょうがないからいてあげるわよ!」






――。





 ―とある廃ビルの屋上で、エヴァが風を浴びながら街を見つめていた。
「魔眼の呪術師がIO2に捕まったそうだな」
 背後からエヴァに歩み寄りながら、迷彩服に身を包んだ随分とガタイの良い男がエヴァへと声をかけた。
「…ファング、召集されたのね」エヴァが振り返って男に声をかけた。
「あぁ、盟主直々の勅命でな」
「…そう」エヴァが興味なさそうに再び街へと視線を移した。「機は熟した、と言った所かしら」
「あぁ、そうかもしれんな」
「なら、グズグズしている暇はないわね」エヴァがクルっと振り返り、ファングの隣りを通り過ぎる。「始祖の血脈を迎えに行くわ」



 ―再び、エヴァがアリアの元へと姿を現そうとしていた。





                                                 to be countinued...




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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

呪術師の目的等、了解致しましたー。
今後の展開で細かく交えていければと思います。

そしてせっかくなので、ルカとアリアさんを早速再会にw

この二人のやり取りはちょっとしたコメディ要素が
強くなりそうな勝手な妄想を膨らませて書かせて
頂きました(笑)


それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司