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<東京怪談・PCゲームノベル>


限界勝負inドリーム


 それはあの夢の続き。
 セレシュは異世界――自分の作られた地へと再び赴いていた。
 そこは朽ちた遺跡。時が数百年ほど経った今、風格としては申し分ない、いかにも遺跡と言った景色である。
 石で作られた壁や床は、時に侵されて風化し、ほぼ朽ちている。
 遺跡の大間にある無数の石像も風化を免れる事はなかった。
「やっぱりなぁ。もしかしたら、と思たんやけど」
 石像のほとんどは辛うじて人っぽい形をしていても、精緻さに欠け、たとえ人に戻ったとしても肉があらわになるグロテスクな肉だるまにしかなるまい。
 そう、この石像はすべて、セレシュが魔眼によって人を石化させたもの。
 彼女の魔力を持ってすれば石化を解く事が出来る……が、しかし、今更元に戻すのはいろんな意味で気が引ける。
「うーん……確かこの辺りやったと……あ、おった」
 石像のうちの一つ。
 地に伏せていた一人の少女の石像。
 奇跡的に風化の進行度合いが遅く、ほぼ完璧な状態で残っている。
 外套や服などはヒビが入って割れており、彼女は裸婦像のような形であった。
 セレシュはその石像を運び出し、割かし綺麗な大間の奥の方へと移動する。
「まずはこの埃やらなんやらを綺麗にせんとな」
 指を振ると石造の周りに光が浮き、苔むしていた石像があっという間に綺麗に磨き上げられる。
 綺麗になった像を見て、セレシュは満足そうに頷くが、まだ問題点が。
「うーん、流石に真っ裸は酷いわなぁ。こんな事もあろうかと、と持ってきて良かったわ」
 持ってきたマントを裸婦像にかぶせ、何とか身体だけは隠す。
 一応、これで準備は万端、だろうか。
「さて、どんな反応を返してくれるもんやら」
 一呼吸置いた後、セレシュはまた指を振った。
 すると石の無機質な色が、ジワジワと赤みを帯びる。
 それは生命が息を吹き返すかのように、水底から湧き上がるあぶくのように。
 石像の肌は柔らかさを取り戻し、微動だにしなかった少女の瞳がパチリと瞬きをする。
「上手くいったみたいやな。どれ、起き抜けの気分はいかがですか?」
 セレシュは少女の目の前に立ち、プラプラと手を振るが、少女の方には反応がない。
 石化の解呪に失敗したのか、と思い、彼女の肩をゆすったり、頬を叩いてみたりしたところ、少女はふっと我に返った。
「……あ、あれ? ここは?」
「おはようさん。意識は戻った?」
「あ、アンタは!」
 少女は驚いてセレシュから距離をとるように飛びのいた。
「元気は良いようやね。結構結構」
「くっ、これはどういうこと……」
 身の回りを確認して、装備が一切無くなっている事に気付いたらしい少女。
 それはそうだ。五百年もの時が流れれば装備なんて全てなくなってしまう。石化していたのだからなおさらだ。
「一応説明させてもらえんやろか? 今日はそのためにここまで来てんから」
「説明? 何の説明よ?」
「これまでの五百年間、何があったか」
「ごっ……!?」
 セレシュの言葉に、少女は言葉をなくしたようだった。

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 現状を説明したセレシュ。少女は驚くほど静かにその言葉を聴いていた。
「――と、言うわけで、五百年もの間、あんたは石のまま、この遺跡に転がっていたのでした、と」
「それが真実だって証拠は?」
「外に出てみれば、時間の流れなんて嫌でも感じられるで?」
「……まぁ、つまんない嘘ではなさそうね」
 頭をおさえてため息をつく少女。嘘ではない事は伝わったらしい。
 セレシュは黙って様子を見ていたが、少女はふとセレシュに視線を向ける。
「……それで、どうして私を元に戻したの?」
 声音は静かだったが、視線は強い。
「なんでやろな。あんたの夢を見たからかな」
「夢……?」
「そう、あんたと戦った夢。記憶の焼き増しっちゅーかな、あの時とほぼ同じ出来事を、夢として見てん」
「私の事を夢に見たから、なんだって言うのよ」
「我ながら酷い事したなぁ、と思って。あの時はお互い譲れんモンがあったからああなったけど、今なら違うかな、とかな」
 実際のところ、セレシュにもわからなかった。自分がどうして彼女を石から戻したのか。
 何か明確な理由があっての行動ではない、だがそうしなければならないような、ゆるい使命感が沸いたのだ。
「うちな、この遺跡から離れる事が出来たんよ。色々あったけど、今は別のところで生活してるんやで」
「別のところ? 守護者はやめたの?」
「今は自分ん家の守護者やな」
「面白くもない冗談ね」
「冗談とちゃうわ。これでもマジなんやで? 家に不法侵入するモンは、うちが石に変えたるわ」
「……その辺は変わらないんだ」
「でも、昔とは確かに違うところもあんねんで? 目に見えない、心理的な部分とかな」
「そういや、初めて会った時と、全然キャラ違うもんね。あの無駄に偉ぶったしゃべり方はやめたんだ?」
「まぁ、人の黒歴史は掘り起こさんでもええやろ」
 セレシュの視線が宙をさまようのを見て、少女は小さく笑った。
 それがとてもさびしそうに聞こえたのは気のせいだろうか。
「それで、本題なんやけど」
 セレシュは少女を真っ直ぐ見るように向き直る。
 出来るだけ真摯さが伝わるように。
「あんたは、これからどうしたい?」
「……どうって?」
「色々選択肢はある。あんたが何をしたいかによる」
 セレシュが人差し指を立てる。
「あんたがうちと再戦を望むのなら、それでも構わん。うちかて本気で戦う」
 中指が立つ。
「平和に生きたいと望むのなら、うちは協力を惜しまん。今の時代に馴染めるように色々教えたる」
 薬指が立つ。
「……死にたいと望むのなら、それもええやろ。うちが介錯を務めてもええ」
 最後に小指が。
「他に何かしたいことがあるんでも、うちが出来るだけ手伝ったる。必要ないって言うんならそれも聞き入れる」
「……アンタ、ホントに何がしたいの?」
「わからんけど、なんか、そうしたいねん!」
 セレシュは少女の手を取り、瞳を真っ直ぐ見つめる。
「ちょっと、あんまり見ないでくれる? こっちは結構、アンタの目ってトラウマなのよね」
「あ、ご、ごめん」
 慌てて目を逸らす。そう言えば、少女はセレシュの目によって石化されたのだ。そりゃトラウマにもなろう。
 少女はしばらく黙った後、ふっと息を抜いた。
「まぁ、アンタが本気なのはわかった。でも……」
「でも?」
「アンタに協力なんか仰がないわ。それにすぐに答えなんか出るはずもない」
 少女はセレシュの手を振り払い、ペタペタと遺跡の出口へと歩き始めた。
「私は一人で生きる。この世界だって、アンタの協力がなくても生きてみせる」
「……そか」
 少し残念なようにも思ったが、それはそれでアリだとも思う。
 セレシュは彼女の言う事に従うと決めていたのだ。彼女がそう言うなら止める事はない。
「わかった。元気でな」
「アンタに心配される覚えもない。……でも、最後に一つ、聞いていい?」
 振り返った少女は戸惑いの表情を浮かべていた。
 聞こうか聞くまいか、迷ったのだろう。
 しかし、ついに言葉がこぼれる。
「アンタはここで戦った人について、覚えてる?」
 それは大間の守護者として戦った記憶を問うていた。
 何百年もの間、守り続けたこの遺跡。その間にセレシュに挑んだ人間は数知れず。
 その中の幾人かは記憶に残る人間もいたが、ほとんどが時と共に忘れてしまいそうなほどだった。
「……その顔は、あんまり覚えてないって顔ね」
「し、仕方ないやん! ここに来た人間がどれだけいたと思てんねん!」
「別にいいのよ。気にしないで。……五百年も経ったんだから、私だって忘れないとね」
 ヒラヒラと手を振った少女は、そのまま遺跡の出口へと消えていった。
 セレシュはその背中を黙って見送り、見えなくなってからもしばらくは大間でじっとしていた。

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 結局、彼女はセレシュに戦いを挑んだ理由を教えてはくれなかった。
 少女は今もあの異世界にて生活を続けているのかもしれない。
 自宅に戻ってきたセレシュには知る由もないことだった。
「出来るだけの事はやったやんな」
 自分の手を握ったり開いたりして、それを眺めながら一人でポツリと呟いた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8538 / セレシュ・ウィーラー (セレシュ・ウィーラー) / 女性 / 21歳 / 鍼灸マッサージ師】


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■         ライター通信          ■
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 セレシュ・ウィーラー様、ご依頼ありがとうございます! 『関西弁はホントよくわからん』ピコかめです。
 違和感がなければ本当に御の字と言うやつでございます。違和感があったら……平身低頭で謝らせていただきましょう!

 今回はシチュノベっぽく仕上がりましたが、どんなもんでしょう。
 特に戦闘もなかったので、オープニングをバッサリカットしましたが、内容がこうなので別にいいかな、と。
 シチュノベの窓も開けておけば良かったですかね……w
 ではでは、また気が向きましたらぜひどうぞ〜。