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<東京怪談ノベル(シングル)>


もうすぐ夜が来る

 まだうっすらと日は残っているが、やがて夜の闇が来るであろう、そんな黄昏とも言うべき時間。
 そんな空の下、中庭にはカラカラと聖祭の実行委員が持ってきた木が積まれていた。夜になると同時に火をくべ、後夜祭が始まるのだ。
 工藤勇太がこっそりと辺りを見回すと、周りは既に演目を終えた生徒、屋台回りではしゃぎすぎた生徒、聖祭の準備期間にできたのか寄り添い合っているカップルなどが見えた。
 少なくとも、後夜祭を楽しもうとしている生徒達の表情は明るく見える。

「お疲れ様」
「あっ、お疲れ様。海棠君」

 海棠秋也は屋台からアイスティーを2つ買って来ていた。1つを勇太に手渡すと、勇太は「ありがとう」と会釈して一口飲んだ。
 今日1日走り回った喉に、アイスティーの冷たさが染みた。

「ぷはあ、生き返る〜」
「それ、大げさ」
「ははは、そうかもしれない」

 そうからから笑い合う。
 思えば、最初に会った時はこう笑い合う事もなかったかもしれない。珍しくリラックスした秋也の顔に、周囲は少しだけ驚いてこちらを見ているが、もう秋也は気にする素振りを見せない。
 吹っ切れてよかったな。そう勇太は思う。
 思いながらも、自分がメールで送った事は説明しておかないといけない。
 そう思いながらアイスティーを飲んでいたら、じゃりっと氷の粒を飲み込んでしまい、目を白黒とさせた。

「……大丈夫か?」
「あはは……平気平気。それより……メール読んでくれたよね」
「……」

 秋也は軽く頷いた。

「うん、ありがとう。……結構大変だったんだよね、思念に当てられる人が続出して。何かすっごく怒ってた」
「……工藤は大丈夫だったのか?」
「ああ、それは……」

 ポケットを探ると、いつかもらったクリスタルガラスのルーペが出てきた。

「これがあったから、大丈夫だった」
「そうか……」
「でもその中で気になったんだけどねえ」

「あの子」。勇太がそう口を開くと、秋也はピクリと眉を動かした。

「何と言うか、随分と変わった子だったなあって思った。もっと友達の影に隠れてる子かなって思ってたけど。あの子……思念の声が聞こえているみたいだったんだよね……でなかったら「何とかしないと」なんて思わないはずだよね? だってオペラ上映中の真っただ中だったんだからさ」
「……」
「あともう1つ」

 秋也が黙って耳を傾けている中、勇太はもう1つ気になった事を伝えた。

「あの子の口から「怪盗」の言葉が出たんだよね。どう思う?」
「……あいつは」
「ん? 海棠君?」
「……何でもない。とりあえず、副会長を止めないといけないな」
「そうだね。でもどうしよう、君の弟も多分ここに来ると思うんだけど……」
「それはない」
「へっ?」
「うん、それはない」

 そうはっきりと言い切る秋也に、勇太は目をぱちくりとさせた。

「どういう事?」
「……弟を説得してくれた人がいるから。だから、弟はこの件には関わらない」
「……」

 秋也は必要がない事は言わないが、数少ない言動では嘘はつかない人間である。少なくとも、勇太は短いとは言えども彼との付き合いの中でそれを学んでいた。

「そっか。なら副会長だけで大丈夫か。副会長、回答の事相当嫌っていたみたいだけど、大丈夫かな……」
「怪盗が怪我しない程度に手を出せばいい。ギリギリまでは怪盗の方が何とかするだろ」
「……」

 まさかなあ。と勇太はちらりと秋也を見ながら思う。
 秋也はちびりちびりと飲むアイスティーは、未だに半分ほど残っていて、さっさと飲み干した自分と比べると飲むペースが遅いようだ。
 まさか海棠君。怪盗の正体について、既に感付いてるんじゃあ……?
 ……まあいっか。
 今晩をどうにかしたら、教えてもらえるだろうし。
 そう思う事にした。

<了>