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んー、っとめいっぱい体を空に向かって押し上げる。
白鳥・瑞科は久しぶりの休日を満喫していた。
そのルックスから通り過ぎる人からの視線を感じる。それは男女問わず、だ。
黒なめし革のロングブーツに、同じ色で膝まで覆うニーハイソックスを履き、丈の短いプリーツのスカートが太腿を強調するようにゆらゆらと靡き、男達の視線を釘付けにした。
上はタンクトップワンピースに、七分丈のテーラードジャケットを前のボタンは留めずに着ている。
連日続く協会の仕事を終え、ようやく一時の休暇を得た。
久しぶりの休暇を家で過ごしていても勿体ないので、珍しく昼間の街に出かけてみたのだった。
陽光は眩しく、照りつけるように爛々と輝いている。
陽の光が長い髪を梳くように反射し、元々茶色の髪を上質のダージリンのように艶やかせた。
風もそよぐほどに気持ちがいい。
電車で10分もかからない場所に、絶好のショッピングスポットがある。
一つの巨大なアーケードの中に、いくつもの専門店が軒を連ねる。
立ち並ぶ店の仕切りはほとんどなく、開放感に溢れた作りである。かといって「只今タイムセールですよー!」などといった野暮なステマ合戦もない。
それぞれが自社ブランドに誇りを持ち、どっしりと構えた紳士淑女的な雰囲気だった。
その静かな空気を好み、数少ない休暇には瑞科は決まってここに足を運んでいた。
数ある店々の中でもお気に入りである「ブロウズ」に立ち寄る。
あまり頻繁には来ていないのだが、顔なじみの店員が「何かお探しですか?」と声をかけてきた。
やや栗毛のストレートを肩口で切りそろえた上品なお嬢さんだ。
「今日はかわいい感じのものを探してますの」
要望を伝えると、それでしたら、と目的の商品がある場所へ案内してくれた。
両肩リボンのついたTシャツや、チュニック柄のワンピース、和服を模したブラウスまで、確かにかわいいものが並ぶが、どれも瑞科の気分に合うものではなかった。
もうちょっと落ち着いたほうがいいかしら、とぽつりと呟いたのも聞き逃さず、店員は新作がありますよと意気込んでさらに店の奥へ誘った。
レジの横を通り、キャッシャーの中に入る。
左右を大きな木棚に囲まれ、ビニールに包まれたり段ボールの中に入ったままのものだったりも多く見られたが、そのほとんどはまだ店頭に並んでいない新商品のようだった。
気に入ったものがない時は、瑞科はいつもここまで通される。
もちろん店側もすべての客にこのような対応をしているわけではない。
以前、とある事件で助けた市民の中に、偶然にも彼女が混じっていた。
そこでほんのお礼とばかりにサービスをしてくれた。
それからというもの、このような特別待遇をしてくれてるのだった。
いつも普通でいいという瑞科に、そんなわけには参りませんと、相手も頑として一歩も譲らないのだ。
サービスのことだけで瑞科がここに通っているわけではなく、勿論ここの商品が気に入ってるからでもある。
棚の中にある一枚の薄手のシャツにふと目が止まった。
「これ、試着していいかしら」
店員はさっそく封を解き、試着室へと案内してくれた。しゃっと音を立ててカーテンが閉じられる。
やや広めの試着室は大きな全身ミラーと、手荷物を置くスペースもあり、試着室には珍しく小さな椅子もあった。
瑞科はジャケットとワンピースを脱ぎ、ハンガーで壁にかける。
彼女を守るものはレースのブラのみとなったが、特に気にとめる様子はなかった。
豊満な二つの双丘をきゅっと引き締め、滑らかな絹のような肌が蠱惑的に強調させている。
日々戦闘を繰り返すわりに小さな肩は、黒髪のかかる首筋にかけて華奢な印象を与えた。
豊かな胸に反した腰のくびれのラインがより官能的な雰囲気を纏わせる。
目的の衣服をさっと腕から通し、試着してまず抱いた感想は、軽い。
薄手の生地にフリルの効いた作りで、まるで何も付けてないかのように着心地が良い。
これからの本格的な夏に向けてちょうどいいものに出会った。
やはり気に入ったそれを購入すると、店を出たところで携帯に着信があった。
新しい戦闘服ができたので試着するようにとの指示があった。
教会、といってもキリシタンのような教会とはまた違う。
彼女ら武装審問官は主に表立って活動することはあまりない。
魑魅魍魎の駆逐や敵対人物の暗殺、といった泥臭い仕事が日常なのだ。
ここは教会の所有する屋敷の一つで、一般人は訪れることはない場所にあった。
やや白みのオレンジを帯びたライトに照らされた部屋は実に無機質。そして瑞科以外、誰もいなかった。
部屋の真ん中にある机の上に、無造作に修道服らききものが置いてあった。
さっそく目的の服を手に取ってみる。
素材は最先端のものを使用しているようで、薄手で軽くよく伸びる。
軽さでは先ほど購入したシャツを連想したが、こちらは見た目には思いもよらないほどの防御力があるという。
上下、黒を基調とした修道服だが、一般的にはゆったりとした装いである。
瑞科用に仕立てられたシスター服はその豊満なボディラインを浮き出させた。
コルセットの上に着込んだシスター服の胸元は、そこだけはだけて肌の谷間が見えていた。
踝の上まで伸びたロングスカートは体にピッタリと張り付き、細くすらりと長い脚を大きく晒すスリットが股下まで深く切り込んでいた。
太腿に食い込むニーソックスをはき、膝まである組み上げのロングブーツが漆黒の光を放つ。
二の腕から腕全体を包む、薄く白い布製のロングローブの上に、手首から先を守る風を模した装飾のある革製のグローブをはめる。
純白のケープとヴェールをつけ、手には愛刀が煌めく。
シスターならぬ官能的で刺激的な装いではあるが、瑞科は実に気に入ったようだった。
「素敵ですわ、着ている感じもとてもいい」
教会の中でも無敵を誇る白鳥瑞科として畏れられるものの、気に入った服に気分を高揚させる様子は年頃の女の子のようでもあった。
この新しい相棒と共に駆る戦場を夢想し、未だ見ぬ新たな任務に胸を高鳴らせていた。
きっとこれまで以上の成果をあげられることだろうと、絶対の自信とともに、魑魅魍魎を殲滅する決意新たにするのだった。
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