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<東京怪談ノベル(シングル)>


+ 神よ、迷える子羊を救いたまえ【3】 +



「苦しっ……ぐ、あ、ぁ」


 何故このような状態に陥っているのか、理解は難色を示した。
 最初こそは順調だったのだ。組織員達を滅し、頭領の首もさくっと取れる状態にあったのに――全てはあの副頭領の男がやってきてから変わってしまった。
 副頭領が連れてきたのは別拠点の殲滅に向かっていた後輩シスターの哀れな姿。
 任務こそが最優先事項……それが戦闘シスターとして役割。けれど彼女は仲間の哀れな姿を見て見捨てておけるほど冷淡な人間ではない。
 そこを付け込まれたのが敗因。
 副頭領によって後輩シスターもまた変わらず気まぐれで暴力を受けている。
 その度にあがる悲鳴が瑞科の意識を揮わせ、この状況を必死に打開しようと策を巡らせた。
 だが瑞科自身も頭領の肉弾攻撃によって思考が白んでくるほどにダメージが蓄積されている。


「ぅ……うあ……」


 何故。
 ナゼ。
 なぜ。


 あんなにも優位だったのはわたくしだったのに、と瑞科は思う。
 魔法の茨の拘束によって露出した肌は赤く滲み、鞭を打たれたかのように鬱血している。茨の棘によって戦闘服は引き裂かれもはや防護服としての役割を果たしていない。
 ああ、またも腹部に一発強い衝撃が入る。
 げほっと汚らしい嘔吐物が辺りに散った。


「も……」
「ああ?」
「まだ、……倒れるわけ、には」
「それは良い心がけだな」
「く、ぁあああ――!!」


 湧き上がるのは胃からのものではない。
 心に浮き上がるのは紛れもない恐怖。自分が感じた事など過去数回在るかどうかというほどの其れが今瑞科の中を侵食していく。
 怯えた目を知っている。
 自分が殲滅依頼を受けた時、敵から何度も「命だけは」と震えた声で、怯えた表情で彼らは言い続けた。だが自分は任務を優先し、そんな彼らの命乞いなど無視し命を絶った。
 彼らもこんな恐怖を味わっていたのかと実感する。
 ああ、……また遠くで後輩の悲鳴が聞こえた。
 だが瑞科は強く心を保とうと男に抗い続ける。それこそが今の自分に出来る頭領への反撃。キッと睨みつけて自意識を保とうとするがダメージが蓄積された身体はぐらりと揺れ始める。


「あの子……だけは、助けて」
「無理だな」
「おねが、い……」
「お前の相手は俺だ。おらよ!!」
「ぐ、ぅッ……! はぁ、はぁ……」


 まるで肉の玩具。
 可憐な花を手折るように男は瑞科を痛めつける。跳ねた身体は床に落ちる度に茨が食い込みひぃっと引き攣った悲鳴が喉の奥から溢れ出てきた。その茨を引きちぎろうと力を込めるが、その度に肌に傷が食い込んで呻き声が上がってしまう。
 こんなの知らない。
 わたくしはこんな圧倒的な敗北など知らない、と瑞科は心で泣き喚く。
 常に最前線で『悪』を討伐してきた戦闘シスター、それが瑞科。なのに彼女は決して敗北するような相手ではない相手に今陥れられ、無様な目にあっている。地に転がるさまはさぞかし醜いだろう。


 後輩の声が聞こえる。
 後輩シスターもまた抗い続けている。最後の最後まで男達に負けてたまるものかと戦闘シスターとしてのプライドを保とうと必死になっている。
 だが瑞科の声も震えながらそれと同じような言葉を吐き出し、『命乞い』をした。駄目だ、もう心が壊れる。壊れてしまう……その前に。


「助け、て……」
「うるさい女だ」
「っぁ――……!」


 それが彼女が発した最後の言葉。



■■■■■



「コイツラをどうしますか?」
「もっと遊べるだろう。拘束魔法を強めれば抵抗できぬ事など実証済みだ」
「ではあの部屋に」
「そうだな、例の部屋に連れて行こう――生命力の高いこのシスター共なら我らが同胞も喜んで迎えてくれるさ」


 男達の目の前には豊満な肉体を持った女二人が気絶し倒れ込んでいる。
 充分二人で遊びつくした女達の衣服はボロボロで、スリットからは美脚が覗いていた。その脚にも数え切れないほどの擦り傷、裂傷、青痣など多くの怪我が残されており、彼らがどれだけ楽しんだのか良く分かる。
 そして今も。
 女達の足首を掴み彼らは玩具を楽しげに引きずりながら隠し通路を使い、ある地下室へと向かう。そしてその部屋に着くと彼らは二人の女を投げ入れて。


「我らが同胞よ――この女達は好みか?」


 人智を超えた者達が集うその場所は「教会」も未だ知らない。
 二名の行方不明者の報告がなされるまであと一時間。



―― Fin...