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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


File.5 ■ 事情







 ―ちょっと待って。私は自分に言い聞かせる。この目の前にいるアホっぽい人が、あの有名なディテクターだとは信じられない…。
「おい、思考が口から漏れてるんだが」
「へ…?」武彦の言葉で私は我に返る。「あ…はは、乙女の心の声なんだから、聞こえなかったフリでもしててね」
「…無茶苦茶だな」
 再び桜乃は“乙女の心の声”を頭の中に巡らせる。目の前にいる武彦がディテクターで、自分が“東京計画”の鍵の一つだと言うなら、私自身は遠まわしに武彦によって監視されていた可能性が高くなる。
「む〜…」府に落ちない。私は全力でそんな事を訴える気分で武彦を見た。
 社長はと言えば、私と武彦に背を向けて大掛かりな装置をいじっている。私はつつっと足音を立てずに武彦の隣へと歩み寄った。
「草間さん。私が小遣い稼ぎしてた事は内緒にしてよね」コソコソと耳打ちする様に私は武彦に告げた。武彦は呆れた様な顔を浮かべながら頷いた。
「それは構わないがな…」
「でもさ、私馬鹿だからよく解らないの」
「何がだ?」
「うーん、全部って言っちゃった方が早い気もするけど…。格差を埋めるとか、補完とか、そういうの、お祖父ちゃんらしくなくって」
「らしくないって?」
「うん…」私は目を閉じて思い出す。「私の中でのお祖父ちゃんの記憶は、少ないし断片的。でも、。“在るが侭”が信条だったのは憶えてる」
「“在るが侭”、か…」武彦が小さく笑う。「違いないな」
「え…?」
「お前の祖父は俺もチラっと会った事がある。勿論、IO2のディテクターとしてだがな」
「そっか、協力体制だったのよね」
「あぁ。あの時の印象は、確かに我が道を行くイメージだったかもしれないな」武彦が社長の背を見つめながら懐かしそうに呟いた。「だが、そんな人だったからこそ、ここの先代に付き合ってやろうと思ったのかもしれない」
「どういう事?」
「“在るが侭”とは、自分の在り方にも言える事だ。自分がやりたい、力になりたいと思った人間に付き合う事もまた、自分の心の“在るが侭”だったとも言える」
「…意味解んない」
「男の価値観ってヤツだな」武彦がクックックと小さく笑いながら答える。「信頼してる仲間や相手の為に、出来る限りの協力をしたいと願う。そこに得がなくても、男ってのはそういう部分を少なからず持ってるからな」
「…変なの」私はそう言いながらも、何となくだが武彦の言わんとしている事を理解していた。「じゃあ話しは変わるけど、何で格差を埋めたらIO2が困るの?」
「そうだな。俺達IO2の生業は、超能力者の管理や超常現象への調査が目的だ。それは知っているだろ?」
「超国家的組織、でしょ?」
「あぁ。超能力や超常現象を圧倒的な権力と名を駆使して手中に収めている。そのおかげで、あらゆる無理が利くって訳だ。政治や医療への先進的な助力なんかも含めて、な」
「つまり、権力を握っているって事?」
「平たく言えばそんな所だ」武彦が溜息を吐く。「上層部はそれを失う事を危惧している。勿論、格差なき社会ってのは理想だが、そのせいで“何か”があった時に対応出来なくなるリスクを背負う事にもなる」
「どういう事?」
「例えば、核弾頭を奪われて、その場所を突き止められずに都市部へと撃ち込まれる事態が発生するとするだろ? そんな時、一般的な方法では対応出来る時間や状況が必要となる。が、能力者がいればどうだ?」
「…選択肢が広がる?」
「そういう事だ。そういった機関だからこそ、世界的に秘密裏とは言え信頼を受け、その国のサポートをしてきている。まぁあくまでも核弾頭どうのこうのって話しは例え話だがな。原因不明、治療不可な病なんかにも役立てるケースもある」
「“切り札”って事ね」
「未曾有の事態への、な。俺も末端でしか聞いていなかったが、この“補完”というのは全人類への能力の付与か、それを消し去る事にあると考えるべきだろう。格差を埋めるってのはそういう事だ」
「…ん〜、色々言いたい事はあるけど、IO2の言い分は解ったわよ。でも、虚無もそれを嫌がっているわよね」
「奴らもまた特殊な能力を利用して世界を変えようとしているからな。やりにくくなる事態になる事は間違いないだろうな」
「…立場によって色々よねぇ」
「まぁそうだな」
 少しの間沈黙が流れた。
「…でもごめんね、探偵さん」
「…?」武彦が私へと振り向く。
「私、実は社長が嘘ついてて世界征服や滅亡を望んでても、どんな命令でも聞くから」私の言葉と目付きを見て、武彦は思わず息を呑んだ。それでも、私の意思は変わるつもりはない。
「…狂信者、か?」
「あら、失礼ね。ぬふふ、惚れた弱味って奴かなぁ? もう心も体も社長の虜なの〜♪」そう言って私は両腕を自分の身体に交差させて抱く仕草をしてみる。
「…そこまで想える事は、悪い事ではないな」やれやれ、と言わんばかりに武彦が呟く。


 結局、武彦から話しを聞いてみても私の意思は変わらない。ただ、あの人の力になりたいだけ。それで自分の手を汚す事になろうとも、それが私にしか出来ない事なら、私はそれだけで価値を持てる。どんな形だとしても、私はそれを貫くだけだ。


「ぬふ…、うまく出来たら一杯愛してもらうんだから」
「…この言葉だけ聞いてれば、ちょっと心配になるセリフだな」武彦が呟く。が、私の耳には届かない。“乙女の心の声”は絶賛暴走中だ。


「桜乃」不意に社長が振り返り、私に向かって声をかける。「お前の祖父の記憶は断片的だと言ったな?」
「あ、ハイ」唐突に声をかけられ、何とも間抜けな返事をして私は社長に答えた。
「幼い頃の記憶だとしても、お前の能力でそれは有り得ない筈だ…」社長が顎に手を当てて呟く。「昔の会話の一字一句まで憶えているお前だからな」
「だとすれば、可能性としては二通りだな」武彦が口を挟んだ。「幼少期に目覚めた能力で、それ以前の記憶に関しては常人と同じか、或いは何者かによって記憶を操作されているか」
「私の記憶が操作されているって事ですか?」私は思わず尋ねた。「でも、一体誰が何の為に…?」
 私の言葉に、沈黙が流れる。こればかりは情報が少なすぎる事は私も解っていた。
「もう少し調べてみる必要がありそうだな」社長が再びパソコンに振り返る。





 ―どれぐらいの時間が経っただろうか。私は膝を抱える様に座り込み、目を閉じて頭の中にある記憶を遡っていた。武彦は煙草を吸いに屋上に向かって出て行った。このSF映画の様な室内には、社長と私しかいない。社長がカタカタとキーボードを叩く音だけが響き渡っていた。
 膨大な記憶の海の上で、小さなイカダで浮かんでいる様な気分だった。周りは何処を見ても海しかない。ヒントのない記憶を探る事は、私にとってはなかなか骨が折れる。それでも、私はただひたすらに自分の記憶を遡る。



――。



「―目を開けなさい、桜乃」
 幼少期の記憶だ。祖父が私の額に当てた折り紙をスっと自分のポケットに入れて私に声をかけた。
「…ん…」
「桜乃、今ワシはお前さんにちょっとした魔法をかけたんじゃ」
「まほー…?」
「そうじゃ。お前さんがいつか、ワシの道を辿りたいと願った時に、これから言う魔法の言葉がお前さんの行こうとする道を示してくれるじゃろう」
「まほーのことば?」
「…そうじゃ、それは…――」



―――

――





「パスワード…?」
 社長がふと漏らした言葉に、私は我に返った。どうやらそこから先の言葉は思い出せないらしい。立ち上がり、社長の隣へと歩み寄る。
「これは…?」
「プロテクトしている…」社長が呟く。「クソ、この場所を解読出来れば、何かのヒントが見えてくると思ったが…」
「…単語、言葉…。魔法の言葉…?」
「どうした?」
「今、ずっと昔の記憶を遡っていたら、お祖父ちゃんが私の額に折り紙を当てて『魔法をかけた』って言っていた事を思い出したんです」
「魔法をかけた…」社長が考え込む。「そうか、やっぱり鍵は桜乃の中にあるらしい」
「え…?」
「さっき、お前の記憶は何者かによって操作されている可能性がある、と言ったな? どうやらその通りみたいだ」
「って事は、記憶を操作したのは祖父…?」
「あぁ。なら、お前の記憶にかけられた魔法とやらを解除する必要があるな」
「そういう事なら、面白い能力者がいるぞ」
 背後から現われた武彦が口を開く。
「面白い能力者?」
「あぁ。人にかけられたあらゆる呪術や魔術すら、解いてしまう凄腕の解呪師がな」武彦が時計を見つめる。「変人だが腕は確かだ」
「え、変人って、この豊満な魅惑溢れる健康的な肉体にあんな事とか…―」
「―安心しろ、女だ」私の言葉を遮って武彦がそう告げる。
「桜乃、ディテクターと一緒に行ってくれ。私はもう少し祖父達の動向を探る」
「解りました!」



 こうして、私は武彦に連れられて、IO2東京本部へと向かう事になった…。






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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

プレの最期の部分を参考に、
解呪師なる新たな存在を投入し、
一度社長と別行動を取る形にしてみました。

桜乃さんのキャラクター性溢れるプレで
いつも笑ってしまいます(笑)

楽しんで頂ければ幸いです。


それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司