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<東京怪談ノベル(シングル)>


さる休日の光景。

 少し歩いた所に、感じの良いカフェがある。この季節ならきんきんに冷えたアイスカフェオレに、夏野菜を使ったオリジナルの冷製パスタ。もしくはアイスカフェオレと冷房で冷えた身体を、ホットサンドで暖めるのも良い。
 彼女、白鳥・瑞科(しらとり・みずか)が訪れたのは、そんなカフェテリアの一つだった。ほんの少しお昼時を過ぎた店内は、ちょうどランチのコアタイムが終わってちらほら、空席が見え始めている。
 入り口で立ち止まり、ぐるりとそんな店内を見回した瑞科に、気付いた店員が声をかけた。

「お1人様ですか?」
「ええ」
「畏まりました。お好きな席へどうぞ」

 店員にそう促されて、瑞科はオープンテラスの手前の席に腰を下ろす。通りを行く人が良く見えて、それでいて冷房の恩恵にも預かれる、そんな場所。
 ゆったりと、ロングブーツに包まれた形の良いほっそりとした足を組んで、ミニ故に際どくたくし上がったプリーツスカートの裾を心持ち、指先で直した。それからアイスカフェオレと、少し悩んでホットサンドのセットを注文して、ゆったりと胸の下で腕を組む。
 せっかくのオフ、のんびりと街を歩くのも良いものだ。瑞科の仕事はある意味で、休日などあってなきが如しなので、貴重な機会でもある。
 だから気の赴くままに、足の赴くままに。いつも通りの時間に起きて、軽く身体を動かした後、買い物に行こうと出てきたのだった。
 ちらちらと、瑞科の見えそうで見えない際どくたくし上がった白い太股や、存在感を放って止まないふくよかな胸元に、店内や店外を行く通行人から好奇の眼差しが投げられる。とはいえ瑞科にとって、それはあまりにもいつも通りの光景だったから、露ほども気にせず、渇いた喉を冷たい水でこくりと湿らせた。
 レモンを入れているのだろう、ほのかなシトラスの香りがさわやかに喉を通り抜けていく。ほぅ、と満足げに息を吐いたところで、アイスカフェオレとホットサンドが運ばれてきた。
 ご注文は以上でお間違いないですか? と聞いた店員に頷くと、伝票がテーブルの隅に置かれる。それで去っていくのかと思いきや、興味津々といった眼差しで「モデルさんですか?」と尋ねられたものだから、苦笑した。
 確かに瑞科の抜きん出たプロポーションは、どこぞの雑誌モデルと言われても遜色はないだろう。いささかグラマラス過ぎて、着る服を選びそうなのが難点と言えば難点か。
 首を振って「違いますわ」と否定すると、ぇー、と意外そうな顔で店員は去っていった。直後、厨房の方から「違うんだってー!」「えー? 絶対そうだと思ったのにー」と声が上がる。
 くすりと笑いながら上品な仕草で耳に髪をかけ、運ばれてきたホットサンドにかじりついた。中からトロリと溶けたチーズと、熱々に温められたトマトがじゅくりと溢れ出してきて、白い瑞科の指を汚す。
 ぺろりと指先を舐めて、はしたなかったかとその指先をタオルで拭った。厨房からはまだ、好奇の視線が止まない。
 そんな中で、甘酸っぱいトマトの味と、まだしゃきしゃきと歯ごたえのあるレタス、それからチーズと半熟卵のハーモニーを心行くまで味わってから、冷たいアイスカフェオレを飲んだ。コクリ、喉を滑り落ちていくコーヒーの香りのあとで、体中がすぅっと冷えていく。
 そうしてゆっくりとランチを味わってから、瑞科は「んー」とこれからの予定を思いあぐね、ゆったりとテーブルの上にひじを付いた。そのおかげでまた、角度によってはシャツの中に秘められた豊かな胸元によって形作られる谷間が見えてしまったのだが。
 実の所、これから先に予定は、ない。とはいえこれだけで帰るのももったいないが、当て所もなく歩くには些か、今日の日よりは暑すぎる。
 考えていたらふと、カフェの外を通り過ぎていった女性が――ちなみにその女性は、思わず瑞科のプロポーションに釘付けになった連れに、忌々しそうに瑞科を睨みつけていたのだが――下げていたブティックのロゴが目に入った。幸い、瑞科も時折のぞくブランドだ。
 ならば行ってみようかとそんな気まぐれで伝票を取り上げ、レジへ向かう。清算して店を出ると、途端、刺すような日差しが瑞科の抜けるような白い肌に降り注いだ。
 それを跳ね返すような心地で颯爽とロングブーツを鳴らし、休日を楽しむ人々で賑わう通りを、歩く。そのグラマラスな肢体と、歩くたびにふわりと風になびく濡れるような黒髪、そうして悩ましく揺れる胸元に行き交う人の眼差しが釘付けになる。
 ある意味でこの上なく目立ちながら、瑞科はそうして目的のブティックへと辿りついた。いらっしゃいませ、とお決まりの文句に迎えられて、軽く店内を見回す。
 今はちょうど、サマーバーゲンの真っ最中らしかった。とはいえ店内に居る客は、もともとの値段の故だろう、そこまで多くはない。
 何を買い求めに来たわけでもない瑞科は、店内に踊るポップのロゴを横目に眺めながら、ゆっくりと店内を巡った。カツ、カツ、カツ‥‥ロングブーツの踵が、高い音を立てる。
 ふと、心を惹かれて手に取ったのは、ミニの巻きスカートだった。今身に着けているプリーツスカートに比べて、自由度はどうだろう。
 いついかなる時でもつい、動きやすい服装をと心がけてしまう瑞科の私服は、必然、足を動かしやすいミニが圧倒的に多い。取りあえずそれと、それから色合い的に合いそうなカットソーを手にとって、瑞科はフィッティングルームへと向かう。
 身体をかがめてロングブーツを脱ぎ、丁寧にフィッティングルームの前に並べて、シャッとカーテンを引いた。素足に、フィッティングルームに引かれたカーペットの感触がくすぐったく、心地良い。
 まずは、軽く服を身体に押し当ててどんな具合か、鏡の中の自分と見比べた。けれども、殊に日本人離れした豊かな胸元のおかげで、やはり試着してみないことにはまったく想像が付かない。
 ふぅ、と軽く息を吐き、手にしたカットソーをフィッティングルームに作りつけられた棚に置くと、自身が今身に付けているシャツの裾へと手を伸ばした。

「ん‥‥ッ!」

 汗で少し湿り、肌に張り付くようなシャツを身を捩りながら脱ぎ捨てると、開放された上半身が喜んでいるような気が、する。知らず蒸れていた身体に、とくに谷間ゆえにじっとりと汗をかく胸元に手扇で風を送ると、空調のおかげもあって、すぐに汗はすぅっと引いた。
 それからカットソーを身に付け、改めて鏡の中の自分を見つめると、やはりというべきか、些か胸元が窮屈で、それ以外がアンバランスに映った。んー、と小さく首をかしげて、それから2つ、3つと脱いでは着替え、脱いでは着替えて、体をひねったり、胸元を押さえたり、逆に逸らしたりとポーズを取る。
 ようやくこれというものが定まって、同じく幾つか目をつけておいたミニスカートをしゅるりと纏った。巻きスカートや、瑞科が好んで身に付ける事が多いプリーツスカート。タイトスカートは、きゅっと締め付ける感じがして瑞科の魅惑的なボディラインを引き立たせたが、意外と、動き易いようだ。
 これもまた足を上げたり、フィッティングルームの中を歩き回ったりして、一着ずつ試す。その上で結局彼女が選んだのは、ぴったりと身体に張り付くようなデザインの、あまり飾りのないすっきりとしたカットソーに、ふわりと揺れるミニの巻きスカートだった――グラマラスな彼女は逆に、装飾過多のデザインのものを選ぶと、どこか重たい感じになってしまう。
 くるりとフィッティングルームの中で全身を確認し、うん、と頷いて再び着替えようと指先をカットソーの裾へと遊ばせ、ふと脱ぎ捨てた服を見下ろした。この暑さでじっとりと汗をかいたせいで、着てきた服はすっかり湿っている。
 シャッと、カーテンを開けて眼差しをさ迷わせたら、すぐに気付いた店員が近寄ってきた。

「いかがでしたか?」
「こちらの服を頂こうと思いますの。それで、このまま着て帰っても構いませんこと?」
「ええ、大丈夫ですよ。タグだけ頂きますね」

 そうして瑞科の申し出に、快く頷いた店員は「ちょっと失礼します」と断ってフィッティングルームの中に入り、瑞科が身に付けた巻きスカートの中と、カットソーの首筋を覗き込むと慣れた手つきでタグを切り取る。それから、瑞科が着てきた服を拾い上げ「こちらはショップの紙袋に入れさせて頂きますね」と笑った。
 礼を言ってレジに行き、カットソーとスカートの代金を支払う。そうして着てきた服の入った紙袋を受け取り、『ありがとうございました』とブティックの入り口まで見送られ。

「‥‥あら?」

 ブティックを出たところでメールの着信に気づき、瑞科は携帯をいじった。差出人は『教会』だ。
 ざっとメールを一読して、ふぅん、と鼻を鳴らす。そうして、ブティックのロゴが趣味よく印刷された紙袋を揺らしながら、瑞科は『教会』へと足を向けたのだった。





 『教会』という組織のことを、一言で表すのは難しい。だが瑞科にとってのそこが何なのかと言えば、彼女の職場であり、彼女の腕を存分に振るう機会を与えてくれる良きクライアントでもあった。
 彼女の腕――卓越した戦闘能力。どんな敵であっても圧倒的な力で、それもたった1人で打ち破る『教会』の暗殺者、それが瑞科の持つ裏の、そして本来の姿だ。
 先ほど来たメールは、その『教会』での仕事に使う戦闘服が来たから、確認に来るようにとの呼び出しだった。オフとは言え、任務はいつはいるか解らないのだから、もちろん瑞科に否やはない。
 『教会』にたどり着いた瑞科を待っていたのは、案の定、汚れ一つなく真新しい、真っ白な戦闘服だった。戦闘服――だが事情を知らぬものが見たならば、その衣装をそう呼ぶのに、首を傾げたことだろう。
 見た目は、シスター服。カソリック教会のシスターが身につける、足下まで裾があり、頭上からすっぽりとかぶるヴェールによって極限まで肌の露出を押さえた、それ。
 けれどももちろん、それは見た目だけのことだ。このシスター服はすべてが、余すところなく戦闘に特化した、最先端の素材で作り上げられていて、どんなに激しい戦闘であっても的確に瑞科の身体の動きをサポートする。

「確かめて貰えますか」
「解りましたわ。しばらく、お待ちになって」

 それを用意したスタッフに頷いて、瑞科は新しい戦闘服と共に、ロッカールームへと足を踏み入れた。『仕事』で使うものだから、ただ単に服が一通り揃っていれば良い、というものではない――万が一にも動きにくい事があったりすれば、現場で危機に陥るのは瑞科だ。
 だから試着の為に巻きスカートのホックを外しながら、今日は着替えの多い日ですわね、と苦笑した。しゅるりとスカートを腰から巻き取り、カットソーの裾をめくりあげる。
 だが、それだけではない。戦闘用の衣服を身に着けるのに、下着だけが常と同じものでは、結局そこで何らかの支障が出た時に、命取りになる――それほどに、戦いの時の瑞科の動きは、激しい。
 だからすべての衣服を剥ぎ取って、生まれたままの姿になった瑞科はまず、完璧に瑞科のみに誂えられた、戦闘のための下着を身に着けた。僅かの動きでも悩ましく揺れる豊かな双胸を覆い、支えるように調節すると、元々底に収まるべきであったかのようにぴったりと身体に張り付く。
 ショーツも同じく、戦いに邪魔にならないようにぴたりと腰元を覆うように履き、その状態でまずは軽く身体を動かした。大きな姿見を前に、軽く腰を落としたり、ひねったり、蹴りや突きの動作をしてみたり。
 それから次に瑞科が手に取ったのは、戦闘用シスター服だった。もちろんこれも、戦闘用との名を冠するだけあって、ただのシスター服ではない。

「ふ‥‥ぅんッ」

 丈夫でしなやかな素材で作られたそれを、押し広げるように身体をねじ込む。そうするとそれは、瑞科の色っぽいボディラインを浮き出させるように、身体にピッタリと張り付いた。
 スカートは、ふわりと長く足元まである。けれどもその両脇には、腰下までもある深いスリットが入っていて、魚の腹の如く白い美脚を大胆に電灯の下へと晒けだしていた。
 私服のミニスカートの方が露出度は遥かに高いのに、スリットからちらちらと垣間見える白い肌は、ただそれだけで扇情的。それでいて衣服はあくまでシスター服なのだから、見るものが居れば背徳感すら覚えさせる。
 スカートをゆらりと揺らし、上半身をぐっ、ぐっ、と左右にひねって、服に身体を馴染ませる。そうしてその上から付けたのは、完璧な防護を誇る胸部のコルセット――結果として、彼女の豊かな胸をよりいっそう強調してしまうのだが。
 頭から被るのは、こちらはシスターと名乗るに相応しい、純白のケープにヴェール。とはいえこれも、敵の攻撃から頭部を守ることの出来る特殊素材だ。不自然な重みがかからないか、軽く頭を振って確かめて。
 ふわり、スカートをめくりあげて瑞科は次に、ニーソックスに足を通した。どんな動きにも決してずり落ちぬよう、きゅっと太ももに食い込むそれを、右と左。
 足を振り上げてそれを確かめ、その上から履いてきたのとはまた別の、戦闘用に特化した膝まで覆うロングブーツを、、履く。編上げ紐をキュッ、キュッ、と力強く、戒めるように編み上げて、解けぬように固く縛った。
 そうして両腕にはめた、二の腕まで覆い隠すロンググローブは、同じく特殊素材の布で作られた純白の、各所に刺繍などの装飾がちりばめられた、女性らしいもの。その上から皮製の、これまた精緻な装飾の施されたグローブをきゅっと嵌めて、改めて瑞科は姿見の中の己をじっと見つめた。

「ふぅ‥‥ん。具合は、よろしいようですわね」

 軽く身体をひねったり、腕や足を上げ下ろししてみながら、満足そうに呟く。新しく誂えられた戦闘服は、すべてが瑞科の身体にぴたりとフィットして、彼女の日本人離れした豊満な肉体を的確に包み、サポートしている。
 もちろん、それだけで試着が終わるわけではない。瑞科は、この新しい戦闘服が思いのほか気に入るものだった事もあり、楽しげな様子で姿見から軽く距離を置くと、かつん、とロングブーツのかかとを鳴らした。
 ふわり、天井に届くばかりに、瑞科の身体が宙に舞う。何度か全身を揺らし、跳躍を繰り返してから、瑞科は空中で敵を蹴るように、足を大きく開脚したり、しゅっ、と鋭く舞わしたりした。
 都度、スリットスカートがふわりとめくれて、際どい部分がさらけ出される。だがその頃にはすでに瑞科は次の動作に移っていて、余人の目には映らなかったことだろう。
 身体を大きくひねって、全身を回すように体を捌く。まるで目の前に敵が見えているかのように、顔面辺りに鋭く拳を繰り出し、膝蹴りからの急所に叩き込むトゥ・キック。
 それらの動きをしても尚、戦闘服は確かに瑞科の動きを阻害することなく、そうして必要以上に緩むこともなく、身体に馴染んだままだった。言い方はおかしいかもしれないが、例えていうなら、何もつけていないかのような軽やかさが、ある。
 身体慣らしも兼ねた訓練で、軽く上がった息を整えた。上下する胸元に、コルセットの上からそっと手を当てる。

「――次の任務が楽しみですわね」

 恐らく次に入った任務は、この服を着て赴くことになるのだろう。その事実を思うと、瑞科の中にはただ、楽しみしか生まれなかった。
 この身一つでも完璧に任務をこなす自信はあるけれども、この新たな戦闘服によって一体それがどれほど効率的に、そうして華麗に遂行出来るのか、想像しただけでわくわくする。そうしてこの世の置き土産として、この服を纏った瑞科を目にする敵は一体、どんな相手なのだろう。
 早く次の任務が来れば良いですのにと、歌うように呟いた。そうして試着の結果を伝えるべく、瑞科はロッカールームを後にしたのだった。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /  PC名  / 性別 / 年齢 /      職業      】
 8402   / 白鳥・瑞科 / 女  / 21  / 武装審問官(戦闘シスター)


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きまして、本当にありがとうございました。

お嬢様のとある日常の物語、如何でしたでしょうか。
なかなかお嬢様のご様子を描写するにも、尽くす言葉に迷う今日この頃、です;
お気に召す内容になっていれば良いのですけれども。

お嬢様のイメージ通りの、余暇の様子を描くノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と