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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


+ どうか、彼らにも『安らぎ』を +



■■■ 序幕:一人の探偵と六人の協力者 ■■■



「此処はね、一ヶ月前までは都市伝説を元にしたアトラクションだったんですよ」


 依頼者の男はあるテーマパークのそれなりに地位のある人間。
 草間興信所の所長、草間 武彦(くさま たけひこ)は「またか」といううんざり顔で案内された先の建物に男と共に並ぶ。そこには「立ち入り禁止」の札が掛けられており、明らかに閉鎖されて居る事が分かる。


「有名な都市伝説だと口裂け女とかいますよね。あれらを実際に体験してもらうんです。口裂け女なら『私綺麗?』とスタッフが呼びかけて、最後に特殊メイクで口が本当に裂けたような姿を晒して次の部屋まで早足で追いかけるんです。で、次の部屋に入るとまた別の都市伝説が始まるんですよ。そういう部屋を潜り抜けてきて、出口に到着して貰うっていうのがこのアトラクションのテーマだったんですよね」
「なるほどな。確かに建物自体は結構でっかい」
「最初は結構人気だったんですよね。開催時期が夏だったのもあったんで、恐怖体験したい人にはお手軽だったんで」
「だが問題が起きた、そうだな」


 武彦は煙草を口にし、白い煙を吐き出しながら依頼主に問う。男は素直にそれを認めるように一度頷いた。そして武彦を筆頭に、依頼をした人間達を閉鎖中とロープが張られた中へと呼び込んだ。


「一言で言うと、実際に本物が現れて伝説上と全く同じ行動を始めた、というのが記録されています」
「口裂け女なら本当に口を裂いた、と?」
「その時はお客さんがさすがにおかしいと抵抗をなさり、直にスタッフが駆けつけたので、腕に軽い怪我をなさった程度で済みましたが――実際に口を裂かれていたらと思うとぞっとします」
「その時の口裂け女役のスタッフは?」
「証言によると『次の客を待っていた』、と。実際監視モニターにも映っていないんですよ。あと客とその口裂け女を見たスタッフの証言だと口裂け女役のスタッフの衣裳とは違っていて古臭過ぎる印象が強かったそうです……今となって思う事は『想い』が集まりやすい場所だったのかもしれませんね」


 依頼主は何か思うところがあるのか、しみじみと口にした。
 やがて武彦にリストを渡す。そこに書かれているのは三つの都市伝説にまつわる話と館内マップ、それから失踪者リストだった。興信所でも渡したが念のためもう一度と言う事だろう。


「依頼時にお話した通り、現在存在している『本物』はこの三つです。後の部屋は当時のまま残されてはいますが、スタッフが居ませんので登場する事は有りません」
「了解」
「では鍵を開きます。心の準備をお願いしますね」


 男はこくっと唾を飲み、封印されたアトラクションを開く。
 見た目はただのコンクリートの塊のような建物。その扉に鍵を差し込み、ゆっくりと回し両開きのそれを開いた。中はまずチケット受付場で、どこにでもある風景。上を見れば『順路』と矢印の書かれた看板が見える。埃臭い点を除けばただのアトラクションの一部にしか見えない。だがその足元には確実にアトラクションではあってはならない光景が存在していた。


「スペアの鍵をお渡しします。あと電気も通してありますので通常の状態でしたら自動扉は開きますし、通路を歩く分には問題はないはずです」
「こいつらの他には何もいないんだな?」
「報告を聞く限りはそのはずです」
「――そうだな、一日。一日連絡がなかったら俺達も死んだと思え」
「……どうか、ご無事で」


 そう言って男を外に残し、武彦は協力者達と共に懐中電灯を手に歩き出す。
 呪われたアトラクションと言われ何人もの被害者を出したこの場所。武彦は既に協力者以外にもそれらしき気配を感じ取っている。ここには確かに存在しているのだ。


「伝説という名の楔を打たれて存在し続けるのはつらいでしょう。解放してあげる」


 そう口に出したのは腰まである黒髪をツインテールにまとめている小柄で華奢な少女、黒蝙蝠 スザク(くろこうもり すざく)。
 赤い瞳が印象的な少女で、裾がふんわりフレアの黒ワンピースを着たその手には一見普通のゴシック系デザインの日傘兼雨傘を持っているが、それこそ彼女の『相棒』。彼女が使用する事によって、傘は本来の能力を放つ。少しのことでは壊れず、魔法系攻撃に対し防御可能な特殊性が有り防御に強い。
 そして彼女の主な能力は黒の業火。肉体を持たないものでも全てを焼き尽くすその能力は大いに役立ってくれるだろう。


「……ひでぇ……」


 次いで現状の悲惨さに声を漏らしたのは高校生男子である、工藤 勇太(くどう ゆうた)。
 彼の能力はサイコキネシス、テレポート、テレパシーを応用した超能力。本来霊が苦手な彼だが、死人が多数出ているという事で武彦の依頼を受けた。その為か、現場を見て怒りで理性が飛びそうになり……。カタカタ……近くにあった小物が揺らめき、動く。その瞬間、武彦は振り返り勇太の眉間にチョップを食らわした。


「暴走するなよ」
「はぅ!? ご、ごめん……」
「でも、仕方ないですよ。この状態は確かに私でも怒りが湧きます」
「当然ね、どれだけ仕方の無い事だったとしても死人を出した時点で、それは生者にとって敵になってしまうんだから。――ヴィル、私達はサポートに回りましょう」
「そうだね、弥生。草間さん、私達は中間距離で支援に回ります。それで大丈夫でしょうか?」
「すまんな。ヴィルヘルムに弥生。夫婦で協力してくれるのは助かる。この中の誰よりもお前たちがとっさの時に連携が取れやすいからな」
「そこは任せて頂戴ね」


 男女のカップルが勇太の行動に同意しつつ、その後の動きに付いて武彦に言葉を掛ける。
 短い茶髪に緑の瞳を持ち、身体には適度に筋肉の付いたいかにも美男子と読んでも過言ではない男性の名はヴィルヘルム・ハスロ。
 彼はルーマニア人とスウェーデン人とのハーフで、顔立ちは三十一歳という年齢相応に整ったものである。そして実は真祖の吸血鬼を遠い先祖に持つ。先祖の血は大分薄く、吸血鬼の弱点が通用しない。人間と同じ様に歳を取り寿命もある。ゆえに、彼にしかない特殊能力も備わっていた。


 さてそんな彼の妻である黒髪美人の女性――弥生・ハスロ(やよい ハスロ)は意外にも純粋な人間である。
 血脈を辿ってもどこにも人外の存在は居ない。では彼女は何に秀でているのか。それは独学で身に着けた『魔術』である。元々素質が有った様で、魔力は高め。攻撃に特化した俗に言われる黒魔術タイプ。治療系は得意では無く、使用は可能だが時間が掛かる。今回確実に戦闘といわれているため、普段に比べて軽装だ。そして魔術を使う際に使う武器も当然衣服に仕込まれている。


「草間さん、第一の敵は口裂け女でしたわね。わたくし、この依頼を受けた際に窺っていた『敵』について多少は調べましたの」
「アリス?」
「口裂け女は『ポマード』という言葉が嫌いなんですって。口裂け女には色んな説が飛び交っていますけど、わたくしが調べた口裂け女は美容整形に失敗した女、というのが有力でしたわ。その口裂け女になった女性が整形手術を受けた際に手術した医師がつけていたポマードの匂いがきつくて顔を逸らしてしまった際にざくりとメスが耳元の方まで……それが原因で彼女は美容整形に失敗。後は皆様が知ってのとおり、精神が可笑しくなってしまった女性というのが有力のようですわ。実際『ポマード』という言葉が効くかどうかは分かりませんが、一応お伝えしておきますわよ」
「ああ、助かる」
「ちなみに『ポマード』というのは今で言うワックスのような整髪材だと思って下さいな」


 大和撫子を思わせる綺麗に切り揃えられた長い髪の毛を持つ十五歳の美少女――石神 アリス(いしがみ ありす)から与えられた情報に武彦もとい、他の皆は「なるほど」と彼女の言葉を心の中に刻み込む。事前調査をしておいてくれた事は確かに強いかもしれない。
 しかしアリスに尋ね聞いても説が多すぎて『弱点』までは分からなかったとの事。その言葉には仕方がないと皆苦味のある笑みを浮かべるだけ。
 彼女は微笑む。この先に自分が望む『可愛らしい物』が一つでもあれば面白いだろうと――そう黒い事を考えながら。


「んー、一人は既婚者。探偵さんはー……ん〜、まぁ多めに見て八十点くらいにしておいてあげるわ♪ と、なるとあたしのストライクゾーン的には勇太クンかなぁ〜」
「レイチェル。お前、何をしにきたんだ」
「男を漁り――ごほん、もちろん、報われない伝説の人達を助けによ!」
「前半の言葉はなんだ! しかも俺が八十点だと!?」
「さーって行くわよ♪」
「くっ……無視しやがって」


 最後の協力者、腰までのウェーブがかった金髪の可愛らしい外国人の十七歳の少女レイチェル・ナイトは武彦の声を無視し、久しぶりの戦闘に楽しそうな素振りを見せる。
 今日は戦闘という事で黒のボディスーツ、しかも胸元が大きく開いたそれは非常に魅惑的だ。彼女は己の首から下げていた銀のロザリオを両手でそっと持ち上げ、「悪を滅ぼす剣となれ アーメン」と祝福のキスをする。その瞬間、そのロザリオはレイピアへと変化し、彼女の手の中へと収まる。ヴァンパイアハンターであるレイチェルの祝福を受けたレイピアは悪しき者を討ち滅ぼす力を持っているのだ。


「準備はいいか、皆。何かいう事があるなら今のうちだ」
「そうね、あたしからちょっと良いかしら?」
「なんだ、スザク」
「伝説どおりなら、仕掛けてくるタイミングはわかりやすいけれど、その後の攻撃を読む必要があると思うの。訓練された動きではないもの……狂気という凶器が一番厄介ともいうわ。あたしはなるべく皆のサポートに回る。なるべく危険を最小限に抑えるようにしたいの。だからこちらは――そうね、前衛に立つ人達は特に冷静さを失わず、相手の動きの隙を見つけるのよ」
「――だ、そうだ。他には?」


 スザクの言葉に皆頷き、そして武彦の言葉には首を左右に振った。
 此処から先は決して引き返す事の出来ない都市伝説と言う異界の地。人々が勝手に生み出した伝説に縛られて動けない哀れな『伝説』達にどうか救いを――。


「草間さん、俺はいけるぜ!」
「では私達夫婦は約束どおり皆さんのサポート役へ。……弥生、無茶はしないように」
「ヴィル、貴方もね。私、貴方に何かあったら本気で潰しに掛かるわ」
「夫婦の絆は何よりも美しい。わたくしのコレクションには加えられないものですけれど」
「アリスチャン? コレクションってなぁに〜?」
「なんでもありませんわ、レイチェルさん。さあ、行きましょう」
「ふふ、――さぁ、神の断罪を受けるがいいわ」


 前衛に武彦、レイチェル。中間に勇太、ヴィルヘルム、弥生。後衛にアリスとスザクが並ぶ。
 各々自分が得意とする武器を手にし、武彦が最後の確認をした。


 ―― そして第一の扉が開かれる。
 入り口より血塗れの筋が続いていたあってはならない『本物』へ至る道。


 第一のそこは最初の関門。
 再現された昭和染みた町並み、電柱、そして仄かな灯りの下「ソレ」は居た。長い黒髪に覆い隠され俯いた顔は表情こそ見えないがマスクをしている事は分かる。彼女は笑う。マスクの下からでも隠しきれない口端がグロテスクさを煽っていた。その足元には一人の作業員らしき人間の死体が転がっている。
 ああ、彼女は武彦達を見ると伝説通り例の言葉を口に出す。


『ねえ、あたし、きれい?』


 武彦は表情を戦闘モードへと変え、そしてタバコを床に捨てるとそれを踏み潰した。



■■■ 第一章:口裂け女 ■■■



 その言葉を聞いた瞬間、勇太の神経が切れた。
 それはもう盛大に、綺麗に、ぶちっと良い音が聞えるほどに。


「何が『綺麗?』だよ! こんだけ人殺しておいて……綺麗なわけあるか!」
「勇太!」
「勇太さん! 駄目です、そんな事を言っては」
「勇太君! 口裂け女の噂くらい知っているでしょう!? それは逆効果なの!」


 後ろから掛かった声に前衛に居た武彦、それから隣に居た弥生とヴィルヘルムが思わず叱咤の声を上げた。そして口裂け女は口を覆っていたマスクを取り外すとその耳付近まで裂けた醜い口を晒し、にぃたぁりと笑う。そして次の瞬間、武彦とレイチェルの傍に風が吹く。


「避けろ、勇太ッ!」
「――!!」


 高速移動してきた口裂け女が問いに唯一答えた勇太を、持っていた大きな調理用包丁で攻撃する。転移ではなく、高速移動。その速度に追いつけなかった前衛陣達は防ぐ事が出来ず、あっという間に勇太の方へと現れ、包丁を振るった。しかしそこはテレポート能力の持つ勇太の事。攻撃と同時に姿を消し、アリス、スザク組がいる場所まで一気に下がることに成功した。
 だが……。


「いってぇ……! マジで狂ってやがる!」
「お馬鹿さんね」
「流石に自業自得だわ――いい、わたくしが前に出ますわ」


 勇太は首を押さえ、そこに伝う血の温かさにぞっと悪寒が走る。
 皆の様子から言ってかすり傷程度ではあるだろうが、口裂け女の攻撃によって傷を負った勇太は、ぎりっと唇を噛んだ。冷静でいなさい、とスザクに言われていた事も咄嗟の感情によって吹き飛んでしまった事が情けない。


 一方、攻撃対象を失った口裂け女はすぐ近くに居た弥生とヴィルヘルムに狙いを定めた。
 彼らは何も口にはしていない。だがもはや『返答』は成された。グループ単位で現れた武彦達の返答――それは勇太の放った言葉である『綺麗ではない』と彼女は認識してしまったのだ。
 ならば次は夫婦を狙うべき。彼女はゆらりと身体を一瞬揺らしたかと思うと、またしても高速移動を開始し、夫婦へと斬りかかる。


「弥生ッ!!」
「ヴィル!?」
「――っ……! 見た目とは違って、随分と力がお強い、ですね」


 咄嗟にヴィルヘルムは妻の前に立ち、己の武器である拳銃を取り出して包丁を受け止めた。
 特殊な術式を施した拳銃は包丁によって斬られることはなく、力で現在拮抗した状態を保っている。ヴィルヘルムの後ろで庇われた形となった弥生はそんな夫の姿を見て、前に立とうとする。だが「出てはいけない!」と夫は叫ぶ。
 ならば魔術を使おうと弥生は決意する。だが、その前に聞えてきたのは少女の声。


「ポマード! ポマード!」
「アリス」
「ポマード! ポマード!」


 少女がヴィルヘルムと口裂け女の方へと近付きつつ、叫ぶ。
 そんなアリスを警護するかのようにスザクもまたゆっくりと夫婦の方へと足を進めた。


『――ぁ、……い、や……いやぁああ!』


 刹那、口裂け女は記憶を呼び起こされ、包丁を持ったまま己の両手を頭に寄せ強く左右に身体を振る。
 そしてその瞬間、前衛組が動いた。


「ちょーっと! 結局あんたも男な訳!? そうはさせないわよ!」
「弥生、ヴィルヘルム、援護を!」
「「了解」」
「俺だって、今度はやってやりますよっ」


 レイチェルが戦闘でも男性を狙う口裂け女に対して怒りを覚え、レイピアを振るう。実際は偶然男ばっかり攻撃になっただけだがそれでも彼女は許せなかったらしい。
 祝福を受けたレイピアの攻撃に気付いた口裂け女は包丁を無我夢中で振り回し、それを回避しようとする。あまりにも統一の取れていない動きにレイチェルも「ぐっ」と息を詰め、暴れだした口裂け女からやや距離を取った。


「哀れな女の人……良いわ。あたしが隙を作るからそれに合わせて皆攻撃して頂戴。――離れて!!」


 スザクはそう宣言する。
 そして黒の業火を皆と口裂け女との間に放つと、炙るような形で口裂け女の肌を焼く。その瞬間、まず口裂け女の足止めが必要だと感じた勇太は<精神汚染/サイコジャミング>で彼女の精神を揺さぶる。『ポマード』という言葉を恐ろしくなるようになったきっかけ……整形手術の時の記憶を呼び覚まさせ、彼女は一層悲愴な声を上げた。
 そして皆の一斉攻撃が開始する。
 まず弥生がナイフを使い、魔術で親指に魔方陣を浮かび上がらせるとそれを口裂け女の足元へと投げる。それは地面を揺らし、アスファルトを自由に操るとその足を完全に固定するために動いた。
 次いで、ヴィルヘルムと武彦の両方が、拳銃で心臓部や頭部を射抜く。特別仕様のそれらは当然もしもの時の為に銀の弾丸を詰めてあったが――消滅には至らない。


「やっぱり最後はあたしの出番ね! ――さあ、これでさようなら」


 無残にも人間の姿をしていたものが炎で炙られ肌は焼け落ち、更に精神を侵され、身体は魔術によって固定されてから拳銃で打ち抜かれ、最後にレイピアによってトドメを刺される。祝福を受けた剣は口裂け女の悲鳴も許さぬほど綺麗に首を斬りおとし、そしてやがて女の胴体は灰のように崩れていく。
 落ちた首だけが暫くの間その形を保っていたが、その前にアリスが立つ。そして彼女は魔力を込めた瞳で彼女の首を見つめ――首を石化させた。


「わたくしのコレクションには醜くて加えられませんわ。ごめんなさいね、口裂け女さん」


 そして彼女はその首を粉砕するため足で踏んだ。



■■■ 第二章:ベッドの下の男 ■■■



「私、治癒系は時間が掛かるから苦手なのよね」
「す、すみません、弥生さん」
「反省してる?」
「……はい」
「とりあえず綺麗に塞がったからこれで大丈夫。傷も残らないわよ」


 次の相手に行く前に一旦、何も出てこない部屋で勇太は弥生の治癒魔術を受け首の傷を治療してもらう。どうやら軽いと思っていたのだが、押さえていた手を外すと意外にも深かったらしい。あと僅かテレポート発動が遅ければどうなっていたか……そう考えると本気でぞっと出来る話である。


「ここは隙間女の部屋だったみたいね。ああ、でもかわいそうに。隙間に男の方がぐしゃりと……」
「隙間女も調べてますわ。ある一人暮らしの男が突然視線を感じるようになった。でもどこを探してみても視線の元は見当たらない。友人らに相談し、皆で探してみたところ見つかったそうですわ。……僅かな棚と壁との隙間の存在する薄っぺらい女性の姿を」
「うっわ、何それ。新しいストーカー方法?」
「一説によると『新しい彼女が出来たんだ』と言ってある男が友人を招待したところ、隙間女と仲良くしていたという話もあって、馬鹿らしくなりましたわ。草間さん、資料によると一体どちらがモチーフでしたの?」


 スザクが棚と壁の隙間に引き込まれ潰れている男性の姿を見つけ顔を悲しみに歪める。それに対してアリスは調べた情報をまたも口にし、イケメンを探す事に対して手段を選ばないレイチェルですら呆れた息を吐く。
 武彦は勇太と弥生の方を見てから女性三人の元へと行き、引き込まれた哀れな男に適当な布を被せる。流石に女性にこれ以上死体を見せるのはよくない。


「資料によると客が部屋に入ったら何者かの気配を表現するんだ。そこら辺を歩いているような、そっと潜んでいるような音を立ててな。で、客が怯え始めたらその棚の隙間から作りものの隙間女が姿を現してにたりと笑う、って仕組みだったらしい。前者の『視線を感じる』ところが恐怖ポイントだったようだな」
「引き込まれた男性はどなたなのでしょうか?」
「…………同業者だな。失踪者リストに同じ服の男が載ってる」
「私達もこうならないように気をつけましょう」


 武彦は資料を捲り、説明を終える。弥生の言葉に皆頷いた。
 休憩を終えると、自動扉で繋がっている通路を歩き、やがて三番目の部屋を通り抜け、四番目――『つまりベッドの下の男』の存在しているという部屋の前に立った。途中皆やるせない気持ちを抱えながら被害者の死体を見つけては布で隠し、逆に先陣者が隠したと思われる布のふくらみも見つけた。
 あと二つ。
 あと二つの伝説を葬り去れば解放される。


「ねえねえ、草間さん。俺考えがあるんですけど」
「なんだ、言うだけならタダだから言ってみろ」
「ベッドの下の男ってベッドの下にいるからそう名付けられたんすよね? じゃあ、いっそ相手が出てくる前にやっちゃうっていうのはどうでしょうかね」
「具体的には何かあるのか」
「じゃあ、今回は俺が前衛で、後の皆は後ろに下がってて貰っていいですか?」
「一人で平気なのか?」
「いや、っていうか俺も多分これで解決しちゃいそうな気がするんですよねぇ。上手くいけば」


 具合的な案を言わない彼にじーっと視線が集まるのは当然といえよう。
 だが、勇太はお願い! と両手を叩き合わせ下げた頭の前に持ってくる。どうするのが良いか武彦は一旦皆に聞くことにした。


「『ベッドの下の男』……この話、わたくしの趣味じゃないので任せますわ」


 これはアリスの言葉。


「うーん、別にやるだけやってみてもいいんじゃないかな〜? 口裂け女より害は無さそうだし」


 これはレイチェルの言葉。


「あたしはサポートには回るわよ。さっきみたいな変な真似だけはしないでくれたらそれでいいんじゃないかしら」


 これはスザクの言葉。


「同じく、勇太さんのサポートには参ります。念のため後ろで待機ではなく前に出ましょうか。不意打ちという言葉がありますしね。いざとなれば庇います」


 これはヴィルヘルムの言葉。


「じゃあ私はヴィルヘルムの後ろで魔術の準備をするわ。可能であればベッドから出て来て貰う方法を考えようと思っていたんだけど、勇太君に何か考えがあるみたいだし、そっちが成功するなら何よりだと思うしね」


 これは弥生の言葉。
 全員の返答が出揃ったところで武彦も一度嘆息した後、勇太の頭をぐしゃりと撫でた。


「ヴィルヘルムと俺との間に居ろ。俺も前衛に出る」
「よっしゃ!」


 それなりに快い返事に勇太はガッツポーズを決めると、武彦とヴィルヘルムの間に並び、女性陣はその後ろからサポートと言う形で陣営を変えた。
 やがてシュンッと音を立てながら開く自動扉。
 開かれた第四の扉。
 誰かの部屋の中を再現されたそこは特に広くもなく、女性陣は扉付近で待機する事となる。


『……う、ぁ……ぁ』


 聞えてくる呻き声。
 本来のベッドの下の男の話では登場人物は多種多様だけど、共通している事がある。それは部屋の住人が友人とお泊り会を開いた時、その友人が「ねえ、ちょっと買い物に行こう!」と誘うのだ。夜中だったため部屋の持ち主は拒否するが、それでも友人は譲らない。やがて外に出てから、友人は真っ青な顔で言うのだ。
 「今、ベッドの下で斧っぽいものをもった男が潜んでいるのを見た」……と。
 そして警察に駆け込んで捕まるオチも有り、殺人は未然に塞がれたという都市伝説だ。


 だがアトラクションではそんな誰もがベッドの下を覗き込んだりなどしない。特にこの都市伝説を知らなければなおさらの事である。だから音を立てて気を引くように仕向けた。
 部屋の中を見るだけなら誰も居ない。
 探せ、探せ、音の発信源を。
 そして気づけ気づけ、ベッドの下の男を。


「……俺ね、思ったんですよ。ベッドの下にいるって分ってるならベッドごと押し潰してみたらいいんじゃね? って」
「え?」
「は?」
「と、いうわけで……えいっ!」


 どきどきしながら勇太は目を伏せ、己が出せる最大限の力――サイコキネシスでベッドを潰しにかかる。ベキベキと木製で出来たベッドが悲鳴を上げ一気に圧力を受けて潰れていく。そして。


『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!』


 ベキ、バキ、ボキ。
 嫌な音が響き、やがてベッドと床が密着する頃、男の悲鳴が上がる。だが男とて簡単に潰されたくはない。足掻きに足掻いて外に出ようと手をべた、べたっ! と叩くようにベッドから出し、自分の身体を引き出そうとする。そしてもう一方の手が斧を掴んだまま出てきた時、ハッと皆意識を戻し、サポートに入った。
 確かに勇太の言う通り、男にベッドの下から出て来て貰う必要はない。むしろベッドの下にいるのならば相手自ら戦闘フィールドを狭めているのだから好都合と言うもの。今、男は手と……もうすぐ頭が見えるであろう所まで頑張って出てこようとしている。
 出てきてしまえば戦闘フィールドが広がってしまう。それよりかは――。


「魔術で焼くわ! 三人とも熱いから下がって!!」
「同じく――黒の業火!!」


 弥生は今度は人差し指に魔方陣を出現させ、炎を竜の如くベッドへと襲い掛ける。スザクもまた己の黒い炎を使い肉体を持たない『彼』を焼く。
 武彦とヴィルヘルムはサイコキネシスでベッドを潰す事に集中している勇太の両脇を片方ずつ掴み、引き摺って後退する。狭い部屋の中で轟々と勢い良く燃えるベッドと……哀れな殺人鬼。やがて暴れるのも止め、手が動かなくなった頃武彦は勇太の頬を叩く。それでやっと勇太は集中を途切れさせ正気を取り戻すと、はぁっと息を吐き出し、そして笑みを浮かべVサインを突きつける。


「ほら、成功したでしょ!」
「まあな。良くやった」
「お疲れ様ね。今回は怪我人もいないし次の部屋に進みましょう? 正直、あまりこの肉の焦げたような匂いを嗅ぐのは嫌ですもの」


 勇太は武彦に褒められ満面の笑みを浮かべる。
 アリスは鼻と口元を押さえながらもう此処に用はないとばかりに先へと進んでしまった。その意見には皆賛成で、ヴィルヘルムは弥生の疲労を多少気にしながら彼女の肩に腕を回しつつ先を行く。スザクは燃えカスとなり消えた男の存在に対して「お疲れ様」と小さく呟いた。
 さて最後に残ったレイチェルもまた皆の後に続く。しかし自動扉が閉まる瞬間、彼女は僅かに振り返り、哀れみの目で今はもう居ない男に一言だけ言った。


「あんたそんなだから女にモテなかったんじゃないの?」



■■■ 第三章:メリーさん ■■■



 一階の部屋をもう一つ分だけ通り抜ければ階段が現れる。
 武彦は資料を取り出し、皆と共に通路の再確認をしてから先陣を切った。後はもう二階に上がり、最後の部屋に行くだけだ。途中現れる数々の死体には目もくれず一直線にその部屋へと向かう。


 そして辿り着いた最後の扉の前。
 『メリーさん』の部屋だ。
 皆が決して辿り着けなかった最後の伝説。このアトラクションの中で最強の伝説だったのか、それとも彼女自身まで辿り着ける人物が居なかったのか……それは分からない。


「メリーさんに関してはわたくしが興味あります。他に興味がある方は?」


 アリスが皆に声を掛け、ふふっと笑う。
 皆暫し考えた後、勇太がちょっと遠慮気味に手を上げた。


「ではわたくしと勇太さんで中に入ります。皆様はサポートを宜しくお願い致しますね」


 さあ、行きましょうとアリスが中に入ると同時に勇太もまた中へと入る。
 開かれた扉の向こう側には玄関を模した廊下があり、自分達側がリビングから見ているような光景になっていた。
 そして棚が一つ玄関前に有り、その上に家庭用電話が置かれている。


 メリーさん。
 それは少女が引越しの際、昔から大事にしていた外国製人形「メリー」を捨てたところから始まる話。
 ある日捨てた少女の元に電話が掛かってくる。「あたしメリーさん、今××にいるの」と。電話は何度も掛かってくる。そしてその度に今、少女が住んでいる場所へと近付いてきている事を告げられ少女は怯えた。やがてまた電話が。取らずにはいられない電話に少女はまた聞いてしまう。「あたしメリーさん。今あなたのお家の前にいるの」少女は泣き出しながら扉を開くが誰も居ない。やっぱり悪戯電話だったんだとほっとしたのもつかの間、またしても電話が。
 そして――。


『あたしメリーさん。今貴方の後ろにいるわ』


「……この手口、狙った男を逃がさない為に使えそうかしら……」
「レイチェル!!」
「いやん! だって結構これ面白い話じゃない? 探偵さんだってそこまでして追いかけてくれる女の子いたら胸きゅんしちゃわない!?」
「ストーカーの域だろうが!」


 レイチェルと武彦の会話に皆思わず脱力してしまう。
 メリーさんの話で何が怖いかと言うと、この話には『オチがない』のである。少女が一体どうなったのか、人形がどうやって少女の住まいを突き止めたのか。何も続きがないのである。


 不意に着信音が鳴った。
 それはもちろん棚の上の電話からだ。勇太とアリスは顔を見合わせるとまず勇太が受話器を取り、そしてそれを耳に当てる。


『あたしメリーさん、今、――
「……お掛けになった電話は現在使われておりません」
――にいるの。うふふふふ!』


 プチ。
 そこで切れてしまい、後はツーツーツーと虚しい音が響くだけ。


「しまった! 俺が喋ったせいで今どこにいるのか聞こえなかった!!」
「もうあっちに行っておいて下さい」


 勇太は頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
 アリスはふぅっと呆れた息を吐き出し、勇太を他の皆のところへと行くよう指先で突いた。
 そしてまたしても電話が鳴り出す。今度はアリスがきちんと皆に目配せした後、静かに受話器を耳に当てた。


「はい」
『あたしメリーさん。今やっと一階にやってきたわ、待っててね。もうすぐよ』


 プチ。
 ツーツーツー。


「今、一階に居るそうですよ。普通にマンションを舞台にしているのか、それともこのアトラクション自体を言っているのかは分かりませんでしたが……」
「メリーさんは最後には少女の後ろに出現するんだよな。アリスの後ろに出現した時が攻撃時か?」
「……草間さん。私の能力に暗示があるのですが、効くかどうか掛けてみましょうか。暗示でアリスさんではないものをアリスさんに見せてどう行動するのか見るというのはどうでしょう」
「あ、また掛かってきました。……取りますね」


『あたしメリーさん。今ね、口裂け女の部屋を通り過ぎたわ。なにあれ、酷い』


 プチ。ツーツーツー。


「口裂け女の部屋を通り過ぎたらしいです」
「アトラクションを舞台にしているのね。と、いう事はあたし達の後ろに現れる可能性があるってことになるわ」


 アリスの報告に気付いた事を口にしたのはスザク。
 皆一斉に後方へと視線を向けるがそこにはまだ誰の人影もなし。


「作戦を変えよう。メリーさんは俺達の後ろにも現れる可能性がある事が判明した。という事は背中合わせになっておいた方が安全そうだ」
「その方が良いかもしれないわ。問題はメリーさんが一体どこを『玄関』にするかよね」
「弥生? それはどういう意味かな」
「ヴィル、あのね。メリーさんはもちろん最後には少女の後ろ……多分アリスちゃんの後ろに現れると思うの。でもその前にメリーさんは『今玄関にいるわ』と言う電話を絶対に鳴らすの」
「確かに、それは絶対に変わらない話ですよね。メリーさんの話って派生も多いんですけど、絶対に玄関に来た事は伝えてる気がするよなぁ」
「それはあそこにあるアトラクションの中の玄関か。それともあたし達が今立っているこの扉なのかどっちなのかしら。興味あるわ」


 弥生の意見に皆眉根を寄せる。
 ルート的には自分たちの居場所が扉だ。しかしアトラクション的には自分達の向こう側にある扉こそが『玄関』。メリーさんはどっちから来るのか。
 スザクも相棒の傘を握り締めながら少し緊張する。今までで一番時間の掛かる戦闘で、気が疲れると正直思う。そしてその分恐怖も増幅する。


「……掛かってきました。取ります」


『あたしメリーさん。今ベッドの下でいつも隠れた男の部屋を通り過ぎて階段を上っているの。ねえ、どうして燃やしちゃったの? あの人まだ誰も殺してなかったのに』


 プチ。ツーツーツー。


「階段を上っているそうです。あとあのベッドの下の男、まだ誰も殺してなかったそうですよ。メリーさん曰く、ですが」


 やってくる。
 メリーさんがやってくる。
 自分達と同じ道筋を辿ってやってくる。もしかしたら、もうすぐその姿を現すのかもしれない。それとも道筋を飛ばしてアリスの後ろへ?
 やってくる。
 メリーさんがやってくる。
 何をしにやってくる?
 少女を探して、持ち主の少女に会って、それから、それから彼女は何をする?
 ああ、またもう一回電話が鳴った。


『あたしメリーさん。沢山の人でいっぱいだから通れない。もう貴方の傍に行くね』
「あたしメリーさん。沢山の人でいっぱいだから通れない。もう貴方の傍に行くね――と」


 アリスは聞いたままを復唱し、そして受話器を下ろした。
 沢山の人でいっぱいだから通れない。それは武彦達の事を指しているのなら――。


「アリスさんが危ないですわ!」
「アリスちゃん次の電話は取らないで!」


 だがアリスは人差し指を一本立て唇に乗せる。
 その唇が声無き音で紡いだのは「 だ い じ ょ う ぶ 」。
 そしてスカートのポケットからコンパクトミラーを取り出すと自分の顔が良く見えるように、……否、その後ろがよく見えるように角度を変えた。
 さあ、おいで。
 やっておいで。
 メリーさんがやってくる。
 やってくる。
 もうすぐそこまで、――少女の後ろまで。
 さあ、最後の電話を鳴らして彼女はやってくる。


『あたしメリーさん。今貴方の後ろにいるの』
「あたし、アリスと言うの。今、貴方を……わたくしのものにしちゃいますわ」
『――え、ぁ……ぁぁああああ!!!』


 ピキ、ピキピキピキ……!!
 アリスの後ろに瞬間的に現れた外国製人形メリー。彼女はアリスの石化の瞳である魔眼に鏡越しで見つめられ、身体を石に変えていく。その光景を見ていた武彦達は慌てて中へと突入した。


「アリス!」
「アリスちゃん!」
「おい、大丈夫なのか……」
「どこも怪我とかなにか可笑しい事を吹き込まれたりとかしなかったかい?」


 口々にアリスに声を掛け、そしてヴィルヘルムがその肩に手をかけ自分達の方へと向けようとする。しかし彼女は「大丈夫ですわ」と一言言うと、石化して今は廊下に落ちてしまっているメリーさんに近付くとそれはそれは愛しげに微笑みながらそれを抱いた。


「こう言うかわいい子がわたくしの趣味なの」


 メリーさん、つーかまえた。



■■■ 終章:そして出口へ ■■■



 メリーさんの部屋を出るとそこは出口と書かれた階段に繋がっていた。
 武器を仕舞った後皆で降り切ると、武彦が携帯で連絡したせいか慌てて依頼人の男がアトラクション出口まで掛けてくるのが見える。その後は二人で今回の件に付いて色々話した後、依頼人の男が勢い良くお礼の言葉を述べているのが見えた。
 テーマパーク設置の時計を見ればまだ十五時くらいで、意外にも時間が経っていない事が分かってびっくりした。


「勇太クン、勇太クン! 本当に首の傷大丈夫!?」
「大丈夫だって! ホントにあれは俺が悪かったんだから!」
「あーん、あたし本当に心配したんだからー!」
「ご、ごめんって! ほら、もう依頼も終わったし、まだ閉園まで時間があるし遊ぼうぜ!」
「はっ、それってデートのお誘い!? よっしゃー!」
「え、デート?」


 勇太的には「皆で遊んで帰ろうぜ」の意味だったのだが、レイチェルには二人きりだと思われたらしい。ついでに「あれ? なぜ俺は女の子の腕に掴まれて走り出しているのでしょうか」と勇太は思ったとか。
 でもまあいいかと彼は思う。皆無事だった――それが一番嬉しくて。


「弥生。身体に負担は掛かっていないかい? 今回結構魔術を使っていただろう?」
「ヴィル……大丈夫よ。一番疲れたのは勇太君じゃないかしら。ベッドの下の男の時のサイコキネシスは凄かったわね」
「彼は若いし、体力もあるから良いんだよ。今回は私はあまり役に立てなかったな。草間さんに申し訳ない」
「何言ってるの。口裂け女の時に私を庇ってくれたヴィルはとっても格好良かったわ」
「……弥生」
「ね、私達もデートに行きましょ。遊園地なんてそう滅多に来れない事だし」
「そうだね。ゆっくりと残りの時間を楽しもうか」


 夫婦は夫婦で幸せそうに会話をし、武彦に別れの言葉を告げるとそのまま別のアトラクションへと姿を消す。彼らは一体どんな時間を過ごすのだろうか。


「あなたはどうするの?」
「ふふ、わたくしはこの手に入れたばかりの可愛い可愛い子を愛でに帰ります。そちらは?」
「そうね、あたしも今回はちょっと疲れたからもう帰ろうと思うわ。途中まで一緒に帰らない? なんなら喫茶店でお茶でもしましょ」
「良いですわね。今日の感想でも語りながら」


 スザクの言葉にアリスが乗る。
 武彦にお別れの挨拶をしてから彼女達も去った。


―― 寂しい。
―― 辛い。
―― 終わらせて。
―― 鎖を解き放って。
―― どうか。
―― どうか。


「任務終了。――さて、俺もまたタバコでも買って興信所に戻るかな」


―― どうか、彼らにも『安らぎ』を。


 武彦は残り一本になっていたタバコの箱をぐしゃりと握り潰すと近くにあったゴミ箱の中にぽいっと捨てた。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7919 / 黒蝙蝠・スザク (くろこうもり・すざく) / 女 / 16歳 / 無職】
【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】
【8555 / ヴィルヘルム・ハスロ) / 男 / 31歳 / 請負業 兼 傭兵】
【8556 / 弥生・ハスロ (やよい・はすろ) / 女 / 26歳 / 請負業】
【8519 / レイチェル・ナイト / 女 / 17歳 / ヴァンパイアハンター】
【7348 / 石神・アリス (いしがみ・ありす) / 女 / 15歳 / 学生(裏社会の商人)】

【登場NPC】
 草間武彦(くさまたけひこ)
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、参加有難うございました!
 三つの戦闘という事でこうなりましたがいかがでしたでしょうか?
 皆様の動きを統合した結果こんな風に解決していく形になりました。怪我人は勇太様のみ、でも弥生様に治癒してもらって問題なしという結果です。


■ヴィルヘルム様
 夫婦来た!! と大喜びでございました。
 シチュノベでは甘い二人を書かせて頂いてましたので、今回はそんな二人の絆みたいなものを感じて頂けたら嬉しいなと思います。