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<東京怪談・PCゲームノベル>


+ ある一夜の夢 +



 夢を見ている。
 夢でなければ説明が付かない。
 そうだ、これは夢だとも。


 でなければこんな変化――どうしたらいい!?


「何故私は小さくなったあげくこんな姿になっているのだー!?」


 だー……だー……だー…………。
 響く自分の声に私――人形屋 英里(ひとかたや えいり)はがくっと脱力する。今の私の姿は普段のゴシックロリータ姿ではなく、赤の水干姿。しかも聞いて驚け。本来、私は十代後半の女のはずなのだが何故だか身体が縮み、五、六歳ほどの姿になっているのである! 更に言えば狐の耳と九本の尾がふさふさと私の身体に生えて――ああ、狐好きな私にはなんて理想の……っていやいや、そこは浸ってはいけないところだな、ごほんごほん。
 普段とは違い地面が近く、違和感が拭えない。下を見やれば白足袋を履き、草履姿であることすら分かる。
 そして私がこれが夢だと判断した理由。それは今私がいる場所が真っ暗闇の空間だからだ。普通なら何かしら建物があったり、自然物があるだろうに、そう言ったものは一切無く、ただどこまでも暗闇が広がっているのみ。


「「確かに此処は<夢>」」


 ふと重なった声が聞こえそちらの方向へと顔を振り返らせる。
 そこには対称的な黒い髪型を持った少年が二人立っていた。前髪の隙間から見える瞳が僅かに闇と言う世界の中、それでも色を見せる。
 一人は左が蒼、右が黒。
 もう一人は左が黒、右が蒼というこれまた対称的なヘテロクロミア。
 顔がそっくりという事は双子なのだろうか。


「それで貴方はどうしてここに迷い込んだんです?」
「それでお前はどうしてここに迷い込んだんだ?」
「もしかしてその異常を治しに?」
「もしかしなくてもその異常を治しに?」


 治るのか!?
 そう顔を持ち上げ彼らを見る。二人は楽しげに服の袖を口元に当てて笑った。


「「心の底から治して欲しいって言うならその方法を導こう。<迷い子(まよいご)>がこれが夢だっていう事を忘れてなければだけれど」」


 二人の言葉に再度、私はここが『夢』であることを認識する。
 夢であるのならばこの姿にも納得がいった。しかしおかしな夢だ。狐好きであるとはいえ、私自身に狐の耳と九本の尾が付くなどまるで妖怪のようじゃないか。これではまるで九尾の狐。――ああ、しかし私はちっこくなってもそれなりに可愛――。


「って何故全身鏡が此処に!?」
「折角ですし、自分の姿を再認識してもらった方が面白いかなって思いまして」
「折角だし、お前自身の姿を改めて確認して貰った方が面白い展開になるかなって」
「お前達、私で遊ぶなー!!」


 なー……なー……なー…………。
 やっぱり暗闇に響く私の声。両手を振り上げてぷんぷん怒っても少年達二人に気にした様子は無い。むしろ急に出現させた全身鏡をじりじりと近づけてより一層私の今の姿を認知させようとする。なんだこいつら。一体何が目的なんだ。


「僕達の目的は貴方を導く事」
「俺達の目的はお前を導く事」
「「 戸惑いよりも何故その姿になったのか教えるため、ただ此処にいるだけ 」」


 ふわりと彼らは浮き上がり、そして私を左右から取り囲み宙に浮きながらしゃがみ込むと片方はにこにこと、もう片方はにやにやと笑顔を向けてくる。
 一体何故一般ピーポーな私がこんな状態になっているのか本当に教えてくれるのだろうか。胡散臭くて俄かに信じがたいのだが。


「では一つ教えてあげましょう」
「今のお前に出来る、ちょっと楽しい力」
「「 それは今までより数多くの狐を召喚し、喋る事が出来るという事 」」
「なん、だ、と!?」


 私は相手が私の考えを読んでいるという事すらもはや夢の世界と言うご都合主義なのだろうとすっかり馴染んでしまっている。
 いや、それよりも今彼らが発言した事は大事な事だ。それはもう私にとっては大事で、そして重要で、素晴らしい事なのだ。
 多くの狐の召喚――狐好きの血が騒ぐではないか。
 そしてその狐と喋れるという話――まさに楽園!!


「どうするのだ! どうやってやればいいのだ!?」


 私はすぐにその言葉に喰らいつき、召喚方法を彼らに習う事にした。



■■■■■



 もふもふ。
 ふわふわ。
 もこもこ。
 きゅんきゅん。


「幸せだ……」


 少年達二人に教えて貰った召喚方法。
 それは単純に自分がおいでおいでと真剣に願う事、ただそれだけだった。私は最初こそ胡散臭い話だと思ったが、実際やってみると……ああ、楽園である。普段は二、三匹が限度の私の狐呼び能力も夢の世界ならご都合主義と言うやつに変わるのだな。今私の周りに居る狐達は呼べるだけ呼んでみたところ数十匹も集まっている。時々喧嘩をする奴等もいるが、そこは私が仲裁をして事なきを得ていた。


『なんだい、あっちの狐が悪いんだい』
『違うよう! あっちだよぅ!』
「これこれ、お前達やめんか。皆仲良くやればいいのだ。ああ、ふわふわもこもこ……!」


 そしてまた喧嘩しそうな二匹の狐を見つけると私は小柄な身体を目一杯使って二匹を抱きしめる。感情によって動いてしまう耳と尻尾は邪魔だが、狐達と喋れるという状態は非常に嬉しいし楽しい。
 ――狐の楽園! まさに私の天国!


「英里さん、幸せそうだよね」
「あいつ自分がなんであんな状態になってるのかもうどうでも良くなってないか?」
「――そ、そんなことないぞ! 狐のふわもこは正義なだけだ!」
「まあ、僕達は別に貴方がどう動こうと構わないんですけどね」
「これも一夜の夢だしな。目が覚めればお前はいつも通り一般ピーポーとやらに戻るだけ」
「ぐ、ぐぐ……――わ、私だって」
「ん?」
「お?」
「私だって……自称一般ピーポーとは言っているが……自分が普通ではないことくらいは、理解しているつもりだ」


 電子機器に近付けば壊れ、触れても壊れ、酷い時はただそこに居るだけで部屋の中の電子機器がパチッと音を立てて弾け、煙を出す。他の人間には決して起こりえない事象を私は『異常』だと理解はしていた。だけど『何故そうなるのか』がわからないのだ。それゆえに対策が取れず、出来るだけ電子機器の近くに行かないようにする事くらいしか対策が取れない。
 自分の趣味の家庭菜園だってそう。
 明らかに他の人とは違ってすくすくと元気に――というか、元気が良すぎて豊作ばっかりなのも可笑しいとは思っている。だって私は普通に水をあげているだけで、特別専門家のような事はしていないのだ。土壌が良いのかと最初は思ったが、土を分け与えた知り合いが同じように育てても結果は『普通』だった。


「私は一体なんなのだ。面倒な事を避けるために一般人ピーポーだと主張しているが、私はやっぱり普通ではないのか?」


 赤い水干。生えた狐の耳に九尾。夢とはいえ自分が狐になりたいなどと私は願った事は無かったと言うのにこの姿。
 実は私は変化した自分にも若干納得がいっていなかったのだ。


「これは縁(えにし)」
「お前を繋ぐ糸」
「この夢は本当の貴方に繋がるためのきっかけ」
「きっかけからどう繋ぐかはお前次第だけど」


 少年達二人は私の訴えに対して狐達と戯れながら答える。
 だがやがて狐達から手を離し、彼らは私を見、再び全身鏡を何も無い空間から取り出した。私は今度は自分の意志でその鏡と対面する。そしてその鏡の表面をなぞりながら記憶を巡った。
 幼い頃の自分はどんな姿だっただろうか。
 幼い頃の私はどんな暮らしをしていたのだろうか。
 誰と一緒に過ごし、誰と共に生きて、誰と――――。


「思い出せないが……これも縁(えにし)か」


 私は自分の頭に生えている狐の耳を撫で、そして九本の尻尾を握りそして梳く様に撫で上げた。これが何を意味しているのかは分からない。だが記憶は戻らなくても自分の糸を掴むきっかけがあるなら、私はそれをこの手で握り締めよう。
 足元に集う多くの狐達が私を見ている。
 ……それはどこか懐かしい光景。記憶にはないのに、何故か一筋涙が零れた。


「私は私と向き合おう。決して逃げない事を此処に誓う」


 ぐっと涙を袖で拭いながら鏡の中の少女は凛とした表情と声でそう宣言する。
 その声を聞いた少年二人は、「「 迷ったらまた此処においで 」」と言ってくれた。その言葉はなによりも胸に響き、心が温まる。


 ああ、――これはある一夜の夢。


 私は目が覚めた時、何かに向かって手を伸ばしていた。そしてその手を握り込むと口元に当て、「縁(えにし)、か」と小さく呟いた。








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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8583 / 人形屋・英里 (ひとかたや・えいり) / 女 / 990歳 / 人形師】

【NPC/ スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、ゲーノベへの参加有難うございました!
 今回は英里様の若返り&狐変化……それが英里さまの大事な部分に繋がるかもしれないというところにドキドキしつつ、若干ギャグテイストなシリアスとなりました。

 今後また迷いが生じたら遊びに来てやって下さい。
 彼らはいつでもお待ちしております。

 ではでは!