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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


+ それはとても良い××天気な日で・2 +



「よいしょ、……っと」


 例のうっかり事件にて氷像となったティレイラをアリアは氷で作った台車に乗せ、自分の家へと運び込む。十三歳の少女にはちょっと重労働だったが、普段もそれなりに重たい台車を引き、アイス屋さんをしているアリアの事。なんとか自分の部屋まで運び込むとふぅっと一息付く。
 そして最終的にはえいっと氷像を自分のベッドへと押し倒し、そのまま自分も隣に寝転び、氷像をまさかの抱き枕にしてゴロゴロと寝転び始めた。途中当然夕食の声が掛かったり、風呂に入るよう言われるが、アリアはその度にティレイラが氷像から元に戻らぬよう部屋の温度をかなり下げてから行動をすると言う徹底振りを見せる。
 やがて寝間着に着替えた彼女はやっとティレラに集中出来ると満面の笑みを見せ、そのまま彼女を再び抱きしめながらその夜は心から幸せな気分で就寝する事にした。


 次の日。
 彼女はふぁあと欠伸を漏らしつつ目を覚ます。


「あ、れ。ティレイラちゃんのお服、壊しちゃった……」


 抱き枕にしていたため、アリアはティレイラの可愛らしいスカートを凍らせたまま割ってしまっていた。もう使い物にならないと判断した彼女はそのまま慎重に服だけ剥がすと満足し、それから未だしっかりとティレイラ自身はしっかり凍っている事を確認してから微笑みかける。


「アイス、売りに行くの」


 今日もお仕事しなきゃ、とアリアは商売人魂からかぐっと小さな拳を作るといそいそと服を着替え、そしていつも通り台車を引き、アイスを売りに出かける。


「アイスー、アイスはいりませんかー? 美味しいアイスですよー!」
「あ、アリアちゃんだー。バニラアイス一つちょうだいー!」
「はい、バニラアイスです」


 その少女の微笑みはアイスの冷たさで得られる癒しと共にお客さんに配られていく。そしてお客様からも返って来る笑顔。それがアリアにとって何よりの幸せだった。
 だからか、アリアはまだ気付かない。
 寝惚けていたせいで『うっかり』が発動している事に。



■■■■■



 一方、その頃のアリアの部屋。
 今は真夏。じりじりとした夏の日差しが差し込んでくる。室内もそれと共に室温が上昇し、次第に暑さが増してきた。そうアリアがうっかりしていた事、それは――。


「ぷ、はっ!! やっと氷が溶けて来たよぅ〜!」


 部屋の温度を下げずにいつも通り出かけてしまったことである。
 この事によりやっとティレイラを拘束していた氷が溶け始め、彼女は次第に身体の自由を取り戻す。最初顔の部分が溶けた時、自分の状態を把握するため自身の身体を見渡した彼女は何故か下着姿である事に気付き、「ええ!?」と動揺してしまったものだ。
 部屋の状態を見ると割と可愛らしいぬいぐるみなどで飾られてる普通の女の子の部屋なのでここは雨宿りで一緒になった少女、アリア・ジェラーティの部屋っぽい事は確かなのだが……一体自分の身に何が起きていたのか。ティレイラはやっと完全に動けるようになると下着姿のまま最初に部屋を、そしてそれが終わると家の中を探索する事にした。
 窓から出て行くことも可能だったのだが……なんせ今の彼女は下着姿。さすがに乙女として下着姿のまま空を飛ぶ事には非常に抵抗があった。部屋の中で服を見つけることにも成功したが、残念ながらサイズが小さすぎて合わずに、彼女は肩を下げる結果に。


「普通の家みたい。あっちはアイス屋さんみたいだったし〜。やっぱりアリアちゃんのお家だよね。うーん、あたしあれから何があったんだろう」


 記憶が飛んでしまっているティレイラは胸の前で腕を組みながら考える。
 だが考えても仕方が無い。前向き、ポジティブという言葉が似合う彼女は決して現状を悲観せず、なんなら今の状態を楽しんじゃえ! という心持ちで探索を再開させた。
 その後なにやら怪しげな扉を見つけ、彼女は一瞬立ち止まる。普段ならば何も考えずに扉を開くが……。


「ま、いいか! 入っちゃえ」


 ……やっぱりあまり何も考えずにティレイラはまるで導かれるかのようにその扉を開き、中へと入った。


 するとそこはまるで工場のようで幾つかの機械が置かれている。研究所や開発所という言い方も似合いそうな場所であった。
 一体何を作っている場所なのだろうかと首を傾げつつ、彼女は一番傍にあったタンクらしき物の傍に寄った。するとなにやらそこからは美味しそうな匂いがするではないか。興味をそそられた彼女はタンクに取り付けられたはしごを上って行く。若干ひんやりとした金属の蓋に触れ力を込めれば、意外にもその蓋は簡単に開いてしまった。すると中からは冷気が溢れ出し、下着姿の彼女の肌を冷やす。思わず氷像にされた事を思い出しひやっと青褪めるが、中からは冷気と共に良い匂いが彼女の鼻をくすぐった。
 恐る恐る中を覗けばそこには美味しそうな匂いの元であろう液体が入っており、彼女はそっと指を伸ばしそれを指先につけて舐めてみる。


「わぁ、美味しい! これバニラ味だわ!」


 毒ではないと判断したティレイラはその後夢中になってその液体を舐め続ける。
 肌寒いのは厳しいが誘惑には逆らえない。それにお腹がすいていたのもあり、彼女の手は止まらない。その為か――。


「ただいま、なの」
「きゃっ!」


 バシャンッ!!
 もっと舐めようと身体を屈めた途端、彼女はそのタンクの中に足を滑らせて落ちてしまう。しかもこの部屋の持ち主であるアリアが戻ってきた、その瞬間に……だ。
 液体塗れになってしまったティレイラはなんとかタンクの縁に掴まりながら上がってくる。泣き面に蜂とはまさにこの事で――しかも不運はまだまだ続く。
 ティレイラの視線の先もといタンクの下ではアリアが不機嫌そうな表情でじっと白い液体に塗れた彼女を見上げていた。これは非常にまずいところを見られたと判断したティレイラは慌てて酷く冷たい液体に濡れた状態ではあるがタンクから抜け出し、階段を下りた。


「ア、アリアちゃん、あのね、これは――」
「巨大アイス、作り直し……その体で、弁償して……」
「え?」
「弁償」
「アリアちゃん何を言って――っ!? きゃぁああー!!!」


 アリアはティレイラが謝罪の言葉を口にしようとした瞬間、自身の能力を使う。
 これにもまた抵抗出来なかったティレイラは徐々に自分の身体を覆っている液体――アイスの原料と混ぜ合わされ、その身を『アイスの像』へと作り変えられてしまう。
 少女の身体から放たれた冷気は「巨大アイス製作研究」の邪魔をされたという恨みもあり、普段より一層冷たい。だがティレイラが完全にアイスの像へと変わってしまうとそれは一変する。アリアはまたしても台車を使い、冷気を塞ごうと顔の前で手を交差させた格好で固まってしまったティレイラの像を乗せるとそれをリビングへと運ぶ事にした。
 やがてリビングに運び込むとアリアはティレイラを非常に大きな氷の器へと乗せ、その出来栄えをうっとりと観賞する。


「ティレイラちゃん、美味しそうなアイスになった……とっても可愛いの」


 巨大アイス作りはまた一からやり直しではあるが、これはこれでアリアの心を和ませ、そしてついついティレイラを溶かさない程度に頬や髪などをぺろぺろと舐めて味わう。美味しい……と自分のアイス作りの腕も悪くないと自信も付く。


 それからどれほど経った頃だろうか。
 変わらずアイスティレイラ像の観賞と、時折味見のように舐めていると電話が鳴った。アリアは素直にその電話を取れば、その電話の相手はなんとティレイラの師匠だと名乗った。雨宿りをしていた時にティレイラが話をしていた人だとアリアは判断すると、相手の方から「そろそろあの子を帰して欲しい」と頼まれた。一体何故この場所にティレイラがいると分かったのか、そして電話番号を何故知っているのかなど既に相手が人外である事を知っているアリアは深く追求しない。だからこそ彼女はこう言った。
 「ティレイラちゃんは今、アイスになってるの」――と。


「それは随分と面白いものになったものねぇ。ぜひ見に行かせてもらっていいかしら?」
「いいですよ」
「じゃあ、少ししたらそっちに行かせてもらうわ。では」


 通話はそれで終わり、アリアは受話器を置く。
 怒られるかと思いきやむしろ面白がっているらしいティレイラの師匠に内心びっくりする。だけどアリアはこれを元に戻すのは惜しく、どうしようか迷いながらもまたぺろりとティレイラ像の頬を一舐めした。


「ティレイラちゃんのアイス像とっても美味しい。可愛い。帰したくないの……どうしよう。ん、っと……隠しちゃう? でもすぐ見つかる気がするの」


 ぺろ。ぺろ。
 ティレイラの師匠が来てしまえばこの甘くて幸せな時間は終わってしまう。
 ならば一か八か「これが欲しいの」と言ってみようか。


 やがてやってくる誰かの気配。
 アリアはぷくっと一回だけ頬を膨らませた後、それでもやってきた訪問者――ティレイラの師匠を迎えるため玄関に向かう。


 かってうれしい花いちもんめ。
 まけてくやしい花いちもんめ。
 あの子が欲しい。
 あの子じゃわからん。
 相談しましょう。
 そうしましょう。


 一瞬だけ、あの有名な童謡がアリアの頭の中を流れた。
 その後、ティレイラがどうなったのかは……まさに二人の相談次第である。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8537 / アリア・ジェラーティ / 女 / 13歳 / アイス屋さん】
【3733 / ファルス・ティレイラ / 女 / 15歳 / 配達屋さん(なんでも屋さん)】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、ノミネートでの発注有難うございました!
 前回の続きという事で、今度はティレイラ様がアイスの像に!!

 この後無事戻れたのか。
 そして家に帰る事が出来たのか。

 それはまさにアリア様とお師匠様次第……で。