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【HS】恩讐の絆
「な、何だ何だ?!」
「人が倒れたぞー!」
キュラソー島、民間の宇宙空港の一角で、人々の不安と驚愕のどよめきが起きた。
誰かが指差す方向には、地面に倒れ伏した男性がひとり。
その周りに、瞬く間に大勢の人間が群がっていく。
「ちょっとどういうことなの?!」
人波をかきわけ、三島玲奈(みしま・れいな)が姿を現した。
そして、倒れている男を見るなり、顔をゆがめる。
この男は、玲奈号の積荷の点検を担当していたはずだ。
側に、そのチェックリストも一緒に転がっているから間違いない。
そうこうするうちに人垣は大きくなる一方で、玲奈はあわてて事態の収拾に乗り出す羽目になった。
予想以上に手間を取られ、疲労困憊する玲奈がふらふらと空港モールの中に入って来る。
「の、飲み物…」
半分朦朧としながら、彼女は近くの自販機に並んだ。
折り悪しく、この時期はちょうどこの島の帰省ラッシュにあたったようで、自販機にも長蛇の列が出来ている。
「だ、大丈夫ですか?!」
不意に前方で悲鳴のような声があがった。
玲奈がそちらに目をやると、また床に男が倒れている。
「どうして?! さっきのと、何か関連が?」
疲れた身体を引きずって、玲奈は騒ぎの只中へ走って行った。
結局、ふたりの間の関連性が見つからないうちに、玲奈は空港警察から今回の連続突然死に関する捜査と解決を依頼されてしまった。
「仕方ないわね」
玲奈はため息をつきながら、私費で草間武彦を呼びつけた。
「最近火の車だって聞いたから」
「…うるさいな」
探偵は疲れている玲奈の標的にもされつつあった。
そんな中、玲奈は簡潔にことの次第を説明した。
「糸口が見つからないのよ」
困り果てて言う彼女に、草間は時間をくれと言って立ち去って行く。
玲奈が一時の休息を取っていると、聞き込みを終えたらしい草間が大量の資料を抱えて歩み寄ってきた。
「何それ」
「今回の調査の結果だ。直接的証拠になりそうなものはないんだがな」
言って、草間はその大量の資料を玲奈の前に、ドン、と置いた。
きょとんとする玲奈に、非情の一言を告げる。
「この中から共通項を洗い出せ。必ずあるはずだ」
「ええっ?! あたしが?!」
「他に誰かいるか?」
わざとらしく周りを見回しながら去って行く草間の背中に、罵詈雑言を浴びせつつ、玲奈はその資料の山をにらみつける。
「やってやろうじゃないの」
何を隠そう、玲奈は好戦的なのである。
空港ロビーで、草間はひとり、事件の犯人が姿を現すのを待っていた。
少し上にある離発着のフライトの案内をしているボードが、めまぐるしく点滅しながら、次々に船を送り出している。
その視線の先で、新たな犠牲者が現れた。
糸が切れたマリオネットのごとく、ぱたりと床に倒れる男性。
眼光鋭く、草間は身を翻し、玲奈の元に走って向かった。
「あーもう飽きたー」
足をパタパタさせながら、ぐったりした顔で玲奈は資料に呪いの言葉を吐きかける。
共通項なんて、どこにあるのだろう。
そこへ、草間が紙袋を持ってやって来た。
「差し入れだ」
「何、それ」
「飲み物だ。人数分数えてくれ」
さっき自販機で買いそびれた玲奈は、一瞬で生気を取り戻し、紙袋を奪った。
中には冷えたペットボトルが何本か入っている。
「えーっと、…3…4…」
「数えるな!」
突然、草間の声が玲奈の行動を強引に制止した。
「えっ?! あれ?!」
草間武彦がふたりいる。
玲奈に差し入れをした草間と、今ドアから鬼の形相で駆け込んでくる草間がいた。
入って来た方の草間は、もうひとりを指差しながら、つかんだ真相をたたきつけた。
「騒音に紛れて人々に自滅を促す催眠音波を流すとは考えたな! 魔女」
「魔女?!」
玲奈の表情が一気に引き締まる。
そう、偽草間の正体は魔女5だった!
この島の伝承で、自分の名を呼ぶ者を呪殺する魔女だ。
正体を見破られた魔女は高らかに笑うと、ほうきに乗り、窓を破って空へ躍り出ていった。
分身した魔女は駐機場で大群と化し、離陸待ちの旅客機の間をすり抜けて逃げまくっている。
玲奈はしばらくそれを見上げていたが、不意に玲奈号を呼び寄せ、稼働させた。
「エンジンが魔女を吸い込むと大事故だぞ!」
草間の警告が飛ぶ。
だが、玲奈は事もなげに鼻で笑うと、一言だけ言った。
「かまわないわ!」
玲奈は玲奈号と旅客機を接続し、エンジンの回転を調整する。
通常の風圧とはまったくちがう特殊な風圧を作り出し、それをそこここを飛び回る魔女に向けて突風のように送り出した。
「五…ぐはっ」
風で腹を押された魔女は意図せず禁句を唱えて即死していく。
飛ぶ鳥が落ちて行くかのように、魔女たちは自らの名を叫んでは、キリキリ舞いを演じた。
玲奈と草間は、事件が勝手に解決していくのを、ただ眺めているだけでよかったのである。
〜END〜
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