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蒼天恋歌 3 穏やかなる幕間
レノアがあなたの家に匿われてからしばらくたった。これといって大きな事件もなく平和に過ぎ去る日々。
彼女は徐々に明るくなる。元からの性格がそうだったのだろうか。
美しい顔立ちが、明るくなった性格に相まってきて、どきりとする時がある。
其れだけに美しい女性である。
ある日のことだ。彼女は歌を歌っていた。ハミングを口ずさむ。
名前以外知らなかったはずなのだが、調べていくと、歌が好きだと言うことを思い出したという。気持ちよい歌。しかし、其れだけでは手がかりにならない。
また、ある日のこと。
「いつも、いつも、あなたにお世話になりっぱなしです。出来れば恩返しをさせてください」
と、申し出るレノア。
あなたは、申し出を断るかどうか?
「たまには外に出かけてみようか?」
と、あなたは言う。
うち解けてきた彼女は、にこりと笑って付いていく。まるで子犬のように。
色々探さなければならないことはある。しかし早急にするべきではなく、非日常から日常へ少し戻ることも……必要なのであった。
様々な彼女とのふれあいで、心惹かれ合い、そしてその日々を楽しいと感じることになるだろう。
〈セレシュ〉
冷たい石像抱きしめて、うちは泣いた。こんな事をするつもりはなかった。守護者としての本能を抑えられなかったことに自己嫌悪する。この数ヶ月で、この子が大事な家族やと確信に至ったのやけど。
うちが守護する結界を張った魔術研究室に許可をしない物が入ると、うちは本能により相手を無力化する。今回、レノアはその場所に来たわけだけど、ちゃんと『この部屋は入るな』と釘を刺しておくべきだったと後悔する。
その後悔の中で、この数ヶ月の思い出がよみがえってきた。
「ご飯食べよか。」
「はい。」
うちが簡単な食事を作っては、二人で食べる。いつもは一人で食べているから、最初にレノアと食べるのは新鮮だった。長い年月、ほとんど一人だった分、何かしら感動する。しかし、顔に出さない。顔に出さないつもりだったが……。
「どうしたのですか? 良いことあったのですか?」
「そ、そんなことあらへん。」
顔に出ていた。一寸恥ずかしい。
「それより、その煮物、うまいか?」
日本というのは便利で、うちが元々暮らしていた世界に似た材料はかなり揃っている。しかも見栄えも良い。この世界ではポトフという物を作った。
「はい、美味しいです。」
レノアの笑顔に、また嬉しくなってにやけてしまった。あかん、この笑顔は反則や。レノアの笑顔は、とても美しく、天使と言うべきだと思った。男なら一発で魅了されるだろう。
ある日、レノアの生活用品を買うために出かけた。
ああ、男女関係なく、レノアが目立っている。レノアはそれほどに綺麗であった。注目の的になるのは気が進まないので、直ぐに目的の生活用品を買ってから、洋服店に入った。
「いらっしゃいませ……っ」
店員が凄い驚いてる。
「レノア、選びや。」
「え、いいのですか?」
「レノアは服が少ないし、うちとサイズ違うやろ?」
特に胸の部分。
そう胸もウェストも、つーか、スタイルが良すぎ。神様はむごいことをするわ。
「えっと、でも、似合うかどうか分かりません」
「好きに試着すればいいやろ。」
「は、はい。」
と、レノアは戸惑っている。
そこで、
「お客様! この服は如何でしょうか! 似合いますよ!」
店員が、レノアが逸材と知っては、服を勧めてきた!
「あ、はい……。」
店員に勧められるままに、試着しては、試着した姿を披露する。
「お似合いです!」
「え、そうですか?」
べた褒めする定員だが、うちはその服の値段をみて、青ざめた。桁が諭吉さん6枚以上とかおかしいやん。何処のブランドやねん? 確かにレノアに似合ってるけど、複数着買うんやから無理や。
「すいません。もう少し別の物を頼みますわ」
うちが割って入る。
「……そうですか。」
店員め、『このまま押し通せばこれを選んでくれるチャンスを逃した』と心の中で舌打ちしたな。気持ちは分からんでも無いが、こちとら財布とのガチンコ勝負やねん。
何とか、数着普段着と出かけ用を買いそろえた。
自分のじゃないけど、レノアはかなりの逸材。うちも着せ替えを楽しんでもうた。
その直後、モデルスカウトの兄ちゃん、ナンパがレノア目当てで寄ってたかるので、直ぐに逃げたのは言うまでもないが、楽しかった。
「マッサージを教えてください!」
ある日、レノアはうちにそういってきた。
「いつもお世話になっているから、恩返しをしたいのです!」
拳を作って、フンスと気合い入ってる。やる気は十分だった。
「専門技術的なことは、教え足られないけど、簡単な事だけ教えてあげるわ。」
「ありがとうございます!」
基本的なことは、こりのある筋肉をほぐすことにある。筋肉がどのように構成しているかなどは教えても分からないから、孫がおばあちゃんやおじいちゃんに肩もみをするような程度で教える。ツボぐらいはごく普通の本であるし。
うちは、ベッドに横になる。
「では、行きますね。」
気合いを入れたレノアは、マッサージを始めてくれた。が、
バキボキメキ。
嫌な音がする! 痛い! 痛い!
「力入れすぎ! レノアバカ力過ぎ! 痛い! 痛い!」
「あ! あああ! すみません!」
下手すれば骨を折られるところやった。どれだけバカ力やねん。
思い出がよみがえる。ああ、色々トラブルはあったけど、レノアは大事な人物だと確信できる。今すぐ解呪しようと思った。しかし、戸惑ってしまう。レノアは何が起こったか分からない。石化したことで、あの『闇』と同じように怖がるかもしれないという不安があって躊躇した。どうすればいい? あ、そうだ。御守りを作ればいい。石化対策の御守りを。
レノアを慎重に避けて、作業場に戻っては御守りを作る。
それは徹夜で行った。これによって、石化は無効になり、うちしか発動できない術の一部は御守りを起点として発動できるようにした。
そして、ゆっくりと慎重にレノアの石像をリビングに運ぶ。壊さないようにと。あと、改めてこの子は発育がいいなと思って自分の有る部分をみてガックリする。やっぱショックやねん。わかるやろその気持ち? と、気を取り直して……。
覚悟は出来たで。では、解除。
レノアは、何が起こったのかよく分かってないようにしてきょろきょろしていた。
「セレシュさん。あの……なにかありました?」
「あのな。ごめんな。」
「え?」
「レノアは石像になったんや。」
「ええ?!」
驚くほど瞬間な出来事やったんか。黙っていた方が良かったのか? 否それはあかん。
「これは御守りや。それで、石化は無効となるし、レノアを守れる術も掛けられる。」
うちはレノアに御守りを渡した。付加したつもりは無いのだが、御守りは仄かに光った。
「うちは、異世界から来たゴルゴーン。故有って、この世界の魔具研究で来ている。」
うちが何者であるか、告白する。
「え?」
レノアがぽかんとするのはしかたない。
うちは、真の姿を現した。この世界ではメデューサと言われるような姿に。そうすると、レノアは驚き怯える。
「あ、いや……。」
その異形の姿に驚き怯えるのは仕方なかった。そのまま……話を続ける。
「うちは、こういう者や。でも、レノア、あんたはうちにとって大事な家族や。この数ヶ月過ごして、ずっといて欲しいと思う。この身にかえても、あんたを守る。守らせて欲しい。あの『闇』を打ち砕くから。それまででもいいから、ここにいて欲しい。」
必死に告白した。それは本音。自然と目から涙がでていた。
レノアは、しばらく怯えていた。しかし、震える手でうちの涙をぬぐってくれた。
「記憶喪失の私を助けてくれたのは、セレシュ、あなたです。怖がってごめんなさい。いつも守ってくれてありがとう。」
レノアは優しい笑顔で、異形の姿のうちを抱きしめてくれた。
嬉しくて、切なくて、有りがたくて、うちは泣いた。
今まで守っていたものは空虚なものだったか? それは分からない。
今、手にあるのは本当に守るべき物。
そう、守護神獣として本当に守るべき物を見つけたんや。
続く
●登場人物
【8538 セレシュ・ウィーラー 21歳 女性 鍼灸マッサージ師】
●ライターより
こんにちは、もしくはこんばんは。滝照直樹です。
この度は「蒼天恋歌 3 穏やかなる幕間」に参加していただきありがとうございます。
これは、先に書いた「かわうそ?と愉快な仲間達2」の続編として書きました。
変則的な書き方になったため、最初はどうしようと思いましたが、丁寧な発注文なので、しっかり後編として書き上げられました。
4話は戦闘が少し入る、緊迫した事態へとなります。気を引き締めて行きましょう。一人で対処できない事情もあるかもしれません。その手の(戦闘の)プロと接触も考えてもいいでしょう。
では、また次回にお会いしましょう。
20120807
滝照直樹
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