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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


File.6 ■ IO2








「ほほー…、ここが天下のIO2東京支部…」見定める様に建物を見つめながら私は呟いた。
「言っておくが、勝手な行動を取るなよ。IO2は情報の漏洩や持ち出しに敏感な連中だ。下手な事すれば、その場で処刑される可能性もあるからな」
「あっはっは、そんな脅し効かないよーだ。…って、マジ?」はぐらかそうとしてみた私の言葉や態度に一切武彦が動じる事はない。どうやら本気らしい。
 一通り見学させてもらって、会う人も道筋も全部記憶してやろうと思っていたが、あまり深追いは出来ない状況になりそうだ。あわよくば開発部でも覗き込めれば、とも思っていたが、このままでは期待は出来ない。
「俺は上層部へ報告がある。中での案内役に一人呼び出しているんだが…、来たな」
「すいません、ディテクター。お待たせしてしまいましたか?」金色の髪に青い瞳。整った顔立ちの見た目十台中盤の外国人美少年が現われた。
「こいつが案内役の“シン”だ…って、聞いてるのか?」
「大好物ですけど何か!?」
「いや、意味解らん」
「おっと…、思わず本音が…」私は冷静さを取り戻す様に呟く。「宜しくお願いします、シン君♪」
「あ、こちらこそ宜しくお願いします」
 気恥ずかしそうに頬を赤くしながら頭を下げる美少年を見ながら、私は心の中で再びじゅるりと唾をすする。
「シン、“解呪師”の元へ案内してやってくれ。俺も報告が済み次第合流するつもりだ」
「はい、解りました。…ですけど、よりによって彼女に一体何の用事が…?」
「関わりたくはないが…、アイツの能力が必要でな…」武彦が乾いた笑いを浮かべながら答える。
「そ、それじゃあしょうがないですよね…あは…は…」
 シンの表情が苦笑いを浮かべる。どうにも二人の表情や言動の雲行きが怪しい。
「ちょっと。二人とも明らかに態度がおかしいんですけど?」
「そんなの気のせいだろう。じゃ、お先に」武彦がそそくさと歩き出す。
「あー! こら、逃げるなー!」
 私の声を聞こえないフリをしながら武彦が歩いて去っていく。まぁ良い。大好物のイケメン少年が代わりに一緒にいてくれるなら願ったりだ。それに、こういうタイプは意外と意見を押し通し易い。私にとっては好都合だ。私は早速腕に抱き付く。
「じゃ、早速いこー! おー!」
「あ、あの、そんなにくっつかれると…その…」顔を赤らめながらシンが小声で抗議するが、そんな事はいちいち気にしない。私はそのままシンの腕を抱いたまま中へと強引に歩き出した。




 表だった世界での情報は一切存在しない。故に、噂や憶測。更には都市伝説上での機関ではないかとすら言われていた機関の内部に私は足を踏み入れていた。幸か不幸か、目隠しすらする事もない。それはつまり、私にとっては情報を仕入れ易いという事。それに加えて、もしも噂や伝説上の機関であるIO2が、その噂に違いない実力を持っているのだとすれば、私はもう無関係ではいられないという事になる。情報を持った人間を野放しにする様な機関なら、私の耳にはもっと多くの情報が入ってきている筈だ。
「…どうしました?」不意にシンが尋ねる。腕に抱きついてからかう事を辞めたせいか、随分と余裕な表情を浮かべている。
「噂に違わぬ有名機関の内情を情報収集しようと思って?」
「疑問系で言われても困ってしまいますね」シンが困った様に笑う。「御心配なく。私が歩いているこのルートには必要な機密情報等は落ちていたりはしませんよ」
「ちぇ、やっぱり油断も隙もないのね」口を尖らせながら私は呟く。延々と続く廊下には、数メートル毎にバスケットボールを半分に切ったかの様な仰々しい監視カメラが天井に取り付けられている。「随分と細かく監視カメラがついているのね」
「えぇ。守秘義務と極秘裏な行動が常に付きまとう我々は、常に周囲から見張られているという事を念頭に行動しなくてはなりません。良くも悪くも、我々はそれだけの裏情報を手にしている訳ですからね」
「監視される生活、ね…。私なら息が詰まっちゃうなぁー」
「少なからず、私達も時には息抜きしたくなりますよ。ですが、この仕事に携わる誇りもありますから」
「ふーん、真面目だねぇ」
「アナタも、そうではありませんか? 龍宮寺 桜乃さん」
「そうかもね」思わず小さく笑ってしまった。「でも、私はそれを望んだ。私にしか出来ない事だからこそ、私は私として必要とされる」
「…そういう気持ちは共感出来ます」シンがエレベーターの前で足を止める。「だからと言って、IO2の情報を与える訳にはいきませんが」
「え…?」私はそう言いながらシンと共に扉が開いたエレベーターに乗り込んだ。同時にエレベーター内にシューっとガスが漏れる様な音が鳴り響く。「―っ! な…に…」
「ここから先は、特殊な抗体を打たれた人間以外は眠ってもらいます。ご安心下さい、変な真似をする訳ではありませんので」








――

―――






「…ん…わあぁっ!」
 眼を空けた私は目の前で私の顔を覗き込む女性に驚いて思わず顔をあげた。と、同時に鈍い音が鳴り響く。
「いってぇ!」
「いったー…」思わず額を押さえながら私が呟く。
「てっめぇ! 看病してやってんのに頭突きなんてしやがって!」涙目で私は叫ぶ主を見つめた。金色の髪に綺麗で整った顔をしている白人女性。だが…。「良い度胸だ、このガキ!」
「見た目と言葉と態度が合ってないよ、この人…」
「おやおや、随分元気なお目覚めでしたね」シンが何食わぬ顔をしながら姿を現した。
「シン坊、このガキ何だよ!」
「ガ…、ガキガキって言わないでもらえます!? だいたいガキがこんなにグラマラスな体系な訳ないでしょ!」
「無駄な脂肪の塊見せつけてドヤ顔してんじゃねぇ!」
「はっはーん、僻み?」私は女性の胸を見ながら勝ち誇る。
「んだと!?」
「まぁまぁ、落ち着いて下さい」
「うるっさい!」思わず二人して声を一斉に張り上げる。
「息が合っている様で何よりです」シンがめげずに笑いながら口を開く。「それで、こちらが解呪師のエストさんです。エストさん、ディテクターからのお客さんです」
「この人が…―」
「―シン坊、ディテクター様は?」
「…様?」思わず私が聞き返す。
「ディテクターは今上層部に報告に出てますよ」
「そう」少し残念そうにエストが答え、再び私を見る。「それにしても、あの方が連れて来るって聞いてたからどんなお客かと緊張してたけど、まだまだ乳臭いガキが客とはねぇ…」
「ちょっとシン君! この人さっきから失礼過ぎるんだけどっ」
「エストさんはなかなか好き嫌いが激しい方ですからね。ですが、腕は確かです」
「シン坊も言う様になったわねぇ…。それで、何を解呪しろっての?」エストの表情が一瞬にして真剣味を帯びる。
「詳しい話はディテクターから聞いて下さい。今呼んで来ますので」シンはそう告げると、さっさと部屋を後にした。
「…さって、と」
「…?」エストがおもむろに歩み寄り、不意に私の胸を両手で鷲掴みする。「なっ! ちょ、ちょっと!」
「動くな」エストの表情は真剣そのものだった。眼を閉じて静かに告げる。「…厄介ね。確かに外部からの強制力が働きかけているのに、痕跡がない」
「え…? って、手! 動かさないでよ!」揉みしだく様にエストの手が動く。
「いちいち騒ぐな。見て解る程度の簡単な術式だったら、こんな脂肪の塊に触れたりする気もない」エストが手を離す。「さすがはディテクター様、といった所ね。一筋縄じゃいかない患者を見抜いてる」
「どういう、事…?」
「…自覚症状がない様ね」呆れた様に溜息を吐きながらエストが呟いた。「だとすれば、防衛本能を利用したプロテクト…」
 ブツブツと言いながらエストが自分の机に戻り、その上に乱雑に広げられた書物を捲り始める。やはり絵になる。私は彼女の後ろ姿を見つめながらそんな事を考えていた。言葉遣いはあまりにも乱暴だが、それさえなければ綺麗の一言に尽きる。
「よう、待たせたな」武彦が顔を出した瞬間、エストが立ち上がり、武彦へと駆け寄って抱きついた。
「あぁぁあ、本物のディテクター様…!」
「へ…」思わずは私は唖然としながら口を開いた。
「おい、引っ付くな…よ…っ」ギリギリと力を入れて引き剥がそうとしている武彦だが、ガッチリと武彦の身体をロックしたエストの腕がそれを許さない。
「嫌ですわ、そんなに照れなくても…」
「照れてる訳じゃねぇ!」



 ――かれこれ十分近くエストの抱き付きと戦う武彦の姿が眼についたが、私はただその姿を生温かく見守っていた。一段落つく頃には、疲れ切った表情を浮かべた武彦と、満足げな表情を浮かべたエストがそれぞれに息を切らせていた。
「それで、エスト。もうこいつを見てくれたのか?」
「見ましたけど、なかなか厄介ですわ」エストの口調が違う。「本格的な呪術ではなく、それこそ特殊な能力による封印かもしれません」
「特殊な能力による封印?」私が尋ねると、エストは頷いて答えた。
「一般的な記憶操作の呪術ではなく、防衛本能を利用して増幅させる様に働きかけた封印」
「防衛本能を?」
「そうですわ。そう錯覚させる事によって、それを引き出させない事。即ち、外部からの圧力ではなく、彼女自身の心がプロテクトになってしまう様に、です」
「成程…。ネックなのは私自身って事ね…」
「呪術ではないって事は、エストには解けないって訳か」
「フフ、御心配には及びません」エストが口を開く。「一つだけ、方法がありますわ」
「方法?」思わず私と武彦が声を合わせて尋ねる。
「私の能力を使って、この子の心の奥底へとこの子自身をダイブさせますわ」
「心の中へ、ダイブ?」





                                           to be countinued..



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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。
夏真っ盛り、暑くてテンション下がってます←

今回は少々草間との別行動を描いた為、
プレで頂いた擦れ違う人等のやり取りは次回に持ち越させて
もらおうと思っております。


せっかくのご提案なので、使う気は満々です←


一応次回は心の中へとダイブする流れになると思いますが、
今後の行動等へもこの辺りから織り交ぜられればと思いますので、
お楽しみ頂ければと思っております。

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司