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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


交錯する思惑







 気配を消してファングの後を追う。相手は相当な手練れ。少しでも気を許せば、一瞬にしてファングは潤を攻撃対象と見なし、襲って来るだろう。リスキーな尾行だが、今潤が欲しているのは情報を繋ぐ新たな情報だ。この機を逃す訳にはいかない。
「…(…誰かと会う予定でもあるのか…?)」
 一通り中を調べ終えた潤にとって、何かが隠されていたと思われる可能性はほぼ皆無だった。だとすれば、誰かと落ち合う予定があるのか、或いは潤自身が調べ損ねた何かがまだ眠っているという事になる。自分の更に背後から何者かが来る可能性もある。潤はそんな事を危惧しながらファングの後を尾けていく。


 ―ファングを追って辿り着いたのは、狼の召喚に使われた魔法陣のある部屋だった。リーディングを行った時にあらかた調べたが、やはり変わりはなかった筈だ。潤は息を潜めてファングを見つめていた。瞬間、ファングの目の前の空間が切り開かれた様に口を開け、中から一人の女が姿を現した。
「お待たせ」
「柴村…。予定通りの時間だ、問題はない」ファングが無愛想に答える。
 潤はリーディングによって読み取った光景を思い出す。ファングと話しているのは、“柴村 百合”だ。翼達を使って“何か”を企んでいる虚無の境界の人間。
「相変わらず無愛想な男ね…」百合がクスっと笑いながらファングを見つめた。「それで、話しがあるって何かしら?」
「簡単な質問だ」ファングがナイフを構える。「答えによってはこの場でお前を始末する」
「…どういう事かしら?」
「しらばっくれるつもりか?」ファングの目が鋭く光る。「往生際が悪いな、柴村」
「…まぁ、そう簡単に見逃してはくれなさそうね」百合が呟く。「それで、最近の妖魔召喚の事?」
「そうだ。盟主が行っている現在の計画は“虚無”の実体化に必要だと聞いている。その為に数多くの妖魔を生贄として召喚し、その力の流れを利用するとな。だが、貴様はその情報を裏で流し、第三者を利用して妖魔を討伐させている。つまりは計画を妨害している」
「…フフ、筋肉馬鹿かと思ったら、随分と頭が回るのね。何処から出た情報なのかしらね」
「フン、傭兵は生憎、馬鹿では務まらんからな」
「…ファング。アナタは“虚無”の実体化に何の為に協力しているの?」百合がファングに背を向けて尋ねた。
「俺は“虚無”がどうだろうと知った事ではない。ただ強い奴とぶつかれるならそれで良い。その為に、虚無の境界に入った。だが、貴様とエヴァが裏切る様な真似をするのは許す訳にはいかない」
「盟主はこの事を知っているの?」
「俺は自由に動いているのでな。いちいち報告する義務を受けてはいない」
「それで真偽を確かめに来たって訳ね」静かに百合が口を開く。「私とエヴァは、今回の妖魔召喚を利用して、ある物を手に入れたいのよ」
「…ある物だと?」ファングの表情がピクっと動く。
「霊鬼兵であるエヴァと、私。共通点なんてない様に見えるでしょう。でも、どうしてもそれが必要なのよ」百合が背を向ける。「安心して良いわ。私達の動きは結果的に“虚無”の実体化を邪魔したりしないわ。召喚した妖魔には囮と生贄の両方の役割を担ってもらっているけどね」
「その言葉を信じるに値する証拠でもあるのか?」
「ないわ」百合がファングへと振り返る。「ただ、もしも信用出来なくて盟主に報告すると言うなら、この場からアナタを帰らせる訳にはいかない」
「…計画の邪魔にならないなら、勝手にすれば良い」ファングがナイフをホルダーへとしまい込みながら口を開いた。
「あら、聞かないの? 何を手に入れようとしているのか」
「フン、それこそ俺の知った事ではない」
「…ま、私にはその方が都合が良いけど、ね」百合が空間に扉を作り上げる。「送るわ」









――

―――







 ―車を走らせながら、頭の中を整理する。
 やはり百合とエヴァは“虚無の境界”の目的とは違う方向へ考えを向けている。が、仲違いする程の事には至っていない様だ。しかしそもそも妖魔を生贄として殺す事を前提に召喚するというその行為は許せるものではない。少なからず、そんな非人道的な行為を許すつもりはない、と潤は少し歯を食い縛った。
「…繋がらないか…」
 車を止めて潤は携帯電話を耳に当てていた。翼の携帯電話は電源が切られているらしい。合流して情報を提供しようにも、居場所が解らないのでは話しにならない。
「さて、どうしたものかな…」
 潤がそう呟いた瞬間、不意に僅かに残っていた妖気の奔流に気付き、車の窓を開ける。どうやら近くに妖気を放つ妖魔がいるらしい。
「…(大物ではないな…)」そう思いながらも、潤は近くのパーキングに車を停めて妖気を放つ先へと歩き出した。
 オフィス街にある一角、オレンジがかった夕陽に染められた街中とは対照的に、随分と薄暗いビルとビルの間の狭い路地を進む。
「…誘い出された、か」
 目の前に広がった建材の置かれたちょっとした広場で潤が立ち止まる。目の前には真っ黒な影がウネウネと身体を揺らす様に動き、潤を睨む様に赤く光る目が潤を捕らえる。
「…使い魔か…」
『…色々と嗅ぎ回っている様だが、忠告しておく。この一件から手を引け…』目の前の真っ黒な影が口を開いた。
「悪趣味な使い魔を使って指示されて、あっさりと納得するつもりにはならないけどね」
『ク…クク…、その綺麗に整った顔を引き裂かれたい様だな…』
「それは困るな…。けど、ちょうど良い」潤が手を翳す。「これからどう動こうか考えていた所だ。悪いけど、話を聞かせてもらうよ」
 瞬間、真っ黒な影の様な身体を素早く動かし、使い魔が潤に向かって襲い掛かる。伸ばしてきた鋭利な影の刃を潤は身体を軽く動かして横に避けた。更に同じ様に影を伸ばしながら使い魔が間髪入れずに潤に攻撃を仕掛けるが、潤はそれらを全てあっさりと避けてみせた。
『なかなかやるな…!』
「……」
 周囲にあるビルの屋上や死角となりそうな場所を避けながらも見つめていた潤は動きを止め、指を弾いた。
『…何のつもりだ?』
「やっと見つけた。影に潜んで、あんな所から使い魔で俺を攻撃しているとはね」
『ぐ…、何だこいつは!』使い魔から術者の声が響き渡り、使い魔が消え去る。潤は目の前にあった建設中のビルの中へと歩いて行く。

 十階建て程の建設中のビルの七階、潤は迷う事もなくその場へと訪れていた。目の前には一人の男と、その男の目の前には翼を休め、静かに佇む闇色の鳥がいた。
「ど、どうなってやがる…!」さながらパントマイムでもしているかの様な光景が広がる。男は宙に手を当てて声をあげている。
「オフィーリア、ありがとう」潤の言葉に闇色の鳥が翼を広げて答えた。「空間を断絶して、逃げられない様に細工をさせてもらっただけだよ」
「…チッ、只の好奇心で近付いただけの男じゃないって事か」
「幾つか質問に答えてもらおうか」潤が歩み寄る。「嗅ぎ回るな、と言っていたが“虚無の境界”側の人間か?」
「…答えるつもりはない」
「やれやれ、口が堅そうだ…」潤が呆れた様に溜息を吐く。「次の質問だ。誰の指示で俺に近付いた?」
「…答えるつもりはないと言った筈だ」
「そうはいかないな」潤の瞳が赤く光る。「悪いが、聞かせてもらう」
 潤の瞳を見た術者の表情が一蹴にして無気力な表情へと変わっていく。洗脳魔術を行い、潤が術者の眼を見つめる。
「虚無の境界の指示…、追跡者と邪魔者の排除だ…」虚ろな眼をした術者が答える。
「…追跡者は俺の事だな?」
「そうだ…」
「…邪魔者は、翼達の事か…?」
「蒼王 翼と草間 武彦…。奴らの排除…」
「…成程、虚無の境界として邪魔だと目をつけられたか…。翼に伝えてやる情報が増えたな…」潤が呟く。「柴村 百合達と虚無の境界。それぞれの思惑にズレが生じてきている…」
 潤は術者の男を気絶させ、その場を立ち去る事にした。途中、翼へと携帯電話を鳴らそうとするが、やはりまだ電源が入っていないらしい。





「やれやれ。色々と情報は得たが、肝心の翼に連絡がつかないとはな…」


 潤は溜息混じりにそう呟き、メールを打った。


『色々な駒が出揃った。連絡をくれ』







                                                 Fin





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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。


今回のプレで少々潤さんの方での情報収集は一段落ですが、
今後の展開にこの情報がどう絡んでいくのかが
楽しみですw

時間軸のお話しもプレに書いてあったので、
状況は非常に書き易く、助かりました(笑)

楽しんで頂ければ幸いです。

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司