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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


sinfonia.3 ■ 再会-V






 黒い髪をふわりと舞い降ろしながら、相変わらずの独特な雰囲気を漂わせながら、数年ぶりに会った少女は勇太を見つめた。
「お前だなんて、まだ婚儀を果たしていないのにそんな…」
「そういう意味で捕らえるかな!?」頬を赤らめながら手を頬に当てる女性に勇太がツッコミを入れる。「凛、何でお前がここに…」
「嫌ですわ、勇太。二年前、アナタの話しを聞いた私が諦めたとでも思っているのですか?」凛が胸ポケットから何かを取り出した。「これを見て下さい」
「うん、大きい…じゃなくて」勇太の視線が漸く凛の胸から凛の手に取った手帳へと移る。「International OccultCriminal Investigator Organization…って、まさか…―」
「―そう。勇太を付け狙う“虚無の境界”に対抗するだけの戦闘能力と情報を得る為に、私はIO2の正式なエージェントになりました」
「ま、マジか…。驚いた…」驚き顔を見つめる勇太に思わず凛が顔を赤くする。
「勇太、二年で大人っぽくなりました…ね…」
「へ…? り、凛こそ…その、綺麗になったよな…」
「再会を喜んで話してんじゃないわよ!」ピクピクと眉間に皺を寄せてエヴァが再び大鎌を具現化して口を開く。
「邪魔しないで下さるかしら?」凛がエヴァを見つめる。
「フン、小娘のユーが私に勝てるとでも思ってるのかしら?」挑発する様にエヴァが凛に答える。
「いや、胸の大きさからして明らかに凛の勝ち…って、うおぉ!?」勇太の目の前に鎌が振り下ろされ、地面を砕く。
「こ…の…! A001、殺す!」
「ぎゃー! ごめんって! 気にしてたんだよな!? ごめんって!」
「気にしてなんてないわよ!」
「勇太、貧相な胸だからってそんな事言うのは関心しませんよ」凛が更に横から火に油を注ぐ。「ないなりに服を選び易い利点もあるのですから」
「まとめて殺す!」
 エヴァが殺気を放つ。どうやら完全に怒らせてしまった様だ。
「お、おーい…。そんなに怒るなって…」
「うるさい!」
「ぎゃー!」
 エヴァが鎌を振り回すが、勇太が必死にそれから逃げ惑う。
「…(…まさか私やユリのオリジナルがこんな程度だったなんて…!)」エヴァの鎌の動きが雑に乱れる。
「っとっと…」勇太が後ろへ飛び、着地する。「凶暴だなぁ…」
「工藤 勇太。私と戦いなさい」エヴァが鎌を勇太へと突き出す。「まだまだその程度じゃないハズよ…!」
「そんなに戦いたきゃ、俺が相手してやるぞ」
「げっ、鬼鮫…」
「フン、小僧を見つけたと報告が入って来てみれば、“虚無の境界”のエヴァまでいるとはな」鬼鮫が相変わらずの気迫を放ちながら歩み寄る。
「…IO2の鬼鮫…」エヴァが鎌を降ろし、振り返る。「A001にIO2のエージェントが二人…。さすがに分が悪いかしらね…」
「フザけんじゃねぇ。俺一人で充分だ」鬼鮫が刀の柄に手をかける。
「生憎だけど、今日はオリジナルの実力を見に来ただけ…。本気でぶつかり合う気はないわ」エヴァが鎌を消し去り、勇太へと振り返る。「ユーもそうみたいだしね」
 エヴァはそう告げると、その場から姿を消してしまった。どうやら目的を果たせず、今日の所は引いてくれたらしい。
「はぁ〜…、なんなんだよ…」
「さて、小僧。今度は逃がさねぇぞ」鬼鮫はエヴァがいなくなったにも関わらず刀を鞘から抜き出し、勇太へと突きつける。
「え…っと…、凛さーん…」
「勇太、鬼鮫さんは私の上官ですので、逆らえません…。申し訳ありません…」
「そういう事だ」鬼鮫の表情が歪に笑みを浮かべる。
「ちょっ、タンマ! 待って! 草間さんからも話し聞いてるから、行くってば!」勇太が両手を上げる。「行くから刀しまってもらえません…!?」
「…フン」鬼鮫が刀を鞘にしまう。
「でもさ、やっぱ行くなら隔離部屋とか嫌だし、クーラー付きの部屋に漫画本とかゲーム機とかあってー…。あ、ついでにお菓子も付けてよね」
「……」鬼鮫が再び刀の柄に手をかける。
「はい、嘘です。ごめんなさい」勇太が顔を引き攣らせながら答えた。「と、とりあえず俺、零さんに伝言頼んでくるから!」








―――







「IO2の隊員寮?」
「あぁ、そうだ。24時間体制で貴様を監視する必要があるからな。暫くはそっちで生活してもらう事になる」鬼鮫が勇太と凛を連れながら告げる。「って事で、凛。部屋に案内してやれ」
「あ、凛知ってんの?」
「えぇ、私の部屋ですから」
「は…?」
「そういう事だ。今日からお前達は一緒に住め」
「喜んで!」凛が間髪入れずに返事をする。
「喜ぶの!? それ男側のセリフじゃない!?」
「ゴチャゴチャ言ってねぇで、さっさと部屋に入れ」鬼鮫はそう言い残してスタスタと歩いて行った。
 IO2の隊員寮と言われて紹介されたのは、随分と高級な造りのマンションに見えた。指紋認証にオートロック。随分とセキュリティが厳重なのは見て解る。何はともあれ、とりあえず勇太は凛に連れられるがまま凛の部屋へと入っていく。
「一般的には厳重でも、アホ毛女には通用しないだろうな…」
「アホ毛女…?」ピクっと凛が耳を立てる。「勇太、“柴村 百合”の事ですか?」
「知ってんのか?」
「フ…フフ…、夢の同棲生活を邪魔させたりはしませんわ…!」
「…り、凛さーん…?」
「…勇太」突如満面の笑みで凛が振り返る。
「はいっ!?」
「会いたかった…」凛が勇太に抱き付く。
「ちょっ…! 凛…!」思わず勇太の身体が硬直する。
「…お願いします…、少しだけ…」
「…凛…」勇太が思わず息を呑む。「…(…や、やわらかい感触が…)」






―――

――









「―まさかIO2に入ってるとは思わなかったよ」
 凛から事の経緯を聞いた勇太が口を開く。
「私達、護凰の一族は元々神道に長けた一族です。その力を更に伸ばすには、それ相応の知識と能力のある人間の指導が必要だと、エスト様にも言われました」カップに冷たいお茶を注いで勇太と自分の前に置き、凛が椅子に腰かけながら答えた。
「ありがと…。でも、危険だってあの時言っただろ?」
「多少の危険など、覚悟の上。私は勇太と草間さんに巫女の宿命を変えて頂いたからこそ、今を生きています」凛の瞳が真っ直ぐ勇太を見つめる。「それに、心に決めた方が危険な状態にあると解って、ただ指を咥えて見ているなど、耐えられません」
「凛…」思わず勇太が気恥ずかしくなって俯く。「そういえば、天使様の姿が消えたって草間さんが言ってたけど、知ってる?」
「はい。以前エスト様が私の夢に出て来て仰っていました」
「そっか、夢で会ったり出来るんだよな…。何て言ってた?」
「『世界のバランスを崩そうとしている者がいます。その者達は、あの日の少年達の前へ必ず現われます』と」
「俺の事、かな…。だとしたら、やっぱり“虚無の境界”は大掛かりな事をやらかそうとしているに違いない」勇太がお茶に口をつける。
「そうさせない為にも、私達IO2は勇太を匿い、情報を集めています」
「じっとなんかしてらんないよ…。アイツらとは、ちゃんと決着をつけなきゃなんだ…。俺自身の手で…」
「…勇太…」
 不意に勇太の携帯電話が鳴り響く。
『…工藤 勇太。私よ』
「し、柴村!?」思わず勇太が声をあげる。「お前何で俺の番号を…!」
「…“柴村”…?」凛の身体から殺気が溢れ出る。
『ディテクターに聞いたのよ。状況が変わったわ』百合の声が心なしか暗く沈んでいる。『私は今、ディテクターと一緒にいるわ』
「草間さんと一緒…!? どういうつもりだ!?」
『勇太、俺だ』
「草間さん…!?」
『ちょっとばかり事情が変わった。俺は暫くこいつと動く』
「ど、どういう事ですか!?」思わず勇太が立ち上がる。
『“虚無の境界”の動きを知るには、今はこいつと動くのが一番有効だと考えたんだ。お前は暫く、そのままIO2の動向を探れ』
「IO2の動向…?」
「勇太、どうしたんです…?」凛が声をかける。
『凛も一緒にいるのか?』
「一緒だよ」
『エストがそっちに行く筈だ。お前達はエストと合流したら、暫くは行動を共にしておけ』
「ちょ、全然意味解んないって! 草間さ――」
『―勇太、俺を信じろ』
「え…」
『今はまだ情報がハッキリしてない。解り次第連絡するが、暫くは柴村の携帯電話で連絡を取る』
「…解った!」
 勇太の返事で武彦が電話を切る。
「…勇太…?」
「凛、天使様がこっちに来るらしい」
「エスト様が…?」
「俺と凛と天使様は合流して一緒に動く事になる。それで、IO2の動向を探れって…」
「IO2の動向を…? どういう事です? IO2は勇太を助ける立場の筈じゃ…」
「解らない。だけど、草間さんがそう言うなら、俺はあの人を信じる」
「…一体、何が起ころうとしているのですか…?」






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