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<東京怪談ノベル(シングル)>


【HS】タークス・カイコス回顧戦





■□オランダ領・キュラソ島□■



「早くしろ!」
 IO2の隊員達が慌しく出撃の準備を進めている。虚無の境界占領下のキューバを奪還すべく、殺気立った雰囲気が漂っている。そんな慌しい連中を他所に、玲奈はキューバ後略の要衝ハイチを制し、静養する為にこの島へと訪れていた。玲奈の活躍によって奪還作戦を強行する機会を得たIO2は、この機を逃すまいと必死な様子だった。
「鳥居?」不意に玲奈が呟く。
「ガゼボですよ」玲奈をホテルへと案内していたIO2の隊員が、玲奈の呟きに答える。「パビリオンの一種ですね」
「…懐かしい…」
「え?」
「宮島を思い出します…」玲奈がガゼボを見つめながら呟いた。
「宮島…。鳥居ですね」隊員が口を開く。「確かに似ているかもしれませんね」
 二人はそのまま会話もなく、ただ静かに歩き続けた。
「玲奈さん。あちらのホテルに部屋を取ってあります。IO2の警護下にありますので、安心してゆっくりとお休み下さい」
「えぇ、ありがとうございます」
「それでは、私はキューバ奪還作戦に戻ります」
「ご武運を」
「はっ」
 去っていく隊員を見つめながら玲奈が再びガゼボを見つめる。度重なる裏切りと、母の行動。玲奈の心は憔悴していた。強烈な眠気に襲われる。心の痛みが、意識を朦朧とさせていく。
「……ッ」
 玲奈は不意に襲い掛かった頭痛に、表情を歪ませながら静かにその場を歩き去った。









□■戦国時代・宮島■□





 厳島の合戦直後の宮島。流れ滴った血が地面を赤く染めていた。そんな地面を削る毛利家の神官達の苛立ちは、随分と荒々しい口調で指示を出し合っている。
「生理中の女は島を出ろ!」荒々しい言葉を投げる神官の態度に、近くにいた女性達へと声をあげる。
 そんな神官達の目の前の時空が歪む。目の前にはこの戦国時代に似つかわしくない姿をした女、“巫浄 霧絵”が姿を現した。
「な、なんだこの女!」
「フフフ、やりなさい」霧絵の言葉と同時に歪みから現代の兵隊達が現われ、銃を構える。現代と戦国時代ではその武器の性能の差は歴然としている。連打する銃声が鳴り響き、周囲に悲鳴と断末魔の叫び声が響き渡った。神官達が削り取っていた地面等、比にならない程に大地は血で染められていく。
「回収を急ぎなさい」
「はっ」
「…お、鬼…だ…」息を切らしながら、撃たれて倒れていた神官の一人が声を搾り出す。
「鬼ね…」クスっと霧絵が小さく笑う。「そうかもしれないわね」
 霧絵が冷笑を浮かべている姿を見つめながら、神官は目を閉じた。
「回収完了しました、盟主様」
「そう。もう用はないわ、帰るわよ」
 再び時空の歪みを生み出し、隊員達を引き連れた霧絵が姿を消す。







□□キューバ・虚無の神殿□□





「呪いや穢れと言ったものは、所謂霊的な細菌の仕業です」自称死物学者の権威が霧絵に語る。「ウィルス、とでも言うべきでしょうか。霊的ウィルスによって感染を拡大する事が可能だという事です」
「言わんとしている事は解っているわ。それを利用してカリブの海賊を現代に蘇らせると?」
「その通りで御座います」死物学者の権威と名乗る男が仰々しく霧絵に向かって頭を下げる。
「それは本当に可能なのかしら?」
「亡者の怨念を穢れた土壌で育てば忽ちに! 幸い、平和で霊菌が育つに最高の無菌環境がございます!」
「なら、この採取した穢れた土壌を自由に使うが良いわ」
「有難う御座います」学者の顔が笑顔で歪む。
「それで、その最高の環境とやらの場所は?」
「えぇ、それは…――」






■■タークス・カイコス諸島■■




「―ッ! 砲撃!?」
 キュラソ島にいた玲奈は眼を覚まし、砲撃の轟音に眼を醒ました。玲奈号を使い、座標の特定を急ぎ、急遽タークス・カイコス諸島と向かってきた。かつての海賊の根城とも呼ばれた前方へ、無数の敵船影を捕らえる。
「どういう事…。この光景はまるで、毛利軍の艦隊戦…!」
 平成に甦った毛利水軍と幽霊船の海賊が入り混じる。実に不思議なコラボを眼前にしながら、玲奈は上空から長砲身のライフルを構える。
 戦闘が開始した。玲奈の構えたライフルが爆音と共に次々に船隊へと放たれ、爆沈していく。そんな玲奈に負けじと、次々に矢が上空を飛ぶ玲奈に向かって放たれる。空をひらりと舞いながら旋回し、玲奈は再び長砲身のライフルを構えるが、次々と放たれる矢がそれを許そうとはしない。玲奈は一度更に上空へと飛び、矢が届かない位置まで離れた。
「キリがない…」玲奈は本隊を探し、キョロキョロと辺りを見下ろしながら呟いた。「あれは…鳥居!?」





□□アマンヤラ□□





 平和という意味をもつカリブ避暑地。だが、今正に皮肉にも戦場と化そうとしている。プールの中心には吹抜けの櫓・ガゼボがある。そしてそこには偽厳島神社とも呼べる建造構造が造り上げられていた。
「骸骨の海賊と、死霊の侍。火矢に大砲。和洋折衷なんて言うより、ゴチャ混ぜにしたジャンクフードって所かしら」
 前方でイージス艦を苛む連中を見て思わず玲奈が呟く。
「こうなったら白兵戦でいくわよ!」
 急降下する玲奈は次々と襲い掛かる矢を避けながら、霊剣を構えて敵陣へと突っ込む。翼を広げ、霊剣を構えた玲奈はその身を活かしたフットワークを利用しながら海賊の剣を避け、敵軍勢の中に突っ込んだ。戦闘能力は明らかに玲奈の方が上回っているが、見渡す限り敵だらけのこの状況では疲労の蓄積が酷い。身体に感じる重みを疲労のせいかと思いつつ、戦闘を行っていたが、その疲れは明らかに尋常な疲労ではない。
「ぐっ…、何これ…!」
 遂に玲奈の膝が地面をつき、その場に倒れ込む。身体が重い。力が入らず、玲奈の身体はだらしなく投げられた様に突っ伏していた。
「罹ったわね!」
 死霊や骸骨の背後から声をあげられる。道が開き、カツカツと足音が歩み寄る。満身創痍の身体を何とか傾けて、玲奈が声の主を見つめる。
「…貴方は…! …お母さん……?」玲奈は思わず眼を疑った。
「馬鹿娘、玲奈。お前は霊病に侵されたのよ」クッと嘲笑を浮かべながら女が玲奈を見つめて告げる。「醜い身体になるのよ…、アーッハハハハ!」
 抵抗し、立ち上がろうにも身体は既に言う事を聞こうともしない。瞼が重く、意識は朦朧としている。玲奈はギリギリと歯を食い縛りながら、意識を失った…。







                                              FIN



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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

悲しい物語になりそうな予感で、
玲奈さんが段々と悲劇に陥っていくストーリーでした。

お母さん怖すぎます←


お楽しみ頂ければ幸いです。

それでは、今後とも機会がありましたら、
また是非宜しくお願い致します。


白神 怜司