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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.7 ■ 不思議な二人の日常







 夏の照り付ける様な炎天下の中、蝉が活気に溢れて鳴いている昼下がり。
「……ッ」
 随分とイライラとしたかの様に腕を組みながらトントンと指を動かすルカが、眉間に皺を寄せながら居間で座り込んでいた。表情は憮然としていて、何処となく落ち着かない様子でソワソワとしている。
「…どうしたの?」
 そんなルカのいる居間へと、お店の手伝いをしていたアリアが休憩しにやって来た。毎年この時期は台車を引いて外を一人で歩くのは今は危険だと判断したアリアの母に、暫くは店の手伝いのみに専念する様に言われていた。
「…暇」
「お店、忙しかったよ…?」
「手伝おうとしたけど、アンタのお母さんにやめてって言われるんだもん…」
 アリアもその事は知っていた。緊張のせいで高ぶった感情でみるみる熱を発し、商品となるアイスが全て溶けかけてしまった事がある。それからルカは家事をこなそうにも、大雑把な性格のせいかなかなかうまく行かず、出来る範囲でアリアの母から教わっている状態が続いている。だからこそ、繁忙期にあたる夏。しかもこの暑さでお店が混んでいる状態だとルカはこうして何もする事もなくただ居間で時を過ごす事が多いが、今日のルカはいつも以上にピリピリとしている様だ。
「…クーラーついてるのに、この部屋暑い…」アリアがクーラーを見つめて粒やく。「ルカちゃん、温度上げないで…」
「使い方解らないのにイジる訳ないでしょ」
「…妖気…。ルカちゃんの身体から、熱が生まれてる…」
「あ…うん、ちょっと体調悪くて今日調節しにくいの」
 そう言われてみれば、とアリアの中で少し合点がいく。ルカの額に触れると、アリアは妖気を凝縮させて氷を作り、ルカの額に貼り付けた。
「ルカちゃん、熱あるみたい」
「あ、ありがと…」
 しゅーっと氷が溶ける音が鳴り、放熱していくルカの体温が氷を溶かしきらない程度まで下がっていく。アリアが手を離しながらルカの表情を見つめる。
「…アイス、いる?」
「…うん」
 ルカの返事を聞いてアリアが歩き出す。少しして、アリアがとてとてと居間へと戻ってきてルカにアイスキャンディーを渡す。が、いつもよりもザラザラとした質感の見た目になっている。
「溶けにくい様に、粒を大きく氷で固めたの」アリアがアイスをルカに突き出す様に手渡す。
「へぇ…、アンタ意外と器用ね…」ルカがアイスを受け取って呟く。
 アイスを舐め始めるルカの隣りに座り、アリアもアイスを口に運ぶ。
「…おいしい…」アリアが呟く。
「うん…、そうね…」ルカが遠くを見つめる様に答える。
「…あんまり好きじゃない味?」
「ううん…、そうじゃなくって…。あたしがここに来て数日経つのに、呪術師の動きも解らないままで、落ち着かないだけ」
「…武彦ちゃんの所で捕まってるんじゃないの?」
「そうだけど、アイツの研究していたモノはあたしの炎をストックするって言ってた。何に使うのかが解らないし、素直に捕まってる様なヤツだとも思えない…」
「ふーん…?」アリアがアイスを舐めながら小首を傾げる。
「…はぁ、アンタ相当マイペースな性格してるのね」ルカが呆れた様に呟く。「要するに、今回の件はまだまだ終わりなんかじゃないって事よ。手を引くと思えないのよ」
「ふーん…?」
「…はぁ…、戦ってた時のアンタは何処に行ったのよ…」
「アリア、ルカちゃん。草間さんが話しを聞きたいって」
「よう」
 不意にアリアの母が武彦を連れて居間に現われた。
「武彦ちゃん、どうしたの?」
「あぁ、色々と聞きたい事が出てきてな。この前の呪術師と“虚無の境界”の事について、な」
「ちょうど良かった。あたしも聞きたかったのよ」
「でも、ルカちゃん熱あるから…」
「あら、そうなの?」アリアの母がルカを見つめる。「それで額に氷が引っ付いていたのね。新しい遊びかと思ったわ」
「そんな遊びないわよっ!」ルカの額の氷が音を立てて溶ける。「もう大丈夫だから」
「あ、あぁ…」武彦がルカとアリアにテーブルを挟んで向かい合う様に座り込んだ。「ルカを操っていた呪術師の開発していた道具の中に、興味深い物があってな。タイムマシンを作ろうとしていたって話しだ」
「タイムマシン?」ルカが思わず身を乗り出す。
「あぁ。記憶を覗き込む能力者がいるんだが、ルカを利用して行っていた研究はそれらしい」
「タイムマシンと炎、どう関係するんでしょう?」アリアの母が思わず首を傾げる。
「詳しい事は研究者が細かくデータを呼び起こしながら研究している最中だが、どうにも装置内の“核”に対する熱の供給で時間を飛ばせるとかどうとか…。いずれにせよ、放熱や冷却を目的としてアリアに手を出したらしい」
「そこでアリアよりも大人の私を利用しようとして捕まっているんじゃ、計画は破綻ね…」
「タイムマシン…。それの大きさとか、場所さえ解れば…」ルカが小さく呟き、拳をギュっと握る。
「…におい…」不意にアリアが立ち上がる。
「アリア、どうしたの?」
「…ちょっと、外に行ってくる…」
「あ、だったら私も…」
「ううん、ルカは体調悪いし、ここにいて」アリアがそう告げると、再びルカの額に触れて氷を作り出す。「やっぱりまだ熱い…」
「だ、大丈夫よ、こんなの!」
「ルカちゃんはダメよ」アリアの母がにっこりと微笑む。「言う事聞かないと、氷漬けにして動けなくしちゃうわよ?」
「ひっ…、しょ、しょうがないわね…」
「って、言ってる間にアリアったら出て行っちゃったのね…。遠くには行かないと思うし、近くにいるんでしょうけど…」
「はぁ、ちょっと探して来るか」武彦は溜息混じりに立ち上がり、部屋を後にした。





――。




 アリアはくんくんと匂いを嗅ぐ様な仕草をしながら歩き、見知らぬ建設現場へと辿り着いた。マンションやビルぐらいの大きさにはなるであろう骨組みだけしか組みあがっていない建物の前で、アリアはピタっと足を止めた。立ち入り禁止と書かれた進入口は人が一人通れる程度に開いている。
 中へと進んだアリアは再び匂いを一度だけ嗅ぎ、確信した。中へと進みながら周囲を見回していると、目の前の一人の少女が現われた。
「久しぶりね、アリア…」
 あの雪山で会った時と同じ、何処か掴み所のない少女、エヴァ・ペルマネントが歩み寄る。
「エヴァちゃん…」
「憶えていてくれて光栄ね」クスクスとエヴァが笑みを浮かべながら足を止める。「答えは決まったかしら?」
「答え?」
「私と一緒に、“虚無の境界”に来るかどうかよ」
「…行かない」アリアが小さく首を横に振ってから答える。
「やっぱりね…」エヴァが小さく呟く。
「やっぱり?」
「快く承諾してくれるのが一番だったんだけど、そうとなれば話しは別ね」エヴァが手を上に翳すと、黒い煙の様な物が収束し、大鎌が現われた。「力づくで、連れて行くわよ」
「戦うの?」アリアの身体からふわっと冷たい空気が流れ出す。
「…と言いたい所だけど、退かざるを得ないみたいね」エヴァが入り口を見つめると、銃を構えた武彦がその場にいた。
「エヴァ・ペルマネントだな」
「武彦ちゃん」
「アリア、無事みたいだな」武彦が銃口をエヴァに向けたままアリアへと歩み寄る。
「…まさか、ユー程の男が動き出すのがこんなに早いとは思わなかったわ」エヴァが武彦を見つめる。「IO2最強のエージェント、ディテクター」
「…そいつは昔の話だ。今の俺はただの探偵だ」
「でぃたくたー?」
「ティテクター、だ」間髪入れずに武彦がアリアへと修正を入れる。
「分が悪いわね。退かせてもらうわ」エヴァが大鎌を消し去り、アリアを見つめる。「…また会いましょう、アリア。ユーが無事なら、ね…」
 フワっと砂塵が小さく舞い上がり、エヴァがその場から姿を消した。
「…どういう意味だ…?」
「……?」
 エヴァの残した言葉の意味も解らないまま、武彦もアリアも疑問を残したままその場に立ち尽くしていた。
「…それにしても、エヴァの存在に気付いていたのか?」
「うん、匂いがしたから…」
「…下手な番犬より優秀だな…」武彦がポリポリと頭を掻きながら呟く。「帰るか、アリア。お前のお母さんが心配してたぞ」
「うん…」





 疑問の残ったエヴァの言葉を胸に、武彦はてくてくと歩いていくアリアを見つめていた。これから先、一体あの小さな身体に、どれだけの試練を訪れると言うのか。そんな事を考えながら、武彦はアリアの後を追う様に歩き出した。





to be countinued...



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いつもご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

日常生活を謳歌しているアリア達の元へ再び現われたエヴァですが、
今回は武彦の存在もあり、あっさりと引き下がってもらう形になりました。

プレ内の、“存在”の話しが、具体的には解釈がし難かった為、
今回はニュアンスのみの表現にさせて頂きました。

また、タイムマシンの設定ですが、凝っていて非常に私も読んでみて
楽しく想像に耽ってしまいましたw
今後のストーリーにどう絡んでくるのかが気になっておりますw

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司