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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


吸血鬼に永遠の眠りを






  廃墟のビルの中、満月の輝く夜に似合わない激しい爆音が鳴り響く。

「―ぐっ…こんな仕事、引き受けるべきじゃなかったな…」
 左肩に受けた傷を右手で止血しながら、武彦は生温かい自分の血の感触を味わっていた。

「フ…、人間風情がこの私と戦おう等とは嗤わせる」
 ツカツカと革靴の音を鳴らしながら、おおよそ人とは思えない恐ろしい形相をした
吸血鬼が武彦へと歩み寄る。

「…あぁ…、全くだ…。吸血鬼なんて、常人が勝てる様な相手じゃねぇよ」
 諦めたかの様に笑みを浮かべた武彦が吸血鬼たる相手へと告げた。
「伝説上の生き物退治なんて依頼、受けなきゃ良かったと後悔してるさ」


「ならば後悔と共に血肉を屠ってくれる」
 吸血鬼が詰め寄り、鋭い爪を振り翳す。

 高額な資金を積まれ、武彦が引き受けた吸血鬼退治。やはり一筋縄で片付く様な
相手ではない。
「…とまぁ、一人だったら無理な仕事だったろうな」
 武彦は自分の背後に立つ人物の気配を感じ、静かに呟いた。
「やれやれ、遅かったじゃねぇか…。




――




「いやー、ごめんねー。準備に色々手間取っちゃってさー」
 独特なゴーグルを頭につけて、民族衣装の様な服を身に纏った青年がタハハと笑いながら“清水 コータ”が武彦に挨拶をする。
「…ったく…」武彦が呆れた様に呟く。「痛っ」
「えぇ! 何その怪我!?」
「あぁ、厄介な相手でな」武彦が真正面に立っている吸血鬼を見つめて答える。
「いやいやいや、聞いてないからね! 探偵さん、おかしいっしょ!? あれ吸血鬼じゃない!?」
「あぁ、そうだが?」
「そうだが?じゃないっしょ!? 無理無理無理! ぜーったい無理!」
「ほう、そこの小僧の方が頭が回る様だな」嘲笑しながら吸血鬼が口を開く。「とんだ隠し玉でも用意していたつもりかもしれんが、残念だったな。随分な役立たずを呼んだな」
「…カッチーン…。今何て言った?」コータの表情が変わる。
「役立たず、と言ったんだが?」
「そこまで言われたかないよなぁ。探偵さん一人殺せてないみたいだし、あんただって吸血鬼の中じゃ相当下っ端なんじゃない?」
「…ほう、減らず口だけは一人前の様だな…」
「あんたが先に言ってきたんだろ?」コータがジリジリと後ろへと下がる。「探偵さん、ついてきて!」
 コータの言葉と同時に吸血鬼が二人へと襲い掛かる。スピードでは負けるが、先手を取ったコータと武彦の方が先に階段を下る。
「逃げるつもりか!?」武彦が走りながらコータへと尋ねる。
「まぁ見てなって」コータが足を止めて振り返る。
 吸血鬼がコータ達を追いかけ、階段へと足を進める。その瞬間、コータが目の前に引かれたピアノ線をナイフで切る。すると、吸血鬼の真横の壁に貼り付けられた小さく四角い爆弾が爆発し、吸血鬼を巻き込んで砂塵を舞い上がらせる。
「な、なんちゅーもんを仕掛けてやがんだ…」
「探偵さん、あれで終わると思う?」コータが尋ねる。
「いや、そんな簡単な相手じゃないだろ…」
「ですよねー…」砂塵を見つめていたコータが振り返り、再び走り出す。「逃げろーい!」
 砂塵の中から揺らめく影が、砂塵を吹き飛ばし、再び吸血鬼が姿を現し、コータ達を睨み付ける。
「フン、子供騙しな真似を…!」
「おい、何だそれ?」武彦が走りながら、コータの取り出したテレビのリモコンの様な物を見つめて尋ねる。
「へっへっへ、俺の罠の発動リモコン」コータがリモコンを武彦に見せながら笑って答える。「こうなったら全部の罠に引っ掛けてやる…。最期のフィニッシュもある訳だし…」
「って言っても、すぐ追いつかれるぞ!」
「こっち!」
 コータに言われるがまま武彦は走っていく。途中、「ここジャンプ!」と叫ばれ、反射的にコータと共に飛ぶ場所もあるが、武彦には罠が仕掛けられているのかさえ解らなかった。
「下らない人間風情が…」カツカツと足音を鳴らしながら吸血鬼が二人の元へ歩み寄る。「逃げ場はもうないぞ、どうす――」
 ズボっと音を立てて吸血鬼がその場から消える。いや、正確にはコータと共にジャンプしたあの場所に掘られた落とし穴に吸血鬼がハマったらしい。武彦は思わず「ぶっ」と噴出し、コータはその横で腹を抱えて笑っている。
「すげー、吸血鬼が落とし穴にハマったよ…ククク…!」コータが堪えきれずに笑っている。
「いや、お前…って、何だこの地響き…」
 武彦の言葉と共にコータも静まり、周囲を見渡す。どうやらビル全体が震えている。
「やっべ…、怒った…?」コータが武彦の腕を掴んで再び階段へと走り出す。
 瞬間、武彦とコータのいた地面が崩れ、その下から真っ黒の光りの球体が壁を貫き、外へと飛んでいく。
「…らしいな…」
「…あはは…、何あれ…」
「人間…。随分とコケにしてくれるではないか…」落とし穴から飛び出た吸血鬼がコータと武彦を睨み付ける。
「さっきより顔怖いんですけどー…」
「…あぁ、完全にキレてるな…」
 吸血鬼が口を大きく開くと、周囲から妖気が集まり、真っ黒の球体が形成されていく。
「さっきのが来る!」コータが再び走り出し、武彦も急いで走り出す。
 寸前で球体を避けた二人は真っ直ぐ下の階へと向かって走っていく。吸血鬼によって放たれた攻撃でビルが再びグラグラと揺れ、崩れ始める。
「探偵さん、あんなの倒しきれるか解らないよ!?」走りながらコータが叫ぶ。
「あぁ、なんとなく俺もそんな気がしてきた所だ!」
「それが正解だ」
 走っていた二人の目の前に吸血鬼が突如姿を現し、武彦を殴り飛ばす。武彦の身体はあっさりと数メートルも投げ出され、壁へと叩き付けられる。
「探偵さん!」
「くだらないトラップごときで、この私を倒そうとは良い度胸だ。が、ここで死んでもらうぞ」吸血鬼がコータを睨み付ける。
「クソ…、何でこの暗さで俺達が見えるのさ…」
「フン、我々は闇の中に生きる種族。光りの中で生きる貴様らとはそもそもの違うのだよ」
「…へぇ、じゃあこんなのはどう?」コータがポケットから何かを地面に投げつける。
「―グッ…!」
 コータが投げつけたのは閃光手榴弾だった。激しい光が襲う中、思わず吸血鬼が目を眩ませている隙に、コータはポケットからサングラスを取り出して武彦の元へと走り、武彦を抱きかかえて奥にあった穴から更に階下へと飛び降りる。二人は転げる様にその場に倒れこんだ。
「くっ、すまないな…」武彦が口を開く。
「それより、もう仕掛けも少ないんだ。あと一個の大きな仕掛け使うから、少し時間が欲しい…」起き上がるコータの表情に真剣味が帯びる。
「…ったく、やってやるよ」武彦が立ち上がり、胸ポケットから銃を取り出す。「純銀を溶かしたペイント弾だ。こいつで応戦して時間を作る」
「…探偵さん、五分で良い。足止めしたらすぐにこのビルの外に出て来て」
「五分、か」武彦がポケットから煙草を取り出し、火を点ける。「長い五分になりそうだ」
「死なないでよね、夢見も悪いしさ」
「ハハッ、簡単に言ってくれるな」紫煙を吐き出しながら武彦が答える。「余計な心配してないで、さっさと行け」
「…ッ」




「――これで良し…」
 コータは時計を見つめて呟いた。準備は思ったよりかかってしまった。もう七分。ビルの外にいるコータの耳には今も爆発音が鳴り響いてきている事が解る。
「…来た…!」
「はぁはぁ…、クソ…!」傷だらけの武彦が入り口から必死に走ってくる。コータが駆け寄り、武彦の身体を引っ張り、コータが印をつけていた場所へと走り出す。
「吸血鬼は!?」
「あの中だ…」
「まだ俺達も近いけど、逃げられたら厄介だし、走ってね!」
「は…―?」
 コータが手に持っていた送信機を押すと、ビル内から数発連続で爆発音が鳴り響く。ビルが音を立てて一斉にバランスを失ったかの様に中心目掛けて崩れていく。
「うおおー!」
 巻き込まれない様に必死になってコータが武彦の腕を引っ張って走り続ける。事態を把握した武彦もまた、コータに引かれながら走っていく。
「…た、助かった…」ビルの倒壊が落ち着き、舞い上がった砂塵を見つめながらコータが呟く。
「…おいおい…」
「海外のビルの解体ショー。あれと同じ事やってやったから、これなら吸血鬼もひとたまりないでしょ…」
「…これならな…」
 跡形もなくビルはその姿を失くし、ただの瓦礫の山となっていた。二人は暫く瓦礫の山を見つめていた。
「さて…」コータが立ち上がる。
「あぁ…、帰るか…」
「帰るか…、じゃないよ…」フルフルと肩を震わせながらコータが呟き、武彦を睨む。「ばーかばーか探偵の馬鹿! 俺をこんな怖いことに巻き込みやがって…!」
「あ…はは、悪いな」
「悪いな、じゃないやい!」涙目になりながらコータが武彦にそう告げる。「報酬は明日ね! 俺帰って寝る!」
 プンスカと怒りながら、コータはそう言って武彦を置いてさっさと歩いて行く。
「…ま、そうなるよなぁ…」思わず武彦が納得する様に煙草を咥え、火を点けて呟いた。「…それにしても、なんつー奴だよ…。罠仕掛けるとか言いながら、ビル毎潰しちまいやがって…」



 空は既に白みがかり、朝を迎えようとしている中、武彦はズンズンと大股で歩くコータを見つめて思わず小さく笑っていた…――。




                                          FIN




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ご依頼参加有難う御座います、白神 怜司です。

なんとなくプレイングの中から、
コータ君の飄々とした雰囲気や、台詞や描写等から今回の様な
やり取りを書かせて頂きました。

楽しんで頂ければ幸いです。


それでは、今後とも機会がありましたら、
また是非宜しくお願い致します。

白神 怜司