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<東京怪談・PCゲームノベル>


+ あの日あの時あの場所で…… +



「ねえ、次の日記はフィギュアの番?」
「ええ、そうね。私の番だわ。……でも何を書いたのかしら、覚えていないの」
「フィギュアは記憶に欠陥があるからなー。良いじゃん。日記書けただけマシだろ。ほら、読んでよ」
「言っておくけど僕はあまり読んで欲しくないんだけどね」
「「ミラー??」」


 此処は夢の世界。
 暗闇の包まれた世界にて存在するアンティーク調の一軒屋にスガタ、カガミ、フィギュア、ミラーが集まっておりのどかにティータイムを過ごしている。
 そんな彼らの最近の楽しみは『交換日記』。だが、交換日記と言っても、各々好き勝手に書き連ねて発表するというなんだか変な楽しみ方をしている。そのきっかけは「面白かったことは書き記した方が後で読み返した時に楽しいかもね」というスガタの無責任発言だ。
 ちなみに彼らの他に彼らの先輩にあたるフィギュアとミラーもこの交換日記に参加していたりする。その場合は彼らの住まいであるアンティーク調一軒屋で発表が行われるわけだが。


 さて、本日はフィギュアの番らしい。
 両手をそっと開き、空中からふわりとノートとペンを出現させる。
 開いたノートに書かれているのは少女の本質を現すかのように丸みを帯びた柔らかい文字だ。フィギュアは己が愛用している安楽椅子に持たれ掛けながら、皆に良く聞こえるよう読み出した。


「八月十七日、晴天、今日は――」



■■■■■



「こんちはー。先日お世話になったセレシュ・ウィーラーや。ここ開けてーなー」


 うちはセレシュ・ウィーラー。
 外見十五歳ほどに見えるが実質二十一歳と主張するゴルゴーンである。普段は人間に変化し人間社会で暮らしてるんやけど、今日は本来の姿である蛇状の髪と黄金の翼を隠す気も無く晒したまま今目の前のアンティーク調の一軒屋の扉をノック中やねん。
 今回は自分の能力を使って生身でやってきたため、力の暴走はあらへん。だけどな、前回「次来るときは眼鏡を忘れずに」と言われとったから、それはちゃんと忘れてへんで。ほら、見い。この目にかかった愛用の眼鏡を!


「こんにちは、セレシュさん。今日はきちんと眼鏡をつけて来て下さって有難うございます」
「ふふん、うちかてそないに無責任な事せえへんって。あ、これ前回のお礼も兼ねて持ってきてんや。お茶請けにどうぞ」
「これはこれはご丁寧に。――中にどうぞ」
「お邪魔すんでー!」


 さて、手土産も渡し道を開いてもらったんで部屋に入るとやっぱりこの家の壁は鏡張りで出来とっておもろい。
 遊園地とかで鏡の迷宮アトラクション的なもんあるけどあれみたいやわ。でも当然家やさかい、迷わへんけどな。うちは奥の方にいる少女、フィギュアさんを見つけるとそちらへと足を運ぶ。床に垂れるほど長い黒髪の持ち主はうちを見ると笑みを浮かべてくれはった。
 でもな。


「初めまして、貴方は<迷い子>じゃないのね」
「あれ? うちや、うち。セレシュ・ウィーラーや。先日逢うたやないの、フィギュアさん」
「…………ミラー?」
「本当だよ。彼女は少し前にここを訪れた<迷い子>だ。今日は彼女自らの能力でここに遊びに来てくれたみたいだね。ちょっと待っててくれるかい。今お茶の用意をするからね」


 フィギュアさんが不安そうにミラーさんの方へを視線を向けはる。
 ああ、そう言えば言ってはったね。フィギュアさんは「長時間記憶出来ない」って。……つまり、うちとのやり取りも覚えてへんってことか。うーん……これはちょっと寂しいかもしれへんなぁ。
 腕を組みながら足の悪いフィギュアさんの様子を見下ろし、考えに浸る。
 やがてミラーさんがうちらを呼んでくれはったんで、うちはこないだのお茶会の時みたいにテーブルに移動する事にした。既にうちがお茶請け用にと持ってきた桃のタルトが小皿に乗せられ、その傍には美味しそうな紅茶も用意されててびっくりするわ。


「今記憶を渡すよ。あとこれを握ってて」
「金の羽?」
「そう、フィギュアが彼女から貰って喜んでいた羽だよ。さあ、目を閉じて……」


 そう言ってミラーさんはフィギュアさんの額にこつんっとおでこをくっつけはった。
 近い近い。あー、これなんか見ててあれや。角度変えたらキスしてるみたいやんか。うん。あの言葉を叫びたくなるねん。でも記憶を渡すって言ってるってことはうちの事をフィギュアさんに伝達してくれてはるんやろうなぁ。
 しかしうちの翼から抜けた金の羽を大事に持っててくれはったのは嬉しいね。例えそれに関するうちの記憶がフィギュアさんの中から抜けていたとしても……。


 やがて二人は顔を離し、フィギュアさんがうちの方へと視線を向けはった。
 彼女の瞳は黒と灰色で、前回あんまり見えんかった色違いのそれが今ははっきりと見える。まあ前回はあれやったからなぁ。うちの石化の視線が制御出来へんで、殆ど顔を合わせられへんかったのが原因やし。今思い切り見とこ。


「初めましては訂正ね。こんにちは、セレシュさん。また逢えて嬉しいわ」
「ん、うちん事思い出してくれはったんやね。嬉しいわ」
「さて二人とも、美味しいお茶とセレシュさんが持ってきてくださった桃のタルトでお茶会はどう? 眼鏡を掛けてきてくれたことに関しては感謝するよ。これで僕らもある程度安心して貴方の事を見ることが出来るのだから」
「なんである程度やねん」
「前回の貴方の行動をふまえての発言です。心当たりがないとは言わせませんよ」


 ミラーさんがフィギュアさんを専用のイスからテーブルを囲むイスへと横抱きにして運んできはる。あー、ええなぁ。前回も思うたけど、甲斐甲斐しい彼氏って羨ましいかもしれへん。ま、恋人が欲しいかって言われたらそれはまた別の話やねんけど。
 しかしミラーさんは警戒心強いわ。確かにうちも心当たりがあるから否定出来へんねんけどね。乾いた笑みが浮かんでしまうのはそのせい。
 だって初めてこの場所に来た時は石化の視線を制御する眼鏡も無く、かつ能力の強度が増してて顔を合わせるなって忠告されてとったにも関わらず、うち結構二人の顔を見ようと遊んでたもんなぁ。


 こうして始まったお茶会。
 まず、先日の一件はうちのストレスが原因で起こった変化やった事とかをフィギュアさんに伝えてみる。そうすると彼女は「大丈夫よ、今は覚えているわ」と桃のタルトにフォークを差し入れ一口サイズに切り分けながら、口へと運んでくれてはる。
 あ、どうやろ。
 気に入ってくれはるかな。
 桃の美味しい季節やからこれ選んでんけど、二人の口にあわへんかったら意味があらへんもんな。ちょっとそわそわすんね。


「美味しいっ……! ふふ、異世界を通り抜けて本物をそのまま持ってきて下さる種族の方って案外少ないのよね」
「そうそう、大抵は僕らとは夢で繋がるんだよ。だからセレシュさんのように生身で訪問する方は稀有な存在。だから貴方が初めて僕らと出逢った時は夢だったんだよ」
「そうなんやね。うちは異世界を渡ってるからあんまり自分が特別やとか思ったことあらへんけど……そうやな。普通はそんな能力持ちの方が少ないんやわ。――あーしかし二人の口に合うたみたいで良かったわー。もし次来る時はまた別の洋菓子を用意して来よっかな。あ、ちょっと失礼。目にごみが――」
「――ッ、『歪手』!」


 ちっ、やっぱりかわされたか。
 目にゴミが入ったふりをして眼鏡を外しつつ二人を見ようとした瞬間、ミラーさんが目の前の空間を歪ませはる。これや、これが面白かったんよね。改めて眼鏡を掛けなおしつつ、うちは入れてもらった紅茶に口付ける。あー、ほんまほっとする味やわぁ。


「そいや、お節介かもしれへんけど一つ聞いてもええ?」
「どうぞ」
「フィギュアさんって足動かへんって言ってはったけど、身体全体はどないなん。ちゃんと動かしてる?」
「そうね、言うほど動かしてはいないわ。普段は椅子の上だし……あたし自身も移動する能力も持ってはいるのだけれど、それは身体を動かした事にはならないし……」
「だからそないに腕とか細いんやわ。なんなら一回診せてもろてもええ? うちこれでも鍼灸マッサージ師やねん」
「あら、じゃあお願いしようかしら」
「んーっと、どこか身体を寝転がしても平気な場所とかある?」
「フィギュアの部屋に行こう。こっちだよ」


 ミラーさんがフィギュアさんを抱きかかえて部屋を案内してくれはる。
 うちはひょこひょこっと付いていくだけ。しかし廊下の壁も予想通り鏡張り。この家ほんまに壁イコール鏡やねんね。
 さて女性らしい寝室へと案内されればうちはまずフィギュアさんにベッドに寝転がってもらうことにした。それから彼女の足を覆っていたブーツを脱いでもらってから、まずは足の診察をしてみよっかな。しかし素足になったフィギュアさんはほんまに細い足の持ち主やわぁ。筋肉殆ど使ってへん状態なんやろうから仕方あらへんけど、これは心配になる。履いてはったブーツがいわゆる他人に対して視覚的な鎧みたいなもんなんやろうね。
 触診と問診を行い、うちは頷く。それから二人の方を見やってから口を開いた。


「よし、うちが簡単なストレッチを教えたるから覚えーな。つってもフィギュアさんは無理やねんな。じゃあミラーさんも一緒にストレッチして覚えてもらおっか。余計なお世話やっていうならええねんけど」
「僕はフィギュアの意見に従うよ」
「あたしはそうね……この足が動く事は恐らく無いでしょうけど、上半身まで影響が出るのは嫌だし、せっかくの申し出だから教えてもらおうかしら」
「よし、決まりやな! じゃあ、うちら三人床に座らせて貰ってっと」
「ちょっとわくわくするわ」


 フィギュアさんが好奇心旺盛な瞳でうちを見る。
 ああ、子供みたいに目がきらきらしてはるわー。長く物を覚えられへんって事はいつだって周囲の状況が新鮮やねんやろな。


「じゃあまずはこないな風に足を開いてー」
「……足? えっとあたしは自力では無理だから」
「じゃあ、ミラーさん開いたって」
「…………ストレッチだよね?」
「ストレッチやで」
「じゃあ、フィギュア。失礼して……」
「ちょっと際どい格好になる時もあるけど、ええやん。どうせ二人恋人同士やろ」
「恋人……って、あたしとミラーが?」
「違うのん?」
「――恋人よりも密接な関係だよ。彼女がいないと僕が駄目になって」
「ミラーがいないとあたしが駄目になるの。依存関係に近いのかしら」
「……どう聞いてもバカップルやわ。あーあ、ご馳走様。ついでにうん、爆発しろ」


 この無自覚リア充共め。
 そうや、ほんまこの二人を見てると「リア充爆発しろ」って言いたくなんねんって。二人は一生懸命うちが教えるストレッチを学びながら、時々本当に際どい格好になると頬を染めはる。特にフィギュアさん。
 ミラーさんもあれやで、絶対に動揺してはるわ。だって動きがぎくしゃくになってるところあんねんもん。あー、おもろいわー。


「で、次はどうしたらいいのかな」
「次はこうやって頭を伏せてやな――あ」


 カツン。
 うちの顔に掛かっていた眼鏡がずり落ちるのとミラーさんがうちを見るのとが同時に起こった瞬間。


「ミラー!?」
「あちゃー……やってもた!」


 そこにはストレッチ体操をしたまま石化してしまったミラーさん石像の出来上がり。
 ストレッチの最中やったから腕を動かす動作で発動させる「歪手」が使えへんかってんよね。ほんまごめん。でもちょっと「してやったり!」とか思ってしまうのは……うん、ほら、なんか勝負に勝った気持ちなんやもん。
 眼鏡を元通り掛けるとうちは顔を上げる。そこには顔を真っ青にしておろおろしてはるフィギュアさんがおった。


「ミラー、大丈夫!? え、どうしましょ。石化解除魔法は――」
「あー。大丈夫やうちがやるさかい。落ち着いてーな。な?」


 フィギュアさんが組んでいた身体を全部解いて、手を床に付け這う形で石像ミラーさんにくっつく。あちゃー、ちょっとほんまに申し訳ないかもしれん。ミラーさんはともかく、フィギュアさんには。


「ミラー、ミラー!」
「はいはい。今から石化解除魔法掛けるから離れてなー。ほんまごめんなー?」


 そう言いつつ、うちはフィギュアさんを一旦ミラーさんから離して呪文を唱えた。
 フィギュアさんは今にも泣き出しそうやし、う……ちょっと罪悪感。


―― こりゃ戻った時のミラーさんの反応が怖いなぁ。


 そんな事を思いつつ、それでも灰色に硬化していた身体が元通り肌色を帯びてくるのを見ながら、うちはただ苦笑する。
 その後、元に戻ったミラーさんが拗ねた――というより警戒心を強めたのは……言うまでもあらへん。










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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8538 / セレシュ・ウィーラー / 女 / 21歳 / 鍼灸マッサージ師】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / ミラー / 男 / ?? / 案内人兼情報屋】
【NPC / フィギュア / 女 / ?? / 案内人兼情報屋】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、再度PCゲーノベへの参加有難うございました!
 
 今回は本来の姿だけどしっかり眼鏡をかけてのご訪問。
 しっかりと約束を守って下さって有難うございます♪
 しかし発注文に「爆発しろ」って書いてあったのには大笑いさせて頂きました。そしてセレシュの石化の視線をありがたく?頂き……ミラーは石像へ。

 残念ながらフィギュアは全く覚えておりませんが、日記にもばっちり記録されたのでミラーが今後拗ねた対応になるかもしれません(笑)
 また機会がありましたら今度は拗ねたミラーとでも遊んでやってくださいませ。ではでは!