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●驕りを断つ(3)
白鳥・瑞科(8402)さん、と止められて瑞科は振り返った。
何やら、嫌な予感がしている。
勿論、敵に対してではなく、厄介事に対しての予感、と言うべきものだろうか……。
「ふふふ、白鳥さん捕まえましたよ」
「わたくし、捕まえられる覚えはないのですが……」
こう言った人物とは、慎重に関わった方がいい。
にこにこと悪意が欠け落ちたかのような笑顔を浮かべ、目の前の女性はずずず、と近づいてきた。
それにあわせて、瑞科も後退する。
「あ、うち、服飾部の人間でして。んまあ、服飾っていっても、服だとか武器だとか色々扱うんですがね」
名刺をどうぞ、と差し出されて受け取るものの、正直、テンションに付いていけなかった。
瑞科と違って、可愛らしいほうの部類に入るのだろう。
赤い縁の眼鏡が印象的だが、それよりも印象的なのはその格好だ、何と言うか、奇抜……である。
「以前は、雑務にコミコミでしたから」
「――そう言えば、聞いたことがございます」
人知を超えるものと戦う事が多く、また秘密裏である『教会』は殆どを自分達の力で行わなければならない。
瑞科がいつも身につけている、戦闘用シスター服も『教会』が作ったものだ。
瑞科には、瑞科専用の戦闘用シスター服がある。
「瑞科さんは以前から随分、間が空いてしまっているので……もう一度採寸したいんですね」
一番の有力株である瑞科が『教会』にいる事は中々ない、何時だって人手不足なのだ。
採寸、と言えば頷けるのだが……このテンションは、不吉な予感しかしない。
「あ、武器なども手入れが必要ならどうぞ」
「いえ、自分の得物ですもの。わたくしが自分でしますわ」
残念です、と赤い縁の眼鏡の女性は落ち込んだ様子を見せる。
少しばかり可哀相になるが、流石にこればかりは譲れない。
戦いの癖もあるが、何より他人に自分の得物を渡す、と言うのが理解出来なかった。
――此れは、武装神官である瑞科と、事務系の人間の認識の差かもしれない。
「じゃあ、服飾室に来て貰ってもいいですか?」
「畏まりましたわ、1時間後でよろしくて?」
「はい、では」
●
自室でシャワーを浴び、息を吐く。
幾ら弱い相手だとは言え、戦闘で息を抜く訳にはいかない。
指先まで伸ばしながら、汗を流していく。
真珠の珠をちりばめた様な水滴が、肌を転がって行った。
ブラウンのベストに白いシャツ、ブルーのプリーツスカートにベストと同じ色のブーツ。
カツ、カツ、と音を立てながら服飾室に現れた瑞科を待っていたのは、先程の赤い縁の眼鏡の女性だった。
「すみませんねー、わざわざ」
メジャーを取りだして、瑞科のサイズを計っていく。
「いえ、あなたもお仕事なのでしょう?」
「ええ。雑務部から立ち上げた新部門なんで、気合い十分です」
気楽ですけれど、と付け足しぐぐ、と伸びをする女性――デザイン画と思われるノートには沢山のラフが描かれている。
「やっぱり、武装神官の皆さんに着て頂けると嬉しいもんですよ。うち等は雑務って言っても、間接的に関わってるんで」
「そうですわね。今の服も、とても着心地がいいんですもの。刺繍も見事ですし、動きにもついてきますわ」
「最先端の技術使ってますからねー。刺繍も魔よけのものだとか、色々調べてるんですよ」
服飾について熱く語る女性の話を聞きながら、改めて裏方の苦労を知る。
千人針の話になると、心が温まるような気がした。
戦場では孤独だ、瑞科は強いが、それでも独りである。
「わたくし、指一本触れさせずに倒す事を信条としておりますの。最近は特に、弱い、ええ、驕った敵が多い」
ふ、と呟いた言葉は何気ない愚痴だったのかもしれない。
だが、興味深げに聞いた女性は、赤い縁の眼鏡をあげながら言った。
「そりゃあ、独りだと驕りません?」
「――そうかしら?」
瑞科は強い、それは自覚している。
だからと言って、驕っているつもりはない……そうだとも思いたくはない。
自信と驕りの境界――それは一体。
「白鳥さん、独りじゃないですし。んまぁ、迷う時もありますよね。そんな白鳥さんにプレゼント」
そう言って女性が差し出したのは、ミルク味のキャンディだった。
「……これは?」
「元気の出るキャンディです」
思わずくすり、と笑みを浮かべた瑞科に、女性は笑いかけた。
「さ、明日になったらもっといい事がありますよ」
「――明日?」
「ええ、明日」
まるで、サンタクロースを待ち焦がれる子供のような心境になりながら、瑞科は笑みを浮かべる。
それを見ながら、満足そうにやはり、笑っている女性は人を喜ばせる事が好きなのかもしれない。
きっと、千人針の話も嘘ではないのだろう。
「じゃあ、明日を楽しみにしておりますわ」
女性に告げ、服飾室を後にする。
自室でストレッチをしながら、心地よい疲れに小さく欠伸を漏らし。
そして、瑞科は少し早いながらも眠りに落ちたのだった。
●
――『教会』に呼ばれた瑞科。
これが昨日、女性と約束した『明日』と関わっているのだろうか。
「白鳥・瑞科さんですね。新しい素材の戦闘シスター服が出来ました」
昨日の、赤い縁の眼鏡の女性はいなかったが、代わりに事務と思われる人物が立っていた。
「防弾、防刃は勿論、熱射や瘴気と言った害悪にも耐えれる、最新鋭の素材を使っています」
無表情で説明を付けくわえた女性が、やがて表情を崩して言った。
「白鳥さんに似合う、純白ですよ」
混じり気のない白、ケープとヴェール、そしてニーソックスに編みあげのロングブーツ。
ブーツは補強されており、近接格闘術を使う瑞科に合わせて作られたらしい。
腰下までの深いスリットのシスター服、そして、胸を強調するコルセット。
此方は、ボディにピッタリとフィットし動きをサポートするものだ。
そして、革製に装飾の為された手首までの手袋、二の腕までのロンググローブ。
前のものよりも、剣への吸着力が良い。
「……素敵ですわ」
うっとりと言葉を漏らした瑞科が、くるり、鏡の前で一回転。
「あら?」
ぱさ、と言う音がし、一枚のメッセージカードが落ちる。
白い薔薇が品よくあしらわれた、シンプルなものだ。
「『戦う白鳥さんが、孤独にならないように』ですって――ふふ」
裏面を見れば『何時かプリクラ撮ろう!』と私的なコメントまで、書かれている。
きっと、書いたであろう女性を思い浮かべながら、瑞科はメッセージカードを抱きしめた。
茶色い髪がサラリと肩を滑り、白磁の頬が薄く紅潮するのが分かる。
天上の空のように青い瞳が映すのは、次の任務……瑞科の戦いはまだ、終わらない。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【8402 / 白鳥・瑞科 / 女性 / 21 / 武装審問官(戦闘シスター)】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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白鳥・瑞科様。
この度は、発注ありがとうございました、白銀 紅夜です。
自由度の高いもの……と言う事で強さ、そして自信と驕りについてを綴らせて頂きました。
瑞科様と対極の女悪魔、そして自分なりの価値観を持った同僚。
彼女達と関わりながら、此れからも誇り高く在る瑞科様を表現できていれば幸いです。
では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。
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