コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


 夏だ!海だ!商売だ!?







 ジリジリと照り付く太陽。忙しなく鳴き続ける蝉。コンクリートに溜まった熱を運ぶだけの不快な風。アリアにとって、これ程の苦になる時期はない。季節は夏真っ盛りだ。アリアが不機嫌そうにアイスを頬張りながら眉間に皺を寄せながら歩いていた。
「どうしたの、アンタ」ルカが隣りから声をかける。
「…暑いのキライ…」
「あぁ、氷の種族にはこの季節は辛いのか?」
「うん…」
「あたしにとっては過ごし易い涼しいぐらいの気温だけどなー」ルカが上機嫌そうに歩きながら呟く。
「…今日、四十℃だって…」
「へぇ、適温?」
「…ルカ、おかしい」
「ちょっと! 炎の種族なんだからこれぐらいが丁度良いの!」
 夏が苦手なアリアにとっては、勿論冬の方が過ごし易いに決まっている。だが、夏は繁忙期。仕事と私情に板挟みになりながら複雑な想いをする、若干十三歳の少女がここにいる訳だ。
「そうね。確かに私とアリアにとってはこの温度は辛いわね」ニッコリと微笑みながらアリアの母が口を出す。
「でも、アリアママは全然平気そうね?」ルカが尋ねる。
「私は冷気を身に纏っているから、何処にいても平気なのよ。でも、アリアにはそこまで細かい調整、まだ難しいものね…」
「うん…、凍らせちゃう」
「極端ね、アンタ…」ルカが呆れた様に呟く。
「もう少し大きくなったら、出来る様になるわよ」アリアの母がそう言ってアリアに微笑む。
 三人は今日、お店をアリアの父に任せて海へと遊びに出掛ける事になった。事の発端はルカの唐突な発言によるものだった。が、渋っていたアリアの気持ちに反してアリアの母が海に行く事を快諾し、断れなくなってしまった。
「アンタもまだ子供よね、アリア。妖気の調節が苦手なんて」
「…ルカにだけは言われたくない」
「何よ! あたしは調節出来ますーっ」
「でも、わざわざ水着を着て来なくても良かったのよ、ルカちゃん」
「人前で着替えろって言うの!?」
「更衣室がある…」
「…うっ、うるさいわね! 時間の無駄を省く為よ!」
 ワンピースに麦藁帽子を被っているアリアとアリアの母と、既に水着を着て上から大きめのシャツを着ているだけのルカが歩き続ける。
「でも、これから電車とバスで結構時間かかっちゃうのよね。ムレるかもしれないわねぇ」
「大丈夫!」
「着替え、持って来てないの…? ルカ手ぶら…」
「うるさいわね!」







―――

――







「見えたっ」
 電車とバスを乗り継ぎ、漸く三人は海の近くのバス停に降り立った。道中アリアの母に見惚れて老若男女問わず振り返り、無駄に注目を浴びて行動していたが、特に問題が起こる事もなく、ここまでの道程は順調だった。
「結構人いるわねー」アリアの母が何故か嬉しそうな表情をして呟いた。「アリア、早速着替えてきましょ。あそこに更衣室あるみたいよ」
「うん」
「だから着てくれば良かったのよ〜」
「大丈夫、ルカ。海は逃げないよ?」
「…アリア、そこはかとなくバカにしてる?」
 早速三人は更衣室に向かい、着替えにいく。ルカは二人が着替えている間に持ってきた浮き輪を膨らませようと必死に息を吹き込んでいた。

 刺す様な陽射しが広がる。砂浜は熱を篭らせ、潮風の匂いが鼻につく。水着姿の男女が入り混じり、それぞれ肌を焼いたり泳いだりと楽しそうに過ごしている。
「アリア、泳ぐわよ!」
「うん…。お母さんは?」
「私はここにいるから、行ってらっしゃいな。二人とも、変な人を見つけても無茶しちゃダメよー」
 おかしな声をかけている様だが、ルカとアリアの二人を野放しにするとなればそう声をかけるのも無理はない。
「海ー!」ルカが思いっきり飛び込む。よっぽど来たかった事は見て取れるが、何しろテンションが高い。「アリア、早く!」
「…ぬるい」アリアがとてとてと歩いて海の中へと進み、第一声。実に感動の薄い瞬間だ。
「アンタ、もうちょっと感動の瞬間とかを大事にしなさいよ…」思わずルカが憐れむ様に声をかける。
「あ、ルカ…」
「へ?」ルカがアリアに返事をした瞬間、高い波に飲まれる。「ぶはっ!」
「高い波が、きてた」
「手遅れよ!」ルカが声をあげる。
「…飲まれるよ、って言おうと思ったの」
「わざと!? わざとやってるの!?」
 ギャーギャーと騒ぐルカと、ぬるくても外よりマシだと言わんばかりのアリア。アリアに至っては温泉にでも入っている様なリラックスぶりだが、ルカはひたすら泳ごうとしたりアリアにちょっかいを出したりと忙しない様子だった。




「あら、お帰り。随分楽しそうだったわね」
「…うん…」
「…アリアママ、何これ…?」
「あぁ、これね…」困った様にアリアの母が溜息を吐く。「色々な人がくれるのよね、飲み物とか…」
 戻ってきた二人の眼についたのはビニールシート中に広がった飲み物の数々だった。
「…氷の女王、魅了の力?」ルカが呟く。
「子供がいるので、って言ったら、貴方達の分もくれたのよ」クスクスと笑いながらアリアの母が呟く。「出費が減るから助かっちゃうわね」
「でも、こんなにたくさん飲めないよ…?」
「良いのよ、売るの」アリアの母が微笑む。「ご飯を食べたら、お仕事よ」
「仕事って?」
「……?」
「ご飯を食べながら説明するわ。もう話しもつけてきたから」





――。





「―じゃあ、やるわよ」
「うん」
「ちょっと楽しいかも…!」ルカがワクワクしながら借り出してきた拡声器を構える。「あーあー、てすてすー」
 ルカが声を出すと、周囲の人々が少しずつザワつきながら三人を見つめる。
「何だ?」
「うお、美人…」
「何あの子達、かわいー」
『えー、これよりここで、ちょっとしたイリュージョンを披露しまーす!』
 ルカの声が大きく砂浜に響き渡り、あっちこっちから人が集まり始める。
「ルカちゃん、お願いね」
『皆さんもうちょっと下がってくださいー』
「下がる?」
「一体何するつもりだ?」
 ザワつきながらも人々が下がり、広めのスペースが出来上がる。
「せーのっ」ルカが地面に手を当てると同時に、一斉に砂浜から火柱が舞い上がる。
「うおー、何だこれ!?」
「本物!?」
 次々に歓声が上がる中、アリアの母が手を向けてフっと息を吐く。すると、火柱によって溶け出した氷が一瞬で霧を作り上げる。もくもくと周囲の視界が遮られる。
「アリア、やるわよ」
「うん」
 アリアとアリアの母が一斉に地面に手を当てる。広々としたスペースに、氷で何かが構築される。
「…おい、何だあれ…?」
「綺麗…!」
「ど、どっから出て来たんだ…!」
「氷のお城だよ、ママー」
 霧が吹き飛び、その場に姿を現したのは氷で作り上げられた氷の城の様な建物だった。アリアとアリアの母が氷を構築し、一瞬でそれを作り上げる。
『氷の喫茶店、“ジェラート”! 皆さん並んでお越し下さいー!』
「何あれ、入れるの?」
「おい、入ってみようぜ」
 ドドっと雪崩れ込む様に人が氷の城の中へと足を進める。中は一階と二階に分かれ、一回がカウンターとなり、二回が飲食スペースとなっている。氷によって中の空気はひんやりと冷やされ、太陽の光りも分厚い氷によって遮られている。中はまるで幻想の世界が広がっている様で、各壁には氷の燭台に炎がゆらゆらと揺れている。感動に浸る人々を尻目に、裏口からは大量のシロップが運び込まれる。
「お、お姉さん! こっちに置いときますんで!」
「あら、ありがとう」
 アリアの母によって魅了された近くの海の家で働く人々の様だ。
「…すご…」ルカが思わず少し引く様に呟く。
「さて、アリアにルカちゃん。午前中はしっかり遊んだし、午後は稼ぐわよ。アリア、アイスをどんどん作って。ルカちゃん、お客さんの案内をお願いね」
「うん…」
「せっかく海に遊びに来たけど、こういうのもアリよね!」






――

―――




「ただいま〜…」
「おかえりって、どうしたんだい? 遊び疲れかい?」アリアの父が思わず声を上げる。
 玄関に帰ってきた三人はその場で突っ伏して倒れ込んでいた。言うまでもなく氷の喫茶店“ジェラート”は常時満員。そのあまりの忙しさに、思わずアリアとルカは午前中に海で遊んだ事を後悔した程だった。
「う、海に行ってあんなに仕事するなんて…」ルカが呟く。
「予想以上に好調な売れ行きだったわね…」ニッコリと力なくアリアの母が呟く。「あら、アリアったら…」
「寝ちゃってる…。しょうがないわねー…」ルカがアリアをおぶって部屋へと連れて歩き出す。
「アナタ。今日海で…――」


 アリアにとって、海に行く事はまずなかったが、こうして海に行って仕事も遊びも出来るなら、それも良いかもしれないとウトウトとしながら思っていた。が…――。


「よし、明日も行くわよ!」


 階下から聞こえる母の声は、少々夢であって欲しいと願うアリアだった…――。




                                          FIN


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

夏の海、という事でご依頼有難う御座いました。
白神 怜司です。

さてはて、かなりギャグ要素をまじえて書かせて頂きましたが、
お楽しみ頂けたでしょうか?

せっかく遊びに行ったにも関わらず、
商売に発展させるアリア母強し…といったトコですが…w

こんなお店があったら、海行きたいですねw

それでは、今後とも宜しくお願い致します。


白神 怜司