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<東京怪談・PCゲームノベル>


とある日常風景
− 常夏の 大・人・の・事・情 −

1.
 高級リゾートホテルの一室でビキニに着替え、ビーチに向かう。
 外に出た途端、夏の日差しが容赦なく照りつける。
「今日は絶好の海日和ね」
 片手で日光を遮りながら、空の眩しい青さに黒冥月(ヘイ・ミンユェ)は微笑んだ。
「そうだなー。いい天気だなー」
 棒読みで返答をした草間武彦(くさま・たけひこ)は両手にパラソルだの椅子だのの大荷物を持ちながら、なぜか左頬が赤く腫れていた。
「…あのね、武彦。とっさのことで確かに手を出しちゃった私は悪いと思うわ。だけどね? 水着姿を見たとたんに脱がしにかかろうと襲う人にも問題があると思うのよ?」
 ホテルの部屋でビキニに着替えた冥月に草間が襲い掛かるという一悶着…いや、1イチャがあったわけだが、本来の目的は海である。
 冥月は草間の目を覚ますべく、右の頬を打ったわけだが…どうやらこれが草間の機嫌を損ねたようだった。
 浜辺に着くとパラソルをたて、椅子とテーブルを広げて場所を確保した。
「…まだ怒ってる?」
 冥月が不安げに聞くと、草間は冥月に向き直る。
「怒ってないよ。…あぁ、やっぱりいいな。うん、いいよ。似合ってるな、その水着」
 優しく言った草間に、思わず冥月は赤くなった。
「もう、そんなに見ないでよ」
 見るなといわれれば見たくなる。白い水着よりなお白いその肌が艶っぽい。
 …むらむらと心の奥底から燃えたぎる何かが草間を支配しようとしている。
 草間はそれを抑えることができなかった。
 否! それを抑えることなど男としてやってはいけないのだ!
「な、なに? その変な顔と手つきは…?」
 冥月が怪しげな草間のオーラを感じ取り訝しげな顔をしている。

「塗りたい」

「え?」
 キョトンとした冥月の肩に、おもむろに草間は手をかけた。
「日焼け止め、塗らせてくれないか?」
 ……………はぁ。
 冥月は長い沈黙の後、呆れ顔でため息をついた。
「あのね、ドラマや漫画じゃないんだから。水着着る時にもう塗ったわよ」
「な、なんで!? 楽しみにしてたのに!」
「当り前でしょう、浜辺にいくまでにだって焼けるんだから」
 女性として当然の身だしなみ。しかし、駄々っ子・草間には通じない。
「日焼け止め塗らせてくれたら、さっきのこと水に流す。うん。そうしよう」

 この男…卑怯者である。
 

2.
「言っとくけど日焼け止めは、ビキニの紐外さなくてもいいんだからね?」
 渋々うつぶせに寝転がった冥月は、ご機嫌な草間にそう言った。
「え?」
 目が一点集中に背中を見つめていた。この男、思いっきり外すつもりでいたようだ。
「………」
 ジト目で軽く睨んで、フゥと体勢を直す。
 結局甘いんだわ、私…。
 日焼け止めを背中に塗ることを許可してしまったことを軽く後悔するも、草間の嬉しそうな(実際にはただスケベ丸出しな)顔を見るとこれでよかったのだと思ってしまう。
「そうだ。あとで勝負しないか?」
「勝負? なんの?」
 背中に日焼け止めを塗られながら、冥月は草間の言葉に耳を貸す。
「…ちょっと賭けをしよう。俺が勝ったら、俺のいうことを冥月がきく」
「私が勝ったら?」
 その言葉に、ニヤリと草間は笑う。
「お前は勝てないさ。この俺にはな!」
 なに? この自信たっぷりな感じは。
 また無茶を言い出した草間の子供っぽい言動に、冥月は呆れはしたもののただ笑顔だった。
 こんな武彦を見ているのは私だけ。
 武彦がこんなに子供っぽいのを知っているのも私だけ。
 少しだけそんな優越感が、冥月の心を優しくした。

「賭けはこれ! 棒倒しで行う!」
 うず高く盛られた砂山の上に、1本の棒が立てられている。
「少しずつ山の砂を削っていく。最終的にこの棒を倒したほうの負けだ」
 よくわからないが…なんだか地味な勝負だ。
 2人して山の両脇に座り込み、山から砂を掻き取っていく。
 なにが楽しいのかよくわからないが、草間は実に楽しそうに砂をとりわけていく。
 通り過ぎるカップルがクスクスと笑っていくのが聞こえる。
 でも…武彦が楽しそうなら…。
「ふっふっふ…ついにこの時がきた! くらえ! 必殺のギリギリ採掘!」
 ふいに、草間が大きな声を上げた。
 砂山からガバッと砂を取り分けて、後1回でも砂を掻き分ければ棒は必ず倒れるだろう。
「!? た、武彦これを最初から狙って…?」
「さぁ、お前のばんだ。ま、俺の勝ちは決まったようなもんだけどな」
 ドヤ顔で草間は冥月を見る。
 くっ! 地味な勝負だと思って侮ってしまった。
 でも、まだ勝てるかもしれない…と、そーっと砂を掻き分け…棒はあっさりと倒れた。
「よっしゃーーー! 俺の勝ちだな!」
「負けは…負けね。言うこときくわ。何をすればいいの?」
 そう訊いた冥月に、草間は少し顔を赤くすると「ホテルに戻ったらな」とだけ言った。
「? なら、もう一勝負しましょ。いい?」
「よし、なら海に入るか!」

 この後、草間は冥月との水泳勝負に負けて、昼飯の買出しをさせられるのであった…。

 
3.
 夕暮れの浜辺は恋人たちの為にあるような、そんな切なくも綺麗な景色だった。
 しっかりと恋人気分を味わった後で、2人はホテルの部屋へ戻った。
 腕を絡ませて、寄り添う2人はどこから見ても羨ましい恋人同士だった。
「楽しかった、ありがとう」
 そう言って微笑んだ冥月に、草間は「いやいや」と首を振った。
「大人の楽しみはこれからだろ?」
「え?」
 思わず顔を赤らめた冥月に草間は微笑んだ。

「こっそり買ってたあのエロい水着、今日持ってきてるんだろ? 今から着て見せてくれよ」

「!? 何で知ってるの?!」
 思わず大きな声を出した冥月に、草間はにぃっと意地悪げに微笑んだ。
「昼間の棒倒しの勝負、俺が勝ったよな? 俺の言うこと、きいてくれるんだろ?」
 すっかりお見通しだった!
 知られないように買って鞄に詰めて来た筈なのに!
「…し、シャワー浴びてからでも…いい?」
 そうして、夜のお楽しみ。
 ちょっとエッチな2人だけの水着ショーが始まったのであった。

 VフロントにVバック。
 どちらを向いても何かが見える。
「をぉ! おおおおおおお!!!」
 草間は1人大興奮で、それに対して冥月は恥ずかしさのあまりに胸を両手で覆い隠す。
 しかし、そのしぐさすら胸を強調するグラビアアイドル並のお色気ポーズに他ならない。
「…俺の隣に来いよ」
 極めて冷静を装う草間…だったが一片の煩悩をも隠しきれてない。
 まさに獲物を狙う野獣の瞳!
「だ、ダメよ! 見るだけでしょ!? 着るだけでしょ!? ダメだからね!」
 哀れ、狙われた子羊・冥月は懇願しながら野獣・草間の手をすり抜ける。
「…ならいい。携帯に撮るんならいいんだな? 見るだけだし、着るだけだもんなー?」
 そう言いながら草間は「確か冥月の鞄に入れてもらったよな」と冥月の鞄に手をかける。
「え!? あ、ダメ!!」
 慌てて引き止めた冥月だったが、遅かった。
「!?」

 草間は手にしてしまった。
 水着ショップで冥月に試着させたヒョウ柄のビキニと、ピンクのちょっとロリっぽいビキニを…。


4.
「何でこれがここに…!?」
 草間は予想外の持ち物に冥月の顔を覗き込む。
「だ、だって…どれが武彦が一番喜んでくれるかわからなかったんだもの!」
 試着の時、どれもこれも私を思って選んでくれたから。
 もしかしたら、他にもっと着て欲しい水着があったのかもと思うといてもたってもいられず、全部の水着を買ってしまった。
 顔を真っ赤にしながら困った顔した冥月に、草間は優しく囁いた。

「ここにあるの、全部着て見せてくれ」

 この男、Sですか?
「………」
 二の句が告げない冥月に、草間はさらに囁く。
「なんなら俺が着替えさせてやろうか?」
「着替えてくる! 着替えてくる!!」
 草間から水着をひったくって、冥月はバスルームへと駆け込む。
 スルリとVフロントの水着を脱いでピンクの水着に着替える。
 どうして…どうしてこうなった!?
 すべてはあの棒倒しのせい!?
「…着替えるの手伝ってやろうか?」
「ひゃっ!」
 いつの間にか後ろに立っていた草間に、おもわずびくっとした。
「いらない! 手伝いなんていらないから!」
 そう言いながらも伸びてくる草間の手を振りほどくことが出来ない。
「うん、やっぱりこういう可愛いのもミスマッチな感じで似合うようなぁ…でも」
 草間はおもむろに水着の両肩に手をかけた。

「やっぱり何も着てないほうが俺的には好みだなぁ」

 ずりっっと下げられたビキニトップ。
 硬直する冥月。
 ニヤニヤと草間は冥月を抱きしめて、耳元で甘く囁く。

「大人の夜は、これからだろ?」

 常夏の夜は…まだまだ長い。


■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 2778 / 黒・冥月(ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒


 NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ)/ 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵
 

■□         ライター通信          □■
 黒・冥月様

 こんにちは、三咲都李です。
 ご依頼いただきましてありがとうございました。
 常夏ノベルのサブストーリー…多少時間の流れが違うところがある気もしますが、そこは笑って誤魔化させてください。(土下座
 少しでもお楽しみいただければ幸いです。