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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


+ 四大元素の宝玉 +



■■■ 序幕:四大元素の宝玉と始祖 ■■■



「草間さんは四大元素を知っていらっしゃいますか?」
「『地水火風(ちすいかふう)』または『風火水土(ふうかすいど)』の話か。物質は『火、水、土、空気の四元素からなりたつ』っていう」
「知っているなら話は早い。今回の依頼はそれに関する捕獲及び回収となります」
「また物騒な依頼が舞い込んできたもんだ」


 草間興信所所長の前に出されたのは高額が記載された小切手、それからその下に資料の入った封筒。
 所長である草間 武彦(くさま たけひこ)は小切手を飛ばないよう、軽く小物の下に置いて止めてから資料へと手を伸ばした。


「陰陽筋である我が家に伝わる宝玉として四大元素の能力を凝縮した珠とし、選ばれた者のみが使用出来る数珠が有りました。ですが先日、情けない事に泥棒に入られてしまい、その宝玉も盗み取られてしまったのです。ですが幸いな事にその窃盗犯達はその筋の物ではなく単純に祀ってあった数珠を高級品と勘違いして持ち去った一般人でしたのですぐに我々一族と警察の方にて確保及び逮捕、他にも盗まれた物と一緒に帰ってきたのです。……一つだけは」
「その一つとは?」
「先程草間さんがおっしゃったように四大元素とは火、水、土、風で成り立っております。ですが、戻ってきた宝玉は一つだけ、『土』のみ――残りの『火』『水』『風』だけが行方知れずとなってしまったのです」
「そりゃ、また面倒な事で」
「窃盗犯達が言うには『売り払っていない』という事でしたので、彼らは自分の意思で出て行ったのだと考えられます。実際珠の欠片のようなものが窃盗品の中に散っていたという警察の証言も有りますので」
「ちょっと待って、『彼ら』ってなんだ。そこ重要だろう」
「四大元素を封じた時、『彼ら』は各々の属性に似合った人型の姿を取っていたと資料には残されております。例えば『土』は落ち着き払った老人。『火』ならば気性の荒い男性だったと……」
「そういう話ならば数珠を作った奴は契約によって傍に置いていたんじゃないのか。選ばれし者のみが使用出来るなら現在もそういう人間は居なかったのか?」
「残念ながら今の世ではまだ数珠に選ばれた者は居りません。……もちろん候補者はおりますが、その候補者もまだ一桁の子供」
「ああ、そりゃ厳しい」
「なので回収をお願いしたいのです」


 依頼人は懐より布に包んだ一つの珠を取り出す。
 するとその珠よりゆらりと陽炎のように水干衣裳を纏った白顎鬚の長い老人が姿を現し、依頼主の隣に立つ。印象は昔話の仙人。だが、その輪郭は朧で定まる事はない。


『ぬしが我らが友を探す者か』
「今その交渉中だ。そういうあんたは『土』か」
『我が名は土公(つちぎみ)。水仙(すいせん)はともかく、急がねば火斗(かと)と風見(かざみ)は戻るのを嫌がるぞ。水仙が何故出て行ったかは分からぬが、火斗と風見は一つどころに留まる事を本来嫌がる気質ゆえ。――それに我らの力が高まる満月も近い』
「お前さんにはその残りの三人の行方は分かるか? 地脈で探るとか手はあるだろう?」
『協力者ではないものには話せぬ』


 道理だ、と武彦は溜息を付く。
 そして暫しの間考え込んだ後携帯を取り出し、アンティークショップ・レンの店主、碧摩 蓮(へきま れん)の番号を探す。


「依頼を受けよう。俺は今より協力者を募るから、何を最優先したらいいのか纏めてくれ」
「有難うございます」
『かたじけない』


 そして次の日の朝、集まった協力者達に対して土公は広げられた地図を前に口を開く。


『まずは水仙を探すがよかろう。彼女は流れるままに存在するのが己の存在意義。心根も優しい女性じゃ。ぬしらが敵対せぬ限りは話し合いで解決が可能だと我は考える。――場所はこの森の地図にも載っておらぬ小さな湖水』
「何故そこにその水仙とやらが居ると?」
『彼女と我らが最初の主――始祖(しそ)と契約を結んだ場所がそこなのだ。彼女は始祖を一番慕っておったゆえに』


 懐かしいのう、と小さく口にする老人の目はどこか優しかった。



■■■ 第一幕:彼が愛した彼女の湖水 ■■■



 そこは未開の地。
 森の奥深くを土公の指が示した通り、武彦達はその場所へと即座に向かい、途中までは車やバイクで移動し、獣道すら見えない森の『先』は自分達の足で進んだ。ざっざっざっと草を踏む足音が響く。この状況を最初から予想していた皆はそれでも僻地である事に若干うんざりしつつ、方角だけを頼りに進んだ。


 今回の依頼に協力してくれたのは四名。


 長いストレートの黒髪が美しい少女――石神 アリス(いしがみ ありす)。
 彼女の能力は「魔眼」。魔力を持った瞳で対象を見つめる事で催眠または石化状態にできる能力だ。そして彼女本人の洞察力が数々の難事件を解いてきたところがある。


 続いて金のウェーブ髪を背中まで伸ばした見かけは少女のような眼鏡をかけた女性――セレシュ・ウィーラー。
 彼女は治療や防御の術を得意とし、また神具・魔具の解析、作成、修復に長けている。それに加えて結界を張る能力など所有しておりサポート面で強い。


 三人目は褐色肌に銀色の長い髪を持つ十代後半の少年――鬼田 朱里(きだ しゅり)。
 その中性的な顔には民族ペイントがなされ身に着けているものもアジア風民族衣装。彼の所有能力は符術。力を込めた符を使い、治癒やダメージ軽減を行う事が可能だ。


 そして最後の一人は茶色の髪に緑の瞳を持つ十八歳の少年――アキラ。
 彼は理由が有って自身の名を名乗りたがらない。それを草間武彦は容認している。この世には自身を隠して生きる存在も多い為深く追求しないのだ。そんな彼の能力は武彦が知る限りでは魔術。攻撃も治癒も出来る万能タイプだ。


 彼らは今回の依頼を通して既に自己紹介を済ませている。
 その際、アキラに対して他三人が「誰かに似ているような……」と首を捻ったが、アキラは若干動揺しつつも「き、気のせいですよ!」と笑ってはぐらかした。
 その様子を見て朱里はまるで自分のようだと何となく思う。朱里自身も実はその正体が『鬼』でしかも人間界ではアイドルという面を持っているため、自分自身を完全にさらけ出す事が出来ない。その点が少し共通しているように感じた。
 またセレシュも己がゴルゴーンである事を隠しているため同様の念を持つ。
 唯一アリスだけが能力者であるという一点を除いて人に話せない秘密はない……多分。


 そして物語は現在軸に戻り。


 やがて湖水に繋がっているであろう水の流れを見つけると皆それに沿いながら上っていく。
 水の量から察するに目的地は目と鼻の先なのは明白だ。やがて辿り着いた水源地。そこから溢れ出る水は清く、飲む事も可能だと言う事は一目で分かった。大きさは数十メートルほどの歪な円型の湖水――その中心に『彼女』は身を沈めていた。
 仰向きになり、巫女服に近い動きやすい着物を纏った彼女は訪問者である彼らに目もくれずただ水面に浮かんでいるだけ。彼女の長い黒髪や着物の布は水流に逆らわずただ揺れ、静かな時を刻む。


『水仙、何故数珠から逃げた』


 その時、武彦が借りていた土公の数珠がポケットの中で光り出し、土を属する老人がゆらりと水面へと降り立つ。彼の言葉に反応を示した水仙はやがて武彦達をその蒼の瞳に映し出し、そして微笑んだ。


『この場所に逢いに』


 この言葉に土公がその皺の多い顔を複雑そうに歪めたのが皆分かった。どこまでも穏やかな口調で、けれどそこに込められた悲哀の感情が分からぬほど皆鈍感ではない。


「何故貴方は数珠に戻らなかったのですか?」
「朱里さん? どういう意味や。彼女かて何か理由があって出て行ったんやろ」
「でも、私はずっと考えていました。彼女は確かに何か理由があって出て行ったのかもしれない。だけど『帰ってこなかった』のは何故なのでしょうか。もし目的が達成されているならば彼女の性格を考えれば戻ってきてくれたかもしれないでしょう?」
「ということは何か湖水に問題があったのでしょうか。わたくしが聞いた限りではこの湖水は始祖がとても愛し、そして水仙さん――貴方と契約を交わしたと言う思い出の場所なのでしょう」
「問題があるなら俺達に話して欲しい。出来る限りの事はしようと思ってますから」


 最初に問いかけたのは朱里。
 その言葉をきっかけに皆、それぞれ思っていた事や疑問を口にする。水仙は土公が話す限り温厚な女性である。説得で済むならばそれで越した事はない。
 やがて水仙はそこに地面があるかのように下半身を水面に浮かせたまま上半身を持ち上げ、起き上がった。水面に広がっていた髪の毛が回収され一纏まりになっていく様子は美しく、言葉を失う。
 その表情は『あい』の色。愛、それとも哀か。


『彼に逢いたい』
「彼って始祖の事やな。あんたもしかして何か始祖さんと約束とかしてたとかとちゃうんかいな」
『逢って、もう一度あの優しい腕に抱かれたい』
「何か思い出話とかあるなら聞きますし、この湖水自体に何か重要な問題が起こっているならそれを取り除く努力を俺達がします」
『――……彼と約束をしたの』
「約束とは契約以外のものでしょうか?」


 セレシュの言葉に反応し、水仙は己の顔を両手で覆いながらぽつりぽつりと話し始める。それをアキラやアリスが補助し、気に掛かった部分を問いかけた。そして水仙は約束と言う単語に小さく頷きを返す。


『死ぬ間際、「いつか必ずまたこの湖水で逢おう」と彼は言って下さった。だから私はそれを信じ、ずっと彼との契約を守りながらあの数珠の中で彼の子孫を守護し続けました。だって彼の血筋ですもの――どうして見捨てられましょうか』
「だけど何故今となってその数珠から出たんですか? 俺はその点が違和感を感じるよ」
『契約は強く私の身体を縛り続けました。けれど苦痛ではありませんでした。それも愛しいあの人の子孫達が優しくして下さったからです』
「契約というのはどちらにも天秤が傾いてもいけないもの、つまり等価交換であると私は思っているのですけど……始祖は何の協力を願っていた?」
『彼はただ平和を』
「平和やて?」
『四人の中で私が最初に契約を交わしました。十ほどの小さな陰陽師だった彼が私に望んだのは「悪意ある妖のいない自然な平和な世」のみ。この湖水を愛してくれた幼子。彼と共に過ごした日々は決して忘れません。――けれど』


 そこで彼女は言葉を区切り、そして声色を低い物へと変化させる。


『だけど、ここ何百年かの後継者は純粋な御子ばかりではない。例え後継者が純粋な水のような心の持ち主でも、その周囲の人間が悪意ある者ならばその御子が利用されるのは必至。その御子を愛せても、私は周囲の者を愛せない。――彼の血筋の者なのに後継者達とその周囲との温度差は何故あれほどにまで違うのか私は悲しい』


 その声は静かなる怒りに満ちて。
 ピシッ――と音が鳴ったのはそのすぐ後。彼女を中心に湖に亀裂が走る。夏の湖水、そこは決して凍るような場所ではなかった。だけれど彼女の心に呼応するかのように冷えた温度が一気に水面を走り、水のある場所全てを氷へと変化させていく。水面に足を付けていた者は危険を察知し、岩場の上へと飛び上がる。
 幸い誰も足を取られた者はなく、皆一様にほっと安堵の息を吐いた。


『暫く水仙と二人きりにさせて頂けませんかのう』
「土公」
『彼女を昔から鎮めてきたのは我ゆえに。そして我は始祖と結んだ契約では二番目に当たる者。……数年の差とはいえ、彼女の次に我が長く始祖と寄り添った仲。ただ此処に置いて下さるだけでも彼女の慰めになればと良いのじゃが』
「分かった。アンタの言い分に今は従おう――お前達、一回降りるぞ!」


 武彦はポケットから土公の封じられている珠を凍った水面へと下ろす。
 ゆらりと陽炎のような老人は深く頭を下げると近くの岩へと腰を下ろし、空を見上げる女性をただ優しく見守った。それは土――大地の安定を示すかのような視線。流れる水の属性を大地はただ包み込むように。


 そんな水と土の二人を見ながら、皆一旦湖水から離れる事にした。



■■■ 第二幕:今昔(いまむかし) ■■■



 湖水が見渡せる森の中で彼らは各々木々に寄りかかったり、適当な岩に座ったりしつつ会議を始めた。


「草間さん、わたくし一応依頼を受けた段階で事前調査を行っておりますの」
「何か分かったか?」
「今回は時間があまり有りませんでしたので依頼者の周辺のみが限界でしたわ」
「まあ、それでもええやん。それで、何か分かったん?」
「ええ、依頼者がおっしゃっていたように、確かに陰陽筋の方々である事には間違いありませんでした。ですが、水仙さんが嘆くのも分かる気がします。何故なら『現代』をなめていらっしゃる方が今の依頼者の周りには多く居るようですわね」
「と、言うと?」


 朱里がアリスの言葉に問いかける。
 アリスはそんな彼に片手を前に出し、そして逆に真摯な表情で問いかけた。


「朱里さん、貴方は陰陽筋の人間を清い存在と思われますか?」
「え、いや、私は……うーん……清いかと言われたら返答に困るかな」
「ではアキラさん。貴方は?」
「俺としては何となくアリスさんが言いたい事は分かる気がするな。後継者が数十年出ていないという事実、それに平成から昭和、いや、もっと遡っていっても精霊のような彼らにとってはあまりにも悲劇的な事ばかりが起こっている。――例えば世界規模の戦争とかね」
「おっしゃるとおりですわ。わたくしが調査した限りでは『契約』は確かに続行されていたようなのですが、それ自体を軽んじた一部の始祖の血筋の者は折角彼らに認められた新たな後継者を『金のなる木』として扱っていた事が判明致しましたの」
「……ほんま、世の中世知辛いこっちゃ」
「そして契約に関してですが行われたのは千年も昔の事。弱まってきても可笑しくはありませんし、そもそも後継者が長い間居ないのであれば今で言うならば契約の更新も出来ませんでしょう?」


 事前調査を行ったアリスの的確な情報に皆虚しさを込めた息を吐き出す。
 今の世、陰陽筋と言えば大きな血筋を持つもののみが生き残っている。能力者と呼ばれる人間や人間に無害な妖怪達がひっそりと存在している現代、陰陽師であれば堂々とその能力を使用し政治にまで関わる事が可能だ。そこに金銭や人の悪縁が絡まない訳がない。
 現代人である自分達には正直頭の痛い話題である。


「なんか一気に現実的な話になったなぁ。うちとしては水仙さんに関しては説得の方向で行きたいんやけど……皆どない思う?」
「それには賛成ですわ。水仙さんはただ寂しがっていらっしゃるだけですもの」
「俺もそれには賛成です。タケさんもそれで良いですよね」
「ああ、構わない。ん? 朱里? おい、どうした。そんなに考え込んで」
「――……」
「朱里さん?」
「おーい、どないしたんー」
「はっ! すみません、ちょっと深く考えすぎました」
「一応水仙さんを説得する方向で今考えが纏まったんですけれど、何か考えがおありで?」
「そうですね。私は――」


 そう言って朱里は寄りかかっていた木の幹に手を寄せ、自然を見上げた。


「私はずっと考えていました。今回逃げ出した彼らを封印するのは最善なのでしょうか、と」
「でもそれ以外に方法はないのでしょう。ならばわたくし達がやるべき事は彼らを連れ戻す事、違いますか」
「確かに再度『封印するための珠』は与えられています。けれどそれでは同じ事が繰り返されるだけではないでしょうか。特に話を聞いている限り縛られるのが嫌いな人が二名居るとなると、無理矢理では後で痛い目に遭うのが関の山」
「そうそう。うちもそれに関しては考えてたんや。武彦さん。例の珠、見して」
「ん」


 武彦がセレシュに依頼人から渡されていた珠をポケットから取り出す。そしてそれを彼女の手に乗せた瞬間――。


―― ドォンッッ!!


 轟音と共に湖水に水柱が立ち上がり、自分達が居る場所にまで水、そして氷のかけらが飛んでくる。セレシュは渡されたばかりの珠を危うく落としそうになり、慌てて自分のポケットの中にしまい込み、落とさぬよう更にチャックで蓋をした。


「今の音は」
「いくぞ!」
「「「はいっ!!」」」


 揺れた大地。
 湖水を襲った衝撃。


 それは明らかに不自然な動きであるとこの時点で彼らは本能的に察していた。



■■■ 第参幕:彼らが探した最果て ■■■



 皆が駆けつけたその場所には新たな人物が二人背中合わせの状態で宙に浮き存在している。


『これはこれは、俺達を封印せんとやってきた奴らの手先か。始祖の血が入っておらんお前らに用は無い。今すぐ去れ!』


 揺らめく髪の色と瞳は文字通り燃える様な赤。
 着崩しの朱着物に炎を纏わせた当時の日本にしては珍しい両刃剣を持って水面から僅かに浮いて立つ気性の荒い成人男性。――火斗(かと)。


『あれー、水仙姉様。この程度の悪戯が避けられないほど弱っちゃった?』


 後頭部で腕を組んで楽しげに笑う飄々とした少年。
 白着物に紺子供袴を纏う彼の髪は白く、その瞳は薄い青。しかし手の中に存在させている空気の渦が今しがたの轟音の原因だと言う事はすぐに判明した。風を操る彼の名は――風見(かざみ)。


 ぐったりと全身を脱力させ、土公の腕の中で倒れ込んでいる水仙。
 そんな彼女を抱きとめ、土公はぎりっと歯噛みする。火斗は武彦達を、風見は水仙達を眼に入れながら笑いあう。元より二人はその本来の性質より仲が良かったと依頼人からも供述されている。
 武彦は臨戦態勢に入り、せめて距離のある位置に居る水仙と土公達の元へと急ぎ駆けつけようとした――が、それを許すほど火斗と風見は温厚ではない。


『お前に何の権利がありその珠を持って現れたか答えよ!』
「――っ!?」
「タケさんッ!!」


 火斗が己の両刃剣を大振り、火炎の竜を飛ばす。
 それを更に風見が援護し空気を含ませると竜を巨大化させ、より破壊力の増したそれが武彦を襲う。武彦とて攻撃がこない可能性を考えなかったわけではない。しかし彼が避けようとした先にまで竜はその身体を伸ばし、彼を焼こうと襲い掛かった。
 だがそれを食い止めたのはアキラだった。
 己の魔術で水の防壁を作り、その防壁が熱によって一瞬にして湯に変わる。隙間を抜けて僅かに走った火の筋だけが武彦の前に立ったアキラの前髪を焼いた。


「あっぶな……ッ! タケさんの方は大丈夫!?」
「平気だ、お前は!?」
「今のところ前髪をちりっと……。でもタケさんは早く二人のところに行って、此処は俺達がやるんで」
「……頼んだ!」


 アキラに促され、武彦は水仙と土公の元へと今度こそ一直線に走り辿り着く。
 アキラ達四人は各々が得意とする術の準備及び、相手への警戒心を走らせいつでも応戦出来るように待機した。
 水仙は不意打ちを受け、ダメージこそあるものの気を失ってはいない。土公に寄りかかりながら火斗と風見へと手先を持ち上げる。水気を含んだ着物の袖が細い腕を重さで滑り落ちていく。


『火斗、風見。あの方は見つかったの?』


 水仙のその言葉に火斗、そして風見は首を振る。


『水仙姉様。次の後継者候補は確かに始祖様の魂に今までの誰よりも近かった。でもあの子は始祖様じゃないと思うよ。それでも待つの?』
『俺はもう諦めた。あの男は約束を違えたのだ』
『いいえ、いいえ。きっと今生ではなく、次の世代にはきっと……!』
『水仙、まさかお主……火斗、風見! 何を水仙に吹き込んだのだ!』
『何も? 僕らは水仙姉様に「自らの力で始祖様を探そうよ」って言っただけ。それの何が悪いの。だって始祖様は確かに死の間際僕らと約束してくれた。また逢おうって。だけど千年だよ? もう始祖様は約束なんて忘れてるんだって思っちゃうじゃない』
『だからかっ。三人同時に出て行ったのは!』
『はっはっはっ! くそ爺が、してやられた顔をしてやがる。二人で出て行ったなら二対二、その力は互角と言えよう。しかし三人同時ならこんなものよ! 容易かったわ!』


 風見が困ったように土公の言葉に応答する。火斗はそのやり取りが可笑しく、大声で笑い続けた。
 此処に来て三人同時脱出及び水仙がどうして戻らなかったか、その理由が明らかとなる。


 三人同時脱出は誰にも彼らを止められないように図るため。
 水仙を誘った言葉は「始祖を探そう」とただ一つ。
 そして水仙はその言葉通り外に出て、この湖水にて自身の気を巡らし、己の力が続く限りの範囲で始祖を探し続けた。


 全ては自分達が自由になるため――全ては始祖と再び巡り合う為に。


『おい、くそ爺。貴様もこっちに来い。なんせ千年の付き合いだ。お前だけ残していく事はせん』
『何を言うか、火斗!』
『お前に何も言わなかったのは最初から邪魔されちゃ自由になれんと思ったがゆえにだ。だがな、今こうして俺達は外に居る。その珠に縛られず、人間に利用されずに自由に生きようぜ』
『そうだよ、土爺(つちじい)。姉様も外に出ようって思ったんだよ? 土爺ももう縛られなくったって良いと思うんだー! 僕、土爺の事嫌いじゃないよ。また始祖様が居た頃みたいに皆で遊ぼうよ!』


 火斗と風見が未だ珠に封じられている土公の姿を見下ろしながら誘いをかける。
 その証拠に火斗はその逞しい手を彼へ差し出し、風見も楽しそうにその手を取るように視線で圧迫した。確かに封じられている身としては気を養う機会も少なく、苦痛だ。しかしその魅惑的な声に乗るほど、土は――『大地』は不安定ではない。
 彼は水仙を抱きしめたまま、そっと首を振った。


「どうやら説得は出来ない雰囲気ですわね」
「このまま逃げられる方がまずいっちゅー話やねんって」
「封じ込めるかどうかはともかく、今は二人を逃がさない方向で動きましょうか」


 近くに居るアリス、セレシュ、そして朱里は作戦を簡単に練る。
 それをアキラへと視線と口パクで伝えるとアキラもまた頷き、自分が使える魔術の中で相手の弱点を突くであろうものの準備を始めた。その際彼らの心情も理解出来ないわけではないアキラは一種の葛藤を抱える。しかし、それだけでは何も解決しないのだ。
 そして一斉に火斗と風見の捕獲を開始する。


「悪いですけど、ここから逃げられては困るので足止めさせてもらいますよ。火斗さん!」
『小童が……っ! 水術を使うだと!』
「サポートします、アキラさん!」


 火斗を請け負ったのはアキラ。
 そしてそのサポートに回ったのは朱里だった。符を使い、彼に襲い掛かってくるであろう火への耐性符を飛ばし、自分の前にも防御壁のようなものを張る。もちろんそれはアリス、セレシュにも適応された。
 火へは水。
 先ほど水で防壁を作った事が有効だと知ったアキラは今度は氷を尖らせた氷柱を何本も瞬時に作り上げ、それを火斗へと飛ばした。
 だがそれは火斗へと届く前に突風で横に押し流されてしまう。当然風の領域は風見の担当だ。


『怖い怖い、お兄さんの攻撃怖い。ほら、火斗が泣いちゃうじゃんー!』
『誰が泣くか!!』
『あははっ、火斗が泣かないって言うなら僕はあっちのお姉さんと遊んでくるねーっ』


 風見は瞬時に己の身体を先ほどの攻撃の衝撃で舞い上がった水滴の中に隠し、そしてそのまま尋常ではない勢いでアリスとセレシュの元へと飛んだ。それは音速よりも早く、二人の元に辿り着き彼女達へと手を翳す。
 アリスとセレシュはそのスピードに付いていけず、セレシュは反射的にアリスの前に出た。


「危ないで、アリスさん!!」
「――っ、セレシュさん。退いて下さいませ!」
『 さ よ う な ら 』


 衝撃波が彼女達二人の身体へとぶち当てられ、前に立ったセレシュは盾の役割も果たせずアリスと共に森の中へと飛ばされた。幸いだったのは其処が土公の支配下である大地だった事。土公は水仙を抱きながら片手を大地に突き立て同化し、吹き飛ばされた彼女達を優しく受け止めるように大地を柔らかく変化させた。
 そのため掠り傷程度のものは受けただろうが、通常ダメージよりかは大分軽減されたはずである。


「ぃっ……アリスさん、大丈夫!?」
「大丈夫ですわ。……しかし、やはり風の属性の彼は速さに長けてますのね。セレシュさん、ちょっとわたくしに力を貸して下さいな」
「ん、なんや」


 アリスはセレシュの元へ寄り、セレシュの治癒魔法を受けつつ作戦を口にする。
 そしてセレシュはその作戦に頷きを返し、アリスの前に再び立ちながら湖水へと近寄った。


『土爺ー……もう抵抗するの止めてよっ! 僕は土爺の敵にはなりたくないんだよ?』
『火斗も風見ももう止めい。このように仲間内で争いあって何になるっ! これこそ始祖様が望まぬ行為と思え!』
『くそ爺は頭が固ぇ固ぇ。その始祖様の意思に従わなかった連中が水仙を悲しませてると言うのによぉ! ――っと。下の小童も中々順応するじゃねーか。今度は土か』


 火斗は自分へと飛ばされた岩石を両刃剣で切り裂き、素早く真横へと避ける。飛ばされたそれは遠くの方で二度、どすんっと重たい音を立てて落ちた。
 本来虚像の身体である彼らに通常の攻撃は効かない。けれど魔力を帯びたものならば別だ。だからこそ火斗はアキラの攻撃を避ける。当たれば虚像とはいえダメージを喰らうからだ。
 さて、岩が落ちた音を合図にセレシュ・アリス組が風見へと動く。


「さあ、こっちも行かせて貰いますわ」
「何も出来へんと思わんといてなっ!!」


 後衛の方が得意なセレシュだが、今回ばかりは愛用の剣を空中から取り出し前衛として戦う事に決めた。アリスの作戦を成功させる為にはこれしかない。
 当然その剣も通常のものではないため、上手く斬り付ける事が出来れば風見の動きを止める事が可能だろう。セレシュは走る。先ほど受けたダメージによる痛みをこらえながらも。そして半ば体当たりに近い状況で風見へとその切っ先を向けた。


「喰らいやぁーっ!!」
『うん、それは避けるっ』


 しかし「風」はあくまで暢気だった。
 己のスピードを信じ、飛び込んできたセレシュをひょいっと避け更に――自分の真下にある湖水へと風を打ちつけ水の壁を作り上げる。その防御にセレシュが押され、後ろに居たアリスが僅かに動きを止めた。


『あははははっ、後ろの子。魔眼持ちなんでしょ? お姉さんが庇っているふりをしてもし僕が一度でも彼女と視線を合わせてしまったら最後、石にしようって作戦。うーん、悪くないけどね』
「――っ! なんで知ってんねん!」
『何言ってるの、声は僕の支配下だよ』


 そう声は『風』の領域。そんな彼が何か喋っていた二人の声を拾わない訳が無い。
 だから風見は水の壁を打ち立てた。少しでも相手が揺るぐように。
 打ちあがった水が次第に落ちていく。水の領域である水仙の湖水を舞台に彼はあくまで飄々と自分らしく在り続けた。
 だが、セレシュは笑う。


「そっか、んじゃ大人しゅう石化してもらおっか。うちはどっちでも良かってん」


 彼女は眼鏡に手を掛ける。
 絶対に風見がアリスを見ないというのならば仲間の安全を優先させるしかない。眼前に現れるセレシュの瞳。瞬間、ぴきっと指先が凍るような、否――固まる感覚に怯え、そしてつい風見は彼女を――アリスを見てしまった。


『な、んだって……!?』
「さあ、わたくしを見て。可愛い少年の石像も私は好きですわ」
『ぁ、ぁあ、あ、あ!』


 肌色は灰色へと変色し、恐怖に怯えた目がアリスを見つめる。
 セレシュはその間にさりげなく少しだけずらしてしまった眼鏡を戻した。全てはアリスの魔眼を使うための布石。浮いていた身体は石になったことにより能力を持続出来なくなりとうとう湖水へと落ちる。水仙は水没したその石像を優しく手元へと手繰り寄せ、そして火斗達の方を見やる。


『風見も落ちたか。やりおるな。小童共』
「貴方もさっさと落ちてくれると嬉しいんですけど?」
『俺は俺のやりたい事をするまでよ。さあ、始祖さえ俺に苦戦したのだ。小童達よ、お前にはその力を超える事が出来るか?』
「うん、きっと無理だと思うんですよね」


 アキラと朱里に投げかけられた挑戦的な言葉には残念ながら二人は首を盾に振り肯定した。
 だがすぐに二人は顔を持ち上げ、改めて攻撃を開始する。


「効くかどうか分からないですけど、一応やってみますか」
「よっしゃサポートすんで!」


 朱里が己の爪を鋭く伸ばし、虚像の身体へと斬り込む。
 明らかに物理攻撃であるそれをセレシュが見た瞬間、補助魔法を飛ばした。それは非実体にでも攻撃が有効になるもの。簡単に言うと爪に魔力を帯びさせたのだ。
 ひゅぅっと楽しげに朱里は口笛を一音鳴らす。
 てっきり物理攻撃で来ると思っていた火斗だが、この連携攻撃に不意を喰らい、爪で強く己の身を引き裂かれてしまう。
 そして水仙は自身の湖水に一直線に厚い氷を張り、朱里が落ちないようサポートをする。すべりそうにはなったが、彼はそれでももう一回立ち上がり、更なるダメージを重ねるため火斗をまた切り裂いた。


『な、んだと――!?』
「ごめん、そして俺もまだ残ってる事忘れないでね」


 続いて放たれるアキラの魔術は『水の竜』。
 それは朱里の攻撃によって傷付いた火斗を確実に飲み込み、そしてアキラはそれが凍る様に念じた。当然凍らぬよう火斗は足掻く。火を司っている火斗の周囲を水蒸気がもうもうと立ち上がる。
 だが、それをアキラは狙っていた。
 彼はバッとその場にしゃがみ込み、詠唱を始める。それは滅多な事では使用しない上級魔術の詠唱だ。火斗が何かしでかす前に朱里は自分の符を使い、周囲を固める。今度はアリスやセレシュも駆け寄ってきて補助する事は忘れない。


 ――そして、それは発動した。


 ゴゴゴゴゴゴゴッ、と盛り上がる湖水の水底の土。
 それはやがて百獣の王に似た四足獣の形を取ったかと思うと自ら水面を飛び出し、火斗へと喰らい付いた。火斗を遥かに上回る巨体が噛み付き、暴れる彼をそのまま湖水の底へと沈め、そして水底で獣は硬化していく。火斗の四肢の自由を奪ったまま、彼の弱点である水へと追いやって……そして。


『ふむ、火斗もまた気を飛ばしたようじゃな』
「よっしゃ! 一人じゃ無理でも仲間が居ればそれなりに頑張れるんですよ!」
「ですよねー。あー、物理攻撃だから無理だと思ったんですけど、まさかセレシュさんがこんな凄い魔法が使えるなんて……始めから頼んでおけばよかったです」
「うちもあんさんがそんな風に爪伸ばせるっつーなら最初から補助魔法掛け取ったっちゅーの。あー……でもこれで一応は帰れるんかな?」
「水底の火斗さんさえ回収出来れば帰れるんじゃないでしょうか」
『流石にもう歯向かってはこんと思うがのう。二元素が揃っており、他にも能力者が居るのなら火斗も馬鹿な真似はせんじゃろうて。――水仙、ぬしもぬしじゃ。あやつらの言葉に惑わされよって』
『ごめんなさい……』
「まあまあ、とりあえず依頼人の元に四人共連れて行かせてもらうが……異論はないな?」


 武彦のその言葉に水仙と土公は頷く。
 それを見、携帯を取り出した武彦は依頼人へと連絡を取ろうとするが……。


「圏外だ」
「山ん中やさかい、車まで戻ってからにしたらー?」
「そうするか」


 湖水を見れば暴れた痕が痛々しく残っている。
 土公は己の領域である大地だけを動かし、表向き湖水を整えた。セレシュもその様子を見て出来る範囲で掃除や水の洗浄に努める。
 水仙は両手を合わせ、そして涙を零した。


『いつかまたこの場所で契約を――……始祖様。あの方に逢いたい』
「私もだよ、水仙」



■■■ 終幕:今生の君 ■■■



 そこに居たのは十ほどの少年。
 しかし身形は白の水干服に紺の袴。誰もがその気配を察知出来ず、最初妖(あやかし)かと思った程だ。だけど水仙と土公だけは違った。


『始祖、様』
「なんやってー!?」
「え、いきなりやってきた少年が始祖ってどういう事!? そういうオチで良いんですか、ねえ!?」
「セレシュさん、朱里さん落ち着いて下さい。……しかしオチって言われると悲しいですよね」
「そういう話はともかく、貴方はどなたですの?」
「待って下さい、若ーっ!!」
「お、依頼人が来た」


 少年の後ろを追いかけてきたらしい依頼人の姿が目に入り、武彦はやれやれと肩を竦める。依頼人が出てきたという事は間違いなくその筋の子供なのであろう事はその場に居る誰もが推測出来た。しかしぽっと出てきた少年がイコール始祖様というのはどうなのか。
 さあ、説明しろ。さあ、さあ、さあ! とセレシュと朱里が主に詰め寄った。


「この子が次の後継者候補です。まだ九つの子供でして」
「で、あんたがここにいるのはなんでや」
「それが……流石にこの一件に関しては上に知らせずに事を進めずには居られず、念のためこの子を養育している分家の方へも話を通したのです。その際、若もその場で説明を聞き……そして説明を終えるとそれはもの凄い勢いで私に詰め寄ってきまして一言『湖水へ連れて行け』と言われたのです」
「その子には数珠を一度も見せた事が無かったですか?」
「十の誕生日に逢わせる手筈だったのです。なんせ始祖は十歳で水仙と契約を成した方。皆そのようにしてきました。あと数ヶ月も立てば若もまた数珠と対面を許された筈なのですが……」
「その前にこの方々が逃げ出したもとい泥棒に入られてしまったと言う訳ですわね。しかも始祖さんとは……灯台下暗しとはこの事ですわ」


 アリスは心底呆れたという表情で土公や水仙、石化した風見を見やる。今は水面しか見えないが、水底に居る火斗にも同様に。
 呆れているのはアリスだけではない。火斗と風見を収めた他の三人も同様である。だがそこで一つ疑問が浮かぶ。
 火斗と風見は後継者候補を「限りなく近いが、本人ではない」と断定していた。今聞き出すことは不可能だが、彼らが虚偽の発言をしたという事なのか。
 だがそれを口に出すと若と呼ばれている少年が首を左右に振った。


「私は火斗と風見を見た。彼らも同様に私を見た。しかし最初私には彼らが『何』なのかさっぱり分からなかったのだ。だが記憶は引き摺られ、過去を呼び起こし、そして決定打は数珠と彼らの逃走の話。今回の件について聞いている間に僅かずつ思い出してきた結果、今居る私の魂が過去と同一の気配のものとなったのであろう」
「なるほどなぁ。記憶が封じられた状態みたいなもんやったんやろうね。だから二人にとっては『限りなく近い』しか感じ取れなかったんかな」
「しかし……見事なまでに……ふ、くくく」


 少年は石化した風見を見て堪え切れなくなったのかやがて笑う。
 その表情を見た水仙は支えてくれていた土公から起き上がり、虚像の身体を実体化させ幼い身体を勢い良く抱きしめた。少年はふらついたが、千年離れていた者の背中に手を回し小さな手でぽんぽんと宥め始めた。


「泣くでないよ、水仙。また私達は始められる」
『はいっ……はい』
「あと数ヶ月のち、私はまたお前と契約を成すよ。約束通り、この場所でね」


 その感動の再会に水をさすものはいない。


「あんな、土公さん。うちちょっと考えてんよ。これについて」


 だがセレシュはさりげなく土公の傍に寄り、ポケットに仕舞い込んでいた珠を取り出す。


「これな、普段土公さんらの力を無理やり封印しておいて、使用者が望んだ時に強制的に呼び出す形やん。そうやなくてな、術式組み替えて封印ではなく四大を召喚できる珠に改造すれば契約守りつつ自由にできそうな気もするんやけど、どう思う?」
『我らの意思で出入りできるという事かのう?』
「ん、まあ、そう。でも正式に召喚されてへん時には力に制限掛けさせてもらって――ほら、二名程また問題起こしそうなのがおるからなぁ」
『それくらい構いやせん。やってくれるなら少なくとも水仙は喜ぶじゃろうて。他二人は窮屈じゃと喚くかもしれんが、それも良い事』


 目元を優しく緩めながら少年に抱きつく水仙を見やる。
 なんだかんだいって老人の姿をとっている彼は精神年齢が一番高く、そして纏め役ゆえか他の三大に甘い。


『大切な始祖が戻られた、これ以上の幸福は我らには無いものよ』


 その日見た彼の瞳は穏やかかつ優しさに満ちており。


 数ヶ月後、新たな後継者が誕生し、セレシュの手によって術式が組み替えられた珠により改めて契約がなされるのは――また別の話である。









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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7348 / 石神・アリス (いしがみ・ありす) / 女 / 15歳 / 学生(裏社会の商人)】
【8538 / セレシュ・ウィーラー / 女 / 21歳 / 鍼灸マッサージ師】
【8596 / 鬼田・朱里 (きだ・しゅり) / 男 / 990歳 / 人形師手伝い・アイドル】
【8584 / 晶・ハスロ (あきら・はすろ) / 男 / 18歳 / 大学生】


【登場NPC】
 草間武彦(くさまたけひこ)
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、参加有難うございました!
 今回四大元素をテーマに組み立てたお話でしたがいかがでしたでしょうか?
 OPに話だけ出ていた子供=始祖は元から決めていたので、あとはどこで登場させるか皆さんのプレイングを見てどきどきしておりました。
 また機会がございましたら宜しくお願いいたします!


■アキラ様
 初めまして、こんにちは!
 今回はガンガン戦闘して頂きましたがどうでしょうか。(魔術ですがああいう表現で大丈夫でしょうか?)
 むしろ上級魔法は詠唱、となっていましたがもしかして土人形もどきではまだ中級だったりするのかと悩んだり(笑)
 しかしアキラ様の出現におり、今後またご両親様含めた何かがあるのかと水面下でそわそわしております。ではでは!


 ―――― 【おまけ】四大元素データ ―――――


■四大元素の特徴


 火斗(かと):属性『火』。
 揺らめく髪の色と瞳は文字通り燃える様な赤。気性の荒い成人男性。着崩しの朱着物に炎を纏わせた昔の日本にしては珍しい両刃剣を持つ。火・炎に関する事なら思うが侭に操れる為注意が必要。昔暴れていた折、始祖に思い切り負け男惚れしたのがきっかけで契約に至る。しかし始祖のいない現代では……??


 水仙(すいせん):属性『水』。
 心穏やかな長い黒髪が美しい女性。巫女服に近い動きやすい着物を使用し、武器は無し。水脈を辿って水を見つけたり、水圧で物を破壊したり、物を凍らしたりと水に関しては多種多様に応用が可能。己が守護していた小さな湖水を愛してくれた始祖を一番慕っていた。


 風見(かざみ):属性『風』。
 白い髪、瞳は薄い青の飄々とした少年。白着物に紺子供袴を纏い、一つどころに留まるのを嫌がる。気まぐれ気質。攻撃方法は衝撃波、石や小枝などを飛ばすなど風を応用したもの。キれた場合、真空状態を生み出したりもするので注意が必要。始祖と気まぐれで契約した後、始祖を多くの場所に連れまわした経緯がある。


 土公(つちぎみ):属性『土』。
 落ち着き払った老人。見た目は長い白髭を生やした典型的な仙人の印象。暴走した火斗を土で埋め落ち着かせたり、水仙の相談を受けたり、始祖を連れまわす風見を怒ったりと四人の纏め役。始祖の追求心と知識力に引かれ契約。今回の一件は三人同時行動だったため流石に止められず、己だけは残った。


【四大元素共通事項】

・ 飛行(浮遊)持ち:
  空を飛べる・(水仙・土公のみ)水の中でも自由に動ける。

・ 虚像の身体:
  本人達が意識すれば物理的に触れることも可能ですが、基本的に透けた状態であると考えておいてください。よって単純な物理攻撃は通りません。

・ 火斗と風見は割と仲良し。水仙と土公も仲良し。協力し合わせ技で始祖を守護していた事も。ただし、どの年代でも火斗と水仙は気が合わない事が多い。(火と水)

・ 誰よりも一番慕っていたのは水仙だが、皆始祖を敬愛・尊敬していた。