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<東京怪談ノベル(シングル)>


【HS】捏造神!熱憎心!







■■アマンヤラ跡地■■




「“無神論者の眼球”…」鍵屋は小さく呟いた。
 岩塩の山脈が波濤の如く連なっている。そんな中には艦船の無残に朽ち果てた残骸が散らばっている。岩塩を覆う網の節々には人間の眼球のが節々にある。一般的に見れば、これ程奇異な光景はそうお目にはかかれないだろう。鍵屋はそんな事を思いながら嘲笑っていた。
「こいつらで封じてる間はまだ良いけど、対策はあるのですか?」
「焦らずとも、このまま放っておけば患者に抗体が芽生えるわ」
 踵を返す様に鍵屋は歩き出した。奇異な光景や状況をまるで愉しむ様なその顔は、幼い身体つきと顔でなければ悪寒すら感じる様な光景だっただろう。







■□タークス沖・冷凍貨物船□■




 けたたましい轟音が船内に鳴り響く。冷凍貨物船の中、一言で言うならば“怪人”が暴れ回っている。尖った耳に、坊主頭に位牌。二対の燭台を生やし、右胸にパラボラ。左胸には便所掃除に使われる吸盤。背には翼が生え、首には鰓がある。股間には平家ガニがつき、臀部に弓道の的の様なものが蛍光色に輝いている。
「何だ…、あの化け物…」
「おい、アイツ…女じゃないのか…?」
 あまりの轟音に様子を見に来た二人の男が恐る恐る様子を見つめて呟く。
「う…うげぇ…」次の瞬間、あまりの奇怪な光景に思わず嘔吐する。
「何よ、これ! うああぁぁ!!」再び激しい爆音を奏でながら叫び続ける。“三島 玲奈”という自分の存在を疑うかの様に、まるで悪夢の中にいるかの様にひたすらに暴れる。
「右腕に超電磁砲、左腕には狙撃銃。全く大した破壊力ね」パチパチと拍手をしながら一人の少女が歩み寄る。鍵屋だ。
「…はぁ…はぁ…。冗談じゃないわよ…、こんな事して、何の真似よ!」玲奈の眼が鋭く鍵屋を睨み付ける。
「必要な事だった。それだけよ」玲奈に歩み寄り、鍵屋はロクに玲奈の質問を相手にもせずに注射器を取り出し、血液を採取する。
「か、鍵屋さん! 正体不明の島が!」
「…出番ね、玲奈」
「くっ…!」






□■タークス沖・無名の島■□





「何なんだ、あの連中…」偵察をしようと双眼鏡を覗き込んだ男が思わず呟いた。
 突如浮上した饅頭の様な形をした島。航海に慣れた乗組員ですら、この航路にそんな島はなかった、と口を揃えている。その上、その島には骸骨姿の海賊の様な格好をした者共が動き回っている。
「各員待機。玲奈、解っているわね」鍵屋が玲奈を連れて甲板へと現われる。おぞましい姿をした玲奈に、再び乗組員の数名が声をあげる。
「解ってるわよ…!」苦々しげに玲奈が呟き、翼を広げて空へと舞い上がる。
 一閃。まさにその言葉に相応しい火力の超電磁砲が饅頭上の島に点在する岩を穿ち、骸骨共を一蹴する。更に左手となった狙撃銃を構え、残る骸骨を次々と狙撃すると、玲奈はそのまま敵のいる島へと急降下していく。
「戦力には申し分ないわね」クスクスと笑う鍵屋が小さく呟く。
 玲奈が降り立つと同時に、この機を逃すまいとでも言わんばかりに骸骨共が一斉に玲奈へと襲い掛かる。が、玲奈もそれを予期していたかの様に武器を構えた両腕を力なくダラリと降ろす。次の瞬間、玲奈の臀部に取り付けられていた円心円状の物体が蛍光色を一層強く光りを放つ。光りに当てられた海賊共が次々と眠る様にその場に倒れ込む。
「…複雑ね。戦力としては十分なのに、こんなの…」自嘲する様に周囲を見つめながら玲奈はそう呟き、島の奥へと向かう。
 しばらく奥へと歩き続けると、坑道の様に掘られ、島の内部へと続く道を玲奈は発見した。過去、幾度となく似た光景を見てきた玲奈に、思わず痛々しい記憶が蘇る。少し立ち止まり、深呼吸をした玲奈が意を決して中へと歩み出した。


 ―坑道の中は薄暗く、点在するランプがその道を示している。どうやら見張りや海賊等といった特殊な連中は外にいた骸骨共以外にはいないらしい。不気味に続く静けさが、かえって玲奈の緊張感を高めていく。
「まるで迷路…」玲奈は思わず呟く。分岐が幾つも続き、最深部になかなか辿り着けない。だが、一般人とはそもそもの身体の造りが違う玲奈にとっては迷う事はない。どの方向へ進むべきかの判断材料は揃っていた。

 最深部へと辿り着くと、玲奈は思わず息を呑む。懸念していた最も最悪なパターンが当たってしまった現実と、目の前に広がる現実。一瞬、胸にズキっと痛みが走る。
 玲奈の目に映ったそれは、巨大の人面をした蜘蛛、絡新婦だった。
「…何故…?」玲奈の口を突いて出たのは、短絡的な言葉でしかなかった。無理もない。再三に渡り、玲奈を殺そうと現われた数々の敵。そして、目の前にいる絡新婦の顔。全てが母と同じ顔をしているのだから。
「愚問だな」絡新婦が全てを悟っているかの様に小さな声で呟いた。「私が物語の王に嫁ぐ為だ」
「物語の王…?」
「そうだ」絡新婦が玲奈を睨む。「私は生前、見舞客から寓話で包んだ説教を散々聞いた。その真意が解るか?」
「…解らないわ、そんなもの…」
「愚かな…。真意とは自己顕示と支配欲だ。寓話が他人を支配する道具に成り得るならば、私もそれをする」歪な笑みを浮かべ、絡新婦が言葉を続ける。「創造神アナンシは全ての物語の支配者になる為“未曽有の妖精”を渇望しているのだ」
「それが…何だって言うの!?」玲奈が超電磁砲と狙撃銃を絡新婦へと向ける。
「今まで私は、有象無象の刺客をお前に差し向けてきた」嘲笑した絡新婦が玲奈へと笑みを向ける。「見事に育った素材よ、我に抗え」
「…全て…この為に…?」玲奈の肩が震える。「全ては、あなたが自らを満たす為だけに、何もかも仕組んできたというの!?」
「いかにも」
「何度も…、あなたと同じ顔や性格をした相手をこの手で殺してきた…。その度に、胸が張り裂けそうな気持ちになりながら!」玲奈の顔に怒りが込み上げ、涙が流れる。
「素材となる為の材料だ。最期の最期で役立てるのなら、その一瞬に感謝してもらいたいぐらいだ」
「…う、うあぁぁああ!!!」
 怒りの臨界に達する。玲奈の身体が全身火薬庫と化し、絡新婦へと一斉砲撃を開始した。
「消えろ! 消えてしまえ!」
 殺戮に等しい。一方的な攻撃は留まる事なく放たれ、絡新婦は跡形も残らない程に消し飛ばされる。
「はぁ…はぁ…、う…うああぁぁ!」
 玲奈の精神に異常をきたす。玲奈はそのまま、坑道を空に目掛けて超電磁砲で撃ち抜き、空へと開いた穴から翼を舞って飛び上がり、島へと再び一斉砲撃を開始した。

 名も無き島は粉砕され、空には呆然とした怪物の様な少女が一人漂っていた。




                                             FIN



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ご依頼有難う御座いました、白神 怜司です。

相変わらずのマッド展開に驚きましたw
鍵屋とのやり取りや、そのマッドぶりと翻弄する玲奈さん。
おぞましい光景でしょうね…。

今回の玲奈さんの変身ぶりもまた、確かに労作ですねw

お楽しみ頂ければ幸いです。

それでは、今後とも機会がありましたら、
宜しくお願い致します。

白神 怜司