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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


File.7 ■ 心の中の整頓方法






「そうです。心の奥底へと自身で潜り込むのです」
 エストが再び口を開いた。
「あー、ちょい待ちー」私は少し考えた後で口を開き、眉間に皺を寄せながら小さく唸った。「心へのダイブって精神感応的な? 心てか記憶を自分で探る、みたいな」
「本来であれば、それが手っ取り早いんだけど。まぁ施されてる術式を解くのが目的だ」エストが溜息混じりにそう説明する。
「むー、私の頭ん中、結構ドロドロよ? 知識量も半端ないし、それを自分で覗いて探して、解呪するって事?」
「確かに、桜乃の能力を考えれば常人のそれとは比にならないだろうな…」武彦が私の横で呟く。
「それには心配及びません」やはり武彦に対しての口調と声のトーンが明らかに違うエストが口を開く。「記憶はあらかじめ整理して、その中から汲み取る形を取ってもらいますので」
「記憶を整理?」
「はい。ただ、私はあくまでも解呪の能力者であって、記憶操作の専門家ではありません。ダイブさせて強制的に触れる事まではサポート出来ても、その整理に関しては助言は出来ません…。ただ、あくまでもイメージする事で記憶はある程度整理出来るとは聞いてます」
「ちょっと紙と鉛筆ちょうだい」
「勝手にそこの使って良いわよ」
 エストの態度の違いにいちいちリアクションする気はもう失せた。私はさっさと置いてあった紙に鉛筆で絵を描き始めた。
「…通路と、扉…? それにしても絵うまいな…」武彦が見入りながら褒める。その横でエストが舌打ちをしているが、それももう放っておく事にした。
「普段はさ、こうして記憶を整理してるのよね」
 先の見えない長い廊下に、左右に向き合う様に扉を描く。それらの扉にはそれぞれに『場所』や『人物』等といったプレートが描かれている。
「要らない記憶の扉には鍵をかけて、必要な記憶とゴチャゴチャにならない様にしまってるの。些細な出来事や目に映った光景まで憶えちゃうから、こうでもしないと頭の中がこんがらがっちゃうのよね」
「記憶の部屋分け、といった所ね。本来は引き出しと表現される様なケースが多いはず。でも、これが出来ていなかったら…」
「情報の濁流よ。砂漠の中で砂金を見つけろって言う様なもんよね」
「ここまで整理出来ているなら、記憶の中へと潜り込んでも混乱はしないな。胸だけじゃなかったのか、栄養がいってるのは」エストがそう言ってニヤっと笑う。
「こう見えても苦労してるんですー」べーっと舌を出して私はエストに言い返す。「こういう方法を使えって教えてくれたのはあの人だから…。あの人がいなかったら、多分気が狂っておかしくなってた」
「え、リア充? 爆発しろ」エストが親指を立てて地面へと向ける。呆れた様に乾いた笑いを浮かべながら武彦がそれを見つめる。
「……」
 エストの行動はとりあえず無視する事にした私は、再び紙に絵を描き始める。自慢ではないが、絵はかなりうまいと自負している。まぁそれも、記憶による映像を重ねてなぞる様なもので、一般的なそれとは違うのかもしれないが。
「よし、完成っと。イメージが大事って言ってたけど、こんな空間なら探すのは便利で助かるかな」
 円状に広がった広い部屋。そこには数箇所に扉がある。
「これは?」
「私の『家族』に関する記憶の部屋。更に小分けにして、交わした言葉だったり、やり取り。特徴や性格。こうしてカテゴリー毎に部屋になっていれば、私としては探し易いし」
「それなら、そのイメージを固定化するしかないな」エストが机にあった電話機を手に取り何処かへと内線を繋いだ。「ダイブを使う事になるから、脳波装置の準備をお願い。それと、シン坊にここに来る様に伝えて」
「脳波装置?」武彦が口を開く。
「イメージした絵をより具体化する為の装置です。映像の電気信号を生んで、精神の中にその空間を作れれば、ダイブはより簡単になりますから」
「ダイブってあなたの能力じゃないの?」
「違う。私はあくまでも解呪の能力と、呪いや術式の診断と研究。ダイブは本来、精神的なプロテクトを解く為の装置だ」
「何だ、パパッとやってくれる訳じゃないのね」
「その代わり、解呪の術式を幾つか教える。後は自分でやれ」そう告げるとエストは再び机の上をガサガサと漁り出した。「記憶力が良いなら叩き込めるだろ」







―――

――







「お待たせしました。装置の利用許可と準備が出来たので…って、どうしたんです?」
 シンが部屋に入ってくるなり、私の姿を見て尋ねてきた。無理もない。私は今エストに言われた解呪の方法やその方式の判断方法などを頭に詰め込まれ、それを整理する為にベッドに頭を潜らせて集中していたのだから。私は身体を起こし、シンを見る。
「あ、シン君。帰ってきたらデートしよ♪ 大人なやつをね…むふふ」
「シン坊、こいつを連れてけ。私はディテクター様ともう少し大人な話をする」
「話し?」武彦がエストに尋ね返す。
「はい、解りました。脳波装置の方から、イメージ図の絵も預かりたいとのお話しでしたが…、これですか?」
「あぁ、そうだ。早く行け、お邪魔虫」しっしっと手を振りながらエストが私とシンを追い払う。
「…やれやれ、シリアス感のないヤツだな」二人が出て行った所で武彦が呟く。「それで、話しって何だ?」
「単刀直入に言います。あの子は危険です」
「記憶出来る能力か。確かに、ここには持ち出されたくない情報が転がっているからな。だが、それを悪用する様な奴じゃ…――」
「―そういう意味ではありません」エストが真っ直ぐ武彦を見つめる。
「…どういう事だ?」
「知識が豊富。記憶が雄弁にその事象に語る。そのせいで、ちょっとした思いがけないショックで、精神を崩壊する可能性があると言う意味ですわ」
「…IO2の研究者としての意見、か」
「その通りです。少なからず、監視の目を付けるべきかと思います」
「無理だろうな」
「何故です…!?」
「アイツの記憶力は尋常じゃない。それは解っていると思うが、違う人間が毎回変わって見張ろうとしても、その人間全ての顔を憶えさせる事になる。過去に監視の目をつけた時も、二日で尾けられている事を見抜いた。視線や行動から、アイツは同類を見分ける。今更監視をつけた所で、何もメリットはない」
「ですが…―!」
「―お前が気に入ったってのは解る。だからこそ、そこまで危惧しているんだろうがな。アイツにはもっと良いお目付け役がいるから、大丈夫だ」
「…すみません、出過ぎた言葉を…」
「気にすんな」





――。





「うっへぇ〜、脳検査の機械? 酸素カプセル?」私は脳波装置とやらが置かれている部屋に入り、思わず呟いた。「…はっはー、あれがここで繋がってデータのやり取りを…」
『機密装置なので、あまり見て理解しないでもらえますか?』穏やかなシンの声が困った様にスピーカー越しに響き渡る。
「あはっ、バレちった?」
『そこのテーブルの上にある薬が、睡眠導入剤です。リラックス効果のある音楽や映像、匂いが暫く流れるので、その薬を飲んで横になってもらいます』
「寝てる間にイタズラしちゃダメよ、シン君♪」
『ありませんのでご安心を』にっこりと微笑む様な声でシンが答える。ちぇっと私は口を尖らせて薬を口に含み、隣りにあった水で流し込んだ。
「で、ここに寝れば良いんだよね…?」
『はい。すぐ傍にあるヘルメットの様な装置を頭につけてから、横になって下さい』
「あぁ、これ?」目の前にあるヘルメットの様な形状になっている装置を頭に取り付ける。頭頂部の辺りから機会へと太いチューブで繋がっている。「なるほど、脳波を取り入れたり、読み取ったりする訳だ…」
『秘密ですので答えませんよ』
「…ちぇ、読まれたか…」慌てるシンが見たいが為にあえて口に出したというのに、やはりシンはニッコリと微笑む様に軽く受け流す。「おぉー、巨大モニター!」
 天井に取り付けられたモニターを見つめて思わず声をあげる。
『それでは起動します』
 シンの声と共に、室内が薄暗くなる。室内全体が柔らかな青い光りに包まれ、アンビエント調の音楽が流れ出す。真正面には深海を泳ぐイルカやクジラの映像が流れ、時折特有の泣き声が聴こえてくる。
 ほんの十分程度で、私は徐々に意識が途絶えがちになる。瞼が重くなり、薬が効いてきたのだとすぐに実感した。
「効果を確認しました。間もなく睡眠状態に入ります」シンの隣りでモニターを見ていた研究者の女性が口を開く。
「睡眠状態に入りました。状態はオールブルー。安定しています」更に隣りに座っていた研究者が様々な棒線が動くモニターを見つめて声をあげる。「視覚効果・聴覚効果オフ」
「精神世界へのダイブは、最初の三十分が鍵です。皆さん、気を引き締めて下さい」
「はい!」






―――

――







「…すご、絵に描いたまんまだわ…」
 思わず呟く。不思議な気分だ。夢の様な、現実の様な感覚に、思わず不思議な気分になる。
 周りを見渡せば、私は確かに自分の描いた精神世界にいるらしい事が解る。描いた通りの扉に、張り出されたプレート。円状に広がる部屋の中央に私はいる。
「お祖父ちゃん…、ごめんね。私、知らなくちゃいけないの…。あの人の為に…!」





to be countinued...



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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

今回はエストとのやり取りやらを中心に、ダイブする迄のお話しですが、
やはり桜乃さんのキャラが際立つプレでしたね…w

デートの件は笑わせて頂きましたw

楽しんで頂ければ幸いです。

次回以降のお話も楽しみにさせて頂いております。

今後とも、是非宜しくお願い致します。


白神 怜司