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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


現われる“虚無”






 既に空は夕闇に飲まれている。湿り気を帯びた風が、昼の陽射しに熱されて熱を溜めたコンクリートの地熱を押し出す様に流れ出ている。
「…見てないのか、それとも返せない理由があるのか…」
 潤は一人、携帯電話を見つめながら小さく呟いた。翼からの返答は未だ戻ってきていない。やれやれ、とでも言わんばかりに潤は小さく溜息を漏らした。閑静な住宅街を訪れ、潤は不意に触れた電信柱から記憶を読み取る。





――

―――






「危険な有毒性のあるガスが検知されましたので、この辺りの住民の方には避難勧告が出されています。今すぐ貴重品を持って、我々の用意したバスに御搭乗下さい」軍服を着た男達と、警察官の制服に身を纏った男達が辺りの家に次々と押しかける。数台もあるバスに住民達が不安そうな声を漏らしながら乗り込んでいく。
「警察と自衛隊の協力のおかげで、事は上手く運びそうだな…」
「あぁ。“虚無の境界”とIO2がここでぶつかるなんて事を伝えても、一般人には何の話しかすらも解らないからな」
 二人の男がそう話しながら状況を見守る。
「しかし、今夜早速現われるのか?」
「元老会の伝達係り、“コールマン”の指示だからな。例え今夜じゃなくても、近い内にここが戦場になる可能性は高い。元老会もそう確信しているからこそ、政府に直接交渉したんだろうよ」
「…成る程…」






―――

――






「…道理で、この辺りに人の気配がない訳か…」潤が小さく呟く。
 IO2に虚無の境界。その二つの勢力がここでぶつかる事が想定されているらしい。だとすれば、翼達もその場に居合わせる可能性がある。潤はそう考え、何処か状況を見渡せる場所はないかと周囲を見回しながら歩き出した。翼に情報を伝える前に戦闘が開始するのはあまり好ましくはないが、時間はそこまでなさそうだ。潤は再び携帯電話を見つめ、翼に連絡を取ろうとするが、どうやら携帯電話はまだ繋がらないらしい。
 次の瞬間、何かが爆発する様な轟音が鳴り響き、住宅街の一角から砂塵が舞い上がる。
「始まったらしいな…」潤が空へと舞い上がる砂塵を見つめて呟く。「オフィーリア」
 潤の声に、何処からともなく闇色の守護者、オフィーリアが姿を現した。
「状況を見てきてくれ」
 返事をするかの様に独特な声で喉を鳴らし、オフィーリアが闇の広がる空へと羽ばたく。潤はオフィーリアを待つ為、少し離れた公園へと向かって歩き出した。



 ――戦闘が苛烈になっている事は、風に乗って流れて来る銃声や轟音が知らせてくれていた。潤は少し広めの公園でオフィーリアの帰還を待つ。
 数十分程でオフィーリアの鳴き声が空から響き渡る。
「…翼が?」潤がオフィーリアの声を聴き、小さく呟いた。
 オフィーリアが空から潤の元へと飛んで来る。潤は右腕を曲げてオフィーリアを腕に捕まらせ、オフィーリアの頭を撫でる。
「…兄さん…!」オフィーリアの後を追う様に、翼が走って潤の元へと駆け寄ってきた。
「…翼、やはりここにいたんだな。オフィーリアが連れて来てくれたのか」独特な音で喉を鳴らしながら、潤の腕にとまったオフィーリアが鳴く。「状況はあまり良くないらしいな」
「うん…、そうなんだ。恐らくこの近辺で再び召喚の魔法陣を作るとは思うんだけど、場所が特定出来ていない…」
「その様子だと、俺が送ったメールにも目を通していない様だな、翼」潤が小さく笑いながら呟いた。
「メール?」
「いや、こうして会えたなら構わない」潤がそう告げた所で、武彦が遅れて公園の中へと入ってくる。「草間さん、お久しぶりです」
「夜神…! どうしてこんなトコに?」
「可愛い妹に調べ物を頼まれていたので」
「妹…?」
「翼、虚無の境界と柴村 百合達はどうやら別々の目的で今回の事件を引き起こしているらしい」置いてけぼりな武彦を放って潤が翼へと告げる。
「別々の目的?」
「結果的には協力している様に見えるが、それぞれの目的はどうやら違うらしい。この戦闘で、柴村 百合達は見かけたか?」
「いや、見てない…」翼が小さく首を横に振って答えた。
「色々と理解出来ない事が多いが、夜神。何か掴んでいるのか?」武彦が口を挟む。
「調べてみた結果、ですけどね。柴村 百合達はあらゆる物を囮にして自分達の目的を裏で果たそうとしているみたいです」
「囮…?」潤の言葉に、武彦が考え込む。
「召喚した妖魔を贄として“虚無”を具現化しようとしている虚無の境界。そして、それを囮にして秘密裏に動いている柴村 百合達。彼女らが何を欲しがっているのかは解りませんが、目的はどうやら違う様です」
「目的が違う…。だとすれば、アイツらは本隊とは別に動いてるって事か…」武彦がそう呟き、何かに気付いた様な表情を浮かべる。
「武彦?」翼が武彦に声をかける。
「…クソ、何て事だ!」武彦が声をあげる。「別々に動いているって事は、既にここにも魔法陣は生成されてる可能性が高い…!」
「でも、もしそうだとしたら、わざわざ場所を特定させる様な真似は一体…?」翼が武彦に再び尋ねる様に声をかける。
「誘導する為だ。柴村達は俺や翼、それにIO2に巨大な魔法陣の存在を知らせる為だけにわざわざ目立つ様な真似をした」
「…と言う事は、既にここは…」
「あぁ。何かしらの方法で街全体を覆う術式の発動をさせていないだけ…。つまり、もう奴らの準備は整っているって事だ…!」
「でも、何の為にボクらやIO2を一箇所に集める真似を?」
「決まってる…。“虚無”の召喚と同時に邪魔になり得る者を一掃する為だ」武彦が頭を掻き毟る。「“虚無”は一瞬にしてあらゆる生命を吸い込んで糧にする、あまりに危険な化け物だって話しだ。だが、エヴァは完成した霊鬼兵。奴らの身体は“虚無”に生命を吸われずに済む。つまり、“虚無”が召喚されたとしても生き残れるって事だ」
「でも、柴村 百合は…」
「恐らく、何かしらの方法で生き延びる術を身に付けている可能性が高い。もしくは、奴もまた霊鬼兵か、だ」
「…ある物を欲しいと言っていましたけど、それはまさか“世界”、ですか」潤が呆れた様に呟く。
 その瞬間、大地が轟き、真っ赤な光りの柱が夜の空へと真っ直ぐに伸びる。
「…“虚無”の…召喚が始まった…」武彦が膝をつく。
「…オフィーリア、翼。切り離すぞ」
「解ってる…!」
 翼と潤が空へと飛び上がり、巨大な光りの柱を三角形に囲む様に宙を飛ぶ。それぞれが巨大な魔力を集め、巨大な術式を作り上げる。空に浮かんだ魔法陣が円筒上に広がる赤い光を大きな円で更に包み込む。








――。







「…どうにか、隔離には成功したらしいな…」
 翼とオフィーリア、そして潤がその場に立ち尽くし、周囲を見つめる。潤達が魔法陣で覆った場所だけがくりぬかれたかの様に、その風景が全てモノクロに染まっている。何もかもが色を失くし、ただそこに佇んでいるだけの瓦礫と何ら変わり映えしない光景だ。
「空間を断絶して、その世界を隔離。これで“虚無”の被害は最小限に抑えられるね…」




                                                FIN




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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

翼さんとのやり取り等も含め、虚無の具現化までのお話しでしたが、
両者の合流と言う事が主題となり、スピンオフ企画の
両編合流場面みたいになりましたね〜。

セリフが一緒になったりで、若干単調になってしまった感もありますが…。

何はともあれ、両編共に、漸く合流です!

今後とも、宜しくお願い致します。

白神 怜司