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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


メタル・マジック・メタル

 魔法薬屋を営むシリューナ・リュクテイアには、幅広い知人が居る。それは年齢層という意味でもあるし、種族という意味でもあるし、趣味嗜好という意味でも、あって。
 その日、シリューナが訪れようとしている知人もまた、この界隈ではそれほど珍しくはないものの、変わった趣味の持ち主では、あった。呪いや魔法が籠められた道具や、装飾品を好んで収集するコレクター。もちろん装飾品としても優れたものである事が必須の条件、という拘りの持ち主だ。
 そんな女性と、シリューナが知り合った経緯などは、言わずもがな。時々は珍しい品を譲り受けたりもするし、逆に譲ったり、彼女が手に入れた品が正しく魔法の品かどうかの鑑定を頼まれたりも、する。
 今日は、情報交換がてらに何やら、珍しい品を手に入れたから見に来て欲しい、と誘われてシリューナは、彼女の元を訪れる事にしたのだった。その間の魔法薬屋をどうするか、ほんの少し考えて、ティレ、と彼女の可愛い弟子を呼ぶ。

「はい、お姉さま」
「私はこれから出かけるけれど、ティレはどうする? 留守番してるのなら、店は開けていくけれど――」

 そう問われ、ファルス・ティレイラはうーん、と少し考える素振りを見せた。敬愛する師でもあるシリューナが告げた名は、ティレも以前に何度かお邪魔した事のある女性の家だ。
 いつもいつもと言う訳ではないけれども、たまに面白そうなモノがある事もあるので、ティレはたまにシリューナと一緒に、彼女の家へと訪ねていく。そう言えば、前に訪ねたのはもうずいぶんと、昔の事ではなかったか。
 もしかしたらまた、何か、面白い品物が入っているかもしれない。時々はトラブルに巻き込まれるけれども、ティレは珍しい品物を見るのが大好きだ。

「私も一緒に行きます!」

 だから、楽しみにそう答えたティレに、そう、と頷きシリューナは手早く店仕舞いをした。ティレももちろん手伝って、シリューナと一緒にぱたぱた店内を動き回り、手際よく品物を片付けていく。
 そうして、2人が我が家でもある魔法薬屋を後にしたのは、それから30分後の事だった。





 訪ねた家の主である、知人の女性は2人を見ると、両手を広げて笑顔を浮かべ、歓迎した。

「お久し振りね、シリューナ!」
「ええ、お久し振り」
「こちらはご無沙汰ね、ティレイラ。元気にしていて?」
「は、はい‥‥あの、お久し振りです」

 その抱擁を軽く受け、シリューナは淡々とそう返す。けれども元よりあまり感情の起伏の激しい方ではないことを、長い付き合いで知っている女性は、気にした様子もなく同じように、隣に立つティレにも挨拶の抱擁をした。
 どぎまぎと、ティレは頷いて彼女にそう挨拶すると、きょろ、と辺りを見回す。いつも、彼女のコレクションを飽きることなく見つめているティレを良く知っている女性は、くすくす笑って解放すると、つい、と回り階段の上を指差した。

「昇った所に、新しいコレクションを並べたの、ティレイラはまだ見てなかったんじゃなくて?」
「ほんとですか‥‥!? わ、見に行ってみます‥‥!」
「慌てて転ばないようにね」」
「勝手に触るんじゃなくてよ、ティレ」
「はい!!」

 女性のくすくす笑いと、注意するシリューナの言葉に同時にそう返事をして、ティレはわくわくと回り階段を駆け上る。ここの家のコレクションは、とにかく芸術性にも優れたものが多いので、見ているだけでも飽きないのだ――もちろん中には、ちょっとティレには理解の出来ない芸術作品も、あるにはあったけれども。
 そうしてわくわくと、階段を上がり切ったフロアの壁沿いに、ぐるりとダイニングを見下ろすように並べられたコレクションを、食い入るように見始めたティレを見上げて、シリューナはくすり、微笑んだ。ここからではぴこぴこ動くティレの頭しか見えないけれども、彼女が楽しんでいる事は、十分に伺える。
 その間にと、シリューナは女性とダイニングにゆっくり腰をかけ、会わない間に仕入れた魔法の品の情報の交換を始めた。仕事柄、シリューナの元には魔法の品の情報がよく入ってくるし、趣向柄、彼女のアンテナには魔法の品の情報が良く引っかかってくる。
 どこそこの洞窟で、宝を守るモンスターが現れたらしい。隣の国との境の森に、不思議な魔法を秘めた剣が眠っているという噂。今年は魔法薬の材料になる薬草が、いつもの谷間では姿が見当たらず業者が苦労しているらしい――
 眉唾レベルから信憑性の高い噂まで、仕入れた情報のあれこれを、お茶を飲みながら交換する。自分にとっては役に立たない情報でも、相手にとっては千金の価値があるかも知れないから、どんな情報も詳らかにして良いものは、包み隠さずに。
 それも大方出尽くしただろうかと、シリューナが細く息を吐いた時、そうだわ、と女性が立ち上がった。

「あなたが来たら是非、鑑定してもらいたい品があったのよ。つい先日手に入れたんだけど――」

 そう言いながら回り階段を上がり、ティレが熱心にコレクションを眺めていた2階にまで上がって来た彼女は、金属製の盾のようなものを手に取る。ティレには芸術性の面でよく解らなかった品の1つだ。
 装飾という意味では、何の掘り込みも飾りもないつるんとした表面の盾は、見応えに欠けた。と言って盾として実用性が感じられるのかというと、それもまた微妙な品なのである。
 一体どんな品なのか、興味を引かれてティレもまた、女性の後ろから回り階段を降りていった。そうして、ダイニングテーブルにごとん、と如何にも重たそうな音を立てて置かれた盾を、じっと見つめる。

「何でもね、この盾にはどんな魔法や攻撃も弾き返せる、保護の魔力が籠められているらしいのよ」

 そうして女性が語った事に寄れば、これはとりあえずの形状として盾の形をしては居るが、実の所は盾を模した金属質の魔法物質なのだ、という。言うなれば、守る物、という人間のイメージが、この金属に盾の形を取らせた、というのが正しいか。
 間違いなく本物らしい、という触れ込みだし、女性自身もこの盾に強い魔力が秘められているのは感じられた。けれども、この盾の効果を発動させるにはどうやら強い魔力が必要らしく、彼女ではうんともすんとも言わなかったらしいのだ。
 そこで、間違いなく強い魔力を持つシリューナに、鑑定を頼みたい――と、まとめればそういう事らしかった。鑑定、と言ってはいるけれども、その効果を体験してみたい、というのが本音だということは、顔を見るまでもなく解る。
 ふぅん、とシリューナはしばし、その盾をじっと見つめて考えた。つ、と指先で金属の表面を撫でてみると、吸い付くような感触がある。
 確かにこの魔具は、持ち主の魔力によって発動するタイプのもののようだ。だが、知人のものでは足りないにしても――恐らくは。

「ティレ、あなたも一緒にやって見なさい」
「え‥‥! 私、ですか?」
「ええ。このくらいなら、あなたの魔力でも十分いけるはずよ」

 いきなり名指しを受けて、きょとん、と目を瞬かせて自分自身を指差したティレに、こくりとシリューナは頷いた。そう、ティレが持つ魔力も合わせて発動させれば、この盾は十分に『効果』を発揮するはずだ。
 指名を受けたティレはしばし、困ったように敬愛するシリューナと、ダイニングテーブルの上に置かれた盾と、それから期待で目を輝かせている女性を順番に見比べた。何となく不安もあるけれども、強い魔力が必要だ、という触れ込みの品がティレの魔力でも動くかもしれない――というシリューナの言葉を、確かめてみたい気持ちも、あって。
 しばし考えて、解りました、とティレは頷いた。それに、子供のように手を叩いて喜ぶ女性がまずは、盾を両手で掲げ持つ。

「ティレ、サポートして」
「はい!」

 その反対側からティレは、シリューナに言われるままに同じように盾を掲げるように持ち、ふ、と意識を集中した。自分の中に深く潜って行くように――自分の中の泉から、何かを汲み上げるように――
 不意に、光が沸き起こった。それはティレと女性が持つ盾から発していて――ゆっくりと、盾全体を光が包み込み、それ自体が意思を持つかのようにティレたちの手を離れて宙に浮かび上がる。

「まぁ‥‥!」

 女性が、感嘆の声を上げた。彼女が手に入れた盾が、確かに魔法の品であり、今なお効力を保っている事が、目の前の証明されたのだ。無理もない。
 ほっと、ティレも安堵と喜びの息を吐きかける。だが、浮き上がった盾の様子がどこかおかしい事に気付き、ティレは吐きかけた息を飲み込んで、じっ、と様子を観察した。
 白光を放つ盾は宙に浮いたまま、可笑しな例えかもしれないが、何かを考え込んでいるようにくるり、くるり、ゆっくりと回転していた。が、次の瞬間、どろりと盾の形が溶けて、金属質の光沢を保った液体状になったではないか。

「あ‥‥ッ!」
「きゃぁッ!?」

 ティレが短く警告の言葉を発しようとしたのと、うっとりと見上げていた女性が小さな悲鳴を上げて金属液に飲み込まれたのは、同時だった。液体は瞬く間に彼女の身体をすっぽりと包み込むと、かちん、と凍りついたように固まって、動かなくなってしまう。
 残されたのは、驚きの表情のまま固まった、女性――の姿をした、魔法金属の彫像。一体何が、と驚きに目を見張るティレの耳に、シリューナの「そういう事なの」と納得したように呟く声が、聞こえる。

「そういう事‥‥? お姉さま、どういうことですか‥‥?」
「まだ確証はないけれど。それよりティレ、『盾』はまだ残ってるわよ」

 良いのかしら? とからかう様なシリューナの声に、はッ、と頭上を見上げれば確かに、盾から変化した金属液はまだちょうど半分ほどが、ティレを狙うように空中を漂っていた。うねうねと、蠢くその金属液が何を狙っているのかは、固まってしまった女性を見れば明らかだ。
 ひくり、唇の端が引きつった。何とかしてそれから逃れよう、金属液の動きを止めようと、あたふた動き回ってじたばた抵抗するものの、文字通り液体のようなしなやかさをもつ金属液は、ティレがばたばた振り回す手足の隙間をかいくぐって、するりと彼女に絡みつく。
 そうなってしまえばもう、ティレに出来る事は殆ど何もない、と言っても過言ではなかった。何しろ相手は液体なのだ。掴み取ろうとしても、何の手ごたえもなくするりと指の間をすり抜けてしまう。
 ――やがて程なくして、そこには驚きの表情で固まった女性の彫像と共に、どうしたら良いのか解らない様子でちょっと泣きそうなティレイラの彫像が、出来上がった。見事に、かちんこちんに固まっている。
 それを見ていたシリューナは、おもむろにダイニングチェアーから立ち上がると、鑑定するようにティレイラの様子をじっくりと眺め始めた。上から、下から、斜めからと角度を変えて、何一つ見落としのないように。
 それから、金属液を何とか引き剥がそうとしている様子で固まった滑らかな腕に、すい、と手のひらを這わせる。吸い付くように滑らかな、盾の状態の時に感じた時と同じ、魔力の波動――あの時は守るものを求めるそれだったけれども、今は、違う。

「やっぱり、ね」

 薄く艶やかに微笑んで、シリューナはさわさわと、見事に固まったティレの全身を撫で回しながら、頷いた。どんな攻撃や魔法でも傷つかないくらい強力な防御の魔法――それはすなわち、この金属に魔力を通したものを守護すべきものとして認識し、包み込んでしまう事で、どんな攻撃や魔法からも守る、という代物だったのだ。
 くすくすと、笑みが漏れた。確かに謳い文句は間違っては居ない。間違っては居ないが――あまり実用性に富むとも、言い難い。

「とはいえ、素晴らしいものではあるけれども‥‥」

 呟きながらシリューナはじっくりと、可愛らしい彫像へと変化したティレを見つめた。確かに希少で素晴らしい魔法金属ではあるが、今シリューナにとって大切なのはそれよりも、この可愛らしいティレを心行くまで鑑賞し、堪能する事である。
 守る、という特性上、この効果はしばらくは持続するはずだ。この場には危険は存在しないが、危険が去るまでの間は持続しなければ、防御の魔法の意味はなくなってしまうのだから。
 だから――シリューナは心行くまで思う存分、ティレイラを堪能する。

「ふ、ふふ‥‥うふふ、うふふふふ‥‥‥」

 知らず、妖しげな声が漏れていたのもむべなるかな。全ては、可愛らし過ぎるティレが悪いのだ。
 そう、自分の中で結論付けてシリューナは、それはもう余すところなくティレのあらゆる所を撫で回し、見つめ、うっとりと鑑賞する。共に彫像となった知人には見向きもしない――というより、最初から眼中にもない。
 清楚で品の良い一軒家に、シリューナの妖しくも楽しげな笑い声が、こだまする。魔法の効力が切れるのは、まだまだ先になりそうだ。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /     PC名      / 性別 / 年齢 /       職業      】
 3733   /  ファルス・ティレイラ  / 女  / 15  / 配達屋さん(なんでも屋さん)
 3785   / シリューナ・リュクテイア / 女  / 212  /     魔法薬屋


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。

お嬢様達の、不思議な魔法の盾にまつわる物語、如何でしたでしょうか。
この場合、知人の女性の方は自業自得というべきなのか、被害者というべきなのか、判断に迷うところですね‥‥(笑
お姉様の方は久し振りにお預かりしたような気が致しますが‥‥こんなイメージで大丈夫でしたでしょうか‥‥?

お嬢様達のイメージ通りの、混乱に満ちたノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と