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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


黒い炎

 草間興信所のドアが叩かれる。
「どうぞ、開いてるよ」
 零がいなかったので、所長の椅子に座っていた武彦がぶっきらぼうに応対した。
 ドアが開かれると、そこにいたのは和装の少女。
 十代半ばだろうか。見目は麗しいが、どこか小動物っぽい愛らしさも窺える。
 少女が口を開く。
「あ、あの。依頼したい事があるのですが」
 ちょっと甲高い声の少女は、そう言う。
「ああ、依頼ならウェルカムだ。ただし、オカルト以外な」
 武彦は少女に部屋へ入るように促し、タバコの火を消す。

「で、依頼とはどういう内容かな?」
「……あ、あの……」
 言いよどむ少女は、キョロキョロと忙しなく視線をさまよわせた。
「……く、草間さんは、最近噂の『黒い炎を操る男』というのをご存知でしょうか?」
「ご存知たくなかったが、まぁ、知らん方がおかしいだろうな」
 最近起きている放火事件の犯人と思しき人物。それが黒い炎を操る男。
 何もないところから火を噴出させ、周りにあるモノを焼くと言う異能の持ち主。
 聞けば、その男はどうやら前科持ちで、刑務所から出所してそれほど経っていないという。
 IO2も対応を始めようとしている案件である。
「まさか君は、その男の縁者だとでも?」
「はい……お願いします。あの人を止めてください。あの人は悪い人じゃないんです」
「オカルト話は却下だ! ……と言いたいところだが……」
 武彦は頭をおさえる。
 元来の人の良さと、興信所の抱える財政難を考えれば、仕事を選り好みしている状況ではないのだ。
 これを断ったとあれば、零にも何を言われる事やら。
「つっても、お嬢ちゃんが金を持っているようにも思えないしなぁ……」
「お、お金の事でしたら、ちゃんと預かってきてます」
 そう言って巾着から取り出したのは、現金ではなく宝石。
 粒の小さい物ではあるが、換金すればそこそこの値段になるだろう。
「お願いします! どうか、どうか……」
 一生懸命頭を下げる少女を前に、武彦はどうしたものかと頭を悩ませるのだった。

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「これで依頼を蹴ったら、正直引くでぇ」
「うんうん、男としてどうかと思うぜ」
 興信所の隅で頷く影が二つ。
「お、お前ら、いつからそこに!?」
 武彦ですら気付かない内に、その二人は興信所に入り込んでいた。
 その二人とはセレシュ・ウィーラーと工藤勇太であった。
「いつからって、なぁ?」
「依頼人が来た時には既にいたよな?」
 仲良さげに首を傾げあい、そんな風に語る二人。
 武彦も既に追及する気をなくし、俯いてため息をつく。
「で、で? 武彦さん、受けるんやろ? 泣いてる女の子をほっぽりだすとか、考えられへんで!」
「……まぁ、別に受けないとは言わんが……」
「もう諦めろって、草間さん。オカルト探偵の烙印は既に消せないレベルだぜ?」
「うるせぇ、勇太は黙ってろ!」
 二人の野次を一蹴しつつ、武彦はこめかみを抑えて少女に向き直る。
「その依頼、確かに受けよう。俺たちが何とかしてやる」
「ほ、本当ですか!」
 少女は表情を明るくして立ち上がる。
「な、なんとお礼を言っていいか……!」
「礼なら依頼が終わった後にしてくれ。解決できるとも限らんからな」
「そうやで、女の子はお礼を安売りしたらいかん」
 セレシュは少女の手を取り、言い聞かせるように言う。
「もしかしたら武彦さんかて、おっそろしいド外道かもしれへんやろ? そうなったら大変やで」
「おいおい、本人の前で言ってくれるな」
 武彦は渋い顔をしながらも、諦めたようにシケモクをくわえて火をつけなおした。
 お礼の安売りを良しとしない、と言うスタンスには同意らしい。
「とりあえず、草間さんも依頼は受けたわけだし、あんたの名前を聞いてもいいかな」
「まぁ、勇太さん、ナンパっぽいで」
「え? マジ?」
 二人のやり取りを見てクスクス笑いながら、少女は改めて頭を下げる。
「申し送れました。私は『カブソ』と申します。妖怪崩れです」
 そうやって自己紹介する少女、カブソ。
 武彦は危うくタバコを取りこぼしそうになっていた。
 この少女が依頼を持ちかけた時点で既に、オカルト話は確定だったのだった。

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 妖怪カブソとはかわうその妖怪とされている。
 元々狐や狸のように人を化かすと言われているかわうそだが、少女からは人を騙すような雰囲気を全く感じられない。
「妖怪ねぇ……」
 武彦は少女をしげしげと眺める。化けたにしては耳も尻尾もないし、完全な人化だ。
 ここまでレベルの高い変化を使える妖怪が、妖怪崩れと自称するには何かわけがあるのだろう。
「普通、動物が妖怪になるには、寿命の何倍も長生きしないといけません」
 少女はポツリポツリと事情を話し始める。
「ですが、私は普通よりも短い時間で事切れました」
「どゆことなん?」
「私は親を早くに亡くした、孤児だったんです。でも、あの人が拾ってくれて……」
 あの人、と言うのは恐らく、依頼の対象にもなっている放火魔のことだろう。
 少女が親愛を込めて『あの人』と呼ぶのが多少気になるが、それは順を追って説明してくれるだろう。
「拾ってくれたってのは、そいつが出所した後か?」
「ええ、私が妖怪化したのも最近の事ですし。あの人は私を看取ってくれて、亡骸を見て涙もこぼしてくれました」
「俺の想像してた放火犯とは違うなぁ」
 勇太が頭を掻いて零した。
 確かに、出所後間もなく放火を始めるような人間が、そんな心温まるエピソードを持っているとは意外だ。
「そんな人が今、悪事を働いていると知って、私はどうしようにもいられなくなり、神様にお願いしてたった一度だけ現世に戻してもらったのです」
「それがその、妖怪崩れの姿ってことか」
「どこの神様だか知らんけど粋な事するやん」
 大体の話を聞き終えたところで、武彦はタバコを灰皿に押し付けた。
「つまりお前は、命の恩人であるその男の悪事を止めたいがために、神頼みまでして妖怪になった。でも自分一人の力だけじゃどうしようもないから俺に助けを求めたってことで良いんだな」
「はい。その通りです」
 少女の真っ直ぐな瞳を見て、武彦は腰を上げた。
 これだけ純粋な、まじりっけのない良い話を聞かされて動かなければ、それはド外道と呼ばれても仕方あるまい。
「それじゃあまぁ、いただいた依頼料の分は働きますか」

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「俺もその放火事件、ニュースとかでよく見てたけど、まさか異能とはね」
 手分けして犯人の足取りを追う事になったので、勇太は武彦と共に町に繰り出していた。
「自然発火能力、パイロキネシスって言ったっけ? そんな能力者が町にうろついてるなんて、物騒だなぁ」
「危ないからガキは帰ったらどうだ?」
「んな事言って、草間さん一人じゃどうしようもないくせに」
「……そんな事はない。俺は一人でも大丈夫だぞ」
「はいはい。……んで、どこに向かってんの?」
 適当に話題を変えた勇太は、前方を見やる。
 周りは住宅街だ。
「過去の事件をざっと調べるに、犯人は民家に放火をするケースが多い。何を狙っているのかは知らんが、この辺の住宅街を仕事場にしてるのは間違いないだろう」
「ふぅん、じゃあその辺の燃えそうな物をどかしておけば、ちょっとは邪魔になるかな」
「そんな簡単ならいいんだけどな」
 道を歩きながら、武彦はタバコをふかした。

「考えてみたんだけどさ」
 住宅街を歩きながら、勇太は指を立てる。
「その男が出所して、すぐに行きそうな場所ってどこだろう?」
「さぁな。俺たちはその男の人となりを知らなすぎる。どこに行くのか見当もつかないからこうして適当に歩いてるわけじゃないか」
「出掛けにあの娘にちょこっと聞いてみたんだけど、あの娘もあんまり知らなさそうだったしなぁ」
 今はセレシュに同行している少女に聞いたところ、詳しい事はよくわからないそうだ。
 あの少女にとっては、男は心優しい恩人であった。それ以外の情報はほとんどない。
「あ、でも一つだけ聞けた事があったな」
「なんだよ? くだらない事だったらデコピン一発だからな」
「うわ、横暴。……なんか、その男の能力なんだけど、男が捕まる前は……って言うか、あの娘が一緒にいた時期には持ってない能力だったらしいぜ」
「……つまり、最近になって能力が開花したってことか」
「どうやって能力を手に入れたのかは知らないけど、そうらしい」
 研究所に色々いじくられた勇太にとっては、胸糞悪い話である。
 その男の能力取得に他意があったのなら、もしかしたらあの研究所の関係者なんかが関わっているかもしれない。そう思うと、反吐が出そうだった。
 そんな感情を隠しながら、武彦の隣を歩く。
「もしかしたら、手に入れた能力をひけらかしたい、愉快犯かもしれない」
「……愉快犯ね。だとしたらあの妖怪娘はまんまと騙された事になるな」
 男を恩人として慕っていた少女。
 そんな子を騙して、今も悪行を働いているのだとしたら、情状酌量の余地もない。
 しかし、違ったなら。
 少女の思うとおりの心優しい男だったのなら?
「ぐあー、わかんねぇなぁ!」
「冷静になれよ、勇太。探偵が諦めたら事件は迷宮入りって、どこぞの漫画でも言ってたぜ」
「漫画のセリフを引用されてもなぁ……」
「それより、あの娘から聞けた事、他にはないのか?」
「え? えっと……」
 勇太は首を捻って記憶をあさる。
 そう言えば、もう一つ情報を得ていた。
「その男の前科ってのが強盗殺人だって聞いたぜ」
「強盗殺人……だとしたらそこそこでかい事件になってそうだな」
「もしかしてさ、その事件に関わった人間をさがしてるのかも? 実は強盗殺人も冤罪だった! とか」
「妖怪娘の印象を信じすぎている気もするが……ありえない話でもないか」
 元々復讐を考えていた男が、能力と言う便利な道具を手に入れて実行に移し始めた、となれば十分ありえる話だ。
「今まで放火された事件の関連性を調べてみよう」
「それなら、向こうがやってるっぽいぜ」
「連絡を取ってみるか」
 武彦は携帯電話を取り出し、セレシュたちと落ち合う事にした。

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 武彦の集合号令に従い、集まったのは住宅街。
 男が活動範囲として動いているだろうという疑いがある場所だ。
 そこで情報を交換した一行。
 武彦はセレシュから聞かされた、ここ最近の放火事件の関連性について考える。
「パッと聞いた感じ、あまり関連性があるようには思えないな」
「男が復讐してるって線はなし?」
 勇太が隣で憮然としているが、武彦は思案を止めない。
 代わりに少女が前に出る。
「あの人は確かに罪を犯しましたし、被害者から仕返しをされる原因はありますが……でもあの人が自発的に復讐をするとは……」
 語尾が先細る。
 事件の情報を集めるうちに、少女も男の柔らかな笑みに嘘があったのではないかと、疑心を抱いてしまっているのだ。
「うちはこの娘の言う通りの人であって欲しいけどな。でなきゃ、この娘が可哀想やで」
「でも、人の嘘を見破るのって結構難しいぜ? テレパシーでも使えれば別だけど……」
「……なぁ、武彦さんはどう思う?」
 セレシュに尋ねられて、武彦は顔を上げた。
 確かめるように、ポツポツと言葉を零し始める。
「男は前科持ち、復讐によって家を焼かれ、その後放火に走る……」
「冤罪の復讐って線なら、その男の家を焼いた被害者家族のところに行くかな?」
「でも、その被害者の親ってのも、もう捕まってるんやで? もぬけの殻の家に放火して、復讐がなるとも思えん」
「前科の事件が冤罪である可能性……妖怪娘を助けた前例……」
 事件を整理するたび、男の二面性が際立ってくる。
 本当の男の顔はどっちなのか、判断がつかない。
 もしくは、どちらも本当の顔だというのか。
「……もしかしたら、男は能力に振り回されてるのかもしれない」
「能力に?」
 一つ、答えを出した武彦に、勇太は鸚鵡返しに尋ねる。
「ああ、そうだ。能力に目覚めた人間は、開花のすぐ後、能力を使いこなせず力に取り込まれてしまう例はかなり多い」
「……今回の場合はパイロキネシスだしなぁ。割りと強力な能力だぜ、アレは」
 発火能力ともなれば、人を殺すのも容易い。それは強力な能力といって差し支えないだろう。
 勇太のいた研究所にもパイロキネシストはいたが、かなり強力な能力者として扱われていた。
 それだけ強大な力を有せば、心がおかしくなっても仕方がない。
「じゃ、じゃあ、この娘の信じてる男もホンマって事で、ええんね?」
「俺の推理の上でしかないけどな」
 少女はセレシュと顔を見合わせ、小さく笑みを零す。
 しかし、武彦の方は難しい顔を崩さなかった。
「そうなると問題は……事件の発生に法則性が見られない事だな」
「愉快犯……とはまた違うかもしれないけど、手当たり次第に放火して回ってるってんじゃ、先回りは出来そうにないな」
 犯行の法則性でもあれば、次のターゲットを推測する事はできるが、これではそうもいかない。
 放火した後、ずっとそこに居座るわけもないだろうし、後手に回れば取り逃がす確率が高い。
「あ、あの、お役に立てるかどうかはわかりませんが!」
 少女が手を挙げる。
「わ、私、ある程度の範囲に火避けの結界を張る事が出来ます」
「ほぅ、そりゃまた妙な特技を」
 一応、カブソは水妖。火とは相容れない関係となっている。それを打ち消す事も可能ではあろう。
「もし、あの人が火をつけようとしたところで、私が結界を張っていれば、放火にも手間取るはずです」
「じゃあその後は俺の出番だな。テレパシーを使えば、近くの人間の悪意なら感じ取る事が出来るぜ」
「大丈夫かよ、お前。テレパシーは一番苦手だって言ってたろ?」
「こう言う時ぐらいは役に立つって。まぁ見てな」
「うちかて、防火の魔法も使えるし、ある程度は補助魔法も使えるで。能力の底上げくらいは手伝える」
「……じゃあ、セレシュが妖怪娘と勇太の補助に回って、妖怪娘は結界、勇太はテレパシーで犯人の妨害と位置特定。これで良いな」
 と、一応対策も立てられたので、一行は行動に移る事にした。

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 時刻は夜。星が天に瞬いている。
 一行は場所を移動し、出来るだけ住宅街をカバーしやすい、中心付近に陣取っていた。
「大丈夫か?」
「はい、まだまだいけます」
 犯人がいつ動いているかわからない以上、常に気を張らねばならない。
 少女はずっと結界を張り続け、勇太も休み休みだが、テレパシーを広域で張り巡らせている。
 二人の間でセレシュも補助魔法を操り、二人のサポートをしていた。
 武彦は腕時計を見る。
 能力を使い始めてから数時間経とうとしていた。
「これで、今日は犯人が動かない日、とかだったら笑えないな」
「やめてくれ、草間さん。こっちは結構必死なんだ。冗談でもそういう事言わないでくれ」
「う、すまん」
 本当に必死そうな勇太を見て、武彦は素直に謝った。
 ……その時。
「来た!」
 勇太のテレパシーに感あり。
 住宅街の一角に、相当な悪意を持った人間が現れたのだ。
「どこだ!?」
「こっち! 割りと近くだ」
 勇太の案内で、一行はその悪意を持った人物の元へと向かう。

 そこにいたのは一人の男。
「あ、あの人です!」
 最後尾を走っていた少女が叫ぶ。
 どうやら犯人に間違いないらしい。
「そこのヤツ! 止まれ!」
 物陰でごそごそしていた男は、勇太の声に反応して顔を上げた。
「……誰だ、お前ら」
「俺たちはえっと……」
「アンタを逮捕しに来たんや!」
 セレシュがビシっと指をさして宣言する。
 すると、男は俄かに身構えた。
「お前ら……俺をまた捕まえるつもりか。またッ!!」
「来るで」
「おぅよ。草間さんたちはちょっと下がってて!」
 勇太とセレシュが武彦と少女をかばうように前に立つ。
 もう少し具体的に言うならば、最前列が勇太、そのちょっと後ろにセレシュ、更に後方に武彦とカブソといった感じの立ち位置である。
「邪魔をするなら、お前たちも燃やすッ!」

 先に動いたのは男だった。
 その手からは既に黒い火の粉がチリチリと噴出している。
 しかし、それだけでは不満らしい男は、顔を歪ませる。
「くそっ! なんでだ! どうして炎が出ない!」
 少女の火避けの結界が効いているのである。
 この結界の中にいる限り、炎は著しく弱められる。
「チャンスだ、セレシュさん! 取り押さえよう!」
「ええで!」
 勇太はサイコキネシスを操り、セレシュは捕縛魔法を唱える。
 二段構えの金縛りにあった男は、その場に倒れてしまった。
「ぐっ! クソッ! くそぉ!!」
 もがこうにも指先すら動かせない男は、怨嗟の声を辺りにぶちまけるしか出来なかった。
「どうして……どうして俺がこんな目に遭うんだッ! どうして他のやつらは……ッ!!」
「やっぱり逆恨みって事か……。悪いけど、あの娘が言うような人間には思えないな」
 武彦は遠巻きから男を眺めて、そう呟く。
 幾ら能力に飲み込まれたとしても、犯行動機が自己中心的過ぎる。
 それを傍で聞いていた少女は、意を決して男に近づいた。
「あ、危ないで!」
「大丈夫です」
 セレシュの制止を振り切り、少女は男の目の前に立つ。
「お久しぶりです。私の事、わかりますか?」
「……お前は」
「あなたに助けていただいた、かわうそです。信じられないでしょうけど……」
「かわうそ? ……あの時のか」
 狂気しか見られなかった男の顔に、少し別の感情が灯る。
「お前、死んだんじゃなかったのか?」
「ええ、一度は確かに死にました。でもあなたがこんな事をしていると知って、いてもたってもいられなかったのです」
 少女は身動きの取れない男の顔を抱いた。
「あなたは本当はこんな事をする人ではないはずです。手に入れてしまった力に中てられただけなんですよね」
「……ぐっ、うう……」
「もう大丈夫です。苦しむ必要なんかないんですよ」
 少女の優しい言葉に、男は大声を上げて泣いた。
 勇太もセレシュも、既に男の束縛を解き、武彦のように二人を遠巻きから眺めた。

 それから黒い炎の放火事件はパタリとやんだ。

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「俺が調べたところな」
 全て終わった後、興信所のあるビルの屋上に勇太と武彦がいた。
「あの男の前科、強盗殺人ってのはやっぱり冤罪だったらしい」
「……そっか」
「なんだかって組織に属していたらしくてな。そこの幹部がやらかした事の尻拭いに、あの男が罪を被ったそうだ」
「うへ、嫌な上下関係だぜ」
「だが冤罪を立証できず、そのまま実刑、根が真面目だったあの男も無実を訴える事なく刑期を全うした」
「そんで、最後には異能犯罪者になって、また逮捕かよ」
 聞けば聞くほどいたたまれない。
 男は無実の罪で投獄され、帰ってきたら被害者家族に恨まれ、そして今回の事件を起こした。
 状況から見れば男がこの世を恨んでしまったのも仕方がない事といえよう。
 ただ、恨みに恨んで出た行動が間違っていたのだ。
「出所後すぐにこんな事件だ。情状酌量の余地もなし。恐らく重たい刑が待ってるだろうな」
「どうにか……出来ないもんかな?」
 このままでは男があまりに不憫すぎる、と思ったのだろう。
 勇太は武彦に尋ねて見たが、彼はタバコをふかしてカラッと言う。
「無理だろうな。これで刑を軽くしようモンなら、反省した振りのヤツらが調子に乗る」
「はぁ……なんか嫌な世界を垣間見た気がする」
 勇太は重苦しい事実を突きつけられ、がっくりとうなだれるのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8538 / セレシュ・ウィーラー (セレシュ・ウィーラー) / 女性 / 21歳 / 鍼灸マッサージ師】


【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男性 / 17歳 / 超能力高校生】


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■         ライター通信          ■
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 工藤勇太様、シナリオに参加してくださってありがとうございます。『ビターエンド!』ピコかめです。
 こう言うエンディングは個人的には嫌いじゃないけど、どんなもんでしょ。

 基本お任せ、という事でしたので、ある程度はプレイングを尊重しつつ、俺の動かしやすいように動かさせていただきました。
 武彦さんと事件の裏側固めとか、犯人の心情部分を読み取るためのパートを作れたのはとても良かったと思います。ありがたい!
 事件解決にも苦手なテレパシーで一役買っていただきまして、ライターとしては割りと活躍していただいたと思っております。
 ではでは、また気が向きましたらどうぞ〜。