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<東京怪談・PCゲームノベル>


+ あの日あの時あの場所で……・2 +



「ねえ、次の日記はミラーの番?」
「ああ、そうだね。僕の番だよ。今読み上げるから待って」
「ミラーの日記って結局はフィギュア観察日記になってる事が多いんだよなー」
「言っておくけどフィギュア以外の人物が傍にいるなら話は別だよ。仕方ないじゃないか、此処は迷っている魂が迷い込んでくる異世界なのだから」


 此処は夢の世界。
 暗闇の包まれた世界にて存在するアンティーク調の一軒屋にスガタ、カガミ、フィギュア、ミラーが集まっておりのどかにティータイムを過ごしている。
 そんな彼らの最近の楽しみは『交換日記』。だが、交換日記と言っても、各々好き勝手に書き連ねて発表するというなんだか変な楽しみ方をしている。そのきっかけは「面白かったことは書き記した方が後で読み返した時に楽しいかもね」というスガタの無責任発言だ。
 ちなみに彼らの他に彼らの先輩にあたるフィギュアとミラーもこの交換日記に参加していたりする。その場合は彼らの住まいであるアンティーク調一軒屋で発表が行われるわけだが。


 さて、本日はミラーの番らしい。
 片手を空中に伸ばし、空中に現れたノートを手の中に収めぱらぱらとページをめくる。
 開いたノートに書かれているのは彼の本質を現すかのように綺麗に整えられた文字だ。フィギュアは己が愛用している安楽椅子に持たれ掛けながら、ミラーが皆に良く聞こえるよう読み出すのを楽しみに待っていた。


「九月七日、晴天、今日は――」



■■■■■



「こんちはー。セレシュ・ウィーラーや。今日も土産持参で遊びに来たでー!」


 うちはセレシュ・ウィーラー。
 外見十五歳ほどに見えるが実質二十一歳と主張するゴルゴーンである。普段は人間に変化し人間社会で暮らしてるんやけど、今日は本来の姿である蛇状の髪と黄金の翼を隠す気も無く晒したまま今目の前のアンティーク調の一軒屋の扉をノック中である。
 此処に来るのは本日で三回目。
 一回目は無意識にストレスが溜まった時に。
 二回目はそのストレス発散のお礼に。
 そして今回は先日うっかりミラーさんを石化させてしまったお詫びに、だ。


「いらっしゃい、セレシュさん。中にどうぞ」
「お、今日はちょっと遅かったやないの」
「フィギュアにもう記憶を渡しておこうと思ったので少々時間が掛かりました」
「じゃあフィギュアさん今日は最初からうちの事分かるんやね、お邪魔すんでー」


 扉を開いてくれたのは外見十五、つまり同じ年くらいに見える少年。
 黒と緑の瞳を持つ短い黒髪の彼はうちが渡したマロンケーキ等のケーキの詰め合わせが入った箱を受け取ると、それを持ってテーブルの方へと移動する。いつも通りお茶会の準備をしてくれるんやろうな。


「こんにちは。そしていらっしゃい、セレシュさん」
「おお! ほんまや。フィギュアさんうちの事ちゃんと認識してくれとるわ。って、挨拶がまだやね。こんにちは」
「ふふ、大体此処にやってくる前に存在は感知出来るから、その前にミラーが記憶を渡してくれればなんとか挨拶くらいは出来るのよ」


 相変わらず足の悪いフィギュアさんは安楽椅子に腰掛けてて、うちに朗らかに微笑み返してくれはる。うちも今日は最初からちゃんと自分の存在を認めてくれた事が嬉しくて、つられて笑ってしもうたくらいや。人の記憶に残らんってやっぱ寂しいんやね。だから記憶に残ってるって事は当たり前じゃないんやってフィギュアさんに逢う度に思ってまうわ。


「ところでミラーさんあれ以降うちの事怒ってへんかった? 石化させてもうたんは不慮の事故ゆえやってんけど」
「ふふ、貴方の本質が本質ですもの。それを否定するような、歪める様な怒り方はミラーはしないわ。確かにあの時は頭にきていたかもしれないけれど、石化の視線自体を否定する事はないし、石化させられたことに関しても単純に避けられなかった事が悔しいみたい」
「それやったらええんやけど……うーん」
「二人とも、お茶の準備が出来たよ。こっちにおいで」


 ミラーさんがそう言ってうちらの傍に寄ってきはる。
 相変わらずフィギュアさんの移動手段にはミラーさんのお姫様抱っこが使用されていて、……爆発してくれへんかな、って思ってまうのはしょうがないと思うねんけど。
 仲良き事は美しきかな――を超えて、べたべたいちゃいちゃ。本人達は気にしてへんやろうけど、このリア充め。爆発しろ。


「爆発しても良いけど、僕らにそういう物理的攻撃は通用しないよ」
「お、思考読みはったね。ええねん。これはただの言葉のあややさかい、ほんまに爆発してもらったらうちが困る」
「スラング、……いわゆる俗語の変化に付いていけない僕らも僕らだけど、幸せな二人や楽しそうにしている人達に対してそういう言葉が流行る文化は不思議で堪らないよ」
「そう? うちは案外面白いと思うで。つーか二人はこの家から出て遊びに行く事とかせんの? あ、うちの教えたストレッチやっとるか。あと食事とかほんまどないしてんのん。どう考えてもこの世界って食料品を調達する場所あらへんやん」
「質問の嵐だわ。どれから答えようかしら」
「好きな問いにだけ答えたらいいと思うよ、フィギュア」
「そうなの? じゃあ、ストレッチについて」
「――そこからなのかい。ちょっと意外だったよ」


 うちがぱっと思いついた事をつらつらっと並べたら、フィギュアさんはほんのちょっと困ったように頬に手を当て小首を傾げる。無意識にやってはるんやろうな、そんなフィギュアさんを愛しそうに見つつ、ミラーさんが相手の髪の毛を撫ではるのは。
 うちはといえば椅子に遠慮なく腰掛け、入れてもらったばかりの紅茶のカップをありがたく頂くため簡単に挨拶を述べてから口にする。――セイロンティーの良い香りが鼻腔を擽る。そこにミルクが足されてて味もまろやかで今日のケーキには丁度良い感じやわ。


「ストレッチは毎日はやってない……わよね。記憶に無いけど」
「記憶にないんやったらあんまり意味ないやん。ミラーさん、実際はどうなん」
「してないに等しいね。確かに肉体的には僕らは人間に近い構造を取っているけれど、実際は人間ではないのだから効果はあまり期待出来ない。ただ、ストレッチをするという意識がフィギュアに良い影響をもたらす可能性はあるね」
「ん? どういう意味や」
「そのままの意味だよ。人間であればそういう行為を繰り返す事によって肉体に影響を及ぼすけれど、僕らはどちらかというと君達のような『肉体的に生きる存在』に対して『精神的に生きる存在』だからね」
「んんん? ちょっと難しいところに足突っ込んだ気分やわ」
「僕らは基本的に他者に認識されて初めて『個』を得、『存在』を生み出す。君が僕らを意識しない場合、この世界には僕らは存在していない事になり君は当然僕らを認識出来ない。だからこの場所はいつまでも夢で在り続ける」
「うちが最初に二人を認識した理由はあれか。ストレス溜まってた時に二人を必要としたせいか?」
「そう。あの時無意識にでも貴方は僕達『案内人』を必要としたから此処に存在する事が可能となり、その後は貴方が『存在している者』として僕達の元に訪問してくれるから逢う事が出来るというわけだね。でなければ外の闇の中、貴方は彷徨い続ける」
「なるほどなぁ」


 小皿に乗せられたモンブランケーキをフォークでつつきながらうちは関心の息を吐く。
 興味が出てきたために出た吐息はマロンケーキと一緒に持ってきたモンブランへと吹きかかり、少しだけ表面を乾かしたような気がするけどしっかりと練られたそれはそう簡単には美味しさを減少させず、フォークで切り、食べてみればうちが絶賛してるいつものお店の味が広がった。


 しかしストレッチの効果があんまりないっつーのは教えた身としては複雑やわ。
 でも精神的な面で効果があんのやったら教えた意味はあるんかな? 実際フィギュアさんはあの時自分で教えて欲しいって言ってくれたわけやし、無意味だったともうちは思わへんねんけど。


「んー、肉体的な効果云々は種族的なもんって思うてええのかな」
「そうだね。種として成り立つのならば」
「どういう意味や」
「例えば貴方はゴルゴーンだ。『種族』とは何かしら血族が存在している事を示し、同じ能力を持つ者が一人ではない事を示す。もちろん異端はそこには含めないよ。どこにだって変り種はいるものだからね」
「ふんふん。それで?」
「僕らはそういう意味では繋がりはない。血の繋がりも無く、同じ能力を保持しているわけでもない。ただ、生まれた時から役割が決まっていただけの精神的な概念で生きている」
「あたしが生まれた時は、構造を決める何かが不足していたか、事故でも遭ったのかもしれない。――あたし達は『想い』『認識』から生まれる者。もしかしたらあたしの記憶障害も足が動かないのも最初の誕生の時に意図されていたものかもしれないわ」
「だからそれを補うために僕が存在するわけだ。僕らは互いに互いを認識しあい、補完しあう。それだけで個から無へと還らず、……そうだね、『生きていける』」


 うん。
 精神論的なお話になってもうた。面白いけど、これはこれで踏み込んだ部分になってもうたかもしれん。確かにうちはゴルゴーンや。他にもゴルゴーンが存在する事は世間一般的な認識もとい神話などからも知っとるし、それは種なんやろう。
 フィギュアさんが持ってきたマロンケーキにフォークを突き刺し、興味津々でそれを一口ぱくり。その表情が次第に満面の笑みになるから、なんかええなぁって心和むんや。持ってきて良かったなって思える。


「そやな。今回はあんまり難しい事は考えんのやめとこ。折角のお茶会やそう言うのは時間がある時にでもしよか。――ところでミラーさん」
「なんだい?」
「この間は石化させてもうて悪かったわ」
「わざとじゃないと分かっているから気にしていないよ。確かに石化させられた瞬間は怒りがあったけれど、持続させるほど僕は感情的ではない」
「ほんま、あの石化の視線だけはどうしようもあらへんからな。もし今回もやらかしたら視線をうちに返してくれても文句は言わん。うちも自分のへまは自分で片つける。……あ、でも気が済んだら石化は解除してな。あ! あと、いたずらしたらあかんで。特にえっちぃの!」


 最後の言葉はもちろん冗談。
 語尾にハートマークが付くような軽やかさを込めて言い切ればミラーさんがテーブルに肘をついてがくっと頭を垂れ下げよった。おおう、結構効いてはるわ。フィギュアさん一筋の彼の事や、そんな悪戯はもちろんせんって分かった上で言ううちも……それなりに悪戯心があんねんな。うむ。


「……その心は有り難いけれど、その石化の視線は保持者、つまりセレシュさん自身が石化しても周囲に影響をもたらすものだからね。出来れば貴方自身で眼鏡を落とさないよう努力してくれる方が僕としては嬉しいね」
「ほんまやね。……あれかなぁ。メガネやのうて眼球密着型のコンタクトにするべきやろか。いやいや、コンタクトを落とした場合の方が危ないわ。簡単に探せへん辺りが怖い」
「貴方の種族のその視線は能力と言っても半分は呪いのようなものだからね。制御出来ない辺りが恐ろしいよ」


 うちは思いついた案を口にし、しかし即座に却下する。
 自分自身でも持て余してるこの視線の能力はマジできっついねんって。眼鏡がずれてその時視線が交わったらTHE END。見事な石像を過去どれくらい作ったかなんて考え切れへんわ。だからうちは今住んでる世界で裸眼で居る事なんで出来へん。
 これって結構窮屈やへんけど、人様に迷惑かけんのはあまりしとうないから自分が我慢せんとあかんっつーことになるわけやね。
 ――ま、その結果ストレスが溜まってうちはこの二人に出会えたっつー事やけど。


「んじゃま、種族の話やのうてもっと軽い話題にしよっか。そうそうさっきも質問したけど、二人はここから遊びに行くことあらへんの?」
「あるわ」
「あるね」
「そうなんや。どういう場所に遊びに行くん?」
「仕事関係以外ならセレシュさんのように私達と取引ではなく、ただの知人として出会ってくれた人達に招待を受けてパーティに参加させて貰う事はあるわね。ただの食事会の場合もあるわ」
「衣服なども見にそちらの世界にお邪魔させて貰う事があるよ。あと実は飲食不要だけれど、美味しいものを食べる事は嫌いじゃない。むしろフィギュアは好きだよね」
「ええ、綺麗な服やアクセサリーを見るのは好きだわ。美味しいケーキや……ええっと、パフェだったかしら。あれを食べるのも好きよ」
「……なんと、案外普通やった」


 彼らの口から語られるお出かけの内容は引き篭もりを思わせなくてほっとする。
 一応これでも医学を齧っている身やさかい、食事とかが特に気に掛かるんや。しかし飲食不要かぁー。お土産別のもんがええんやろうか。でも食べるのは好きや言うてはるし、フィギュアさん喜んではるからこれでええと思うんやけど。
 しかし服を見たりとかパフェ食べたりとかするのって……なんや、人間と変わらんわ。なんかほっとした。


「なんか、ただ住む世界が違うだけの人みたいやわ」
「そういう風に出来ているからね。人の心が分かるように」
「<迷い子(まよいご)>の事を深々理解し、心身共に傍に在れる様に」
「誰がそれを定めたんやろうね」
「僕らを最初に求めた人物か、はたまたそういう意識の集合体の働きさ」
「あたし達はただの『個』。人は時に『鏡のようだ』とあたし達を評するわ。確かにあたし達は相手によって印象が変わる様に出来ている。――そういう働きがあるもの」
「そう言えばこの部屋の鏡張りはなんなん? っと、聞いたらあかんことやったら言わへんでもええで。人様の秘密根掘り葉掘りすんの嫌いやし」
「フィギュアの為」
「あたしの為よ」
「――ん?」


 慌てて両手を顔の前に掲げ振って一応逃げ道も口にしてみたけれど、彼らはそないに気にしてへんかった。
 フィギュアさんがケーキを口に入れ、紅茶をすすり飲んだ後少しだけ物悲しげな表情を浮かべはる。周囲の鏡を見渡し、そして己の動きと一緒に虚像が動くのを確認してからうちの方を見、そしてその唇は開く。


「此処は『あたし』が『自分(あたし)』を認識する為に作られた小さな鏡の世界なの」


 下手をすれば自分さえも忘れてしまうから。
 忘れないように、いついかなる時でも自分を見れるように、と。


 誰が作ったのか――この『世界(いえ)』を。
 誰が作ったのか――この『不完全体(ひと)』を。
 全てを知っているのは『完全体(かれ)』だけ。ただ一人だけ……。


 フィギュアさんを箱入り娘のように、大事にするその行動は望みに叶っているのかすらうちには分からず少しだけ背筋にぞっとするような寒気が走ったけれど、身体の内側から温めようと紅茶を飲んだときにはそれはもう消えて。
 うちは肘をテーブルの上に乗せ、顎をついて思わず一言。


「ミラーさんの世界はどこにあんのかな」
「フィギュアと共に」
「ほんま、仲良しやわ」


 この閉鎖空間は誰の為の『箱庭世界』か。
 ま、うちはええねん。二人の元がなんであれ、うちに害がなければ――世の中そんなもんや。
 だからこそうちはケーキにフォークをぶっさし、もう一口分口に運んで甘いケーキを堪能する事に決めた。今日のケーキも美味い、お茶も美味い。


「しかし、世の中ってやっぱり複雑かつ合理的に出来てんねんね」


 そんなうちの呟きを二人は拾わず、ただ部屋に四散するだけ。









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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8538 / セレシュ・ウィーラー / 女 / 21歳 / 鍼灸マッサージ師】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / ミラー / 男 / ?? / 案内人兼情報屋】
【NPC / フィギュア / 女 / ?? / 案内人兼情報屋】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、またまたPCゲーノベへの参加有難うございました!
 
 今回は二人のプライベート的な部分にちょっと踏み込みつつ、セレシュ様とのお茶会を楽しませていただきました♪
 正体に迫るとなると、文字数が足りない部分がありましたので今回はこんな感じで!

 次第に仲良くなっていくセレシュ様とNPC達がほんわかします^^
 ではでは!