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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


File.7.5 ■ 能力の真骨頂とデート







「―不思議な人、ですね…」
 桜乃が眠りに就く姿を見つめながら、シンが小声で呟いた。モニタールームの中から見る眠る桜乃の姿は年齢相応の何処となく幼さの残る容姿をしている。シンにとって、そんな桜乃の能力の真骨頂とも呼べる部分を目の当たりにしたのは、つい先程の事だった。






―――

――







「フーンフフーンフフーン♪」シンに連れられてIO2内部を鼻歌混じりに歩いていた。
「楽しそうですね」不意にシンが私を見てそう告げる。「相変わらずの単調で何もない廊下ですが…」
 何故私が楽しそうにしているのか。それが理解出来ないのだろうか。イケメンでもやはり経験値が低い。私は勝手にシンをそう見ていた。
「並んで歩くって、なんかデートみたいでしょ?」私の言葉を聴いてシンが少し戸惑った様な表情を浮かべる。やはり女性に対してあまり免疫がないらしい。「それにしても、これだけ単調な廊下ばっかりじゃ退屈よね」
「情報箇所を憶えにくくする為の対策ですからね」シンがそう言って周囲を見つめる。「とは言え、桜乃さんは通った場所を全て憶えているので、意味がなさそうですが…」
「…まぁ、こんな造りじゃ確かに普通の人は混乱するわよね〜」私は両手を自分の頭の後ろで組みながら呆れる様に呟いた。「ま、この程度で情報を遮断出来るって考えてるんじゃ、まだまだ私の事を解ってない訳よ、IO2はね」
「あ…はは…、桜乃さんの様な能力なら、通った道は全て記憶されてしまいますしね…」困った様にシンが呟く。
「んーん、そうじゃなくて、ね」
「……?」
 首を傾げるシンを他所に、私はエストの部屋から持ってきた紙と鉛筆を取り出し、立ち止まった。少しの間目を閉じて思考を巡らせる。
「私ね、昔世界一の画家さんに絵を教わったの。だから、私の腕も世界一なのよん」足元に置いた紙に軽快なリズムで鉛筆を走らせながら私は言葉を続けた。「ま、そんな事どうでも良いって感じかな?」
「いえ、桜乃さんの描いた先程のイメージ絵。あんな細部までの表現は素人にはなかなか出来ませんから…。むしろ納得です」
「ありがと♪」相変わらず気を遣っている様な言葉。彼はやはり、何処か一線を引き続けている。「外観や窓はああだから、この中に通路がこうなって…」
 ブツブツと言いながら紙に絵を描いている私の姿を、シンは黙って見つめている。
「よし、でーきた」私は紙を手に取り、立ち上がってシンに紙を突き付ける。「さぁ、シン君ご覧あれ。IO2のビルの中身、部屋割り。大体こんな感じでしょ?」
「――…ッ」突如突き付けられた紙を見て、シンが思わず言葉を失って硬直する。
「大体合ってたみたいね〜」ニヤリと笑いながら私はシンの顔を見て呟く。
「…正直驚きました…。ですが、そこまで何故…?」
「シン君は、建築物を建てるのにどれだけの資格が必要だと思う?」
「建築物、ですか?」シンが不意に尋ねられた質問にきょとんとしながら聞き返す。
「私、建築構造学とかデザインとか電気配線技士とか空調設備士とか、まぁ数え切れない資格持っててね。それ総合すると、外観とか廊下の形や長さ、配線の状態とかから想像できちゃうのよね」
「成程…。少ない情報からでも、特定や計算は容易いという事ですか…」
「簡単に言えば、だけどね。さすがに何処に何があるのかなんて事は解らないけどねー」
 シンが暫く考え込む様に黙り込んでいる姿を見て、私も思わずやってしまったかと思いながら様子を覗っていた。
「…桜乃さん、IO2に正式に入りませんか?」
「へ?」予想外な言葉に、思わず素っ頓狂な声をあげて私は答えた。「い、いきなり何よ〜?」
「その能力を見たからこそ、です」シンが真面目な顔をして言葉を続ける。「情報を扱う能力、その人間性。それだけの力があるのであれば、IO2として歓迎します」
「無理だよ」私は笑いながら答えた。
「いえ、貴方の能力は我々にとって―!」
「―そうじゃない」シンの言葉を遮って私は続けた。「私は、この能力をあの人以外の誰かの為に使う様な事はしたくない。だから、IO2の為に生きるって事は出来ない」
「…そうでしたね」シンが小さく溜息を漏らす。「失礼しました」
「シン君が個人的に私が欲しいって言ってくれるなら考えても良かったのにー」
「えっ、いや、それは…」赤面しながらシンが俯く。
「シン君ってさ、女性経験乏しかったりするの?」
「えぇ!? い、いきなり何ですかっ!?」思わずシンが声をあげる。行き交う人々が不審そうにシンを見つめ、シンが気まずそうに俯く。「そ、そう見えますか…?」
「うん」一刀両断する様に私は頷いた。「仕事の話をする時とか、敬語で何かを伝えるとかは出来るのかもしれないけど、いざ好きな人にはあまり普通に喋ったり話したり出来ないタイプだったりするんじゃないの?」
「う…」シンが更に視線を俯かせながら黙り込む。「…そう…ですけど…」
「やっぱりねぇ〜」ニヤリと笑いながら私が呟く。「シン君にはアレが足りないんだろうなぁー」
「な、何ですか!?」再び大きな声を出したシンに周囲からの視線が集まる。
「おやおや〜? そこまでムキになって聞いて来るって事は、もしかして意中の人がいたりするのかな?」
「なっ…」シンが今にも煙を噴出しそうになるぐらいに顔を真っ赤にする。
「はっはーん、図星?」クックックッと笑いを漏らしながら、思わず私も楽しくなってしまう。「でも、シン君じゃ物陰からチラっと見つめるぐらいの淡い恋なんだろうなー。教えてあげても良いけどなー」
「お、教えて下さい」
「…はぁ、シン君は甘いなぁ」
「え…?」
「私がさっき、何でIO2の建物の外観とかが把握出来るって事をバラしたんだと思う?」
「…いえ、解りませんけど…」
「つまり、バラしても何も問題ない程度の価値の情報だったって事。私にとってはどうでも良い情報なのよ。でも、シン君にアレを教えるのはちょっとそれなりの対価が欲しいのよね」ニヤニヤと笑いながら私はシンを見る。端から見れば、私はどれだけ悪役な顔をしている事やら…。私はそんな事を思いながらシンを見つめていた。
「…た、対価…ですか?」シンがゴクリと息を呑む。「そ、それは…?」
「んふふー、そうねー…。私とデートしてもらおうかな、もちろん大人のヤツをね…」
「デ、デートって…。デートは好き合う異性同士がお互いの気持ちを確かめ合う様に出かけたりする行為ですよ!?」
「あはは、シン君頭硬いね」
「なっ…!」
「だがしかーし! シン君断って良いのかなー? 好きな人を一生影から見守るだけの自己満足な恋愛で、満足出来るのかなー?」
「うっ…、それは…」シンの心が揺らぐ。私はその瞬間を見逃さないかの様に先程書いた紙を見せ付ける。「それって…、まさか…」
「シン君、ダイブから帰ったら大人なデートする?」ニッコリと笑いながら私が尋ねる。
「お、脅しじゃないですかー!」
「人聞きが悪いなー…。脅しじゃなくて、交渉だよ?」
「…ッ! 解りました…」
「やったー! デート、デート!」私はルンルン気分で歩き出す。








――

―――






「…シンさん、どうしたんです? 表情が引き攣ってますけど…」
「え、いえ、何でもありません」不意に隣りにいた研究者の女性の問いかけにシンが焦りながら答える。
「…能力の凄さを見せ付けたかと思えば、脅しめいたデートの強要…」引き攣った笑みを浮かべながらシンが小声で呟く。「はぁ、まったく…。掴み所のない人です…」
「ダイブ成功した模様です!」
「解りました。後はこのままの状態を維持して下さいね」
「はっ!」


 ―そんなちょっとした裏事情を知る由もない研究者達は、シンを過労で疲れているのだろうと心の中で少し心配していた、とか…――。






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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

サイドストーリー、いかがでしたでしょうか?
個人的に、シンは仕事以外には天然成分を配合していると
勝手に決めているのでこうしたストーリーにしてみました←

お楽しみ頂ければ幸いですw

それでは、引き続き本編の方も近い内に
お届け出来ると思います。

今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司