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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


File.8 ■ 自分(の記憶)探しの旅







「…さて、何処から探そうかなぁーっと、まずはやっぱアレよね…」
 無造作に置かれた大きく古い箪笥。んふふーと含み笑いをしながら私は箪笥に近付き、中を開ける。
「絶対ある…ハズ…っと…! あったー!」
 『さくの は 祖父のへそくり を てにいれた!』と、さながら何処かのゲーム感覚の効果音付きで箪笥の中からへそくりを発見した。
「…でも、これって記憶の中で、実際に持ち出せないって事よね…! きーっ! 悔しー!」私は思わず我に返り、そんな事を叫んだ後で再び周りをキョロキョロと見回した。「お? あったあった、社長の小窓〜♪」
 あの人との思い出や会話の全てが詰まっている私にとって大事な小窓。『家族』の部屋の中にあるのは、私の勝手な都合だ。勿論これはわざわざあの人に確認や了承を取る訳もなく、完全な私の独断による配置。
「あの中には、私とあの人の小さい頃の記憶とか、美しい日々が…! 大事に大事に保管してある素敵な空間…! 嗚呼、麗しき思い出〜」と、言いながら小窓を覗き込む。
「…げふぅっ…、ダ、ダメだわ…。あの人を取り巻く様々な大人のドロドロ…。キツいわー…」と言いながらもまだ小窓から顔を離さない私。「…私、あんなにハッスルし過ぎてた…? 良い子のみんなには到底お見せ出来ない様な…」
 キャッキャしながら一人で楽しんでいた私は、そんな事を言いながらも懐かしい記憶を見て思わず本来の目的を忘れかけていた。
「…ハッ、いけないいけない。私ったら、あまりに懐かしい光景ばっかりで、部屋の片付けの最中に写真を見つけて脱線しちゃう人みたいだった…」そんな事を呟きながら祖父に関する部屋を探す。「でもあれって不思議よねー…。懐かしいマンガとか、つい読んじゃうのよねー、記憶に全部残ってるのに…」
 独り言全開で祖父の部屋を見つけ、私は早速部屋の中へと足を踏み入れる。





――。





 流れて来る記憶の波。家族の表情や仕草、言葉の一字一句が全て目の前を慌しく駆け巡る。そんな中、祖父の事を思い出そうと意識を集中すると、ふと景色が変わった。そこは昔よく祖父と話しをしていた、庭に面した縁側だった。
「ほれ、桜乃。これが鶴じゃ」ニッコリと笑う祖父の横で、幼い頃の私が興味深そうに祖父の折った鶴を見つめて目を輝かせる。「ちと難しかったかの?」
「ん…」幼い私が、目の前にあった折り紙を手に取って鶴を作ってみせる。「出来たっ」
「おお、一回で憶えとったのか! 賢い子じゃの、桜乃」
「えへへー」
 祖父に頭を撫でられ、幼い私が笑顔を浮かべている。
「なら、今度はこれでどうじゃ…?」いそいそと祖父が折鶴を折り始める。「…ほれ、これは龍じゃ」
「ふわぁー…」幼い自分が先程よりも目を輝かせて口を大きく開く。
「…(…そういえば、折鶴は色々教えてもらったなぁ…。この龍、作り方は確か、一度で憶えてやってみせたけど…)」
「…あれ…?」
「なんじゃ、桜乃! これも一回で憶えたのか! いやー、本当に頭の良い子じゃなぁ…」
「でも、お祖父ちゃんみたいにならない…」手に持った折り紙を見つめて幼い私が呟く。
「桜乃は、賢い子じゃが、まだ命を吹き込む術は知らんからのぅ」
「命…?」
「そうじゃ。物にも命が宿る様に願えば、こうして生き生きとした龍が生まれる。桜乃は、その手にある龍に気持ち込めたかの?」
「気持ち?」
「ほっほっ、桜乃にはまだ難しいお話じゃったかの」
『…(そう、この頃の私は意味を知ってても、本質までは解ってなかった…)』思わず目頭が熱くなる。『…(お祖父ちゃんは、その事を教えようとしてくれたんだよね…。今度お墓参り行く時は、お祖父ちゃんの好きだった折り紙持っていこ…)』


 再び景色が流れ出し始める。恐らく数日程過ぎた後の事だろう。私はまた縁側で祖父と幼い頃の私が話しをしている瞬間を見ていた。
「桜乃。お前さんは賢い子じゃ。その朱眼はワシとお前さんが同じだと、雄弁に語っておる」
「朱…眼?」
「桜乃、眼を閉じなさい」
 祖父の言葉に幼い私が目を閉じる。
『…(ちぇっ、やっぱり私の見ていない情報は見れないか…)』目の前が真っ暗になり、カサカサと音が鳴る。『…(…この音…折り紙…?)』
「―目を開けなさい、桜乃」
 祖父が私の額に当てていた折り紙をスっと自分のポケットに入れて声をかけた。
「…ん…」
「桜乃、今ワシはお前さんにちょっとした魔法をかけたんじゃ」
「まほー…?」
「そうじゃ。お前さんがいつか、ワシの道を辿りたいと願った時に、これから言う魔法の言葉がお前さんの行こうとする道を示してくれるじゃろう」
「まほーのことば?」
「…そうじゃ、それは…――」




 ――不意に記憶が途切れ、目の前が真っ暗になる。眼を慣らすかの様に私は一度目を閉じて深く深呼吸して再び目を開ける。
「…小箱…?」桜乃の目の前に小さな小箱が置かれている。見覚えのない古い造りをした小箱が、闇の中だと言うのにくっきりとその姿を現している。「…もしかして、この中に封印された記憶が…?」
 早速小箱を手に取り蓋を開けようとするが、やはり小箱の蓋はビクともしない。特殊な術によって封印されているのだろう。
「…試してみるかぁ…」
 早速、エストに教わってきた解呪の方法を試し始める。特殊な術式の書かれた紙をエストから手渡された私は胸ポケットからそれらを取り出し、目の前に並べる。
「えーっと、まずは術の特定…」一枚の紙を小箱に載せる。紙に書かれた特殊な術式の紋様が青く光りを放ち、その右半分のみが光りだす。「赤は攻撃的意思、青は守護的な意思ね…。守る為のモノ…。だったら、こっちは使わない…」
 確認する様に桜乃が呟く。並べた紙の内、三枚の紙をグシャグシャに丸めてポケットに乱暴に突っ込む。
「強制的解呪をしようとした場合、その封印毎記憶を消失させられてしまう可能性があるって言ってたのよねー…。じゃ、今度はこれ」私は小箱の上に載っていた特定用の紋様が描かれた紙を取り払い、次の紙を小箱に載せる。エスト曰く、この紙はシンプルな術式の解呪紋様。簡単な術式ならこの紙一枚で情報を割り出し、解呪出来るそうだ。
「…無反応…、ダメって事かぁ」許容範囲を超えている場合や、一般的な封印術ではない場合は反応が出ないと言われていた私は、言われた通りに十秒程待ってから紙を取り払い、これもグシャグシャにしてポケットに突っ込む。
「…あと四枚…、どれかがせめてヒントを与えるぐらいになれば良いけど…――」









――

―――







「どうだ? 順調か?」エストと武彦がシンのいる機械操作室へと訪れ、シンへと声をかけた。
「…順調です。タイムリミットまでに何かを得られれば良いのですが…」
「タイムリミット?」武彦が尋ね返す。
「はい。眠りのサイクルと呼ばれる一時間半程度。このサイクルの一度目でダイブは解けてしまうのです」エストが横から武彦へと補足する様に説明する。
「彼女の場合は情報量が膨大ですからね…」シンが呟く。「最悪、目が覚めるまでに何も見つけられないというケースもあります」
「そんなに難しいのか?」
「ダイブ自体は成功ですが、ダイブ成功してから表情の変化が激しかったので、もしかしたら見る必要のない場所も見ていたのかもしれません…」
「あのバカ…」武彦が思わず呆れた様に呟く。
「あの人らしいですけどね」シンが思わず小さく笑う。「時間はまだあるので、そこまで焦る必要はないと思いますが、今はこうして見守る事しか出来ませんね…」
「あ…」不意にエストが声を漏らす。「言っておくけど、シン坊。私、タイムリミットの説明してないから」
「え…? エストさんがしたものだと思って、私もしてませんけど…」
「…おいおい、大丈夫なのか…?」





―――

――






「…あは、全滅…って…」
 全ての方法を試した所で思わず笑ってしまう。エストに教わった解呪方法は全て全滅した。
「ったく。アテにならないわねー、IO2も」呆れた様に呟きながら、最期の一枚に目を向ける。「これ、確か解析用って言ってたわよね。全部通じなければ、せめてヒントを手に入れる為の手段、だっけ? ここまでダメだったんだから、せめて少しぐらいヒント出て来い!」
 解析用と言われた紙を小箱の上に置き、術式を発動させる為に手を載せる。すると、それに呼応するかの様に紙が光り出し、龍の様な映像が浮かび上がる。
「――ッ! 今の…!」
 思わず私は手を離して記憶を呼び起こす。間違いなく、あれは祖父が作ってくれた事のある折り紙の龍が生きている姿。
「…折り紙の龍…。…折り紙…!」
 記憶を再び呼び戻す。祖父が私に目を閉じる様に言ったあの日の記憶。目を閉じた私の額に折り紙を当てていた。それを祖父がポケットにしまい込んでいた。
「…あれが必要、って事…?」




                                          to be countinued...




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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

昨日File7.5、そして今日が本編File8の納品となります。
相変わらずのプレの面白さに、いつも思わず笑わせてもらってますww
お楽しみ頂ければ幸いです。

今後の展開、楽しみにしてます(笑)

それでは、今後とも、
是非宜しくお願い致します。

白神 怜司